553 / 1,730
成就編
聖なる夜に 18
しおりを挟む
「ただいま……あれ?」
僕が帰宅したのに気づかない程、二人はキッチンで丸鶏の虜になっていた。だから背後からそっと近づいて様子を見守ってみた。一体、何をしているのかな。
芽生くんの子供らしい素朴な質問に答える宗吾さんのニタついた表情と、鶏肉の足をギュッと縛る様子にピンときてしまった。(あぁぁ、ピンとなんて来なくていいのに……やっぱり僕もヘンタイの一味になってしまったのか)
彼の脳内が薔薇色に染まっているのが、手に取るように分かった。
僕は『芽生くんがいるのですから、そんな卑猥な妄想はやめてください』と注意すべきなのに、何故か『そんなところも……嫌では、ないんですよ。宗吾さんのいろんな面が満遍なく好きですよ』なんて、彼に甘く答えてしまう始末だった。(もうダメだ……終わってる)
僕たち、聖なる夜に、相応しくない妄想をしすぎだ。
宗吾さんの壮大な大人な妄想に苦笑してしまった。すると一瞬、殊勝になったかと思えば、今度は宗吾さんの手足を、僕がたこ糸で縛るだって!?
そ、それは、絶対にあり得ないよ! 想像が追いつかない!
「くくっ、あはっ。もうやめてください。笑いすぎて……涙が」
肩を揺らし腹の底から笑ったら、すっきりした。
やっぱり僕は、宗吾さんの影響を受けまくりだ!
芽生くんが、百面相している僕を見上げて、目を丸くしていた。
「芽生くん? どうしたの?」
「あ、あのねっ、おにいちゃんが、おおきなお口でわらうの、いいね! たのしいって、いいね」
「そ、そうかな? うん、そうかも……」
「さぁ瑞樹も、手を洗って着替えてこいよ」
「はい!」
着替えのため自室のクローゼットを開けると、先日銀座で購入したクリスマスプレゼントの紙袋が目に入った。函館と、軽井沢には、宅配便で今日届くように送ってもらった。
もう、届いた頃だろう。
中を見てくれたかな……気に入ってもらえたかな。
宗吾さんのお母さんと、憲吾さんと美智さんには、明日、芽生くんと一緒に直接届ける予定だ。
「お待たせしました。僕も手伝います!」
そのタイミングで、軽井沢の潤からお礼の電話があった。
潤の声から、人恋しさが募っているのが伝わってきた。だから軽井沢に誘われた時、即答してしまった。
あの潤が、しおらしく……僕を兄として頼ってくれたのが嬉しくて――
あの事件に巻き込まれた暗い思い出の残る、軽井沢に行く。
本当に行けるのか――。
宗吾さんの心配は尤もだが、行きたかった。純粋に潤の元に行ってみたいと、素直に伝えると、納得してくれたようだった。
宗吾さんと芽生くんが傍にいてくれるから、怖くはない。
いつか通過しないとならない道ならば、このタイミングで最愛の人と行こう!
潤との電話を切った途端、今度は宅配便が届いた。
「忙しいな。今度は、俺が出るよ」
「はい」
「ねーねー、おにいちゃんも、ペタペタぬる?」
「何を?」
「あのねぇ、オリーブオイルって、お肉にぬるといいんだって」
「へ、へぇ」
「トリさんのおはだがつやつやで、スベスベだよ」
こっ、これはまずい。どうか……宗吾さんが夜……変なことを思いつきませんように! 練乳の再来は避けたい!
「おーい、これ、瑞樹宛の荷物だぞ」
「えっ、誰からですか」
宗吾さんが抱えているダンボール箱には、見慣れた文字が書かれていた。
「あ……、母からです」
「みたいだな。早速、開けてみたら、どうだ?」
「はい!」
中身は、函館の母からのクリスマスプレゼントだった。
この時期の花屋は繁忙期で忙しいのに、こんな風に荷物を送ってくれるなんて……今まで滅多になかったので、驚いてしまった。
「何だろう? 包みが3つ入っているぞ」
「きっと宗吾さんと芽生くんの分ですね」
「おー! うれしいな」
「おにいちゃん、あけてもいい?」
3人でツリーの柄のラッピングを開けると、なんと中身は『白いパンツ』だった!
……
瑞樹、メリークリスマス!
元気にしているかしら。
今頃、家族で仲良くクリスマスパーティーをしているのでしょうね。
これはささやかな私からのプレゼント。といっても、母さんはお洒落なお店なんてわからないから、こんな実用的なもので、ごめんね。肌着類はいくらあっても困らないでしょう? 新年には、新しいものを身につけるものよ。
また函館にも帰ってらっしゃい。皆で仲良くね。
函館の母より
……
「ははは、お母さんよく分かっているなぁ。そうなんだよ。俺たちには、とにかく数が必要なんだよなぁ。特に瑞樹のが」
「そ、宗吾さんは、もうっ――」
「おにいちゃん、パンツうれしいね。ボクのね、さいきん、ちょっときつかったんだ」
「そうだったの? ごめんね。そうかぁ……背がまた伸びたもんね。子供の成長は早いね」
「ねーね、また、おなまえをかいてあげるよ」
わっ! 社員旅行での『み×き印』のパンツ騒動を思い出し、赤面してしまった。芽生くんが書いてくれた文字の部分を宗吾さんに撫でられた時は、背徳感が半端なかった。
「えーっと、とりあえず今度にしようか。そろそろチキンが焼けるしね」
「あ、そうだーお肉さん、こんがりやけたかな。きっとおいしいだろうなぁ。よだれがでちゃうね」
「おう!」
オーブンに向かって前のめりな宗吾さんと芽生くんの後ろ姿を、微笑ましく見つめた。
今年は、賑やかで明るい楽しいクリスマスだ。
子供の頃のクリスマスを思い出す。
あれは夏樹と過ごしたラストクリスマスだったのか。
雪の積もった草原を、一緒に走り回ったのは……。
『夏樹、おいで! 走ろう』
『うん、お兄ちゃん、クリスマスって、ウキウキするね~」
後でお母さんにお礼の電話をしよう。広樹兄さんとも話したいし。
「瑞樹、後でなく、今、電話しろよ。皆、君の声を早く聞きたいと、待っているよ」
まるで……僕の心の声が聞こえたかのようだ。
宗吾さんは、いつも僕をいい方向に導いてくれる。
「はい、そうしてみます!」
僕が帰宅したのに気づかない程、二人はキッチンで丸鶏の虜になっていた。だから背後からそっと近づいて様子を見守ってみた。一体、何をしているのかな。
芽生くんの子供らしい素朴な質問に答える宗吾さんのニタついた表情と、鶏肉の足をギュッと縛る様子にピンときてしまった。(あぁぁ、ピンとなんて来なくていいのに……やっぱり僕もヘンタイの一味になってしまったのか)
彼の脳内が薔薇色に染まっているのが、手に取るように分かった。
僕は『芽生くんがいるのですから、そんな卑猥な妄想はやめてください』と注意すべきなのに、何故か『そんなところも……嫌では、ないんですよ。宗吾さんのいろんな面が満遍なく好きですよ』なんて、彼に甘く答えてしまう始末だった。(もうダメだ……終わってる)
僕たち、聖なる夜に、相応しくない妄想をしすぎだ。
宗吾さんの壮大な大人な妄想に苦笑してしまった。すると一瞬、殊勝になったかと思えば、今度は宗吾さんの手足を、僕がたこ糸で縛るだって!?
そ、それは、絶対にあり得ないよ! 想像が追いつかない!
「くくっ、あはっ。もうやめてください。笑いすぎて……涙が」
肩を揺らし腹の底から笑ったら、すっきりした。
やっぱり僕は、宗吾さんの影響を受けまくりだ!
芽生くんが、百面相している僕を見上げて、目を丸くしていた。
「芽生くん? どうしたの?」
「あ、あのねっ、おにいちゃんが、おおきなお口でわらうの、いいね! たのしいって、いいね」
「そ、そうかな? うん、そうかも……」
「さぁ瑞樹も、手を洗って着替えてこいよ」
「はい!」
着替えのため自室のクローゼットを開けると、先日銀座で購入したクリスマスプレゼントの紙袋が目に入った。函館と、軽井沢には、宅配便で今日届くように送ってもらった。
もう、届いた頃だろう。
中を見てくれたかな……気に入ってもらえたかな。
宗吾さんのお母さんと、憲吾さんと美智さんには、明日、芽生くんと一緒に直接届ける予定だ。
「お待たせしました。僕も手伝います!」
そのタイミングで、軽井沢の潤からお礼の電話があった。
潤の声から、人恋しさが募っているのが伝わってきた。だから軽井沢に誘われた時、即答してしまった。
あの潤が、しおらしく……僕を兄として頼ってくれたのが嬉しくて――
あの事件に巻き込まれた暗い思い出の残る、軽井沢に行く。
本当に行けるのか――。
宗吾さんの心配は尤もだが、行きたかった。純粋に潤の元に行ってみたいと、素直に伝えると、納得してくれたようだった。
宗吾さんと芽生くんが傍にいてくれるから、怖くはない。
いつか通過しないとならない道ならば、このタイミングで最愛の人と行こう!
潤との電話を切った途端、今度は宅配便が届いた。
「忙しいな。今度は、俺が出るよ」
「はい」
「ねーねー、おにいちゃんも、ペタペタぬる?」
「何を?」
「あのねぇ、オリーブオイルって、お肉にぬるといいんだって」
「へ、へぇ」
「トリさんのおはだがつやつやで、スベスベだよ」
こっ、これはまずい。どうか……宗吾さんが夜……変なことを思いつきませんように! 練乳の再来は避けたい!
「おーい、これ、瑞樹宛の荷物だぞ」
「えっ、誰からですか」
宗吾さんが抱えているダンボール箱には、見慣れた文字が書かれていた。
「あ……、母からです」
「みたいだな。早速、開けてみたら、どうだ?」
「はい!」
中身は、函館の母からのクリスマスプレゼントだった。
この時期の花屋は繁忙期で忙しいのに、こんな風に荷物を送ってくれるなんて……今まで滅多になかったので、驚いてしまった。
「何だろう? 包みが3つ入っているぞ」
「きっと宗吾さんと芽生くんの分ですね」
「おー! うれしいな」
「おにいちゃん、あけてもいい?」
3人でツリーの柄のラッピングを開けると、なんと中身は『白いパンツ』だった!
……
瑞樹、メリークリスマス!
元気にしているかしら。
今頃、家族で仲良くクリスマスパーティーをしているのでしょうね。
これはささやかな私からのプレゼント。といっても、母さんはお洒落なお店なんてわからないから、こんな実用的なもので、ごめんね。肌着類はいくらあっても困らないでしょう? 新年には、新しいものを身につけるものよ。
また函館にも帰ってらっしゃい。皆で仲良くね。
函館の母より
……
「ははは、お母さんよく分かっているなぁ。そうなんだよ。俺たちには、とにかく数が必要なんだよなぁ。特に瑞樹のが」
「そ、宗吾さんは、もうっ――」
「おにいちゃん、パンツうれしいね。ボクのね、さいきん、ちょっときつかったんだ」
「そうだったの? ごめんね。そうかぁ……背がまた伸びたもんね。子供の成長は早いね」
「ねーね、また、おなまえをかいてあげるよ」
わっ! 社員旅行での『み×き印』のパンツ騒動を思い出し、赤面してしまった。芽生くんが書いてくれた文字の部分を宗吾さんに撫でられた時は、背徳感が半端なかった。
「えーっと、とりあえず今度にしようか。そろそろチキンが焼けるしね」
「あ、そうだーお肉さん、こんがりやけたかな。きっとおいしいだろうなぁ。よだれがでちゃうね」
「おう!」
オーブンに向かって前のめりな宗吾さんと芽生くんの後ろ姿を、微笑ましく見つめた。
今年は、賑やかで明るい楽しいクリスマスだ。
子供の頃のクリスマスを思い出す。
あれは夏樹と過ごしたラストクリスマスだったのか。
雪の積もった草原を、一緒に走り回ったのは……。
『夏樹、おいで! 走ろう』
『うん、お兄ちゃん、クリスマスって、ウキウキするね~」
後でお母さんにお礼の電話をしよう。広樹兄さんとも話したいし。
「瑞樹、後でなく、今、電話しろよ。皆、君の声を早く聞きたいと、待っているよ」
まるで……僕の心の声が聞こえたかのようだ。
宗吾さんは、いつも僕をいい方向に導いてくれる。
「はい、そうしてみます!」
11
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる