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成就編
深まる絆 32
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小さな芽生くんを背負うと『幸せの重み』を実感した。
今の僕には、この子を宗吾さんと一緒に育てている実感と、育てていく覚悟がある。
玲子さんという産みの母の代わりは、男の僕に務まらないのは理解している。だから母の聖域には踏み入らないが、僕らしく芽生くんの成長に関わらせてもらいたいんだ。
去年はダンスの後、玲子さんと遭遇して、いきなり打たれた。あの頬の痛みを思い出してしまったが、続いて5月の芽生くんの誕生日に彼女が僕とハイタッチしてくれた光景も思い出した。
玲子さんが育てるはずだった息子さんの成長は、僕が彼女に代わり、すぐ傍で見守っていく約束をした。だから僕たちは玲子さんとは別の『新しいスタイルの家族』を作っていきたい。
「……それでいいですよね、宗吾さん」
つい、心の声が漏れてしまった。
「どうした?」
「いえ」
「瑞樹、悪かったな」
「え……」
「去年はこの後、君を苦しめたな」
「いえ、それはもう大丈夫です」
どうやら宗吾さんも、同じことを考えていたようだ。
僕はもう吹っ切れていますよ、だから安心して下さい。
芽生くんを背中から降ろすと、僕を見上げ、心からの笑顔を浮かべてくれた。
「お兄ちゃん、ありがとう! ボクね、すっごくうれしかった!」
「僕もだよ、ありがとう」
シンプルな言葉を交わす。それが嬉しい。
「あー次はリレーかぁ……うーん、なんだかまたドキドキして、ここがいたいよ」
ぼそっと胸を押さえて不安げに呟く芽生くんに、僕はしゃがんで視線を合わせてあげた。
「芽生くん、昨日もお話したけれども、どんな結果でも大丈夫だからね。芽生くんが、がんばっている姿を見せてね」
「うん。お兄ちゃんが見てくれるの、うれしいんだ。去年はダンスのあと帰っちゃったもんね」
「……今日は最後まで見ているし、一緒に同じお家に帰るんだよ」
「それがうれしいよ! 」
芽生くんを児童観覧席に送り届け、宗吾さんとレジャーシートに戻った。
「あの……さっきは僕を呼んで、おんぶという大役をさせて下さってありがとうございます」
「礼を言われることじゃないよ。瑞樹も一緒にいて欲しかったんだ。向こうからじゃなく、同じ場所から芽生を見て欲しかったんだ」
「そんな風に言ってもらえて、嬉しいです」
「おっと……ちょっと待って」
話の途中で宗吾さんがスマホを見つめ、神妙な顔になった。
メールをチェックしている。一体……誰からだろう?
「誰からでした? 」
「あ、あぁ、玲子からメールだった」
「あ、はい」
ドキっとした。もしや……
「明け方……無事に出産したそうだ」
「あ、やっぱり……」
僕たちが早起きして見つめた曙の空には、新しい生命の誕生も含まれていたのか。
「ほぼ予定日だそうだ。しかし微妙な報告だよな。芽生にとっては血の繋がりがあるわけだし、一度会わせた方がいいのかな。うーむ……俺もお祝いとかすべきか。これは悩むな」
母の日に妊娠5カ月だと聞いていた。あれ以降、音沙汰がなかったが、もうそんな時期だったのか。
確かに宗吾さんにとっては微妙な報告だろう。別れた奥さんが他の男性と再婚し、その人との子供を産んだ。この場合……別れた旦那さんの立場って難しい。
「安産で良かったですね。あの、性別は? 」
「ありがとう。玲子は芽生を産んだ母親だから、やっぱり元気そうで安心したよ。子供は女の子だそうだ」
「そうなんですね」
玲子さんの無事に、安堵した。でも今は芽生くんの運動会の真っ最中だから、そのことに集中したいとも。
今の僕たちにとって大切なのは、宗吾さんと過ごすのを選んでくれた芽生くんだ。
すると宗吾さんも男らしく断言してくれた。
「よしっ、この話は今日はここまでにしよう。今は芽生の応援に力を注ごう!」
「はい!」
「いいね……君の返事は兄が言った通り爽やかだな。全力で肯定してもらった気分になるよ」
「そんな。でも同感です。僕たちがしたい事を、今日は優先させましょう」
「それは決まっている。俺たちの息子の応援だ! 今日はとことん親馬鹿になるぞ! 」
「はい! 僕もです」
宗吾さんらしさが戻ってきたので、胸を撫で降ろした。
それでいいと思う。この件は僕たちが動揺することではない。
芽生くん……僕たちはいつも君と一緒だよ。だから大丈夫だよ。
観覧席で目を輝かせて応援している芽生くんに向かって、心の中でそっと伝えた。
「なんだか……今日の瑞樹は頼もしいな」
「ありがとうございます。僕も少しは役に立っていますか」
「ふっいつも頼りにしているよ。俺の精神安定剤だよ、君は」
今の僕は、宗吾さんの恋人というよりも、宗吾さんと共に芽生くんの子育てをする同志のようだ。
たまには、こんな日もいい。こんな時間もいい。
秋晴れの空の下で、僕たちは結束を固めた。
今の僕には、この子を宗吾さんと一緒に育てている実感と、育てていく覚悟がある。
玲子さんという産みの母の代わりは、男の僕に務まらないのは理解している。だから母の聖域には踏み入らないが、僕らしく芽生くんの成長に関わらせてもらいたいんだ。
去年はダンスの後、玲子さんと遭遇して、いきなり打たれた。あの頬の痛みを思い出してしまったが、続いて5月の芽生くんの誕生日に彼女が僕とハイタッチしてくれた光景も思い出した。
玲子さんが育てるはずだった息子さんの成長は、僕が彼女に代わり、すぐ傍で見守っていく約束をした。だから僕たちは玲子さんとは別の『新しいスタイルの家族』を作っていきたい。
「……それでいいですよね、宗吾さん」
つい、心の声が漏れてしまった。
「どうした?」
「いえ」
「瑞樹、悪かったな」
「え……」
「去年はこの後、君を苦しめたな」
「いえ、それはもう大丈夫です」
どうやら宗吾さんも、同じことを考えていたようだ。
僕はもう吹っ切れていますよ、だから安心して下さい。
芽生くんを背中から降ろすと、僕を見上げ、心からの笑顔を浮かべてくれた。
「お兄ちゃん、ありがとう! ボクね、すっごくうれしかった!」
「僕もだよ、ありがとう」
シンプルな言葉を交わす。それが嬉しい。
「あー次はリレーかぁ……うーん、なんだかまたドキドキして、ここがいたいよ」
ぼそっと胸を押さえて不安げに呟く芽生くんに、僕はしゃがんで視線を合わせてあげた。
「芽生くん、昨日もお話したけれども、どんな結果でも大丈夫だからね。芽生くんが、がんばっている姿を見せてね」
「うん。お兄ちゃんが見てくれるの、うれしいんだ。去年はダンスのあと帰っちゃったもんね」
「……今日は最後まで見ているし、一緒に同じお家に帰るんだよ」
「それがうれしいよ! 」
芽生くんを児童観覧席に送り届け、宗吾さんとレジャーシートに戻った。
「あの……さっきは僕を呼んで、おんぶという大役をさせて下さってありがとうございます」
「礼を言われることじゃないよ。瑞樹も一緒にいて欲しかったんだ。向こうからじゃなく、同じ場所から芽生を見て欲しかったんだ」
「そんな風に言ってもらえて、嬉しいです」
「おっと……ちょっと待って」
話の途中で宗吾さんがスマホを見つめ、神妙な顔になった。
メールをチェックしている。一体……誰からだろう?
「誰からでした? 」
「あ、あぁ、玲子からメールだった」
「あ、はい」
ドキっとした。もしや……
「明け方……無事に出産したそうだ」
「あ、やっぱり……」
僕たちが早起きして見つめた曙の空には、新しい生命の誕生も含まれていたのか。
「ほぼ予定日だそうだ。しかし微妙な報告だよな。芽生にとっては血の繋がりがあるわけだし、一度会わせた方がいいのかな。うーむ……俺もお祝いとかすべきか。これは悩むな」
母の日に妊娠5カ月だと聞いていた。あれ以降、音沙汰がなかったが、もうそんな時期だったのか。
確かに宗吾さんにとっては微妙な報告だろう。別れた奥さんが他の男性と再婚し、その人との子供を産んだ。この場合……別れた旦那さんの立場って難しい。
「安産で良かったですね。あの、性別は? 」
「ありがとう。玲子は芽生を産んだ母親だから、やっぱり元気そうで安心したよ。子供は女の子だそうだ」
「そうなんですね」
玲子さんの無事に、安堵した。でも今は芽生くんの運動会の真っ最中だから、そのことに集中したいとも。
今の僕たちにとって大切なのは、宗吾さんと過ごすのを選んでくれた芽生くんだ。
すると宗吾さんも男らしく断言してくれた。
「よしっ、この話は今日はここまでにしよう。今は芽生の応援に力を注ごう!」
「はい!」
「いいね……君の返事は兄が言った通り爽やかだな。全力で肯定してもらった気分になるよ」
「そんな。でも同感です。僕たちがしたい事を、今日は優先させましょう」
「それは決まっている。俺たちの息子の応援だ! 今日はとことん親馬鹿になるぞ! 」
「はい! 僕もです」
宗吾さんらしさが戻ってきたので、胸を撫で降ろした。
それでいいと思う。この件は僕たちが動揺することではない。
芽生くん……僕たちはいつも君と一緒だよ。だから大丈夫だよ。
観覧席で目を輝かせて応援している芽生くんに向かって、心の中でそっと伝えた。
「なんだか……今日の瑞樹は頼もしいな」
「ありがとうございます。僕も少しは役に立っていますか」
「ふっいつも頼りにしているよ。俺の精神安定剤だよ、君は」
今の僕は、宗吾さんの恋人というよりも、宗吾さんと共に芽生くんの子育てをする同志のようだ。
たまには、こんな日もいい。こんな時間もいい。
秋晴れの空の下で、僕たちは結束を固めた。
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