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成就編

深まる絆 23

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「お兄ちゃん! おはよう」
「芽生くん、おはよう!」

 宗吾さんを見送った後、朝食の支度をしていると、芽生くんがひとりで起きてきた。

 目を擦ってはいるが、元気な挨拶が出来たね。偉い、偉い!

 芽生くんの目線までしゃがみ込んで覗き込むと、ニコッと笑ってくれた。

「よく眠れたかな? 」
「うん! おにいちゃんと夜おはなしできたから」
「よかった。芽生くんの役に立って嬉しいよ」

 厚切りのトーストとこんがり焼いたハムエッグを出してあげると、モリモリ食べてくれた。芽生くんは最近食欲旺盛だ。モグモグと頬張る姿に、育ち盛りなんだなぁと温かい気持ちになってくる。
 
 子供の成長を見守るのが、こんなに楽しいなんて。

 芽生くんがこの先僕に見せてくれる景色が、ますます楽しみだよ。

「お兄ちゃんのハムエッグもおいしい。はしっこカリカリだぁ」
「あ、ごめん。僕の好みで」
「ううん、これもスキ! 」
「ありがとう! 」

 それから芽生くんは自分でお着替えをした。いつもよりずっとスピーディーで感心だ。

「お兄ちゃん、早くー早く! 」
「わ、ちょっと待って」

 玄関で僕を呼ぶ芽生くんは、今日は幼稚園の制服ではなく紺のズボンに白い体操服姿。僕はその姿をカメラに収めたくて、カシャっとシャッターを切った。

 玄関の扉を開くと一気に明るい日差しに包まれた。宗吾さんを見送った時よりも、もっと晴れていた。

「いいお天気だね」
「うん、秋晴れだね。こんなお天気は『運動会日和』とも言うんだよ。お天気も芽生くんを応援しているよ」
「わぁーボク、がんばる!」

****

「芽生ーがんばれ―!! 」

 年長さんの入場行進が始まると、宗吾さんの声が観客席に響き渡った。

 周りの親御さんがクスクスと笑うので、気恥ずかしいよ。

「そ、宗吾さん、まだ行進だけですよ」
「おぉそうか。ははっ張り切り過ぎだよな。来られらなかった2年分……力が入ってしまうんだよ」

 芽生くんも宗吾さんの声に気付いたようで、恥ずかしがらずに嬉しそうに笑ってくれた。

 小さな子供は、嬉しいことを素直に嬉しいと顔に出してくれて、本当に清々しいね。屈託のない表情が、いつも素敵だ。

「芽生くん、嬉しそう。やっぱりパパに見てもらえるのっていいですね」
「そうか。ありがとうな。俺をこんなにまで父親らしくしてくれたのは、君のお陰だよ」
「……あ、嬉しいです。そんな風に言ってもらえて」
「瑞樹、今日は協力して頑張ろうな。俺がビデオ係で、君はカメラ担当だぞ」
「はい! 」

 行進が終わり、開会の挨拶、ラジオ体操が続く中、レジャーシートでカメラの準備をしていると、頭上から声を掛けられた。

「宗吾、瑞樹くん、おはよう。待ちきれなくて来ちゃったわ」
「お……お母さん!」

 予定より早く来られたので驚いてしまった。体調は大丈夫なのかな。

「大丈夫なのか。母さん、レジャーシートで長時間座るのは、結構疲れるぜ」
「でも……可愛い孫の晴れ姿を沢山見たくて」

 すると隣の席の親御さんが教えてくれた。

「あの~差し出がましいかもしれませんが、向こうに敬老席がありますよ。テントの中で見られるのでオススメです」
「え! そんな席があったのですか」
「事前申し込みですが、まだ空いていると思いますよ」
「そうだったのですね。教えて下さってありがとうございます」

 見落としてしまった。幼稚園のお便りかな……うーん、反省だ。

「あらそうなのね。瑞樹くん大丈夫よ。さっき声かけられて、空いてるって言っていたから。じゃあ……皆に心配かけるので、テントで見て来るわね」

 お母さんの横顔は少し寂しそうだった。でもここは午前中は日陰で寒いから、ずっと座っていると底冷えしてしまう。

 お医者さまからも寒さは心臓に負担をかけると言われている。

 でも……

「あの、お昼はここで食べてくださいね。お母さんの席をちゃんと空けておきますので」

「まぁ、瑞樹くんの言葉はいつも思いやりに満ちていて優しいわね。あなたと過ごす時間って本当に居心地がいいわ。流石、私の秘蔵っ子ね。可愛いことを言ってくれて、ありがとう」

 お母さんに褒められて、心がぽっと温かくなる。

 僕とお母さんの会話を、宗吾さんが隣りで愛おしそうに見つめてくれていた。

「それが安心だな。じゃあ瑞樹、悪いが母さんをテントまで連れて行ってくれるか」
「はい!」
「ふふ、頼もしい息子たちに囲まれて、母さんは幸せものね」

 お母さんと敬老席に向かいながら、僕は自分が伝えたい言葉を、しっかりと口に出した。

 感謝の言葉は、伝えたい時に伝えた方がいい。いつかじゃなくて、今。
 
 それが出来なかった僕だから。
 
「あの……僕はお母さんといる時の自分が好きです。僕の方こそ……お母さんと過ごすのが居心地良くて」

 今、この瞬間を大切に──

 そして言えなかった人にも伝えたい。


 天国のお母さん、あなたが運動会に作ってくれたお弁当を僕はちゃんと覚えていました。

 おにぎりも唐揚げも卵焼きも、毎年楽しみで、食べると元気をもらっていました。

 ……ありがとうございます。いつも美味しかったです。

 

 



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