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成就編
恋満ちる 7
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「もうすぐ着くよ。あのマンションなんだ」
「おう! 何か緊張するなぁ」
「どうしたんだ? 宗吾さんは取って食いやしないよ? 」
「それはそうだが」
「菅野……それより、ありがとうな」
「ん? 」
隣を歩く葉山を見つめると、清楚な口元を柔らかく綻ばせていた。
んん? なんだか分からないが、心から感謝されたぞ。
「俺、なんかした? 」
「……その、金森のこと」
「あ!朝の給湯室でのあれ……もしかして聞いちゃったのか。あー余計なことして悪かったな」
気まずくて、葉山を置いて逃げ出したくなった。俺は昔から面と向かって感謝されるのが、照れ臭いんだ。
「待って! 僕……すごく……うれしかったんだ」
葉山が俺の腕をギュッと掴んだ。
「そ、そうか。でも……やっぱり出しゃばって悪かったな」
「とんでもないよ。心強かった」
「そ、そうか」
「いい友人がいて」
何が一番嬉しかったって? それは葉山が俺の腕を躊躇いなく掴んでくれたこと。
駅のホームで見知らぬ男に腕を掴まれた時は吐きそうな顔していたのに、俺の腕には自分から触れてくれるのか。
俺は平気なんだな。良かったよ。
それに葉山に頼りにされるのは心地よい。気立てが良く素直な葉山の近くにいると、俺の心も浄化されるぜ。だから葉山と付き合っている滝沢さんって、超がつくほど幸せ者だと思う。
「おいおい、もう離せよ。これじゃ歩けないぞ 」
「わ! ごめん。なんだか菅野がこのまま逃げちゃいそうだったから、つい。今日は絶対に連れて来るように、宗吾さんに強く言われていたから」
「悪い悪い。俺さぁほんと平凡な人間だから、褒められたり感謝されるのに慣れてなくてさ」
「菅野はいい奴だ」
葉山が屈託のない笑顔で軽やかに笑えば、その淡く可憐な笑顔に釣られて、俺も笑う。
笑顔の連鎖っていいな。
甘い笑みが似合う気立てのいい葉山は、社内でも実はアイドルだ。
なぁ……皆、葉山が好きだよ。皆、密かに守っているんだよ。空白の3カ月……お前の身に何があったかは知らないが、皆、心配していた。
だから金森の愚行は、筒抜けだったのさ。
悪いが金森、お前は監視下に置かれている。
さてと滝沢さん……前回会った時は、ちょっと食えない部分もあったが、きっと今日は丸く優しくなっているんだろうなと、甘い期待を抱いている。
どうか、俺、お邪魔虫じゃありませんように~!!
****
今日は瑞樹の職場の友人、菅野くんを、我が家に招待している。瑞樹を駅で助けてくれた礼をしたいので、手調理でたっぷりもてなす予定だ。
「パパ! おきゃくさん、きたよー」
「おぅ! 今、どこだ? 」
窓から外の様子を伺っていた芽生が、瑞樹の帰宅をいち早く知らせてくれた。
「マンションのいりぐち。あれ? おにいちゃんたち、イチャイチャだぁ」
「な、なんだって!! 」
イチャイチャって?
焦って窓の下を見ると、菅野くんと楽しそうに話している瑞樹が見えた。
んん? どうして彼の腕を掴んでいる?
(おい瑞樹、それは俺が妬くやつだぞ。いいのか)
「パパ、おちついてってば。おにいちゃんは、きっと、おともだちを『まってー』って、つかまえたんだよ」
「そ、そうか」
息子に慰められるなんて、情けないな。父親としてもっと毅然とした態度を取らねば。
「パパって……つっぱしるところあるから、ちょっとシンパイだな」
「ごめんなぁ……でも、お前の言葉って、最近、瑞樹みたいだな」
「えへへ、おにいちゃんのマネしてみた」
暫くすると玄関がから俺を呼ぶ、可愛い声が聞こえた。
「宗吾さん、ただいま! 菅野を連れてきました」
「おう! よく来たな」
俺は冷静に、大人の余裕のある声で応対した。
「滝沢さん、こんばんは。あの、改めてお招きありがとうございます。これ、実家のせんべいです」
「江の島の? これ美味しいよな」
「お口に合えばいいのですが」
いい奴だ。(ゲンキンな俺)
「さぁどうぞ。とにかく飲みながら話そう」
「あの、宗吾さん、僕、手伝います」
「大丈夫だよ。今日は鍋で、もう準備は出来ている」
「わぁ、少し寒くなってきたので、いいですね」
そんなわけで、今日は珍しいメンバーで飲み会だ。我が家に瑞樹の友人を呼ぶのは初めてだから新鮮だ。
「パパ。おにいちゃんのおともだちって、おにいちゃんににて、明るくてやさしそうだね」
「あぁそうだな。まさに『類は友を呼ぶ』だな」
『類は友を呼ぶ』とは、気の合う者や自分と似た趣味や考え方の人が自然に集まって、友達や仲間になるということだが、瑞樹の場合は、もっと深い意味がありそうだ。
瑞樹がいい友人に恵まれているのは、彼自身が日々誠実な態度で努力を怠らず成長を続けたおかげだろう。
つまり彼がとても魅力的な人間になっているからだと思う。
裏を返せば、文句ばかり言う人の周りには、文句ばかり言う人しか集まらないし、後ろ向きな人の周りには、後ろ向きの人しか集まらないってことだよな。ううう、これは、かつての俺のようで、耳が痛い。
とにかく、瑞樹が成長しながら得た友人は、瑞樹の努力を知っている人だ。
だから瑞樹が困っている時、さっと手助けしてくれるのだろう。
誠実な友人を得たな。瑞樹……
だから俺も君の友人を、大切にもてなしたい。
そして俺も君が育てている誠実な気持ちを、もっと見習いたいよ。
「おう! 何か緊張するなぁ」
「どうしたんだ? 宗吾さんは取って食いやしないよ? 」
「それはそうだが」
「菅野……それより、ありがとうな」
「ん? 」
隣を歩く葉山を見つめると、清楚な口元を柔らかく綻ばせていた。
んん? なんだか分からないが、心から感謝されたぞ。
「俺、なんかした? 」
「……その、金森のこと」
「あ!朝の給湯室でのあれ……もしかして聞いちゃったのか。あー余計なことして悪かったな」
気まずくて、葉山を置いて逃げ出したくなった。俺は昔から面と向かって感謝されるのが、照れ臭いんだ。
「待って! 僕……すごく……うれしかったんだ」
葉山が俺の腕をギュッと掴んだ。
「そ、そうか。でも……やっぱり出しゃばって悪かったな」
「とんでもないよ。心強かった」
「そ、そうか」
「いい友人がいて」
何が一番嬉しかったって? それは葉山が俺の腕を躊躇いなく掴んでくれたこと。
駅のホームで見知らぬ男に腕を掴まれた時は吐きそうな顔していたのに、俺の腕には自分から触れてくれるのか。
俺は平気なんだな。良かったよ。
それに葉山に頼りにされるのは心地よい。気立てが良く素直な葉山の近くにいると、俺の心も浄化されるぜ。だから葉山と付き合っている滝沢さんって、超がつくほど幸せ者だと思う。
「おいおい、もう離せよ。これじゃ歩けないぞ 」
「わ! ごめん。なんだか菅野がこのまま逃げちゃいそうだったから、つい。今日は絶対に連れて来るように、宗吾さんに強く言われていたから」
「悪い悪い。俺さぁほんと平凡な人間だから、褒められたり感謝されるのに慣れてなくてさ」
「菅野はいい奴だ」
葉山が屈託のない笑顔で軽やかに笑えば、その淡く可憐な笑顔に釣られて、俺も笑う。
笑顔の連鎖っていいな。
甘い笑みが似合う気立てのいい葉山は、社内でも実はアイドルだ。
なぁ……皆、葉山が好きだよ。皆、密かに守っているんだよ。空白の3カ月……お前の身に何があったかは知らないが、皆、心配していた。
だから金森の愚行は、筒抜けだったのさ。
悪いが金森、お前は監視下に置かれている。
さてと滝沢さん……前回会った時は、ちょっと食えない部分もあったが、きっと今日は丸く優しくなっているんだろうなと、甘い期待を抱いている。
どうか、俺、お邪魔虫じゃありませんように~!!
****
今日は瑞樹の職場の友人、菅野くんを、我が家に招待している。瑞樹を駅で助けてくれた礼をしたいので、手調理でたっぷりもてなす予定だ。
「パパ! おきゃくさん、きたよー」
「おぅ! 今、どこだ? 」
窓から外の様子を伺っていた芽生が、瑞樹の帰宅をいち早く知らせてくれた。
「マンションのいりぐち。あれ? おにいちゃんたち、イチャイチャだぁ」
「な、なんだって!! 」
イチャイチャって?
焦って窓の下を見ると、菅野くんと楽しそうに話している瑞樹が見えた。
んん? どうして彼の腕を掴んでいる?
(おい瑞樹、それは俺が妬くやつだぞ。いいのか)
「パパ、おちついてってば。おにいちゃんは、きっと、おともだちを『まってー』って、つかまえたんだよ」
「そ、そうか」
息子に慰められるなんて、情けないな。父親としてもっと毅然とした態度を取らねば。
「パパって……つっぱしるところあるから、ちょっとシンパイだな」
「ごめんなぁ……でも、お前の言葉って、最近、瑞樹みたいだな」
「えへへ、おにいちゃんのマネしてみた」
暫くすると玄関がから俺を呼ぶ、可愛い声が聞こえた。
「宗吾さん、ただいま! 菅野を連れてきました」
「おう! よく来たな」
俺は冷静に、大人の余裕のある声で応対した。
「滝沢さん、こんばんは。あの、改めてお招きありがとうございます。これ、実家のせんべいです」
「江の島の? これ美味しいよな」
「お口に合えばいいのですが」
いい奴だ。(ゲンキンな俺)
「さぁどうぞ。とにかく飲みながら話そう」
「あの、宗吾さん、僕、手伝います」
「大丈夫だよ。今日は鍋で、もう準備は出来ている」
「わぁ、少し寒くなってきたので、いいですね」
そんなわけで、今日は珍しいメンバーで飲み会だ。我が家に瑞樹の友人を呼ぶのは初めてだから新鮮だ。
「パパ。おにいちゃんのおともだちって、おにいちゃんににて、明るくてやさしそうだね」
「あぁそうだな。まさに『類は友を呼ぶ』だな」
『類は友を呼ぶ』とは、気の合う者や自分と似た趣味や考え方の人が自然に集まって、友達や仲間になるということだが、瑞樹の場合は、もっと深い意味がありそうだ。
瑞樹がいい友人に恵まれているのは、彼自身が日々誠実な態度で努力を怠らず成長を続けたおかげだろう。
つまり彼がとても魅力的な人間になっているからだと思う。
裏を返せば、文句ばかり言う人の周りには、文句ばかり言う人しか集まらないし、後ろ向きな人の周りには、後ろ向きの人しか集まらないってことだよな。ううう、これは、かつての俺のようで、耳が痛い。
とにかく、瑞樹が成長しながら得た友人は、瑞樹の努力を知っている人だ。
だから瑞樹が困っている時、さっと手助けしてくれるのだろう。
誠実な友人を得たな。瑞樹……
だから俺も君の友人を、大切にもてなしたい。
そして俺も君が育てている誠実な気持ちを、もっと見習いたいよ。
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