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小学生編
はじめの一歩 4
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一年生が着席するとすぐに校長先生や来賓、PTA会長の挨拶が続いた。皆さん、なかなかしっかりした挨拶で、時間が経過していく。
芽生くん、じっと座っていられるかな?
ちょこんと見える芽生くんの頭を目をこらして見つめると、じっと座っていた。偉いね、頑張っているね。少し前まで幼稚園生で走り回っていたのに、1年生になったという心構えを感じ取れた。
「では新一年のお名前を呼びますので、元気に手をあげて挨拶しましょう」
一人ずつ? そうか……1クラスしかないので手厚いのだ。ひとりひとりを主役として扱ってもらえるようで、嬉しい。
あ行から始まり、男の子も女の子も元気よく右手をあげて挨拶してくれる。
芽生くんだけではなく、どの子も親戚の子のように愛おしくなってくるよ。
いよいよ芽生くんの番だ。あぁ、ドキドキするよ。
「たきざわ めいくん」
「はい! よろしく、おねがいします!」
芽生くんが大きな声でハキハキと元気にお返事出来たので、宗吾さんとお母さんと顔を見合わせて、微笑みあってしまった。親バカっていいなと思う瞬間だった。
その後、担任の紹介があった。芽生くんの1年1組は女性の先生で、幼稚園の先生のような優しい笑顔がチューリップのように明るくて好感を持てた。
入学式という厳粛な空気を子供なりに察しているようで、静かな時間が過ぎていく。そして次は初めて歌う校歌だ……どんな歌なのか楽しみだな。
……
母なる大地に、ある日、小さな種がうえられた。
種は太陽のひかりをあびて、空の涙をうけとめて、大空をめざしていくよ。
芽吹きの春、きらめく夏、実りの秋、たえる冬。
ながれる季節を、ぐるりとうけとめて
ここで育っていこう。
芽吹いていこう。
ぼくらの学びや。
……
芽生くんの名前にぴったりの、素晴らしい歌詞だとじわりと、思わず感涙してしまった。子供たちの真剣でのびやかな歌声が体育館にふわりと広がり、皆の心を包んでいく。
「瑞樹……俺、感激してしまったよ」
大らかな宗吾さんは自分の感情にも豊かなので、感激のあまり涙ぐんでいた。ハンカチで目尻をそっと押さえる横顔は、凜々しい父親の顔そのものだった。
「はい、僕もです」
式場から退場していく芽生くんの顔は、キラキラ輝いて希望に胸を弾ませているようだった。
どうか健康にスクスク大きくなって、僕にその成長を見せて欲しい。弟の夏樹が永遠になれなかった小学生としての日々を謳歌して欲しい。僕は心の中で「がんばったね!」何度も何度も褒めてあげた。
式の後は、校庭でクラス毎の集合写真だったので、僕はお母さんと並んで、その様子を見守った。
「瑞樹、芽生の服装大丈夫かしら?」
芽生くんの服装を確認したが、ネクタイは曲がっていないし、シャツも出ていない。靴下もちゃんと左右揃っている。髪もばっちりだ。事前に芽生くんにおトイレのあとの身だしなみを話しておいてよかった。ちゃんとひとりで出来たね。偉い偉い!
「はい、ネクタイも曲がってないし、可愛らしく決まっていますよ」
そうだ……念のため宗吾さんも確認してみようかな。
「宗吾は大丈夫かしら?」
「くすっ、それ、僕も心配していました。ちょっと待ってくださいね」
壇上の、ちょうど芽生くんの背後に立っている宗吾さんを見ると、んん?
ネクタイ! いつの間に……どーしてそんなに緩めて曲がっているのですか! うわっ、油断していたな。
「お母さん、宗吾さんのネクタイ、あれはどう見ても曲がっていますよね?」
「あらあら、いやだわ。あの子はもうっ、恥ずかしいわね」
「……ですね」
「瑞樹、早く知らせてあげて」
僕たちと目が合うと、宗吾さんは目を細めて手を振ってくる。
こ、子供みたいだ!
僕がジェスチャーで必死にネクタイが曲がっているのを伝えるが、宗吾さんは、更に目尻を下げていく。
だ、駄目だ……これは。
すると芽生くんの方が察してくれたらしく、くるりと振り返って、宗吾さんのネクタイを引っ張って教えてくれた。
宗吾さんが自分の首元を見て、おお! っという表情を浮かべている。
やれやれ……よかった、ようやく直してくれた……もう~ 疲れる人だと、苦笑してしまうよ。
「瑞樹、今度、宗吾の入学式の写真を見せてあげるわ」
「どんなでした?」
「残念でした」
お母さんがおどけて言うので、僕は小さく肩を揺らして笑ってしまった。
「あら、これは八重桜ね」
「あ、本当ですね。これから満開を迎えるのですね」
お母さんと一緒に顔をあげ、頭上の樹を見つめた。
「そうよ。ソメイヨシノはもう散り始めちゃったけれども、次の楽しみがあるわね」
「はい、次々と花は咲き、枯れてしまった花はまた来年咲くための準備をするのですね」
「そうよ、そうやって巡って、少しずつ成長して大きくなっていくのよね」
あの日……ひとりぼっちになってしまい、悲しく見上げたあの樹も、きっと大きくなったのだろう。あれから今日まで、僕はこの世に生かされていているし、この世を生きている。
生きているから、今日という日を迎えられたのだ。
「お母さんと並んで、この光景を見られて良かったです」
「私もよ……瑞樹、あなたの成長も楽しみよ」
「はい撮りますよー!」
威勢の良いカメラマンの声が校庭に響く。
カシャッ。
子供たちと親御さんの笑顔が、綺麗に揃った。
芽生くん、改めて小学校入学おめでとう!
君の成長を、しっかり見守っていくよ。
芽生くん、じっと座っていられるかな?
ちょこんと見える芽生くんの頭を目をこらして見つめると、じっと座っていた。偉いね、頑張っているね。少し前まで幼稚園生で走り回っていたのに、1年生になったという心構えを感じ取れた。
「では新一年のお名前を呼びますので、元気に手をあげて挨拶しましょう」
一人ずつ? そうか……1クラスしかないので手厚いのだ。ひとりひとりを主役として扱ってもらえるようで、嬉しい。
あ行から始まり、男の子も女の子も元気よく右手をあげて挨拶してくれる。
芽生くんだけではなく、どの子も親戚の子のように愛おしくなってくるよ。
いよいよ芽生くんの番だ。あぁ、ドキドキするよ。
「たきざわ めいくん」
「はい! よろしく、おねがいします!」
芽生くんが大きな声でハキハキと元気にお返事出来たので、宗吾さんとお母さんと顔を見合わせて、微笑みあってしまった。親バカっていいなと思う瞬間だった。
その後、担任の紹介があった。芽生くんの1年1組は女性の先生で、幼稚園の先生のような優しい笑顔がチューリップのように明るくて好感を持てた。
入学式という厳粛な空気を子供なりに察しているようで、静かな時間が過ぎていく。そして次は初めて歌う校歌だ……どんな歌なのか楽しみだな。
……
母なる大地に、ある日、小さな種がうえられた。
種は太陽のひかりをあびて、空の涙をうけとめて、大空をめざしていくよ。
芽吹きの春、きらめく夏、実りの秋、たえる冬。
ながれる季節を、ぐるりとうけとめて
ここで育っていこう。
芽吹いていこう。
ぼくらの学びや。
……
芽生くんの名前にぴったりの、素晴らしい歌詞だとじわりと、思わず感涙してしまった。子供たちの真剣でのびやかな歌声が体育館にふわりと広がり、皆の心を包んでいく。
「瑞樹……俺、感激してしまったよ」
大らかな宗吾さんは自分の感情にも豊かなので、感激のあまり涙ぐんでいた。ハンカチで目尻をそっと押さえる横顔は、凜々しい父親の顔そのものだった。
「はい、僕もです」
式場から退場していく芽生くんの顔は、キラキラ輝いて希望に胸を弾ませているようだった。
どうか健康にスクスク大きくなって、僕にその成長を見せて欲しい。弟の夏樹が永遠になれなかった小学生としての日々を謳歌して欲しい。僕は心の中で「がんばったね!」何度も何度も褒めてあげた。
式の後は、校庭でクラス毎の集合写真だったので、僕はお母さんと並んで、その様子を見守った。
「瑞樹、芽生の服装大丈夫かしら?」
芽生くんの服装を確認したが、ネクタイは曲がっていないし、シャツも出ていない。靴下もちゃんと左右揃っている。髪もばっちりだ。事前に芽生くんにおトイレのあとの身だしなみを話しておいてよかった。ちゃんとひとりで出来たね。偉い偉い!
「はい、ネクタイも曲がってないし、可愛らしく決まっていますよ」
そうだ……念のため宗吾さんも確認してみようかな。
「宗吾は大丈夫かしら?」
「くすっ、それ、僕も心配していました。ちょっと待ってくださいね」
壇上の、ちょうど芽生くんの背後に立っている宗吾さんを見ると、んん?
ネクタイ! いつの間に……どーしてそんなに緩めて曲がっているのですか! うわっ、油断していたな。
「お母さん、宗吾さんのネクタイ、あれはどう見ても曲がっていますよね?」
「あらあら、いやだわ。あの子はもうっ、恥ずかしいわね」
「……ですね」
「瑞樹、早く知らせてあげて」
僕たちと目が合うと、宗吾さんは目を細めて手を振ってくる。
こ、子供みたいだ!
僕がジェスチャーで必死にネクタイが曲がっているのを伝えるが、宗吾さんは、更に目尻を下げていく。
だ、駄目だ……これは。
すると芽生くんの方が察してくれたらしく、くるりと振り返って、宗吾さんのネクタイを引っ張って教えてくれた。
宗吾さんが自分の首元を見て、おお! っという表情を浮かべている。
やれやれ……よかった、ようやく直してくれた……もう~ 疲れる人だと、苦笑してしまうよ。
「瑞樹、今度、宗吾の入学式の写真を見せてあげるわ」
「どんなでした?」
「残念でした」
お母さんがおどけて言うので、僕は小さく肩を揺らして笑ってしまった。
「あら、これは八重桜ね」
「あ、本当ですね。これから満開を迎えるのですね」
お母さんと一緒に顔をあげ、頭上の樹を見つめた。
「そうよ。ソメイヨシノはもう散り始めちゃったけれども、次の楽しみがあるわね」
「はい、次々と花は咲き、枯れてしまった花はまた来年咲くための準備をするのですね」
「そうよ、そうやって巡って、少しずつ成長して大きくなっていくのよね」
あの日……ひとりぼっちになってしまい、悲しく見上げたあの樹も、きっと大きくなったのだろう。あれから今日まで、僕はこの世に生かされていているし、この世を生きている。
生きているから、今日という日を迎えられたのだ。
「お母さんと並んで、この光景を見られて良かったです」
「私もよ……瑞樹、あなたの成長も楽しみよ」
「はい撮りますよー!」
威勢の良いカメラマンの声が校庭に響く。
カシャッ。
子供たちと親御さんの笑顔が、綺麗に揃った。
芽生くん、改めて小学校入学おめでとう!
君の成長を、しっかり見守っていくよ。
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