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成就編

聖なる夜に 11

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「おにいちゃん、ほんとにほんとに、まにあうかなぁ」
「大丈夫だよ。急いでくださいって、ちゃんと書いたし」
「あのね、ボクね、ほんとのこと、いうとね……」
 
 語尾が小さくなっていくのは、何か話しにくいことがある時かな?

 日曜日も営業している集配局からの帰り道、手を繋いで交わす会話が、愛おしすぎる。

「どうしたの?」
「ほしいもの……いっぱいあったけど、まよってしまって」
「うんうん、そうだろうね」

 僕も大沼にいた頃、ワクワクと弟の夏樹と一緒に手紙を書いたものだよ。あれもこれも欲しいと、あの頃は欲張ってしまったな。

 夏樹はまだ小さくて文字を書けなかったが、お絵描きが芽生くんのように上手だった。だから絵で欲しいものを描いていた。

 亡くなってしまう前の年のクリスマスの願いは、確か……。

『夏樹、これはサッカーボールだよね? 上手に描けたね。すごいぞ! これをサンタさんにお願いするの?』
『うん! ハルになったらおにいちゃんにおしえてもらうの。いっしょにあそぼうね』
『え? 僕に』
 
 どちらかといえば……僕は昆虫や草花に夢中な男の子だったので、サッカーはやったことがなくて、慌ててセイや木下に体育館で、ルールや蹴り方を教えてもらった。

「でもね、なにかひとつだけっておもったらね、すぐにきまったんだ」
「そうなの?」

 何か一つに絞った時に……僕を思ってくれるなんて、泣けてくる。

 宗吾さんに身体を温めてもらい、心を温めてもらい、それだけでも十分すぎることなのに、幼い芽生くんからも、信頼の愛情を注いでもらえ……僕は本当に幸せ者だ。

「だって……おとなにはサンタさんがこないんだよね?」
「そうだね」
「だからボクがサンタさんになりたいな~って。えへへ、おにいちゃん! たのしみにしていてね。まだなかみは、ナイショだけれども」
「うっ……」

 駄目だ。また涙腺が緩んでしまう。

 泣いてしまいそうになるのを必死に堪えた。

 優しい涙を、温かい涙を……僕は最近よく浮かべてしまう。

 
****

 長野、軽井沢

「潤、お疲れー。クリスマスだから、今日は特に忙しかったな。あ、お前さぁ、年末年始は故郷に帰んのか」
「いや、今年はこっちにいます」
「へぇ、帰省すればいいのに。ローズガーデンも正月は休みだぜ」
「いいんです」

 今年は五月の連休と兄貴の結婚式で二度も帰省して、金がかかったし、兄貴の所は、おめでただと聞いたばかりだ。新婚さんの邪魔はしたくない。何しろ、家は狭いからな。

 このローズガーデンには全国津々浦々……庭師見習いが修行に来ている。だから年末年始には、各々の故郷へ帰省するのが常らしい。確かに夏休みなんて連日大賑わいで休みがなかったしな……。

「はー今日は冷えたな」
 
 ひとり、宿舎の殺風景な部屋に戻り、畳に身を投げ出し、大の字になった。

「寒いっ」

 足元がスースーするので見ると、靴下に大きな穴が開いていた。

 やべっ、洗濯……乾いていない。

「あぁくそっ、冷えるな」

 恋人もいないし、親兄弟も遠方で、俺って結構ひとりぼっちだな。こんなに寂しいクリスマスは初めてかも……まだまだローズガーデンでは新参者だし、たまに居場所がないと思う時も、正直あって寂しいもんさ。

 瑞樹……瑞樹も……昔、こんな気分だったのか。

 俺の家にやって来た時……俺、意地悪だったよな。兄さん母さんを取られると思って、数えきれない悪事を働いた。

 大人になって、今、こうやって真面目に生きていて思う事は後悔ばかりだ。優しい瑞樹は俺を許してくれたが、俺はなかなか自分を許せない。

 虚しい気分でそのまま天井を睨んでいると、廊下から声がした。

「おーい、お届けもんだ。おーすげーな、これって銀座の有名店の包装紙じゃん」
「へっ?」

 なんだ、なんだ? 俺宛の届けもの? 

 飛び起きて廊下を覗くと、もう人はいなかったが、扉の横に小包がポツンと置かれていた。

「なんだよ、母さんからかな?」

 上質な包装紙なのは、俺にも分かった。

 母さんじゃない、一体誰からだ?

 思い当たらなくて、不審げに差出人をじっと見て、驚いた。

「これって……これって……瑞樹からだ!」

 途端に目が覚め、心が跳ねた。






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