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小学生編
スモールステップ 5
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「おにいちゃん、これがいい!」
布地の全面には、芽生くんが好きなアニメキャラがプリントされていた。
「うわばき入れ、これで作ったらぜったいカッコイイよ! これを持って学校にいくの、たのしみになるよ」
なるほど! これが芽生くんのヤル気を引きだしてくれるのだね。
ところで、どの位の長さがいるのかな? あと必要なものは何だろう?
僕は手芸が苦手だ。店内を彷徨うようにウロウロしていると『手作りコーナー』というものがあったので近寄ると、ありがたい事に、入園入学グッズの作り方のコピーや、ミシン色や紐などがピックアップされていた。これは助かるな。大型スーパーって、その季節にあった品揃えが充実しているんだね。
「芽生くん、紐は何色にする?」
「えっとね、青にする!」
「生地と合うね」
「あー、お兄ちゃん! これ見て」
「何かな?」
レジの横に吊り下がっていたのは、四つ葉のワッペンだった。どうやらアイロンでつけられるようだ。
「これ、お守りとしてつける?」
「うん!」
買い物が終わると、芽生くんのお腹がぐうと鳴った。
「ふふ、このまま何か食べていこうか」
「いいの?」
「うん、芽生くんの好きな所に行こう」
僕がお母さんにしてもらったことを、こうやって辿っていく。
「じゃ、じゃあ……1かいのハンバーガー屋さんがいいな」
「いいよ」
ドナルドバーガーか、こういうお店に入るのは久しぶりだな。
「お兄ちゃん、お子様セットのおまけがね、ボクの好きなブルーレンジャーなんだ」
「本当だ」
子供用セットにはこんなおまけが付くのだね。しかもおもちゃが選べるのか。
「いいな~どっちににしようかな。ブルーレンジャーのバイクもいいけど、車もいいな。あーどっちもほしいよぅ」
「くすっ、じゃあ僕もお子様セットにするよ。おもちゃは芽生くんにあげるよ」
「わ……わぁ! うれしい! みんな持っていてほしかったんだー」
芽生くんがピョンピョン跳ねる。
そうか……おもちゃも欲しかったんだ。そういえば、こういう場所には普段ほとんど連れて来なかったな。
僕も小さい頃、おもちゃが大好きだったよ。
あ……そうだ、お母さんと入学準備の買い物に来た日、おもちゃ屋さんに寄ったんだ。
『みーくん、特別に何か買ってあげようか』
『え、だって……おたんじょうびでもクリスマスでもないのに?』
『もう、みーくんってば、いつも遠慮ばかりなんだから』
お母さんが少し寂しそうに笑った。
『ほんとに、いいの?』
『何がいい?』
『うーん』
本当はママがいい。またママとこうやってお出かけしたいなって思った。その次に欲しいものは……
『……これがいい』
『じゃあ、ママからの入学お祝いにしようね』
僕が選んだのは、おもちゃの青い車だった。
あの大沼の僕の部屋、ベッドの下に隠しておいた宝物だ。
あ……あれ、まだあるかな?
『ママ、ありがとう! あのね……大人になったら、ママを乗せてドライブするよ』
僕にしてはちゃんと伝えられた。嬉しい気持ちを言葉に出せた。
『えー、いいの? うれしいな。みーくんとデートうれしいわ。カッコイイだろうな』
『ママ……』(だいすき)
「お待たせしました。50番の方!」
「あ、はい」
レジで番号を呼ばれてハッとした。
「はい、芽生くんにおもちゃあげるよ」
「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃん、だいすき!」
僕も……いつもお母さんにこんな風に伝えたかったのに、恥ずかしくて言えなかったことを後悔した。だから今、伝えたい相手がいるのなら言葉に出して伝えよう。
「僕も芽生くんが大好きだよ」
「えへへ」
ふたりで頬張ったハンバーガー。
ふたりで摘まんだ細くてカリッとしたポテト。
どれも、とびっきり美味しかった。
今なら……あの日の母の気持ちが分かる。
『今日はいつもよりオムライスが美味しく感じるわ。みーくんとデートだからかな』
「お兄ちゃん、おばあちゃんの所にミシンをかりにいくんでしょう? ねぇねぇ、おみやげを買っていこうよ」
「そうだね。下で桜餅でも買おうか」
「うん!」
桜餅をお土産に、僕たちは手をつないでお母さんの家に向かった。
****
「芽生、そろそろおやつにする?」
縁側に向かって呼びかけて、ハッとした。そうだったわ……今日は瑞樹くんが休みなので、芽生は来ていないんだったわ。幼稚園を卒園してからほぼ毎日預かっていたので、いないのが少し寂しいわね。
ふぅ……駄目ねぇ、こんなことじゃ。
芽生はもう間もなく小学生になるのよ。もうあんなに頻繁に預かることもなくなるの。親が子離れしないといけないのと同じで、私も少しずつ孫離れしないといけないのね。
あなたが亡くなってから、急にこの広い一軒家に一人になってしまって寂しかった。でもちょうど入れ違いで宗吾が離婚して芽生を育てることになり、急に役割がまわってきたのよね。
うれしかったわ。
この歳になって息子から頼られるのも、小さな孫と過ごす時間も愛おしかった。
今日は、なんだかぽっかり寂しい気分。
縁側に座りぼんやりと庭先を眺めていると、不意打ちで瑞樹くんと芽生がやってきてくれたので喜びを隠せなかったわ。
ありがとう! この年寄りを頼りにしてくれて。
二人はまるで仲良しの兄弟みたいに手を繋いでいた。
「まぁ、それじゃ……ミシンが必要なのね」
「そうなんです。あの……貸してもらえますか」
「もちろんよ。小さなミシンだけど、まだ使えるわ」
「よかった!」
若い頃は足踏みミシンを愛用していたけれども壊れてしまって、代わりに小型ミシンを購入したのよね。といっても出番はほとんどなかったので、役に立てるなんて嬉しいわ。
「あの……お母さん、よかったら使い方も教えてもらえますか」
「もちろんよ」
「良かった。僕……どうしても作ってあげたくて」
「ありがとう、芽生、喜ぶでしょうね」
分かるわ。手作りの入学グッズ。
いつの世も変わらない親から子への想い。子から親への想いが優しく交わる時間と完成品。私も捨てられないで取ってある。
「瑞樹……芽生の親になってくれて、ありがとう。宗吾だけでは行き届かない部分があるの。だから、あなたの繊細で優しい心が芽生に注がれるのが、祖母として、とても嬉しいわ」
「お母さんにそこまで言ってもらえるなんて……」
ところが、肝心の手芸に関しては、かなり苦戦しているよう。
「あらあら布を裁つのは、そんなハサミの持ち方じゃ駄目よ」
「うう、すみません」
花鋏と裁ちばさみでは勝手が違うようで、いつもソツなくこなす瑞樹くんが涙目なのが可愛いわ。
「あぁぁ……また曲がってしまいました」
「……しっかり」
「切りすぎてしまいました」
瑞樹の手作りしたい気持ちを応援したいので、私が代わりに裁断したい気持ちは、ぐっと押さえて辛抱強く見守ったわ。
「お兄ちゃん! がんばれ! がんばれ!」
「そうよ、そのまま思い切って切り落として!」
「は、はい……緊張しますね」
「まだまだ、これからよ」
瑞樹くんは腕まくりして集中していったわ。その後、電動ミシンの勢いにもついていけず、音をあげそうになっていて、本当に可愛かった。
「お母さん……これは想像以上に大変です」
「ふふ。お疲れさま。持って来てくれた桜餅でお茶にしましょう」
焦らない、あせらない。
一休み、ひとやすみ。
最初からうまくいかなくてもいいの。
親も子も、そうやって成長していくもの。
まだまだ私の出番はありそうね。
ふふっ、なんだか急にシャキンと元気でたわ。
背筋が伸びる気分よ。
ありがとう。
今日は寄ってくれて……頼ってくれて。
頼られることは、信頼されていることの証し。
頼れるということは、素直になっている証し。
布地の全面には、芽生くんが好きなアニメキャラがプリントされていた。
「うわばき入れ、これで作ったらぜったいカッコイイよ! これを持って学校にいくの、たのしみになるよ」
なるほど! これが芽生くんのヤル気を引きだしてくれるのだね。
ところで、どの位の長さがいるのかな? あと必要なものは何だろう?
僕は手芸が苦手だ。店内を彷徨うようにウロウロしていると『手作りコーナー』というものがあったので近寄ると、ありがたい事に、入園入学グッズの作り方のコピーや、ミシン色や紐などがピックアップされていた。これは助かるな。大型スーパーって、その季節にあった品揃えが充実しているんだね。
「芽生くん、紐は何色にする?」
「えっとね、青にする!」
「生地と合うね」
「あー、お兄ちゃん! これ見て」
「何かな?」
レジの横に吊り下がっていたのは、四つ葉のワッペンだった。どうやらアイロンでつけられるようだ。
「これ、お守りとしてつける?」
「うん!」
買い物が終わると、芽生くんのお腹がぐうと鳴った。
「ふふ、このまま何か食べていこうか」
「いいの?」
「うん、芽生くんの好きな所に行こう」
僕がお母さんにしてもらったことを、こうやって辿っていく。
「じゃ、じゃあ……1かいのハンバーガー屋さんがいいな」
「いいよ」
ドナルドバーガーか、こういうお店に入るのは久しぶりだな。
「お兄ちゃん、お子様セットのおまけがね、ボクの好きなブルーレンジャーなんだ」
「本当だ」
子供用セットにはこんなおまけが付くのだね。しかもおもちゃが選べるのか。
「いいな~どっちににしようかな。ブルーレンジャーのバイクもいいけど、車もいいな。あーどっちもほしいよぅ」
「くすっ、じゃあ僕もお子様セットにするよ。おもちゃは芽生くんにあげるよ」
「わ……わぁ! うれしい! みんな持っていてほしかったんだー」
芽生くんがピョンピョン跳ねる。
そうか……おもちゃも欲しかったんだ。そういえば、こういう場所には普段ほとんど連れて来なかったな。
僕も小さい頃、おもちゃが大好きだったよ。
あ……そうだ、お母さんと入学準備の買い物に来た日、おもちゃ屋さんに寄ったんだ。
『みーくん、特別に何か買ってあげようか』
『え、だって……おたんじょうびでもクリスマスでもないのに?』
『もう、みーくんってば、いつも遠慮ばかりなんだから』
お母さんが少し寂しそうに笑った。
『ほんとに、いいの?』
『何がいい?』
『うーん』
本当はママがいい。またママとこうやってお出かけしたいなって思った。その次に欲しいものは……
『……これがいい』
『じゃあ、ママからの入学お祝いにしようね』
僕が選んだのは、おもちゃの青い車だった。
あの大沼の僕の部屋、ベッドの下に隠しておいた宝物だ。
あ……あれ、まだあるかな?
『ママ、ありがとう! あのね……大人になったら、ママを乗せてドライブするよ』
僕にしてはちゃんと伝えられた。嬉しい気持ちを言葉に出せた。
『えー、いいの? うれしいな。みーくんとデートうれしいわ。カッコイイだろうな』
『ママ……』(だいすき)
「お待たせしました。50番の方!」
「あ、はい」
レジで番号を呼ばれてハッとした。
「はい、芽生くんにおもちゃあげるよ」
「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃん、だいすき!」
僕も……いつもお母さんにこんな風に伝えたかったのに、恥ずかしくて言えなかったことを後悔した。だから今、伝えたい相手がいるのなら言葉に出して伝えよう。
「僕も芽生くんが大好きだよ」
「えへへ」
ふたりで頬張ったハンバーガー。
ふたりで摘まんだ細くてカリッとしたポテト。
どれも、とびっきり美味しかった。
今なら……あの日の母の気持ちが分かる。
『今日はいつもよりオムライスが美味しく感じるわ。みーくんとデートだからかな』
「お兄ちゃん、おばあちゃんの所にミシンをかりにいくんでしょう? ねぇねぇ、おみやげを買っていこうよ」
「そうだね。下で桜餅でも買おうか」
「うん!」
桜餅をお土産に、僕たちは手をつないでお母さんの家に向かった。
****
「芽生、そろそろおやつにする?」
縁側に向かって呼びかけて、ハッとした。そうだったわ……今日は瑞樹くんが休みなので、芽生は来ていないんだったわ。幼稚園を卒園してからほぼ毎日預かっていたので、いないのが少し寂しいわね。
ふぅ……駄目ねぇ、こんなことじゃ。
芽生はもう間もなく小学生になるのよ。もうあんなに頻繁に預かることもなくなるの。親が子離れしないといけないのと同じで、私も少しずつ孫離れしないといけないのね。
あなたが亡くなってから、急にこの広い一軒家に一人になってしまって寂しかった。でもちょうど入れ違いで宗吾が離婚して芽生を育てることになり、急に役割がまわってきたのよね。
うれしかったわ。
この歳になって息子から頼られるのも、小さな孫と過ごす時間も愛おしかった。
今日は、なんだかぽっかり寂しい気分。
縁側に座りぼんやりと庭先を眺めていると、不意打ちで瑞樹くんと芽生がやってきてくれたので喜びを隠せなかったわ。
ありがとう! この年寄りを頼りにしてくれて。
二人はまるで仲良しの兄弟みたいに手を繋いでいた。
「まぁ、それじゃ……ミシンが必要なのね」
「そうなんです。あの……貸してもらえますか」
「もちろんよ。小さなミシンだけど、まだ使えるわ」
「よかった!」
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「あの……お母さん、よかったら使い方も教えてもらえますか」
「もちろんよ」
「良かった。僕……どうしても作ってあげたくて」
「ありがとう、芽生、喜ぶでしょうね」
分かるわ。手作りの入学グッズ。
いつの世も変わらない親から子への想い。子から親への想いが優しく交わる時間と完成品。私も捨てられないで取ってある。
「瑞樹……芽生の親になってくれて、ありがとう。宗吾だけでは行き届かない部分があるの。だから、あなたの繊細で優しい心が芽生に注がれるのが、祖母として、とても嬉しいわ」
「お母さんにそこまで言ってもらえるなんて……」
ところが、肝心の手芸に関しては、かなり苦戦しているよう。
「あらあら布を裁つのは、そんなハサミの持ち方じゃ駄目よ」
「うう、すみません」
花鋏と裁ちばさみでは勝手が違うようで、いつもソツなくこなす瑞樹くんが涙目なのが可愛いわ。
「あぁぁ……また曲がってしまいました」
「……しっかり」
「切りすぎてしまいました」
瑞樹の手作りしたい気持ちを応援したいので、私が代わりに裁断したい気持ちは、ぐっと押さえて辛抱強く見守ったわ。
「お兄ちゃん! がんばれ! がんばれ!」
「そうよ、そのまま思い切って切り落として!」
「は、はい……緊張しますね」
「まだまだ、これからよ」
瑞樹くんは腕まくりして集中していったわ。その後、電動ミシンの勢いにもついていけず、音をあげそうになっていて、本当に可愛かった。
「お母さん……これは想像以上に大変です」
「ふふ。お疲れさま。持って来てくれた桜餅でお茶にしましょう」
焦らない、あせらない。
一休み、ひとやすみ。
最初からうまくいかなくてもいいの。
親も子も、そうやって成長していくもの。
まだまだ私の出番はありそうね。
ふふっ、なんだか急にシャキンと元気でたわ。
背筋が伸びる気分よ。
ありがとう。
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