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成就編
深まる絆 29
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午後、最初の競技『保護者の綱引き大会』に参加するために、荷物をまとめていると、宗吾さんに唐突に軍手を手渡された。
「瑞樹、これを使え」
「……軍手ですか」
「綱引きの縄は結構ささくれ立っているから、つけた方がいいぞ」
……せっかくの厚意なのに戸惑ってしまった。大切にされているのは分かるが、男の僕に過保護過ぎないだろうか。
「ですが、幼稚園児だって素手でしているし、宗吾さんは素手なのに僕だけは……変ですよ」
僕の卑屈な心は、宗吾さんにも届いてしまったようだ。
「なぁ瑞樹。大人の真剣な綱引きってドロドロチクチクの綱を、かなりの本気モードで引っ張る行為なんだ。会社のレクリエーション大会で散々見て来たから分かるんだ。君の手……大切にして欲しいよ」
「……」
うまく返事が出来ないでいると、芽生くんが僕の手をキュッと握ってくれた。
「お兄ちゃんのおててがイタくなるのは、ボクかなしいよ。お花さんもシンパイしちゃうよ。ねっ」
「うん、そうだね」
しまった、また意固地になってしまった。つい僕なんかと、いまだに思ってしまうのは長年沁みついた悪い癖だ。
僕は今、大切にされている。
僕を大切に思ってくれる人がいる。
その事を大切にしたいのに……
「宗吾さん、芽生くん、ありがとうございます。これ、つけますね」
僕を大切に思ってくれて、ありがとうございます。
心の中で感謝し軍手を素直にはめると、宗吾さんが漸くホッとした表情を浮かべてくれた。
軍手には、僕を守ってくれる宗吾さんの心を感じた。
「これで思う存分頑張れそうです」
「よし! 俺も本気出すから、覚悟しておけよ」
****
『それでは保護者の綱引き大会のスタートです。さぁお父さんとお母さんが入場しますよ。園児の皆さんは沢山応援しましょう! 』
小走りで入場するのは少し気恥ずかしかったが、テントの下には、お母さんと美智さんが並んでニコニコと手を振っている姿が見えた。
なんだか僕、子供に戻った気分だ。頑張ろう!
クラス席で体育座りしている芽生くんと目が合うと「パパー、お兄ちゃんがんばって」と大きな声で応援してくれたので、ますます前向きな気持ちになれた。
僕はずっと目立つことが苦手で、仕事以外で人前で何かをするのに抵抗があったのに……今日は心の底から楽しもうという気持ちになっていた。
「瑞樹、結構、みんな軍手してんな」
本当だ。周りのパパさんもしている人が多い。
「宗吾さんもしてください。僕の片方を」
「えっいいのか」
「はい、分け合いたいんです。僕だって宗吾さんの手が傷ついたら困るんです」
「そうか……今晩の組体操に差し障りがあるか」
おどける宗吾さんに、全く……と、苦笑してしまう。
「またっ、せっかく心配したのに、もう!」
「ごめんごめん。せっかくだから借りるよ。君が俺を心配してくれて嬉しい」
「はい!」
宗吾さんが右手、僕は左手に軍手をつけた。
うん、これがいい。お互いに心配しあう、大切に思い合うっていいな。
僕は宗吾さんの前に縄を持ってしゃがみこんで、スタンバイOKだ。
いよいよ始まる!
『では。よーいドン!』
うわっ、いきなりすごい力で持って行かれる。
「わっ」
「瑞樹。もっと腰を落とせ」
「あっはい」
凄い力で引っ張られたので、足がずるずると砂利の上を滑ってしまった。
お父さんもお母さんも、これは本気モードだ。
『オーエス・オーエス!』
『がんばれ! がんばれ!』
園児の声が集まって大きな応援になっていく。
こんな風に力強いエールを、声に出して送ってもらうのって新鮮だ。
子供の声が僕を力づけてくれる。それに背後にいる宗吾さんの存在も心強い。
ググっと彼が縄を引く強い力を背中に直に感じて、安心感で一杯になった。
宗吾さんがいるから、僕も頑張れるんだ。
そういう気持ちが満ちてくる。
それにしても、皆で呼吸と縄を引くタイミングを合わせると、すごい力が生まれるものだな。それを実感する素晴らしい競技だ。
「わぁ! まずい……っ、一気に持って行かれる」
「わー瑞樹、腰をもっと落とせ! しっかり踏ん張れ‼ 」
「は、はいっ」
最後はズルズルと引きずられて、負けてしまった。
「あっ、あぁ!」
ドスンっ──
しかも最後には腰を落とし過ぎたせいで尻もちまでつき、猛烈に照れ臭かった。
ふと横を見ると、 憲吾さんが僕の一部始終を、大真面目にビデオに撮っていた。
「瑞樹、これを使え」
「……軍手ですか」
「綱引きの縄は結構ささくれ立っているから、つけた方がいいぞ」
……せっかくの厚意なのに戸惑ってしまった。大切にされているのは分かるが、男の僕に過保護過ぎないだろうか。
「ですが、幼稚園児だって素手でしているし、宗吾さんは素手なのに僕だけは……変ですよ」
僕の卑屈な心は、宗吾さんにも届いてしまったようだ。
「なぁ瑞樹。大人の真剣な綱引きってドロドロチクチクの綱を、かなりの本気モードで引っ張る行為なんだ。会社のレクリエーション大会で散々見て来たから分かるんだ。君の手……大切にして欲しいよ」
「……」
うまく返事が出来ないでいると、芽生くんが僕の手をキュッと握ってくれた。
「お兄ちゃんのおててがイタくなるのは、ボクかなしいよ。お花さんもシンパイしちゃうよ。ねっ」
「うん、そうだね」
しまった、また意固地になってしまった。つい僕なんかと、いまだに思ってしまうのは長年沁みついた悪い癖だ。
僕は今、大切にされている。
僕を大切に思ってくれる人がいる。
その事を大切にしたいのに……
「宗吾さん、芽生くん、ありがとうございます。これ、つけますね」
僕を大切に思ってくれて、ありがとうございます。
心の中で感謝し軍手を素直にはめると、宗吾さんが漸くホッとした表情を浮かべてくれた。
軍手には、僕を守ってくれる宗吾さんの心を感じた。
「これで思う存分頑張れそうです」
「よし! 俺も本気出すから、覚悟しておけよ」
****
『それでは保護者の綱引き大会のスタートです。さぁお父さんとお母さんが入場しますよ。園児の皆さんは沢山応援しましょう! 』
小走りで入場するのは少し気恥ずかしかったが、テントの下には、お母さんと美智さんが並んでニコニコと手を振っている姿が見えた。
なんだか僕、子供に戻った気分だ。頑張ろう!
クラス席で体育座りしている芽生くんと目が合うと「パパー、お兄ちゃんがんばって」と大きな声で応援してくれたので、ますます前向きな気持ちになれた。
僕はずっと目立つことが苦手で、仕事以外で人前で何かをするのに抵抗があったのに……今日は心の底から楽しもうという気持ちになっていた。
「瑞樹、結構、みんな軍手してんな」
本当だ。周りのパパさんもしている人が多い。
「宗吾さんもしてください。僕の片方を」
「えっいいのか」
「はい、分け合いたいんです。僕だって宗吾さんの手が傷ついたら困るんです」
「そうか……今晩の組体操に差し障りがあるか」
おどける宗吾さんに、全く……と、苦笑してしまう。
「またっ、せっかく心配したのに、もう!」
「ごめんごめん。せっかくだから借りるよ。君が俺を心配してくれて嬉しい」
「はい!」
宗吾さんが右手、僕は左手に軍手をつけた。
うん、これがいい。お互いに心配しあう、大切に思い合うっていいな。
僕は宗吾さんの前に縄を持ってしゃがみこんで、スタンバイOKだ。
いよいよ始まる!
『では。よーいドン!』
うわっ、いきなりすごい力で持って行かれる。
「わっ」
「瑞樹。もっと腰を落とせ」
「あっはい」
凄い力で引っ張られたので、足がずるずると砂利の上を滑ってしまった。
お父さんもお母さんも、これは本気モードだ。
『オーエス・オーエス!』
『がんばれ! がんばれ!』
園児の声が集まって大きな応援になっていく。
こんな風に力強いエールを、声に出して送ってもらうのって新鮮だ。
子供の声が僕を力づけてくれる。それに背後にいる宗吾さんの存在も心強い。
ググっと彼が縄を引く強い力を背中に直に感じて、安心感で一杯になった。
宗吾さんがいるから、僕も頑張れるんだ。
そういう気持ちが満ちてくる。
それにしても、皆で呼吸と縄を引くタイミングを合わせると、すごい力が生まれるものだな。それを実感する素晴らしい競技だ。
「わぁ! まずい……っ、一気に持って行かれる」
「わー瑞樹、腰をもっと落とせ! しっかり踏ん張れ‼ 」
「は、はいっ」
最後はズルズルと引きずられて、負けてしまった。
「あっ、あぁ!」
ドスンっ──
しかも最後には腰を落とし過ぎたせいで尻もちまでつき、猛烈に照れ臭かった。
ふと横を見ると、 憲吾さんが僕の一部始終を、大真面目にビデオに撮っていた。
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