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成就編
聖なる夜に 14
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「もしもし」
「兄貴?」
瑞樹からかと思ったが、声の主は弟の潤からだった。
「えっ、じゅ……潤?」
今度は潤からの電話だなんて、今日は驚きの連続だ。軽井沢に行ったきりで、連絡なんて滅多に寄越さないのに、どういう風の吹き回しだ?
「えっと……あのさ、その……」
「なんだ?」
「メ……メリークリスマス」
「お、おう! メリークリスマス!」
兄弟でクリスマスを電話で祝い合うなんて、照れ臭くて、ぎこちなくなる。
「兄貴、元気にやっているか」
「あぁ、潤こそ。どうだ?」
「だいぶ慣れてきたよ」
「そうか……お前、年末年始、本当に帰省しないのか」
「あー、うん。今年は連休と兄さんの結婚式で帰省させてもらったから、こっちで留守番を買って出た」
「そうなのか。なぁ、ここは潤の実家だ。俺たちに遠慮するなよ」
「してなんかないよ! 職場の人たちって日本全国から来ていて、流石に年末年始は帰省する人が多いんだ。だからこっちに残る人が少なく手薄になるから……オレ、まだまだ下っ端だけど、皆の役に少しでも役に立ちたくてさ」
「へぇ……そうか」
潤が誰かの役に立ちたいと思うなんて……高校の頃や建設会社に就職した時は荒れ気味だったのに、すっかり落ち着いたもんだな。
破天荒な弟だが、実は案外繊細な面もあって、たまに何故かふと瑞樹を思い出す。まぁ潤が5歳の時から瑞樹に面倒をみてもらっていたから……ある意味『潤は瑞樹に育てられたようなもの』だ。その影響が、あるのかもしれない。
あ、そうだ! 瑞樹と言えば……さっきの宅配便の中身はなんだ?
「なぁ、兄貴、もしかしてそっちにも瑞樹からのプレゼントが届いた?」
「おう、それな! 実は今、気付いた所だ」
「やっぱり! 瑞樹らしいや。皆に分け隔てなくて」
「そうだな。アイツらしい。ってことは、これクリスマスプレゼントなのか」
「あぁ、オレは一足先に見たが、いいもんだったぜ」
話していると、母さんが隣で電話を替わって欲しそうに、ウズウズしていた。何だかんだ言っても、父の忘れ形見の末っ子が可愛いのだろう。
「今、母さんに替わるよ」
母さんは俺から奪い取るように受話器を取った。
「もしもし、潤! 元気にやっているの? 風邪ひいてない? 足を冷やしちゃダメよ」
ははっ、大きな息子に言う台詞か。相変わらず過保護だな。いや、親というものはそういうものなのかもしれない。子供は、死ぬまで……親にとっては子供なのかもな。
来年には俺も父親になる。きっと子供から学ぶことも多いだろう。
母さんが潤と楽しそうに話している間に、宅配便の包みを開けてみた。この店って、確か銀座にある高級宝飾店だよな。瑞樹、ありがとうな。高かったろうに……俺たちのために奮発してくれたのか。気に掛けてもらえるだけでも、嬉しいのに。
「お! 靴下か」
「まぁ、これって旭川の織物ね」
「へぇ、綺麗だな。雪の結晶のモチーフだ。母さんはチューリップみたいなピンク色で、俺は深いブルーだ。あ、みっちゃんにもある。明るいイエローだ。どれも明るくて、花みたいにいい色だな」
「あら……広樹、もう1足あるわ」
「ん?」
最後に出てきたのは、小さな小さな純白のベビーソックスだった。
「まぁ! 来年生まれてくる赤ちゃんの分もあるのね。瑞樹ったら、あの子……どんな気持ちで、これを皆に選んだのかしら。嬉しいわね」
これを家族分選んだ時の、あいつの顔を想像すると、ニヤニヤしてしまう。きっと蕩けそうな甘い顔を浮かべていたのだろう。宗吾さんの家族にも、皆に贈ったに違いない。
本心から贈りたい、心を届けたい……そういう気持ちで選んでくれたのが伝わってきて、ほろりと泣きそうになった。
瑞樹は、優しい心根を持っている。逆境にも負けず、彼は持って生まれた優しい心のまま大人になった。そして今は周りから大切に愛される人になった。だから瑞樹がしてくれたことを、周りも返したくなるんだよ。
「ヤベッ! 母さん、俺たちから何も贈っていないよ。あーまずいな」
「あら、母さんはしたわよ」
「え? いつの間に」
「くすっ、きっと今頃見ているかもしれないわね。瑞樹……喜んでくれるかしら」
「宅配便で?」
「そうよ。在り来たりの物よ。でも息子への愛はたっぷり込めたわ。あら? 潤のところにも送ったのに、まだ届いていないのかしら」
母さんは、例年、クリスマスの時期は忙しいから、そんな余裕はないと嘆いて、何もしていなかったのに。
「意外だった? 私がそんなことするなんて」
「あぁ、すごく」
コクコクと頷くと、母さんが朗らかに笑った。
「時間は作ろうと思ったら、作れるのね。本当に誰かを思い、何かをしたいと思った時って……今までは、母さん、自分にちょっと甘えていたのかも」
「そんなことないよ! 母さんはいつも精一杯やってくれた。今は少し余裕が出来たんだよ」
「……広樹は、いつも優しいわね。お父さんもよく、そんな風に励ましてくれたわ。ありがとうね。あなたが傍にいてくれて、心強いし、嬉しいわ」
あ……俺は今、母さんから、とびっきりのクリスマスプレゼントをもらった。
「兄貴?」
瑞樹からかと思ったが、声の主は弟の潤からだった。
「えっ、じゅ……潤?」
今度は潤からの電話だなんて、今日は驚きの連続だ。軽井沢に行ったきりで、連絡なんて滅多に寄越さないのに、どういう風の吹き回しだ?
「えっと……あのさ、その……」
「なんだ?」
「メ……メリークリスマス」
「お、おう! メリークリスマス!」
兄弟でクリスマスを電話で祝い合うなんて、照れ臭くて、ぎこちなくなる。
「兄貴、元気にやっているか」
「あぁ、潤こそ。どうだ?」
「だいぶ慣れてきたよ」
「そうか……お前、年末年始、本当に帰省しないのか」
「あー、うん。今年は連休と兄さんの結婚式で帰省させてもらったから、こっちで留守番を買って出た」
「そうなのか。なぁ、ここは潤の実家だ。俺たちに遠慮するなよ」
「してなんかないよ! 職場の人たちって日本全国から来ていて、流石に年末年始は帰省する人が多いんだ。だからこっちに残る人が少なく手薄になるから……オレ、まだまだ下っ端だけど、皆の役に少しでも役に立ちたくてさ」
「へぇ……そうか」
潤が誰かの役に立ちたいと思うなんて……高校の頃や建設会社に就職した時は荒れ気味だったのに、すっかり落ち着いたもんだな。
破天荒な弟だが、実は案外繊細な面もあって、たまに何故かふと瑞樹を思い出す。まぁ潤が5歳の時から瑞樹に面倒をみてもらっていたから……ある意味『潤は瑞樹に育てられたようなもの』だ。その影響が、あるのかもしれない。
あ、そうだ! 瑞樹と言えば……さっきの宅配便の中身はなんだ?
「なぁ、兄貴、もしかしてそっちにも瑞樹からのプレゼントが届いた?」
「おう、それな! 実は今、気付いた所だ」
「やっぱり! 瑞樹らしいや。皆に分け隔てなくて」
「そうだな。アイツらしい。ってことは、これクリスマスプレゼントなのか」
「あぁ、オレは一足先に見たが、いいもんだったぜ」
話していると、母さんが隣で電話を替わって欲しそうに、ウズウズしていた。何だかんだ言っても、父の忘れ形見の末っ子が可愛いのだろう。
「今、母さんに替わるよ」
母さんは俺から奪い取るように受話器を取った。
「もしもし、潤! 元気にやっているの? 風邪ひいてない? 足を冷やしちゃダメよ」
ははっ、大きな息子に言う台詞か。相変わらず過保護だな。いや、親というものはそういうものなのかもしれない。子供は、死ぬまで……親にとっては子供なのかもな。
来年には俺も父親になる。きっと子供から学ぶことも多いだろう。
母さんが潤と楽しそうに話している間に、宅配便の包みを開けてみた。この店って、確か銀座にある高級宝飾店だよな。瑞樹、ありがとうな。高かったろうに……俺たちのために奮発してくれたのか。気に掛けてもらえるだけでも、嬉しいのに。
「お! 靴下か」
「まぁ、これって旭川の織物ね」
「へぇ、綺麗だな。雪の結晶のモチーフだ。母さんはチューリップみたいなピンク色で、俺は深いブルーだ。あ、みっちゃんにもある。明るいイエローだ。どれも明るくて、花みたいにいい色だな」
「あら……広樹、もう1足あるわ」
「ん?」
最後に出てきたのは、小さな小さな純白のベビーソックスだった。
「まぁ! 来年生まれてくる赤ちゃんの分もあるのね。瑞樹ったら、あの子……どんな気持ちで、これを皆に選んだのかしら。嬉しいわね」
これを家族分選んだ時の、あいつの顔を想像すると、ニヤニヤしてしまう。きっと蕩けそうな甘い顔を浮かべていたのだろう。宗吾さんの家族にも、皆に贈ったに違いない。
本心から贈りたい、心を届けたい……そういう気持ちで選んでくれたのが伝わってきて、ほろりと泣きそうになった。
瑞樹は、優しい心根を持っている。逆境にも負けず、彼は持って生まれた優しい心のまま大人になった。そして今は周りから大切に愛される人になった。だから瑞樹がしてくれたことを、周りも返したくなるんだよ。
「ヤベッ! 母さん、俺たちから何も贈っていないよ。あーまずいな」
「あら、母さんはしたわよ」
「え? いつの間に」
「くすっ、きっと今頃見ているかもしれないわね。瑞樹……喜んでくれるかしら」
「宅配便で?」
「そうよ。在り来たりの物よ。でも息子への愛はたっぷり込めたわ。あら? 潤のところにも送ったのに、まだ届いていないのかしら」
母さんは、例年、クリスマスの時期は忙しいから、そんな余裕はないと嘆いて、何もしていなかったのに。
「意外だった? 私がそんなことするなんて」
「あぁ、すごく」
コクコクと頷くと、母さんが朗らかに笑った。
「時間は作ろうと思ったら、作れるのね。本当に誰かを思い、何かをしたいと思った時って……今までは、母さん、自分にちょっと甘えていたのかも」
「そんなことないよ! 母さんはいつも精一杯やってくれた。今は少し余裕が出来たんだよ」
「……広樹は、いつも優しいわね。お父さんもよく、そんな風に励ましてくれたわ。ありがとうね。あなたが傍にいてくれて、心強いし、嬉しいわ」
あ……俺は今、母さんから、とびっきりのクリスマスプレゼントをもらった。
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