上 下
663 / 1,743
成就編

幸せな復讐 17

しおりを挟む
 おもてなしの心満載の食事は見た目も味も良く、僕たち家族はとても満たされた気持ちになっていた。

 芽生くんのお子様セットも、大人の食事のミニチュアのように本格的な味わいで、それでいて子供が喜ぶ遊び心を失わないものだった。

「ぜんぶ、たべたよ!」
「のこさずえらかったね。ブロッコリーもたべられたしね」
「うん! ふぅ~」

 芽生くんが小さな手で、目を擦りだした。
 
「芽生くん、もう眠いの?」
「うーん、さっき……わっしょい!わっしょいって、しすぎたかも」
「くすっ、 とても可愛かったよ」
「おまつり……おみこし……わたあめ……むにゃむにゃ……、おにいちゃん……だっこぉ」
「おいで」

 甘えた声の芽生くんが、僕の胸に、ぽすっと飛び込んでくれた。

 このまま寝落ちしそうなので、急いで歯磨きだけはさせた。虫歯は困るからね。

 あぁでも……もう磨きながら、トロンとしているね。

 子供の電池は、突然切れてしまう。

「もう少しだよ。がんばって」
「うーん、おふとん……はいりたいなぁ」
「じゃあ、敷いてもらおうね」

 僕に心も身体も預けてくれる、あたたかな温もりと重みが心地良いよ。
 
  洗面所から部屋に戻ると、ちょうど仲居さんが食事の後片付けに来てくれた。

「あら? ボク、おねむなのね。じゃあ先にこっちにお布団を敷きましょうね」
「ありがとうございます。助かります」

 気が利くね。手早く部屋の隅に、布団を敷いてくれた。

「芽生くん、もう眠ってもいいよ」
「ん……おにいちゃんも……」
「うん」

 仲居さんがまだ片付けしている最中だったけれども、芽生くんを抱っこするように布団に潜り込んだ。

「あしたも、たのしみ……あしたもまた……あのはらっぱであそびたいな」
「いいよ」

 可愛い願いごと。
 すぐにでも叶えてあげたくなるよ。

「おやすみ、芽生くん」

 やがてカチャカチャと食器を片付ける音が消え……部屋が静かになり、胸元からも規則正しい寝息が聞こえてきた。

  そろそろいいかな。

 僕はむくりと起き上がり、宗吾さんを探した。

 芽生くんが寝付くまで静かにしてくれていた。

 窓辺の椅子で読書しているのかと思ったが、そこにはいなくて、その代わり掛け流しの温泉の方から、湯の音がした。

 そっと覗くと、宗吾さんは目を閉じ、瞑想するような表情で浸かっていた。

「宗吾さん……あの」
「あぁ、芽生を寝付かせてくれてありがとう。芽生は眠い時は相変わらず瑞樹にべったりになるな」
「かわいいです。いつまでも小さいままでいてくれないのが分かっているので、余計に……今が愛おしくなります」
「そうだよな。じゃあ、そろそろ俺の時間か」

 宗吾さんの熱い視線を浴びると、僕も自然と浴衣の帯に手をかけていた。

「あの……一緒に、入っても」
「もちろんだ。待っていた」

 はらりと浴衣を足元に落とす……いつになく大胆な行動だ。

 少し恥ずかしかったが、脱衣所は……照明を落とし薄暗いので、自分で自分の身につけているものを解いていった。
 
「瑞樹のパンツ、今日は○印だよな」
「あ……もうっ、ムードが台無しですよ」
「ごめん。少し緊張してきた……この旅館内で君に手を出していいのか、少し悩んでいたんだ。前の彼氏がいる場所で……君を抱くのを許してもらえるのだろうか」

 宗吾さんが、慎重に聞いてくれる。

 宗吾さんはいつも大らかで豪快なのに、時にとても繊細に僕の心に寄り添って、僕の心を大切にしてくれる。

 それが嬉しくて、僕の返事は……すぐに決まった。

 僕の身体も心も……すべて大切に愛してくれる人

 それが僕の宗吾さんだ。

「宗吾さん……好きです」
 
 チャプンと水音が立つ。

 吸い込まれるように、裸の宗吾さん胸に飛び込んだ。

「もう……あいつに伝えられました。僕が今……どんなに幸せに満ちているか。もう大丈夫だって……」

 僕の方から、宗吾さんに口づけした。

「あぁ……瑞樹を愛してくれた男だ。俺も、まぁ……一目置くよ。彼がいなかったら、今の俺はここにいないしな。あの日、あの公園で君が泣いたから、俺たちは出逢った。恋のキューピットは芽生だったな」

「はい。一馬との別れがなければ……出逢えなかった。そう思えるようになっています。宗吾さん……僕をここで抱いて下さい」
「本当にいいのか」
「そうして欲しくて……さっきから……その」
「嬉しいよ。俺だけかと思った。がっついているの」
「そんなことはないです。心は一緒です」

 ここは露天風呂ではない。

 客室の一部で、タイルと窓ガラスで囲まれた密室だ。
 
 星や月は見えない。

 吹き抜ける風もない。

 だが、自由で解放された空間だ。

 何故なら……僕だけの星が、僕だけの風がここにはある。

 宗吾さん。

 僕の宗吾さんが、ここには、いてくれるから。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...