上 下
569 / 1,730
成就編

聖なる夜に 34

しおりを挟む
「おにいちゃんがもってきたプレゼントは、いつわたすの?」
「そうだね。お昼ご飯を食べ終わってからかな」
「きっと、よろこんでくれるよ」
「そうかな?」
「そうだよ!」

 くすっ、芽生くんに励まされてしまった。 
 出会った時よりも、ずいぶんしっかりしてきたね。

「そういえば、宗吾、芽生のランドセルは、どうしたの?」
「え? もう買うんですか。まだ年も明けていないのに」
「今時は、秋から予約したりすると言っていたのよ。ランドセルは私から贈らせてね」
「いいんですか」
「もちろんよ。大切な孫ですもの。カタログを取り寄せておくわね」
「ありがとう。母さん」

 あっ、ランドセルの準備か。それも抜け落ちていた。春には芽生くんが小学生になるなんて、まだ信じられなくて。

「さぁ、ケーキにしましょう」
「やったー」
「ケーキは美智さんが作ってきてくれたのよね」
「えー! すごい」

 テーブルの上に出されたのは、手作りのホールショートケーキだった。イチゴと共に、ジンジャーマンやツリーのアイシングクッキーが飾られていて、とても美味しそうだ。

「うわーすごい! オバサン、すごい!」
「これはすごいな。美智さんがお菓子作りの達人だとは聞いていたが、ここまでとは」

 宗吾さんも芽生くんも、身を乗り出して感心している。
 
「本当? 芽生くん、こういうの好き?」
「だーいすき!」
「もっと早く一緒にクリスマス会をしたらよかったわね」
「ライネンもしよう。あかちゃんもいっしょに」
「うん!」

 そうだ。来年には家族がひとり増えている。
 嬉しい……赤ちゃんの誕生を見守るのって、幸せだ。

 僕も、夏樹がお腹に宿った時から知っていた。お母さんのお腹が日に日に大きくなるのを、不思議と期待に満ちた目で見守っていたからね。

「仲良くしてね。芽生くんのいとこだから」
「うれしいな! ボクがきょうだいがいないから、いっぱいかわいがってあげるね」
「ありがとう」

 礼子さんの赤ちゃんは、やはり芽生くんにとっては少し複雑な存在なのだろう。しかし、このタイミングで、憲吾さんのところに赤ちゃんがやってきてよかった。

 芽生くんの気持ちも和らいでいるようで、ホッとするよ。しかし来年は嬉しいことばかりだ。広樹兄さんのところにも、一ヶ月違いで赤ちゃんが生まれる予定だから。

「おにいちゃん、いまがチャンスだよー」

 芽生くんが、プレゼントを渡すタイミングまで教えてくれる。

「そうだね。あ、あの、これお兄さんとお姉さんと……赤ちゃんにクリスマスプレゼントです」
「え!」
「嬉しい! 赤ちゃんにまであるなんて」

 憲吾さんと美智さんが、顔を見合わせている。真っ先に二人が開けたのは、赤ちゃんの靴下だった。

「わぁ、こんなに小さい靴下、見たことないわ」
「温かそうだ。これを本当に赤ん坊が履くのか」
「瑞樹くん、すごく素敵な贈り物をありがとう」
「美智、見てみろ。私達も……家族3人でお揃いだ」

 いつになく憲吾さんの興奮した声が響いた。

「お揃い。家族……嬉しいな」

 美智さんの目にもうっすら涙が浮かぶ。

「憲吾さん、やっとね。きっと大丈夫。この子は生まれくれる。そんな、いい予感しかしないわ」
「みんな応援しています」
「幸いつわりもひどくなくて、順調だと言われているの。本当にやっと授かった赤ちゃんなので、無事に生まれてくるのを祈っているわ」
「僕も祈っています。あの、お母さんにも同じシリーズの靴下なんです」
「嬉しいわ、瑞樹。 もしかしてみんなお揃いなのね。一族で」
「はい!」



 美智さんがケーキを切り分けている間に、僕はお母さんの手伝いをした。

「瑞樹、そこの棚からティーカップを取り出して」
「はい」

 飾り戸棚には、花柄の柄違いのティーカップが並んでいた。カップの内側には英語で季節が描かれていた。January、February、March、April、May……

「素敵ですね」
「いいでしょう? そのカップは12客あって、月の名前が入っているのよ。だから、皆のお誕生月のを出してあげて」
「はい、あの、お母さんはいつですか」
「私は9月よ。憲吾が11月、美智さんが6月よ」
「分かりました」

 そして宗吾さんが8月で、芽生くんが5月……

 あっ、芽生くんと僕は同じ月だ。

 じゃあ、僕は何か代わりのものにしないと……

 視線をキョロキョロと彷徨わせていると、お母さんに呼ばれた。

「瑞樹も5月だから、もう1客、買い足したのよ。今年は、これが私からのクリスマスプレゼントよ」

 ポンと手渡されたのは、スズランの絵柄の優美なティーカップとソーサー。

「連休に大沼でサイクリングしたのを思い出すわね。スズランは瑞樹の誕生花よね。しかも英文字でMay(メイ)と書いてあるなんて、最高ね。瑞樹はね……うちの子になる運命だったのよ」

 あぁ……またお母さんが僕を泣かせにくる。
 
 今日はずっと涙腺が緩んでいるから、はらりと涙が頬を伝ってしまった。

「泣き虫、瑞樹。もうっ、可愛い子」

 優しく抱きしめてもらったので、もっと泣いてしまった。

「あらあら……もう、そんなに泣いたら、目が赤くなってしまうわよ。さぁ、皆でクリスマスをお祝いしましょう」

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...