690 / 1,730
番外編
その後の三人『家へ帰ろう』4
しおりを挟む
「おっと、そろそろ時間だな。行くか」
「はい。芽生くん、タオルで足を拭こうね」
「うん!」
足湯って侮れないな。
昨夜を思い出し、火照ってしまった身体はポカポカになっていた。
芽生くんの足を拭き終わると、宗吾さんに呼ばれた。
「瑞樹もちゃんと拭け」
「あ、はい……あ、あの、自分で拭けます」
タオルを持った宗吾さんの手が触れると、身体が過敏に反応してしまった。
「お詫びだよ。あのさ、そこ……悪かったな」
「い、いえ」
僕……どうしたのかな?
2年前……宗吾さんと会った頃みたいに、ドキドキして止まらない。少し触れるだけでも、胸を高鳴らせてしまう。
「ふっ、そんな顔をすんなよ。君と出逢った頃を思い出すよ」
「あ……僕もです。今、同じことを思っていました」
「俺たちさ、これからも……こんな風に初心を忘れずにいこうな」
「はい、僕もそう思います」
『幸せな復讐』は終わったが、これからが新しいスタートなんだ。だから、お互いフレッシュな気持ちで満ちていた。
旅もそろそろ終わり……あとは飛行機に乗って、僕たちの家に戻るだけ。
そう思って搭乗手続きをした時だった。
荷物検査を受けていた芽生くんが、
小さな声をあげた。
「あっ!」
「どうしたの?」
「ん……っと、なんでもないよ」
なんでもない? 本当かな。
子供は上手に隠し事が出来ないので、明らかにソワソワし出す様子が心配だよ。
「おっと! 足湯でゆっくりし過ぎた。飛行機に乗り遅れるぞ」
「あ、はい!」
「お兄ちゃん、ボク、だいじょうぶだよ! いこう!」
「本当に?」
「……うん」
芽生くん、やっぱり少し元気がないな。
時計をちらりと確認すると、時間がないと言っても、立ち止まって芽生くんと話す時間は取れそうだ。
僕も勇気を出して、声をあげた。
「宗吾さん! 待って……待って下さい!」
「何してる? ほら急げ急げ!」
「あの、少し芽生くんと話したくて」
「どうかしたのか」
「それを今から聞いてみますね」
宗吾さんもようやく立ち止まってくれたので、明らかにしょんぼりしている芽生くんを椅子に座らせ、僕も目線が合うようにしゃがんだ。
昔……お母さんが、いつもこうやって僕に向き合ってくれた。
僕は幼い頃から、積極的に人前に出たり自分から行動を起こしたり出来ない引っ込み思案な性格だったから。
『みーずき、さぁ話してごらん。怒らないから』
『ほんとうに?』
~怒らないから正直に話してごらん~とは、母親の常套句だったのかな。でもその言葉をきっかけに、僕は口を開けた。
『ママしかいないから、話してくれるとうれしいなぁ」
『あ、あのね……僕……』
お母さんなら、こんな時、どうしたかな?
過去を振り返って、はたと気付いた。
もしかして?
「芽生くん、何か忘れ物しちゃった?」
「あ! う、うん……ボクどうしよう!」
芽生くんの眼から、突然ぽろぽろと涙が零れだした。
わわ! やっぱり、ちゃんと立ち止まって聞いてみてよかった。
「どうしたのかな。お兄ちゃん、手伝うよ」
「お、お兄ちゃん~ぐすっ」
芽生くんが僕の首に手を回して、ワンワン泣き出した。
「芽生、一体どうした? 男ならハッキリ言えよ!」
「宗悟さん、しーっですよ。まだ時間はありますので、ここは」
「お、おう! 悪い」
こういうときは、急かしたら逆効果だ。
「ぐすっ、あの……あのね」
「うん? どうした?」
「いないの……」
「いない?」
「ひつじの……メイ……が」
「え?」
ぬいぐるみを、旅行に持って来たのは知っていた。宿のお部屋で抱っこしていた。しかし最後にリュックにしまったのは確認した。
部屋でないなら、どこへ?
「落としちゃった?」
「わからない。さっきお荷物けんさのとき、いないなって」
「わ! 大変だ」
メイくんがいつも大事に持ち歩いているぬいぐるみを失くすなんて。
大切なものを失くしてしまうことの、辛をよく知っているから、ギュッと胸が切なくなった。
「どこかでリュックから出したのかな?」
「あ……えっとね」
「芽生、早く思い出せ」
「パパ、ごめんなさい。う、うん」
僕は芽生くんの背中をそっと撫でてやった。
「芽生くん、丁寧に思い出してみよう? ねっ」
「あ! バスの中で……抱っこしたんだ」
「バス? 空港行きの?」
「ううん」
「じゃあ旅館のかな?」
「そう!」
きっとそこだ。
旅館のバスの中なら、見つかるかもしれない。
「宗悟さん、すぐに電話してみましょう」
「あぁ、そうだな。俺がするよ。君は芽生を見ていてくれ」
「すみません」
「パパ、ご、ごめんなさい」
「今度から気をつけろよ!」
「……うん」
芽生くんは、また……しょんぼりと俯いてしまった。
宗悟さんの言い分は尤もだし、時間もないのも分かる。でも雑には扱いたくなかった。
「芽生くん、落とし物や忘れ物って、気をつけていても、しちゃうんだよね。僕だってたまにしちゃうし。それより早く探してあげないとね。羊のメイくんも寂しがっているよ」
「見つかるかな? 今度から気をつける! だって……ひつじさんにさみしいおもいさせたくないもん!」
芽生くんが不安そうに僕を見つめるので、お膝に抱っこしてあげた。
「大丈夫だよ。あの旅館のバスなら、きっと!」
「そうだね! あそこなら『しあわせやさん』がいるから、きっと!」
「はい。芽生くん、タオルで足を拭こうね」
「うん!」
足湯って侮れないな。
昨夜を思い出し、火照ってしまった身体はポカポカになっていた。
芽生くんの足を拭き終わると、宗吾さんに呼ばれた。
「瑞樹もちゃんと拭け」
「あ、はい……あ、あの、自分で拭けます」
タオルを持った宗吾さんの手が触れると、身体が過敏に反応してしまった。
「お詫びだよ。あのさ、そこ……悪かったな」
「い、いえ」
僕……どうしたのかな?
2年前……宗吾さんと会った頃みたいに、ドキドキして止まらない。少し触れるだけでも、胸を高鳴らせてしまう。
「ふっ、そんな顔をすんなよ。君と出逢った頃を思い出すよ」
「あ……僕もです。今、同じことを思っていました」
「俺たちさ、これからも……こんな風に初心を忘れずにいこうな」
「はい、僕もそう思います」
『幸せな復讐』は終わったが、これからが新しいスタートなんだ。だから、お互いフレッシュな気持ちで満ちていた。
旅もそろそろ終わり……あとは飛行機に乗って、僕たちの家に戻るだけ。
そう思って搭乗手続きをした時だった。
荷物検査を受けていた芽生くんが、
小さな声をあげた。
「あっ!」
「どうしたの?」
「ん……っと、なんでもないよ」
なんでもない? 本当かな。
子供は上手に隠し事が出来ないので、明らかにソワソワし出す様子が心配だよ。
「おっと! 足湯でゆっくりし過ぎた。飛行機に乗り遅れるぞ」
「あ、はい!」
「お兄ちゃん、ボク、だいじょうぶだよ! いこう!」
「本当に?」
「……うん」
芽生くん、やっぱり少し元気がないな。
時計をちらりと確認すると、時間がないと言っても、立ち止まって芽生くんと話す時間は取れそうだ。
僕も勇気を出して、声をあげた。
「宗吾さん! 待って……待って下さい!」
「何してる? ほら急げ急げ!」
「あの、少し芽生くんと話したくて」
「どうかしたのか」
「それを今から聞いてみますね」
宗吾さんもようやく立ち止まってくれたので、明らかにしょんぼりしている芽生くんを椅子に座らせ、僕も目線が合うようにしゃがんだ。
昔……お母さんが、いつもこうやって僕に向き合ってくれた。
僕は幼い頃から、積極的に人前に出たり自分から行動を起こしたり出来ない引っ込み思案な性格だったから。
『みーずき、さぁ話してごらん。怒らないから』
『ほんとうに?』
~怒らないから正直に話してごらん~とは、母親の常套句だったのかな。でもその言葉をきっかけに、僕は口を開けた。
『ママしかいないから、話してくれるとうれしいなぁ」
『あ、あのね……僕……』
お母さんなら、こんな時、どうしたかな?
過去を振り返って、はたと気付いた。
もしかして?
「芽生くん、何か忘れ物しちゃった?」
「あ! う、うん……ボクどうしよう!」
芽生くんの眼から、突然ぽろぽろと涙が零れだした。
わわ! やっぱり、ちゃんと立ち止まって聞いてみてよかった。
「どうしたのかな。お兄ちゃん、手伝うよ」
「お、お兄ちゃん~ぐすっ」
芽生くんが僕の首に手を回して、ワンワン泣き出した。
「芽生、一体どうした? 男ならハッキリ言えよ!」
「宗悟さん、しーっですよ。まだ時間はありますので、ここは」
「お、おう! 悪い」
こういうときは、急かしたら逆効果だ。
「ぐすっ、あの……あのね」
「うん? どうした?」
「いないの……」
「いない?」
「ひつじの……メイ……が」
「え?」
ぬいぐるみを、旅行に持って来たのは知っていた。宿のお部屋で抱っこしていた。しかし最後にリュックにしまったのは確認した。
部屋でないなら、どこへ?
「落としちゃった?」
「わからない。さっきお荷物けんさのとき、いないなって」
「わ! 大変だ」
メイくんがいつも大事に持ち歩いているぬいぐるみを失くすなんて。
大切なものを失くしてしまうことの、辛をよく知っているから、ギュッと胸が切なくなった。
「どこかでリュックから出したのかな?」
「あ……えっとね」
「芽生、早く思い出せ」
「パパ、ごめんなさい。う、うん」
僕は芽生くんの背中をそっと撫でてやった。
「芽生くん、丁寧に思い出してみよう? ねっ」
「あ! バスの中で……抱っこしたんだ」
「バス? 空港行きの?」
「ううん」
「じゃあ旅館のかな?」
「そう!」
きっとそこだ。
旅館のバスの中なら、見つかるかもしれない。
「宗悟さん、すぐに電話してみましょう」
「あぁ、そうだな。俺がするよ。君は芽生を見ていてくれ」
「すみません」
「パパ、ご、ごめんなさい」
「今度から気をつけろよ!」
「……うん」
芽生くんは、また……しょんぼりと俯いてしまった。
宗悟さんの言い分は尤もだし、時間もないのも分かる。でも雑には扱いたくなかった。
「芽生くん、落とし物や忘れ物って、気をつけていても、しちゃうんだよね。僕だってたまにしちゃうし。それより早く探してあげないとね。羊のメイくんも寂しがっているよ」
「見つかるかな? 今度から気をつける! だって……ひつじさんにさみしいおもいさせたくないもん!」
芽生くんが不安そうに僕を見つめるので、お膝に抱っこしてあげた。
「大丈夫だよ。あの旅館のバスなら、きっと!」
「そうだね! あそこなら『しあわせやさん』がいるから、きっと!」
11
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる