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番外編
その後の三人『家へ帰ろう』11
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「母さん~ 瑞樹たちは今、由布院の温泉だってさ! いいなぁ」
「由布院なんて、懐かしいわね」
「え? 母さん行ったことあるのか」
「母さんの頃は新婚旅行は九州がメッカだったのよ」
「へぇ、で、由布院には行ったのか」
「行きたかったんだけど、別府温泉にしたのよね。由布院にもいいお宿があったのに」
「そうかぁ~どっちにしてもいいな。俺も大分に行って見たいな」
居間で休憩を取りながら一服していると、妻が飛んできた。
血相を変えてくるから、まさか赤ちゃんに何かあったのではと焦ってしまった。
「みっちゃん、どうした? 腹が痛いのか、救急車を呼ぶか」
「違うよ~ そうじゃなくて、ヒロくんちょっと来て」
「なんだ?」
みっちゃんに休憩の間、店番を代わってもらっていた。
「変な客か。それなら任せておけ! 俺が退治してやる!」
「変っていうか……なんだろう? お役所の視察かな。銀縁眼鏡の奥が光っていて、うちの店を隈なく観察しているの」
「何だって? 何かしたかな。後は俺に任せろ。みっちゃんは母さんとお茶を飲んでおいで」
今の俺は、みっちゃんとお腹の子を守るヒーローのようだな。
「ヒロくん、カッコイイ♡」
「いやいや」
照れ臭い!
で、肝心の敵!(ではなく、行政の店舗視察か、それとも警察の人か)はどこだ?
俺が暖簾を潜り居間から続く店舗に戻ると、その男はスズランのハーバリウムを手にとってしげしげと眺めていた。
お! それが気に入ったのか。お目が高いな。
それは今流行の『ハーバリウム』といって、ガラスの可愛い小瓶にお花をオイル漬けしたもので、手入れしなくても花の美しい姿を保ち続けるものだ。誰でも気軽に楽しめるインテリアフラワーとして人気が高く、都会のフラワーショップでは最近色々な種類のハーバリウムが扱われているそうだ。全部瑞樹からの受け売りだが。
そしてそれは、俺の可愛い弟の瑞樹に相談して、俺が手がけた新作だ。
いいだろう? 瑞樹の誕生花の可憐なすずらんが可愛いだろう?
なんだか話し掛けたくなってきたぞ。
「すみません~お客さんでしたか」
「あ、いや、見ているだけだ」
その男性は俺の顔を見て、不思議そうな顔をした。
その後もチラチラと見てくる。
なんだ、なんだ? 俺の顔に何かついているのか。
ん……? 何故か突然、銀縁眼鏡の顔に宗吾の顔が重なった。
なんでだ? 雰囲気は真逆なのに。
彼は濃紺のスーツに清潔な白いシャツ、ネクタイもしっかり締めている。宗吾はスーツ姿でも、どこかだらしないのにな。
しかし似ているなぁ。思わず聞いてしまいそうな程に。
「あれ……?」
「なんだ?」
「あ、あのさ……あ、いや、それが気に入りましたか」
「あ、あぁ……この瓶詰めはなんだ?」
「ハーバリウムですよ」
「あぁ、あれか。研究のために植物の状態を長期保存する方法として生まれたものだな。『植物標本』のことか」
難しい言葉をつらつらと……。どうして、こんな場違いの人がわざわざうちの店に?
「すずらんは……可愛いな」
へ? いきなり堅物から『可愛い』という言葉が出てびっくりしたぞ。
「あの~お土産ですか」
「あぁ、妻に」
「いいですね」
「これなら匂いも気になりませんし、お手入れしなくてもいつも綺麗な状態で楽しめます」
「これは君が作ったのか」
「作ったのは俺ですが、東京にいる弟と共同開発というべきかな。アイデアとか作り方を習ったので」
「なるほど! そうか!だからか……これをもらおう」
弟という言葉に、顔がパァっと明るくなったような?
そういえば、 瑞樹が確か宗吾には兄がいて、全然タイプが違うと言っていたよな。
……
『広樹兄さん、僕ね……宗吾さんの家でよくして貰っているんだ』
『お母さんいい人でよかったな』
『うん、それにお兄さん夫婦とも仲良くなれて……』
『へぇあいつに兄がいるのか』
『それがね、全然タイプが違うんだよ。銀縁眼鏡の裁判官さん。でもとても優しいんだ。よーく見ると顔もちょっと似ていてね』
『名前は何て言うんだ?』
『憲吾さんだよ、そうごさんとけんごさんだよ』
……
おぉぉ! くっきりはっきり思いだしたぞ。
「あのさ、もしかして滝沢……憲吾さんですか」
「え! 何故私の名前を?」
ビンゴ! やはりなぁ~出張か何かなのか、わざわざ来てくれるなんて嬉しいぜ!
「早く言って下さいよ。俺は葉山広樹、瑞樹の兄です」
「……私も……」
「なんです?」
「私も……瑞樹くんの……兄だが……」
なんだなんだ?
参ったなー! 瑞樹のやつ、本当に『兄たらし』だな~(こんな日本語あるんか)
だが、可愛い弟が相手の家にも家族として認められているのが分かり、嬉しくなったぞ。
「やっぱり! そうでしたか。さぁさぁどうぞ、中でお茶でも」
「い、いや……私にはそんな時間は……それより何故分かった?」
「宗吾と似てますよ。やっぱり兄弟なんだなって」
「そ、そうか」
性格は真逆のようだが。
「母さん、みっちゃん~来てくれよ。宗吾のにーさんが来てくれたぞ」
「えぇ~ なんだ、そうだったの?」
「まぁようこそ、滝沢さんのご長男さんなのね」
憲吾さんは、結局我が家でお茶を一杯飲んでいった。
座布団に正座して背筋をピンっと伸ばしている。
「あの……うちの妻も妊婦なんです」
と至って真面目な顔で、告げてくれた。
「わぁ~一緒ですね。お互い頑張って産みましょうって伝えて下さい。このハーバリウムぜひ飾ってくださいね。うちの人が、瑞樹くんからアドバイスを受けて作った自信作です」
「あぁ、喜ぶとと思います。妻はこういう優しい物が好きなんです」
真面目な顔で惚気ていたが、最後はやはり真面目に深々とお辞儀して、『宗吾のことをよろしくお願いします』と、兄らしいことを言ってのけた。
いい人だな。
瑞樹、良かったな。
いい家族に恵まれたな。
お前はもうひとりではない。
函館の家もあるし、宗吾の実家もある。
「奥さんの予定日はいつですか」
「6月中旬です」
「うちと1ヶ月違いだ」
「お互い良い父親になれるよう頑張りましょう」
すっと手を差し出すと、彼は照れ臭そうに握手してくれた。
とてもあたたかな手だった。
人は外見で全てを判断しては駄目だな。彼は少し冷たそうな外見の中に、確かなあたたかな心を持っている。
ラッピングしたハーバリウムを、大切そうに鞄に詰めていた。
「あの……これ、もう一つ買いたいのだが。今度はラッピングしなくていいので」
「自分用ですか」
「そうだ、職場のデスクに飾ろうかと」
「いいですね。花を見つめる心の時間も必要ですから」
「瑞樹くんには、いろいろ学んでいます」
人と人との出逢いって、不思議だな。
交わりそうもない縁も、大切な誰かを介して繋がる時がある。
そういう縁は大事にしたいな。
橋渡ししてくれた人も……渡って歩みよって来てくれた人も、みんな大切だ。
俺は人を大切にしたい。
瑞樹からは、いつも優しい心を学んでいる。
「由布院なんて、懐かしいわね」
「え? 母さん行ったことあるのか」
「母さんの頃は新婚旅行は九州がメッカだったのよ」
「へぇ、で、由布院には行ったのか」
「行きたかったんだけど、別府温泉にしたのよね。由布院にもいいお宿があったのに」
「そうかぁ~どっちにしてもいいな。俺も大分に行って見たいな」
居間で休憩を取りながら一服していると、妻が飛んできた。
血相を変えてくるから、まさか赤ちゃんに何かあったのではと焦ってしまった。
「みっちゃん、どうした? 腹が痛いのか、救急車を呼ぶか」
「違うよ~ そうじゃなくて、ヒロくんちょっと来て」
「なんだ?」
みっちゃんに休憩の間、店番を代わってもらっていた。
「変な客か。それなら任せておけ! 俺が退治してやる!」
「変っていうか……なんだろう? お役所の視察かな。銀縁眼鏡の奥が光っていて、うちの店を隈なく観察しているの」
「何だって? 何かしたかな。後は俺に任せろ。みっちゃんは母さんとお茶を飲んでおいで」
今の俺は、みっちゃんとお腹の子を守るヒーローのようだな。
「ヒロくん、カッコイイ♡」
「いやいや」
照れ臭い!
で、肝心の敵!(ではなく、行政の店舗視察か、それとも警察の人か)はどこだ?
俺が暖簾を潜り居間から続く店舗に戻ると、その男はスズランのハーバリウムを手にとってしげしげと眺めていた。
お! それが気に入ったのか。お目が高いな。
それは今流行の『ハーバリウム』といって、ガラスの可愛い小瓶にお花をオイル漬けしたもので、手入れしなくても花の美しい姿を保ち続けるものだ。誰でも気軽に楽しめるインテリアフラワーとして人気が高く、都会のフラワーショップでは最近色々な種類のハーバリウムが扱われているそうだ。全部瑞樹からの受け売りだが。
そしてそれは、俺の可愛い弟の瑞樹に相談して、俺が手がけた新作だ。
いいだろう? 瑞樹の誕生花の可憐なすずらんが可愛いだろう?
なんだか話し掛けたくなってきたぞ。
「すみません~お客さんでしたか」
「あ、いや、見ているだけだ」
その男性は俺の顔を見て、不思議そうな顔をした。
その後もチラチラと見てくる。
なんだ、なんだ? 俺の顔に何かついているのか。
ん……? 何故か突然、銀縁眼鏡の顔に宗吾の顔が重なった。
なんでだ? 雰囲気は真逆なのに。
彼は濃紺のスーツに清潔な白いシャツ、ネクタイもしっかり締めている。宗吾はスーツ姿でも、どこかだらしないのにな。
しかし似ているなぁ。思わず聞いてしまいそうな程に。
「あれ……?」
「なんだ?」
「あ、あのさ……あ、いや、それが気に入りましたか」
「あ、あぁ……この瓶詰めはなんだ?」
「ハーバリウムですよ」
「あぁ、あれか。研究のために植物の状態を長期保存する方法として生まれたものだな。『植物標本』のことか」
難しい言葉をつらつらと……。どうして、こんな場違いの人がわざわざうちの店に?
「すずらんは……可愛いな」
へ? いきなり堅物から『可愛い』という言葉が出てびっくりしたぞ。
「あの~お土産ですか」
「あぁ、妻に」
「いいですね」
「これなら匂いも気になりませんし、お手入れしなくてもいつも綺麗な状態で楽しめます」
「これは君が作ったのか」
「作ったのは俺ですが、東京にいる弟と共同開発というべきかな。アイデアとか作り方を習ったので」
「なるほど! そうか!だからか……これをもらおう」
弟という言葉に、顔がパァっと明るくなったような?
そういえば、 瑞樹が確か宗吾には兄がいて、全然タイプが違うと言っていたよな。
……
『広樹兄さん、僕ね……宗吾さんの家でよくして貰っているんだ』
『お母さんいい人でよかったな』
『うん、それにお兄さん夫婦とも仲良くなれて……』
『へぇあいつに兄がいるのか』
『それがね、全然タイプが違うんだよ。銀縁眼鏡の裁判官さん。でもとても優しいんだ。よーく見ると顔もちょっと似ていてね』
『名前は何て言うんだ?』
『憲吾さんだよ、そうごさんとけんごさんだよ』
……
おぉぉ! くっきりはっきり思いだしたぞ。
「あのさ、もしかして滝沢……憲吾さんですか」
「え! 何故私の名前を?」
ビンゴ! やはりなぁ~出張か何かなのか、わざわざ来てくれるなんて嬉しいぜ!
「早く言って下さいよ。俺は葉山広樹、瑞樹の兄です」
「……私も……」
「なんです?」
「私も……瑞樹くんの……兄だが……」
なんだなんだ?
参ったなー! 瑞樹のやつ、本当に『兄たらし』だな~(こんな日本語あるんか)
だが、可愛い弟が相手の家にも家族として認められているのが分かり、嬉しくなったぞ。
「やっぱり! そうでしたか。さぁさぁどうぞ、中でお茶でも」
「い、いや……私にはそんな時間は……それより何故分かった?」
「宗吾と似てますよ。やっぱり兄弟なんだなって」
「そ、そうか」
性格は真逆のようだが。
「母さん、みっちゃん~来てくれよ。宗吾のにーさんが来てくれたぞ」
「えぇ~ なんだ、そうだったの?」
「まぁようこそ、滝沢さんのご長男さんなのね」
憲吾さんは、結局我が家でお茶を一杯飲んでいった。
座布団に正座して背筋をピンっと伸ばしている。
「あの……うちの妻も妊婦なんです」
と至って真面目な顔で、告げてくれた。
「わぁ~一緒ですね。お互い頑張って産みましょうって伝えて下さい。このハーバリウムぜひ飾ってくださいね。うちの人が、瑞樹くんからアドバイスを受けて作った自信作です」
「あぁ、喜ぶとと思います。妻はこういう優しい物が好きなんです」
真面目な顔で惚気ていたが、最後はやはり真面目に深々とお辞儀して、『宗吾のことをよろしくお願いします』と、兄らしいことを言ってのけた。
いい人だな。
瑞樹、良かったな。
いい家族に恵まれたな。
お前はもうひとりではない。
函館の家もあるし、宗吾の実家もある。
「奥さんの予定日はいつですか」
「6月中旬です」
「うちと1ヶ月違いだ」
「お互い良い父親になれるよう頑張りましょう」
すっと手を差し出すと、彼は照れ臭そうに握手してくれた。
とてもあたたかな手だった。
人は外見で全てを判断しては駄目だな。彼は少し冷たそうな外見の中に、確かなあたたかな心を持っている。
ラッピングしたハーバリウムを、大切そうに鞄に詰めていた。
「あの……これ、もう一つ買いたいのだが。今度はラッピングしなくていいので」
「自分用ですか」
「そうだ、職場のデスクに飾ろうかと」
「いいですね。花を見つめる心の時間も必要ですから」
「瑞樹くんには、いろいろ学んでいます」
人と人との出逢いって、不思議だな。
交わりそうもない縁も、大切な誰かを介して繋がる時がある。
そういう縁は大事にしたいな。
橋渡ししてくれた人も……渡って歩みよって来てくれた人も、みんな大切だ。
俺は人を大切にしたい。
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