上 下
530 / 1,743
成就編

恋満ちる 28

しおりを挟む
「おばあちゃん、ただいま。これみて!」
「まぁ、立派な刀だこと。パパに買ってもらったの? 」
「えっとね、おにいちゃんにあって、かってもらったんだ! いいでしょう!」

 部屋に戻ると、母は和室でテレビを観て寛いでいた。

「まぁ、結局瑞樹くんに会えたのね。よかったわね」
「あのね、おにいちゃんね、おしごと、すごくがんばっていたよ」
「そうなのね。瑞樹くんはいつも目の前のことに一生懸命だものね」
 
 確かに瑞樹は、どんな仕事でも手を抜かずに真摯に向き合うし、締め切りや約束もきちんと守るので、社内で信頼度が高いのも納得だ。

 だがなぁ、あんな余興にも本気で向き合うとは、ハラハラしたぞ。あの完璧な女装姿には驚いた。

「さぁ芽生、そろそろ眠らないと」
「はーい。カタナ、だっこして、ねてもいい? 」
「くすっ、パパの小さい頃と同じね」
「えぇ? 俺、そんなことしたか 」
「覚えていない? 憲吾とチャンバラをして遊んでいたわ」
「あぁ、そうだったな。障子を破いて、よく叱られたような」
「あなたも、ヤンチャだったわね」
「ははっ」

 これは瑞樹にも夏樹くんが生きていれば訪れるはずだった、幼い兄弟の想い出だ。大切にしないとな。

「パパー、今日はおばあちゃんとねてもいい? 」
「あぁいいぞ」

 部屋は和洋室だった。ツインベッドと6畳の和室という広めな作りで、本来ならば四人部屋のようだ。

「母さんがベッドを使う? 」
「そうねぇ……やっぱり畳で眠りたいわ。芽生は畳でも大丈夫? 」
「タタミーすき。ボクのおうちには、ないからね」

 すでに和室の方には、布団が敷かれていた。

 ということは、俺は今宵は寂しくツインベッドで一人寝か。

 あーこんな時、瑞樹がいればと思うのは贅沢か。

 無性に瑞樹に会いたくなってきたぞ。

 俺の部屋番号は教えたが、君の部屋番号も聞けばよかった。そもそもあの金森という男と同室なんて、大丈夫か。菅野くんによると『酔い潰すから問題ない』と言っていたが……うむむ。

 俺が思案している間に、母さんと芽生は、そそくさと布団に潜っていた。
 
「おいおい、もう眠るのか。まだ10時前だぞ」
「もう十分遅いわよ。年寄りと子供は早寝早起きなのよ。宗吾はまだ眠くないの? 」
「あぁ」
「ならもう一度大浴場に行ってくれば? 」
「そうだな、瑞樹の騒動で酔いもすっかり覚めちまったよ」
「騒動って、何かあった? 」
「いや、もう大丈夫だよ。じゃあ風呂に行ってくるよ。先に寝ていてくれ」
「パパ、おやすみなさい」
「おやすみ」
 


 俺は大浴場に向かって、ふらりと歩き出した。

 一人寝は寂しいが、今宵ばかりは仕方がない。

 そもそも家で留守番のはずが箱根まで押しかけて、瑞樹に会えただけでも、感謝しないとな。だが一人になった気楽さからか、せめて脳内で君に触れたくて、歩きながら今日の出来事を反芻してしまった。

 今日は『みずきスペシャル・デー』だった。

 まず風呂場で入浴中の君を盗み見した。客観的に見るのは新鮮だったし、下半身を洗うシーンは相当エロかったぞ。

 そして、まさかの女装姿!! 

 俺の『瑞樹レーダー』は故障中だったのか、一瞬、君だと気づかなくて真剣に戸惑った。でも瑞樹本人で本当に良かった。彼が女だったらよかったとは、微塵にも思わなかった。もちろん女装姿は最高に可愛いが、やっぱり俺は男の瑞樹が好きなんだと再認識出来たよ。

 で、今日は何のご褒美なのか、まさかの瑞樹自らがスカートをたくし上げて、パンツを見せてくれるとは!! あれはまずい。思わず上を向く程、ツンと来た。

 興奮して鼻血が出そうになるとか……俺、一体今、いくつだよ!

 君といると、まるで好きな子を前に心が浮き立つ思春期の少年だ。

 だが、俺は永遠にこんな若々しい気持ちを持ち続けていきたい。

 10年後もきっと、同じことを思っている。そう確信できるよ。

 君と暮らせば暮らすほど、深まるの想いと満ちる恋。

 頭の中を瑞樹で満杯にして歩いていると、突然……背後から声をかけられた。
 
 
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...