上 下
586 / 1,730
成就編

気持ちも新たに 12

しおりを挟む
「パパ、早くおふとんつけて」
「おぅ! 待ってろ。瑞樹、手伝ってくれるか」
「はい!」
 
 宗吾さんが天板を持ち上げてくれたので、僕は急いで炬燵布団を掛けた。優しいクリーム色に三つ葉の模様の布団が濃い色の炬燵に似合っていた。

「早くあたたまらないかなー、お兄ちゃんワクワクするね」
「うん!」

 芽生くんに手を引っ張られたので、炬燵の中に足を入れてみた。まだ電源を入れたばかりなので冷たいが、芽生くんの可愛い素足とコツンとぶつかり、ニコッと笑ってしまった。

「あ、見て。のぞくとオレンジ色で暖炉みたいだよ」
「そうだね。でも目が悪くなるから、あまり見ちゃ駄目だよ」
「はーい!」
「おい、二人とも気持ちいいか」
「うん、だんだんあたたかくなってきたよ」
「コタツムリになるなよ」
「なぁに……それ?」
「こういうのだ!」

 宗吾さんが大きな身体を炬燵に潜らせ、深く潜って顔だけ出して、ニカッと笑った。

「わー! カタツムリさんだ」
「正解!」
「ボクもやる~」
「そ、宗吾さん、芽生くんに変なこと教えないでくださいよ。風邪ひいちゃいますよ」
「ははは、瑞樹もやってみろよ」

 炬燵の中で、宗吾さんの手を感じドキッとしてしまう。腰を抱かれるように引きずりこまれて、焦ってしまう。もうっ――

「わー お兄ちゃんが消えちゃう。アリ地獄だー」
「えぇ?」
「ははっ、芽生は物知りだな」

 僕はその隙に炬燵から飛び出て、洗面所に逃げた。

 なんだか家に危険なものがやってきたのでは? 鏡に映る高揚した顔を見て、苦笑してしまった。

 でも、宗吾さんも芽生くんも楽しそうで、良かった。

 年末年始は、みんなでコタツムリになりそうだ。 


 ****

 大晦日の夜は、家族団欒の時間だ。

 俺たちも食事を終え、届いたばかりの炬燵に移動し、国民的番組を観ながら寛いでいた。

「ゆったりした大晦日だな」
「……ですね。ふゎぁ……」

 大掃除で疲れた瑞樹を労うために夕食時にビールを飲ませたら、とろんとした顔になってしまった。

「おいおい、まだ寝るなよ」
「あ、はい……でも、眠たいです」
「お兄ちゃん、ねたらダメだよ~」
「うん……でも……ここ気持ちよくて」

 意を決して掃除したベッドの下。埃がすごくて瑞樹、半狂乱だったなぁ。しかし、どうしてあんなに溜る? 瑞樹が来てからはマメに掃除しているのにさ。『俺たちがベッドではしゃぎすぎるせいで、綿埃が立つのかな』告げたら、怒られた。

 リラックスした表情を浮かべる君を見ていると、こんな時間が幸せだとしみじみと思う。

 レトロな炬燵の優しいぬくもりに包まれていると、しみじみと春先から今日までの日々を思い出す。

 俺は、穏やかな日常がますます愛おしくなった。

 ただ君がそこにいるだけで、心が凪ぎ、優しいそよ風が吹いているようだ。

 やがて瑞樹が船を漕ぎ出す。

 うつらうつらと、実に気持ちよく酔っているらしい。

  俺たち家族にだけ見せる無防備な表情だ。

 炬燵の中でそっと手をつなぐと、恥ずかしそうに目を細めて俺を見つめてくれた。

 今度は逃げないのか。

 ならばと君の指を絡め、恋人繋ぎをしてやった。

 そのまま、俺は片手で日本酒をゆったりと飲んだ。

 月影寺から贈られてきた『翠』という酒は、翠さんを彷彿させる澄んだ味わいで最高だ。澄んだ心で見つめれば、目の前にある、当たり前の日常がどんなに大切な貴重なものなのかが見えてくる。

 気が付けば、芽生も瑞樹もコタツムリになっていた。

 しかし、君たちがそこにいてくれるから、あたたかい。

 間もなく年を越す。

「……ん、あ、すみません。僕、眠って?」
「あぁ、そろそろ起きろ。あと15分だ」
「芽生くんは?」
「寝落ちしたな」
「ふふっ、そういえば僕も小さい頃、頑張って起きていたかったのに炬燵で眠ってしまい、いつの間にかお父さんが二段ベッドに連れて行ってくれました」

 君のお父さんか……自然に昔話をし出した瑞樹に……じんわりと感動した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...