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成就編
気持ちも新たに 4
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「さぁもうすぐ着くわよ」
「う、うん」
芽生が私の手をギュッと握ってきた。
「大丈夫? こわくないわよ。おばあちゃんがついているから」
「うん、そうだよね。あとで……お兄ちゃんもむかえにきてくれるし」
「そうよ。ママ達のお顔を見たら、なるべく早めにお暇しましょうね」
「うん、そうする。あのね……少しだけでいいんだ。ママがまたママになったのをみて、赤ちゃんのお顔をみたら、ボク、おうちに帰るんだ」
無理もないわ。久しぶりに離れて暮らすお母さんに会うのは、緊張するものよ。ましてお母さんは赤ちゃんを産んで、状況も変わっている。
今日は宗吾も瑞樹くんもいないし……
しかし今日は不思議な展開になったわね。まさか瑞樹くんが、あとで花を届けてくれるとは。もちろん、最初からこうなるとは思っていなかった。芽生は、宗吾や瑞樹くんに気を遣って一人で会いに行こうとしたのかと考えていたけれども、そうでもなかったのかしら?
玲子さんのご実家は、結婚の顔合わせで一度だけ伺ったことがあったわね。
なだらかな坂の上に建つ立派なお屋敷。
玲子さんは、裕福なご家庭のお嬢さんで、特有の我が儘な部分はあったけれども、根は悪い人ではないはず。芽生をここまで素直なよい子に育ててくれたことが、その証しだと信じているわ。
でも離婚前に、玲子さんは芽生を置いて家を飛び出したのよね。理由は宗吾にあったにせよ、母親がまだ幼い芽生を置いていったのは、正直悲しかったわ。でもだからこそ宗吾は、父性に目覚め、子育てに真剣に向き合い出したのよね。そんな宗吾の頑張りを目の当たりにしたせいか、芽生も父親のもとにいるのを望み、離婚調停では、母親が親権を取ることは出来なかった。
母親がいなくても、宗吾と芽生の生活は成り立っているわ。そして瑞樹くんがやってきて、宗吾だけでは足りなかったソフト面で、芽生を支えてくれるようになった。二人は世間でいう男女の夫婦ではないけれども、私は本当に彼のことが好き……応援しているのよ。
玲子さんは既に新しい生活を始め、違う男性との子供を産んだのだから、その子のためにも、少しずつ宗吾とも芽生と距離を置いて欲しいと願うのは、孫可愛さの祖母のエゴかしら。
まぁ、今回は、とにかく一度会わないとダメそうね。
「着きましたが……母さん一人で大丈夫ですか」
「心配性ね。あとで瑞樹くんが迎えに来てくれるし、私はまだまだ元気よ」
「……母さん、頼みます。たまに親権を譲ったのに、孫可愛さに実力行使に出るパターンもありますから」
「まぁ、そうなの? まさか、れはないでしょう」
「いや……心配だな」
「大丈夫よ。ほらほら、もう憲吾は仕事に行きなさい」
「芽生。おばあちゃんを頼むよ。芽生は、自分の気持ちを大切にするんだよ」
「うん! ボクはパパとお兄ちゃんといっしょがいいんだ。オジサンって、なんかカッコイイね」
「そうか。芽生はいい子だな」
憲吾が芽生の頭を、照れ臭そうな手つきで優しく撫でた。
「あら……」
「なんです?」
「どんどん似てくるわね。お父さんに」
「そうですか」
「そうよ。きっと来年お父さんになったら、もっと似てくるわ」
一瞬、あなたが舞い戻って来たのかと思ったわ。
ぎこちない動きが、亡き夫とそっくりね。
恥ずかしそうに咳払いして……憲吾、あなたも可愛い息子よ。
****
「こ……んにちは」
「まぁ! 芽生ちゃんってば、すっかり大きくなって。会いたかったわ!芽生ちゃんの好きな、お菓子をいっぱい買っておいたわよ。おもちゃも沢山買ったのよ~、早くお入りなさい」
到着するなり、芽生は玲子さんの両親に猫可愛がりされた。
「あ、あの、くすぐったいよ。ボクは……もう赤ちゃんじゃないよ」
「あらあら、随分と一人前の口を利くようになったのね。まだ幼稚園なのに。やっぱり女手が足りてないからなのかしら。少し可愛げがなくなったわね」
まぁ! 失礼な。一体何を言うのかしら? 芽生ほど優しい子はいないわ。
「あの……ママはどこ?」
「ママは今、赤ちゃんにおっぱいをあげているのよ。気になる? もしかして芽生も飲みたくなったんじゃない?」
「え……ボク、もう6歳だよ」
「男の子はいつまで経っても、赤ちゃんみたいなものでしょう」
芽生の話も聞かないで、決めつけるのはよくないわ。
今日だけ……今日だけよ……私はじっと我慢した。
やがて、玲子さんが赤ん坊を抱いてやってきた。
「ママったら、もう、やめてよ。芽生が困っているじゃない」
「まぁ、玲子まで意地悪ね」
流石に芽生はお母さんの顔を見ると、表情を和らげた。
「あ……ママ!」
「芽生!」
玲子さんは赤ちゃんを母親に預けて、芽生を両手ですっぽりと抱きしめてくれた。
その光景に、ようやく安堵した。
「芽生、来てくれてありがとう」
「ママ……ママ、おめでとう」
「……ありがとう。芽生……なんだか、ごめんね」
「どうして、あやまるの?」
「ママがね、またママになれてよかったぁ」
「え……そんな風に、思ってくれるの?」
「うん! ママ……うれしい?」
「……うん。ありがとう」
「よかったぁ……ねぇ、赤ちゃんが見たいな」
あらあら、玲子さんってば……角が取れて随分丸くなったわね。
二人目の子供を産んだからかしら?
母親らしさが増したわ。
本当に和やかな母と子の優しい会話だわ。
そうよ……そんな風に、あなたたちは、また新しい関係を築いていけるといいわね。
「う、うん」
芽生が私の手をギュッと握ってきた。
「大丈夫? こわくないわよ。おばあちゃんがついているから」
「うん、そうだよね。あとで……お兄ちゃんもむかえにきてくれるし」
「そうよ。ママ達のお顔を見たら、なるべく早めにお暇しましょうね」
「うん、そうする。あのね……少しだけでいいんだ。ママがまたママになったのをみて、赤ちゃんのお顔をみたら、ボク、おうちに帰るんだ」
無理もないわ。久しぶりに離れて暮らすお母さんに会うのは、緊張するものよ。ましてお母さんは赤ちゃんを産んで、状況も変わっている。
今日は宗吾も瑞樹くんもいないし……
しかし今日は不思議な展開になったわね。まさか瑞樹くんが、あとで花を届けてくれるとは。もちろん、最初からこうなるとは思っていなかった。芽生は、宗吾や瑞樹くんに気を遣って一人で会いに行こうとしたのかと考えていたけれども、そうでもなかったのかしら?
玲子さんのご実家は、結婚の顔合わせで一度だけ伺ったことがあったわね。
なだらかな坂の上に建つ立派なお屋敷。
玲子さんは、裕福なご家庭のお嬢さんで、特有の我が儘な部分はあったけれども、根は悪い人ではないはず。芽生をここまで素直なよい子に育ててくれたことが、その証しだと信じているわ。
でも離婚前に、玲子さんは芽生を置いて家を飛び出したのよね。理由は宗吾にあったにせよ、母親がまだ幼い芽生を置いていったのは、正直悲しかったわ。でもだからこそ宗吾は、父性に目覚め、子育てに真剣に向き合い出したのよね。そんな宗吾の頑張りを目の当たりにしたせいか、芽生も父親のもとにいるのを望み、離婚調停では、母親が親権を取ることは出来なかった。
母親がいなくても、宗吾と芽生の生活は成り立っているわ。そして瑞樹くんがやってきて、宗吾だけでは足りなかったソフト面で、芽生を支えてくれるようになった。二人は世間でいう男女の夫婦ではないけれども、私は本当に彼のことが好き……応援しているのよ。
玲子さんは既に新しい生活を始め、違う男性との子供を産んだのだから、その子のためにも、少しずつ宗吾とも芽生と距離を置いて欲しいと願うのは、孫可愛さの祖母のエゴかしら。
まぁ、今回は、とにかく一度会わないとダメそうね。
「着きましたが……母さん一人で大丈夫ですか」
「心配性ね。あとで瑞樹くんが迎えに来てくれるし、私はまだまだ元気よ」
「……母さん、頼みます。たまに親権を譲ったのに、孫可愛さに実力行使に出るパターンもありますから」
「まぁ、そうなの? まさか、れはないでしょう」
「いや……心配だな」
「大丈夫よ。ほらほら、もう憲吾は仕事に行きなさい」
「芽生。おばあちゃんを頼むよ。芽生は、自分の気持ちを大切にするんだよ」
「うん! ボクはパパとお兄ちゃんといっしょがいいんだ。オジサンって、なんかカッコイイね」
「そうか。芽生はいい子だな」
憲吾が芽生の頭を、照れ臭そうな手つきで優しく撫でた。
「あら……」
「なんです?」
「どんどん似てくるわね。お父さんに」
「そうですか」
「そうよ。きっと来年お父さんになったら、もっと似てくるわ」
一瞬、あなたが舞い戻って来たのかと思ったわ。
ぎこちない動きが、亡き夫とそっくりね。
恥ずかしそうに咳払いして……憲吾、あなたも可愛い息子よ。
****
「こ……んにちは」
「まぁ! 芽生ちゃんってば、すっかり大きくなって。会いたかったわ!芽生ちゃんの好きな、お菓子をいっぱい買っておいたわよ。おもちゃも沢山買ったのよ~、早くお入りなさい」
到着するなり、芽生は玲子さんの両親に猫可愛がりされた。
「あ、あの、くすぐったいよ。ボクは……もう赤ちゃんじゃないよ」
「あらあら、随分と一人前の口を利くようになったのね。まだ幼稚園なのに。やっぱり女手が足りてないからなのかしら。少し可愛げがなくなったわね」
まぁ! 失礼な。一体何を言うのかしら? 芽生ほど優しい子はいないわ。
「あの……ママはどこ?」
「ママは今、赤ちゃんにおっぱいをあげているのよ。気になる? もしかして芽生も飲みたくなったんじゃない?」
「え……ボク、もう6歳だよ」
「男の子はいつまで経っても、赤ちゃんみたいなものでしょう」
芽生の話も聞かないで、決めつけるのはよくないわ。
今日だけ……今日だけよ……私はじっと我慢した。
やがて、玲子さんが赤ん坊を抱いてやってきた。
「ママったら、もう、やめてよ。芽生が困っているじゃない」
「まぁ、玲子まで意地悪ね」
流石に芽生はお母さんの顔を見ると、表情を和らげた。
「あ……ママ!」
「芽生!」
玲子さんは赤ちゃんを母親に預けて、芽生を両手ですっぽりと抱きしめてくれた。
その光景に、ようやく安堵した。
「芽生、来てくれてありがとう」
「ママ……ママ、おめでとう」
「……ありがとう。芽生……なんだか、ごめんね」
「どうして、あやまるの?」
「ママがね、またママになれてよかったぁ」
「え……そんな風に、思ってくれるの?」
「うん! ママ……うれしい?」
「……うん。ありがとう」
「よかったぁ……ねぇ、赤ちゃんが見たいな」
あらあら、玲子さんってば……角が取れて随分丸くなったわね。
二人目の子供を産んだからかしら?
母親らしさが増したわ。
本当に和やかな母と子の優しい会話だわ。
そうよ……そんな風に、あなたたちは、また新しい関係を築いていけるといいわね。
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