550 / 1,730
成就編
聖なる夜に 15
しおりを挟む
今日はクリスマス・イブ。
僕は本社での内勤ではなく、有楽町駅前にある実店舗の助っ人に入った。
イベント当日は助っ人に入るのは、いつものことながら、朝から座る暇もない程の忙しさだ。
「すみません。このアレンジメントと同じもの、あと2つありますか」
「はい! すぐにお作りします」
ごった返している店内を器用にすり抜け、純白のフラワーアレンジメントを作り出す。
これは、今回僕が担当をしたデザインで、タイトルは『天上のクリスマス』だ。
樹木に純白の雪が積もり、辺りは一面雪化粧。僕が幼い頃、いつも見ていた函館の冬の情景をイメージしてみた。白薔薇をメインに、淡いグリーンのコニファや白く繊細な小さな花を優しく重ねてみた。
「葉山くんはテキパキしていて、いいね」
「ありがとうございます」
「何というか、花に迷いないね」
「そうでしょうか」
店長に褒められて、不思議に思った。人生では、ここまで辿り着くのに迷いが多かった僕だけれども、不思議と花に関しては、迷うことはなかった。
ここには、この花を使う……後光がさすように適材適所が見えてくる。まるで花が、僕の道標のようだ。
「なるほど、清らかな雪が降ってくるようなアレンジメントですね」
「あ……あなたは」
店頭にふらりと立ち寄ってくれたロマンスグレーの紳士は、以前、僕に白薔薇を譲って下さった冬郷雪也《とうごうゆきや》さんだった。白金台にある『創作フレンチレストラン&カフェ 月湖 tukiko』のオーナーだ。
「あ、雪也さん!」
「こんにちは、瑞樹くん。これは、うちの白薔薇だね」
「はい。あれ以来すっかり『柊雪《しゅうせつ》』のファンになり、クリスマス用に、特別に仕入れさせていただきました」
「そのようだね。実は……ホテルの用事があったので、君の様子を見に来たんだ」
「ありがとうございます!」
大輪の白薔薇は、白い雪のような花びらが幾重にも重なって格別な美しさを放ち、このアレンジメントの要となっている。
優美な中に凛とした佇まいを感じられる、雪也さんとお兄さんのお名前から『柊雪』と名付けられた特別な品種だ。
「では、僕にも一つそのアレンジメントを作ってもらえるかな」
「はい、喜んで」
「天上の世界とは、こんなに美しい場所なんだね……安心したよ」
雪也さんは、少しだけ寂しそだった。
「あの……実は、僕の弟と両親が、既に天上の世界にいるので、彼らを想って作りました。今年のテーマは『見守る愛』です」
そう告げると、雪也さんが空を見上げたので、僕もつられて空を仰いだ。
あぁ……何だか雪が降りそうな曇天だ。
「……瑞樹くん、明日は雪が降るといいね」
「あ、僕も、そう思っていました」
「では、ふたりで願おう。明日、粉雪が天から舞い降りてきますように」
****
延長保育の芽生を引き取って、仲良く手を繋いで家路につく。
こんな日常が、近頃は最高だ!
何しろ今宵は去年とは違う。これから自宅で家族だけのクリスマスパーティーを予定している。
「パパ、スーパーでチキンをかわないの? チラシにいっぱいのっていたよ」
「大丈夫だ。チキンはもう下ごしらえ済みだから大丈夫だ。家に帰って焼くだけだ」
「えー、すごい! じゃあ、ケーキは?」
ははっ、それも抜かりはない。
「ケーキ屋さんに、予約済みだ」
「パパって、すごいね」
「まぁな、家族に喜んでもらいたいからな」
「うん。おにいちゃんも、きっと、おおよろこびだね」
「だと、いいな」
駅から自宅マンションまでの道にあるケーキ屋で、予約したクリスマスケーキを受け取った。
「まっしろなケーキだ」
「そうだ。これはブッシュドノエルといってな、切り株をイメージしているんだよ」
「ケーキにも、雪がつもっているんだね」
「そうだよ。瑞樹は雪国出身だから、白いケーキが好きそうだと思ってな」
「うんうん、ボクも雪がみたいなぁ……」
「そうだな」
ちらりと空を見上げると、今にも雪が降り出しそうな曇天だった。
これはもしかして、ひょっとすると……1%の可能性が現実になるのか。
「パパ。サンタさんはいまごろ、そりにのって、お空をとんでいるのかな」
「そうだな。メイのところにもくるよ」
「うん! ボク、いいこにしてるよ!」
二人で見上げた空には雪は降っていなかったが、何かがキラキラしているように見えた。
「あっ、ウキウキさんだね。ワクワクさんかな」
「なんだ、それ?」
「パパにも今、みえたでしょう」
「ん? なんだか空がキラキラしていたよ」
「じゃあ、ワクワクさんだね」
「はは、そうだな。大人だってワクワクするものだ」
今宵はクリスマス・イブ。
愛しい恋人のサンタクロースになるのが、俺の役目だからな。
瑞樹と笑って過ごす……聖なる夜が、間もなくやってくる。
僕は本社での内勤ではなく、有楽町駅前にある実店舗の助っ人に入った。
イベント当日は助っ人に入るのは、いつものことながら、朝から座る暇もない程の忙しさだ。
「すみません。このアレンジメントと同じもの、あと2つありますか」
「はい! すぐにお作りします」
ごった返している店内を器用にすり抜け、純白のフラワーアレンジメントを作り出す。
これは、今回僕が担当をしたデザインで、タイトルは『天上のクリスマス』だ。
樹木に純白の雪が積もり、辺りは一面雪化粧。僕が幼い頃、いつも見ていた函館の冬の情景をイメージしてみた。白薔薇をメインに、淡いグリーンのコニファや白く繊細な小さな花を優しく重ねてみた。
「葉山くんはテキパキしていて、いいね」
「ありがとうございます」
「何というか、花に迷いないね」
「そうでしょうか」
店長に褒められて、不思議に思った。人生では、ここまで辿り着くのに迷いが多かった僕だけれども、不思議と花に関しては、迷うことはなかった。
ここには、この花を使う……後光がさすように適材適所が見えてくる。まるで花が、僕の道標のようだ。
「なるほど、清らかな雪が降ってくるようなアレンジメントですね」
「あ……あなたは」
店頭にふらりと立ち寄ってくれたロマンスグレーの紳士は、以前、僕に白薔薇を譲って下さった冬郷雪也《とうごうゆきや》さんだった。白金台にある『創作フレンチレストラン&カフェ 月湖 tukiko』のオーナーだ。
「あ、雪也さん!」
「こんにちは、瑞樹くん。これは、うちの白薔薇だね」
「はい。あれ以来すっかり『柊雪《しゅうせつ》』のファンになり、クリスマス用に、特別に仕入れさせていただきました」
「そのようだね。実は……ホテルの用事があったので、君の様子を見に来たんだ」
「ありがとうございます!」
大輪の白薔薇は、白い雪のような花びらが幾重にも重なって格別な美しさを放ち、このアレンジメントの要となっている。
優美な中に凛とした佇まいを感じられる、雪也さんとお兄さんのお名前から『柊雪』と名付けられた特別な品種だ。
「では、僕にも一つそのアレンジメントを作ってもらえるかな」
「はい、喜んで」
「天上の世界とは、こんなに美しい場所なんだね……安心したよ」
雪也さんは、少しだけ寂しそだった。
「あの……実は、僕の弟と両親が、既に天上の世界にいるので、彼らを想って作りました。今年のテーマは『見守る愛』です」
そう告げると、雪也さんが空を見上げたので、僕もつられて空を仰いだ。
あぁ……何だか雪が降りそうな曇天だ。
「……瑞樹くん、明日は雪が降るといいね」
「あ、僕も、そう思っていました」
「では、ふたりで願おう。明日、粉雪が天から舞い降りてきますように」
****
延長保育の芽生を引き取って、仲良く手を繋いで家路につく。
こんな日常が、近頃は最高だ!
何しろ今宵は去年とは違う。これから自宅で家族だけのクリスマスパーティーを予定している。
「パパ、スーパーでチキンをかわないの? チラシにいっぱいのっていたよ」
「大丈夫だ。チキンはもう下ごしらえ済みだから大丈夫だ。家に帰って焼くだけだ」
「えー、すごい! じゃあ、ケーキは?」
ははっ、それも抜かりはない。
「ケーキ屋さんに、予約済みだ」
「パパって、すごいね」
「まぁな、家族に喜んでもらいたいからな」
「うん。おにいちゃんも、きっと、おおよろこびだね」
「だと、いいな」
駅から自宅マンションまでの道にあるケーキ屋で、予約したクリスマスケーキを受け取った。
「まっしろなケーキだ」
「そうだ。これはブッシュドノエルといってな、切り株をイメージしているんだよ」
「ケーキにも、雪がつもっているんだね」
「そうだよ。瑞樹は雪国出身だから、白いケーキが好きそうだと思ってな」
「うんうん、ボクも雪がみたいなぁ……」
「そうだな」
ちらりと空を見上げると、今にも雪が降り出しそうな曇天だった。
これはもしかして、ひょっとすると……1%の可能性が現実になるのか。
「パパ。サンタさんはいまごろ、そりにのって、お空をとんでいるのかな」
「そうだな。メイのところにもくるよ」
「うん! ボク、いいこにしてるよ!」
二人で見上げた空には雪は降っていなかったが、何かがキラキラしているように見えた。
「あっ、ウキウキさんだね。ワクワクさんかな」
「なんだ、それ?」
「パパにも今、みえたでしょう」
「ん? なんだか空がキラキラしていたよ」
「じゃあ、ワクワクさんだね」
「はは、そうだな。大人だってワクワクするものだ」
今宵はクリスマス・イブ。
愛しい恋人のサンタクロースになるのが、俺の役目だからな。
瑞樹と笑って過ごす……聖なる夜が、間もなくやってくる。
11
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる