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小学生編
見守って 4
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「滝沢さん、朝一で学生さんの就職応援サイトを確認してもらえますか」
「なんだっけ?」
「今日、入社式準備のドキュメント記事が上がっているはずなので」
「あれか! 了解、すぐに確認する!」
瑞樹が入社式の生け込みに来た時、取材が入っていた。あの日はちょっとしたハプニングがあった。瑞樹が高校の同級生と偶然再会し、高校時代のストーカー事件について突然聞かれ嫌な思いをして大変だった。
真っ青に立ち尽くす瑞樹の顔が蘇ってきた。
ああいう場面に遭遇すると、あの事件は根深く、未だに瑞樹の中に小さな棘となり残っているのだと痛感してしまう。
あの件は軽井沢旅行で乗り越え、すっかり平和な日常を手に入れたはずなのに、時々ひやりとすることが起きるものだ。
油断するな、過信するな。
幸い俺が傍に居たので事なきを得たが、もう二度と君はあの男絡みで心を痛めさせたくないよ。だから俺は危険の芽に敏感だ。あの時警察に捕まった犯人は服役中だが用心は怠らない。
PCを開くと『○○代理店・入社式準備風景を㊙公開!』というタイトルを、すぐに見つけた。写真を細かくチェックしていくと……マウスを持つ手がぴたりと停止した。
「おいっ!」
小さくだがはっきりと……生け込み作業をしている瑞樹の顔が判別出来てしまうじゃないか! 俺が林さんにもらった写真より小さくだが、瑞樹の美しい横顔が画面に映っていた。
ドクリ――
まずいな。
危険信号が灯る。
カメラマンの林さんも何をやっている?
我が社の人間でない人の顔を、こんなに出すなんてあり得ない。
あの時林さんから特別にもらった瑞樹の写真は、俺だけのものだ。
小さくても顔が判別出来る状態でWEB掲載は、NGだ。
すぐに林さんに電話した。
「林さん、どうなっているんですか。困りますよ」
「なんのことですか」
事情を話すと、瑞樹の顔は見えないように加工したものを提出したはずだが、後日社内用に加工前の写真も見たいと言われて……うっかり提出してしまったそうだ。
「す、すまない。完全に俺のミスだ」
さては、あの時の記者だな! くそっ、これは故意だろう。
瑞樹がまたストーカーの餌食になるのを喜んでいるような。明らかな悪意を感じた。
あの日上司からもらった名刺を取り出して、彼の所属する出版社に直談判することにした。もちろん広報課に事情を話して、許可をもらった上で。
「はい。ルーチェ 編集部です」
「すみません。本日WEB掲載の就職記事のことで問題が」
「……失礼ですが、どちら様ですか」
「あぁ、広告代理店の滝沢宗吾と言います」
「え……っ、あ……もしかして、あの滝沢さんですか」
「?」
「僕です。あの軽井沢で……」
「え? まさか……あの空さん?」
「はい! 遠野 空です。覚えていますか」
「もちろんだ!」
なんと……あの白馬でも出逢いは、偶然ではなく必然だったのか。
縁がまた繋がった。
瑞樹の優しさをよく知る彼だからこそ、事情を話すと即刻動いてくれた。
あの水野という男の悪意を理解してくれ、すぐに写真は瑞樹が写っていないものに差し替えられた。
WEB上の画面が切り替わったのを確認し、安堵した。しかし確実に数時間掲載されてしまっていたのは事実だ。瑞樹の身に災いが降りかかっていないか、心配になってきた。
でも、もしもまだ瑞樹が気付いていないのなら、彼に余計な心配をかけることを言いたくないし……判断に迷う所だな。
「滝沢さん、今日は撮影でスタジオに移動ですよ。早く移動して下さい」
「あ、あぁ」
何が最善なのか。
人はいつも進む道に迷うものだ。
スタジオから解放されて時計を見ると、もう日が暮れていた。
「俺、これで上がります」
「滝沢さん、お疲れさん」
今日は芽生が初めての学童保育だったので、俺も早めに切り上げた。
瑞樹が先に迎えに行けたようで、メールが入っていた。
『宗吾さん、5時に上がれましたので、このまま小学校に迎えに行って来ますね。お仕事頑張って下さい』
彼らしい優しいメールに、心が緩む。
この様子なら、WEB記事には気付いていないのか。
いや、思い込みでは決めるのはやめよう。
今から急げば、小学校から家までの帰り道で会えそうだ。
俺も行くよ!
君に歩み寄る!
****
「えっと、滝沢芽生くんだよね? 大丈夫かな。ちょっと疲れちゃったみたいだね。まだ初日だもんね。ソファで横になる?」
「だいじょうぶだよ」
「そうかなぁ?」
ほうかごスクールの先生に声をかけられたけれど、うそついちゃった。
本当は、つかれたし、ねむかった。
クラスで出来たお友だち。コウくんもアオくんも……みんなママが迎えにきて、11時には帰っちゃったんだ。
だからボクはここで、ずっとずっと待っている。
まだ知らない子ばかりだし、上級生のおにいさんやおねえさんが見上げるほど大きくてびっくりしちゃう。
ようちえんとは、ぜんぜんちがうんだなぁ。
本当はおばあちゃんが迎えにきてくれるっていっていたのに、ボク、がんばりすぎちゃった。
ひざをかかえて、図書コーナーで丸まっていると、ふわりといい匂いがしたよ。
あ……お兄ちゃんだ! ボクには分かるよ。
パッと顔をあげると、やっぱりお兄ちゃんが受け付けに立っていた。
「お兄ちゃん!」
思わず手を広げてお兄ちゃんに飛びつくと、先生たちに笑われちゃった。
「へぇ、芽生くんには、ずいぶん大きなお兄さんがいるんだね」
「うん! ボクのお兄ちゃんだよ」
「お迎え、お疲れさまです。今日はかなり疲れているみたいなのでよろしくお願いします」
「はい、分かりました」
お兄ちゃんが話している間に、急いでランドセルをせおった。
さっきまでヘトヘトだったけれどお兄ちゃんの顔を見たら、元気が出たよ。
「芽生くん、帰ろう」
「うん!」
お兄ちゃんが手を伸ばしてくれたので、ボク、ギュッと掴んだよ。
やっと、お兄ちゃんとつながった!
学校を出ると、空はもう暗くなっていた。でもお兄ちゃんとつないだお手々がポカポカで……うれしくてうれしくて……あれれ。
涙がじわっと出てきちゃった。
もう小学生なのに、ボク、泣き虫だ。
つないだお手々に、キラリと光るものがあったよ。
「あ……ゆびわだ」
「うん……今日はつけているんだよ。お守りだよ」
お守り……って、なにかから守ってほしい時に、もつんだよね?
お兄ちゃんも、ちょっと疲れているみたい。
「お兄ちゃんもボクも、おつかれだねぇ」
「そうだね。今日はお兄ちゃんもいろいろあったんだ」
「ボクも」
ボクだけじゃないんだな。
お兄ちゃんも、毎日いろいろあるんだね。
「一緒だね。芽生くんもおつかれさま。帰ったらゆっくりしようね」
お兄ちゃんって、こういう所がスキ。
今日のボクはね、なにかイヤなことがあったというんじゃなくて、なんとなくつかれちゃったんだ。だからあれこれ聞かれても、上手にこたえられないて思っていたから、お兄ちゃんが、何も聞かずに手をつないでくれるのが、とってもうれしかったよ。
「お兄ちゃん、早くおうちにかえりたい」
「そうだね」
「早く、パパにもあいたいね」
「僕もだよ」
お兄ちゃんと手をつないで、ゆっくりゆっくり歩いた。
ボクとお兄ちゃんの歩くスピードは同じだった。
気持ちも、きっといっしょだね。
角を曲がると、大きな影があった。
手を大きくブンブンふっているのは……
「おーい! 瑞樹、芽生! お帰り!」
「パパ!」
「宗吾さん!」
やっぱりお兄ちゃんと、声がぴったりそろったよ。
「なんだっけ?」
「今日、入社式準備のドキュメント記事が上がっているはずなので」
「あれか! 了解、すぐに確認する!」
瑞樹が入社式の生け込みに来た時、取材が入っていた。あの日はちょっとしたハプニングがあった。瑞樹が高校の同級生と偶然再会し、高校時代のストーカー事件について突然聞かれ嫌な思いをして大変だった。
真っ青に立ち尽くす瑞樹の顔が蘇ってきた。
ああいう場面に遭遇すると、あの事件は根深く、未だに瑞樹の中に小さな棘となり残っているのだと痛感してしまう。
あの件は軽井沢旅行で乗り越え、すっかり平和な日常を手に入れたはずなのに、時々ひやりとすることが起きるものだ。
油断するな、過信するな。
幸い俺が傍に居たので事なきを得たが、もう二度と君はあの男絡みで心を痛めさせたくないよ。だから俺は危険の芽に敏感だ。あの時警察に捕まった犯人は服役中だが用心は怠らない。
PCを開くと『○○代理店・入社式準備風景を㊙公開!』というタイトルを、すぐに見つけた。写真を細かくチェックしていくと……マウスを持つ手がぴたりと停止した。
「おいっ!」
小さくだがはっきりと……生け込み作業をしている瑞樹の顔が判別出来てしまうじゃないか! 俺が林さんにもらった写真より小さくだが、瑞樹の美しい横顔が画面に映っていた。
ドクリ――
まずいな。
危険信号が灯る。
カメラマンの林さんも何をやっている?
我が社の人間でない人の顔を、こんなに出すなんてあり得ない。
あの時林さんから特別にもらった瑞樹の写真は、俺だけのものだ。
小さくても顔が判別出来る状態でWEB掲載は、NGだ。
すぐに林さんに電話した。
「林さん、どうなっているんですか。困りますよ」
「なんのことですか」
事情を話すと、瑞樹の顔は見えないように加工したものを提出したはずだが、後日社内用に加工前の写真も見たいと言われて……うっかり提出してしまったそうだ。
「す、すまない。完全に俺のミスだ」
さては、あの時の記者だな! くそっ、これは故意だろう。
瑞樹がまたストーカーの餌食になるのを喜んでいるような。明らかな悪意を感じた。
あの日上司からもらった名刺を取り出して、彼の所属する出版社に直談判することにした。もちろん広報課に事情を話して、許可をもらった上で。
「はい。ルーチェ 編集部です」
「すみません。本日WEB掲載の就職記事のことで問題が」
「……失礼ですが、どちら様ですか」
「あぁ、広告代理店の滝沢宗吾と言います」
「え……っ、あ……もしかして、あの滝沢さんですか」
「?」
「僕です。あの軽井沢で……」
「え? まさか……あの空さん?」
「はい! 遠野 空です。覚えていますか」
「もちろんだ!」
なんと……あの白馬でも出逢いは、偶然ではなく必然だったのか。
縁がまた繋がった。
瑞樹の優しさをよく知る彼だからこそ、事情を話すと即刻動いてくれた。
あの水野という男の悪意を理解してくれ、すぐに写真は瑞樹が写っていないものに差し替えられた。
WEB上の画面が切り替わったのを確認し、安堵した。しかし確実に数時間掲載されてしまっていたのは事実だ。瑞樹の身に災いが降りかかっていないか、心配になってきた。
でも、もしもまだ瑞樹が気付いていないのなら、彼に余計な心配をかけることを言いたくないし……判断に迷う所だな。
「滝沢さん、今日は撮影でスタジオに移動ですよ。早く移動して下さい」
「あ、あぁ」
何が最善なのか。
人はいつも進む道に迷うものだ。
スタジオから解放されて時計を見ると、もう日が暮れていた。
「俺、これで上がります」
「滝沢さん、お疲れさん」
今日は芽生が初めての学童保育だったので、俺も早めに切り上げた。
瑞樹が先に迎えに行けたようで、メールが入っていた。
『宗吾さん、5時に上がれましたので、このまま小学校に迎えに行って来ますね。お仕事頑張って下さい』
彼らしい優しいメールに、心が緩む。
この様子なら、WEB記事には気付いていないのか。
いや、思い込みでは決めるのはやめよう。
今から急げば、小学校から家までの帰り道で会えそうだ。
俺も行くよ!
君に歩み寄る!
****
「えっと、滝沢芽生くんだよね? 大丈夫かな。ちょっと疲れちゃったみたいだね。まだ初日だもんね。ソファで横になる?」
「だいじょうぶだよ」
「そうかなぁ?」
ほうかごスクールの先生に声をかけられたけれど、うそついちゃった。
本当は、つかれたし、ねむかった。
クラスで出来たお友だち。コウくんもアオくんも……みんなママが迎えにきて、11時には帰っちゃったんだ。
だからボクはここで、ずっとずっと待っている。
まだ知らない子ばかりだし、上級生のおにいさんやおねえさんが見上げるほど大きくてびっくりしちゃう。
ようちえんとは、ぜんぜんちがうんだなぁ。
本当はおばあちゃんが迎えにきてくれるっていっていたのに、ボク、がんばりすぎちゃった。
ひざをかかえて、図書コーナーで丸まっていると、ふわりといい匂いがしたよ。
あ……お兄ちゃんだ! ボクには分かるよ。
パッと顔をあげると、やっぱりお兄ちゃんが受け付けに立っていた。
「お兄ちゃん!」
思わず手を広げてお兄ちゃんに飛びつくと、先生たちに笑われちゃった。
「へぇ、芽生くんには、ずいぶん大きなお兄さんがいるんだね」
「うん! ボクのお兄ちゃんだよ」
「お迎え、お疲れさまです。今日はかなり疲れているみたいなのでよろしくお願いします」
「はい、分かりました」
お兄ちゃんが話している間に、急いでランドセルをせおった。
さっきまでヘトヘトだったけれどお兄ちゃんの顔を見たら、元気が出たよ。
「芽生くん、帰ろう」
「うん!」
お兄ちゃんが手を伸ばしてくれたので、ボク、ギュッと掴んだよ。
やっと、お兄ちゃんとつながった!
学校を出ると、空はもう暗くなっていた。でもお兄ちゃんとつないだお手々がポカポカで……うれしくてうれしくて……あれれ。
涙がじわっと出てきちゃった。
もう小学生なのに、ボク、泣き虫だ。
つないだお手々に、キラリと光るものがあったよ。
「あ……ゆびわだ」
「うん……今日はつけているんだよ。お守りだよ」
お守り……って、なにかから守ってほしい時に、もつんだよね?
お兄ちゃんも、ちょっと疲れているみたい。
「お兄ちゃんもボクも、おつかれだねぇ」
「そうだね。今日はお兄ちゃんもいろいろあったんだ」
「ボクも」
ボクだけじゃないんだな。
お兄ちゃんも、毎日いろいろあるんだね。
「一緒だね。芽生くんもおつかれさま。帰ったらゆっくりしようね」
お兄ちゃんって、こういう所がスキ。
今日のボクはね、なにかイヤなことがあったというんじゃなくて、なんとなくつかれちゃったんだ。だからあれこれ聞かれても、上手にこたえられないて思っていたから、お兄ちゃんが、何も聞かずに手をつないでくれるのが、とってもうれしかったよ。
「お兄ちゃん、早くおうちにかえりたい」
「そうだね」
「早く、パパにもあいたいね」
「僕もだよ」
お兄ちゃんと手をつないで、ゆっくりゆっくり歩いた。
ボクとお兄ちゃんの歩くスピードは同じだった。
気持ちも、きっといっしょだね。
角を曲がると、大きな影があった。
手を大きくブンブンふっているのは……
「おーい! 瑞樹、芽生! お帰り!」
「パパ!」
「宗吾さん!」
やっぱりお兄ちゃんと、声がぴったりそろったよ。
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