722 / 1,730
小学生編
スモールステップ 3
しおりを挟む
「滝沢さん、おはようございます」
「林さん、おはようございます」
「ははん、なんだか元気そうです」
「ははっ、まぁな、昨夜たっぷりエネルギーチャージ出来たんだ」
給湯室でコーヒーを飲んでいると、カメラマンの林さんに話し掛けられた。
冷やかされるのも、無理はない。
昨夜のベッドでの瑞樹は最高に可愛かった。
『そうくん、そうくん……』と鼻にかかった甘い声で何度も呼ばれた。
あれは俺を駄目にする。制御不能になってしまう。
さらに出掛けに芽生と瑞樹からのダブルキスをもらった。
今の俺は、仕事も家庭も、充実している。父親として恋人としてパートナーとして、あらゆる方向から、俺の存在を認められている。
幸せだな。
こんな風にしみじみと今の自分を幸せだと思えるのは、やはり瑞樹と出会えたからだ。
今日も惚気てしまうが、本当に最高の恋人だ!
心の中で鼓舞すると、林さんに笑われた。
「ハイハイ、お熱いことで」
「え? 俺、何も言ってないぞ?」
口には出さず、密かに心の中で思い出しただけなのに、林さんに脳内を透視されたような気分で恥ずかしい。
「ははは、滝沢さんの全身から、オーラが出てましたよ」
「そ、そうか。気をつける」
「俺にはいいじゃないですか。俺だって辰起のこと、惚気ますし」
「辰起くんは元気か。彼さ、またモデルに戻ってもいいんじゃないか。先日彼の若い頃の写真を仕事で偶然見たが……今の方がぐっといい表情をしているから」
「おー、サンキュ。俺もそう思っていたんだ。嬉しいことを言ってくれた滝沢さんに、これをプレゼントするよ」
「お? 瑞樹じゃないか」
手渡された写真の端に、桜の装飾を真剣にする瑞樹の姿が写っていた。
綺麗な横顔だ。そして長い手足が際立って、いつも思うがスタイルいいよな。瑞樹の長い指の、綺麗なカタチの爪も愛おしい。
「滝沢さん、そんな目で見ないでくださいよ~」
「わ、悪い。どんな目つきだった?」
「えっちな目」
「み、瑞樹には黙っておいてくれよ」
「りょーかい。それあげますよ。仕事風景は貴重では」
「サンキュ!」
瑞樹メインで撮ったものではないが、ばっちり写っている。職場で堂々と君を眺められて、幸せを感じた。
俺も毎日、頑張ろう!
瑞樹と芽生の笑顔を守りたい。
****
芽生くんが公園の前を通りかかる。行きに寄り道した場所だ。
そこでぴたりと立ち止まってしまった。
んん? どうしたのかな?
話し掛けた方がいいのか、それとも?
僕も立ち止まって様子を窺った。
公園では、芽生くんと同じくらいの女の子と男の子が仲良く遊んでいた。近くには、ママもいる。
あ、もしかして同じ小学校に入る子かな?
そう思うと、僕もドキドキしてきた。話し掛けてみようか……ママさんの知り合いがいれば、いろいろ教えてもらえるかも。あぁ、しかしいきなりは難しいよ。なにかきっかけがあればいいのに。
すると芽生くんが再びスタスタと歩き出したので、急いで後を付いた。
いよいよ信号だ。
ちゃんと立ち止まって、じっと信号を見つめている。
何かあればすぐに助けられる距離にいるのに、僕は変な汗をかいていた。
夏樹……どうか守って欲しい。
僕の、僕がようやく辿り着いた大切な家族を。
そんなことを願ってしまう程、僕は緊張していた。
「みぎ、ひだり……みぎ……もういちど、ぐるっとみて……あぁもういちど……?」
芽生くんも緊張しているようでキョロキョロしすぎて、信号が点滅し出してしまった。
「あ、チカチカだ! ど、どうしよう」
芽生くんの足が一歩前に……!
呼び止めようと叫ぶ前に、芽生くんが、僕を振り返ってくれた。
「お、お兄ちゃん。どうしよう?」
そこから僕の元に戻ってギュッと手を繋いでくれた。
「偉かったね。走り出したらどうしようと心配したよ。僕に聞いてくれてありがとう」
「うん……うん」
「芽生くん、いつもチカチカになったら、渡る?」
「ううん……あ、そうだお兄ちゃんは『次の信号にしよう』って」
「そうだよ、思い出したね」
「信号、むずかしい……」
「大丈夫、慣れていこう。じゃあもう一度やってみようか」
「うん!」
僕はそっと背中を押してあげた。
あ……今、自分から手を離して、背中を押せた。
これもスモールステップなのかな。
また信号が青になる。
今度はもっとリズミカルに確認して、芽生くんは手をさっと上にあげて信号を渡れた。
そのまま、少しギクシャクした足取りで、マンションに向かった。そして無事に到着すると、くるりと振り返って満面の笑みを浮かべてくれた。
「芽生くん、やったね!」
「お兄ちゃん!」
芽生くんが、両手を広げて僕の胸に飛び込んでくれた。まだまだ甘えん坊だね…それでいいよ。
「お兄ちゃん! できたよ! できた! ひとりで帰ってきたよ!」
頭を擦りつけるように、嬉しさを表現してくれるので、僕はくすぐったく温かい気持ちになった。
こうやって一つ一つ、少しずつ乗り越えていこう!
手が離れていくのは寂しいが、嬉しいことだと感じられるのは、スモールステップのお陰だ。
まだまだこんな風に甘えてくれるのも、嬉しいよ。
「芽生くん、このままお買い物に行こうか」
「うん!」
出掛けに小学校の持ち物一覧の紙を持ってきた。宗吾さんから足りないものに印をつけてあるので、今日買って欲しいと頼まれていたから。
「お兄ちゃんといっしょ、うれしい」
「ほんと?」
「カッコイイし、かわいいもん」
「か、かわいいかな?」
「うん、パパがいつも言っているよ」
「くすっ、芽生くんはパパの子だな」
「え、パパだけじゃなくて、お兄ちゃんの子だよ」
「あ、ありがとう!」
僕も父親気分で、小学校の入学準備を手伝っていいのだね。
ありがとう! 本当にありがとう。
芽生くんの言葉はいつも僕の居場所を示してくれる。
大好きだよ。
「林さん、おはようございます」
「ははん、なんだか元気そうです」
「ははっ、まぁな、昨夜たっぷりエネルギーチャージ出来たんだ」
給湯室でコーヒーを飲んでいると、カメラマンの林さんに話し掛けられた。
冷やかされるのも、無理はない。
昨夜のベッドでの瑞樹は最高に可愛かった。
『そうくん、そうくん……』と鼻にかかった甘い声で何度も呼ばれた。
あれは俺を駄目にする。制御不能になってしまう。
さらに出掛けに芽生と瑞樹からのダブルキスをもらった。
今の俺は、仕事も家庭も、充実している。父親として恋人としてパートナーとして、あらゆる方向から、俺の存在を認められている。
幸せだな。
こんな風にしみじみと今の自分を幸せだと思えるのは、やはり瑞樹と出会えたからだ。
今日も惚気てしまうが、本当に最高の恋人だ!
心の中で鼓舞すると、林さんに笑われた。
「ハイハイ、お熱いことで」
「え? 俺、何も言ってないぞ?」
口には出さず、密かに心の中で思い出しただけなのに、林さんに脳内を透視されたような気分で恥ずかしい。
「ははは、滝沢さんの全身から、オーラが出てましたよ」
「そ、そうか。気をつける」
「俺にはいいじゃないですか。俺だって辰起のこと、惚気ますし」
「辰起くんは元気か。彼さ、またモデルに戻ってもいいんじゃないか。先日彼の若い頃の写真を仕事で偶然見たが……今の方がぐっといい表情をしているから」
「おー、サンキュ。俺もそう思っていたんだ。嬉しいことを言ってくれた滝沢さんに、これをプレゼントするよ」
「お? 瑞樹じゃないか」
手渡された写真の端に、桜の装飾を真剣にする瑞樹の姿が写っていた。
綺麗な横顔だ。そして長い手足が際立って、いつも思うがスタイルいいよな。瑞樹の長い指の、綺麗なカタチの爪も愛おしい。
「滝沢さん、そんな目で見ないでくださいよ~」
「わ、悪い。どんな目つきだった?」
「えっちな目」
「み、瑞樹には黙っておいてくれよ」
「りょーかい。それあげますよ。仕事風景は貴重では」
「サンキュ!」
瑞樹メインで撮ったものではないが、ばっちり写っている。職場で堂々と君を眺められて、幸せを感じた。
俺も毎日、頑張ろう!
瑞樹と芽生の笑顔を守りたい。
****
芽生くんが公園の前を通りかかる。行きに寄り道した場所だ。
そこでぴたりと立ち止まってしまった。
んん? どうしたのかな?
話し掛けた方がいいのか、それとも?
僕も立ち止まって様子を窺った。
公園では、芽生くんと同じくらいの女の子と男の子が仲良く遊んでいた。近くには、ママもいる。
あ、もしかして同じ小学校に入る子かな?
そう思うと、僕もドキドキしてきた。話し掛けてみようか……ママさんの知り合いがいれば、いろいろ教えてもらえるかも。あぁ、しかしいきなりは難しいよ。なにかきっかけがあればいいのに。
すると芽生くんが再びスタスタと歩き出したので、急いで後を付いた。
いよいよ信号だ。
ちゃんと立ち止まって、じっと信号を見つめている。
何かあればすぐに助けられる距離にいるのに、僕は変な汗をかいていた。
夏樹……どうか守って欲しい。
僕の、僕がようやく辿り着いた大切な家族を。
そんなことを願ってしまう程、僕は緊張していた。
「みぎ、ひだり……みぎ……もういちど、ぐるっとみて……あぁもういちど……?」
芽生くんも緊張しているようでキョロキョロしすぎて、信号が点滅し出してしまった。
「あ、チカチカだ! ど、どうしよう」
芽生くんの足が一歩前に……!
呼び止めようと叫ぶ前に、芽生くんが、僕を振り返ってくれた。
「お、お兄ちゃん。どうしよう?」
そこから僕の元に戻ってギュッと手を繋いでくれた。
「偉かったね。走り出したらどうしようと心配したよ。僕に聞いてくれてありがとう」
「うん……うん」
「芽生くん、いつもチカチカになったら、渡る?」
「ううん……あ、そうだお兄ちゃんは『次の信号にしよう』って」
「そうだよ、思い出したね」
「信号、むずかしい……」
「大丈夫、慣れていこう。じゃあもう一度やってみようか」
「うん!」
僕はそっと背中を押してあげた。
あ……今、自分から手を離して、背中を押せた。
これもスモールステップなのかな。
また信号が青になる。
今度はもっとリズミカルに確認して、芽生くんは手をさっと上にあげて信号を渡れた。
そのまま、少しギクシャクした足取りで、マンションに向かった。そして無事に到着すると、くるりと振り返って満面の笑みを浮かべてくれた。
「芽生くん、やったね!」
「お兄ちゃん!」
芽生くんが、両手を広げて僕の胸に飛び込んでくれた。まだまだ甘えん坊だね…それでいいよ。
「お兄ちゃん! できたよ! できた! ひとりで帰ってきたよ!」
頭を擦りつけるように、嬉しさを表現してくれるので、僕はくすぐったく温かい気持ちになった。
こうやって一つ一つ、少しずつ乗り越えていこう!
手が離れていくのは寂しいが、嬉しいことだと感じられるのは、スモールステップのお陰だ。
まだまだこんな風に甘えてくれるのも、嬉しいよ。
「芽生くん、このままお買い物に行こうか」
「うん!」
出掛けに小学校の持ち物一覧の紙を持ってきた。宗吾さんから足りないものに印をつけてあるので、今日買って欲しいと頼まれていたから。
「お兄ちゃんといっしょ、うれしい」
「ほんと?」
「カッコイイし、かわいいもん」
「か、かわいいかな?」
「うん、パパがいつも言っているよ」
「くすっ、芽生くんはパパの子だな」
「え、パパだけじゃなくて、お兄ちゃんの子だよ」
「あ、ありがとう!」
僕も父親気分で、小学校の入学準備を手伝っていいのだね。
ありがとう! 本当にありがとう。
芽生くんの言葉はいつも僕の居場所を示してくれる。
大好きだよ。
11
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる