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成就編
深まる絆 7
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「お母さん、あの、ありがとうございます」
「いいのよ。そんなに改まって言わなくても。飲み物はお紅茶でいいかしら?」
「はい!」
手を洗って和室に行くと、芽生くんが楽しそうにお絵描きをしていた。
「今日は何を描いているのかな?」
「えっとね。うんどうかいの絵だよ」
「これが芽生くん?」
「そう! 僕のボウシはきみどり色だよ」
画用紙の中では、幼稚園の体操服姿の芽生くんが、ニコニコと笑っていた。
そうか……幼稚園は4クラスもあるので、帽子もカラフルなんだな。小学校に行ったらシンプルな紅白帽になるだろうから、こんな可愛い色の帽子を被っている芽生くんも見納めだ。
「よし。お兄ちゃん、ちゃんと色を覚えておくね」
「うん、また写真たくさんとってね」
「任せて! 」
おしゃべりしていると、お母さんが紅茶とマドレーヌをお盆にのせて出してくれた。
「夕食前だけど、いいわよね? 」
「美味しそうです。もしかして、これってお母さんの手作りですか」
「そうなの。病気をしてからずっと家にいるので退屈で、お菓子作りを久しぶりにしてみたの」
「おばーちゃん、いただきます!」
表面がこんがりキツネ色で、とても美味しいマドレーヌだった。
「あ、ほのかに檸檬の香りがしますね」
「すり下ろした檸檬の皮を生地に混ぜているのが、ポイントなのよ」
「なるほど! バターの風味と混ざって爽やかで美味しいです! 」
お母さんは、とても嬉しそうな顔をしてくれた。
「やっぱり瑞樹くんって、可愛いわよね」
「え? そ、そうでしょうか」
「宗吾も憲吾も……亡くなった主人も、手作りのおやつを出したって無言でモグモグ食べるだけで、張り合いがなかったから」
「そうなんですか。でもきっと……美味しくて言葉を失っていたんですよ」
「……ふふ、もう、ほんといい子」
お母さんが、僕の頭を子供みたいに撫でてくれた。
照れくさい……でもくすぐったい。
「おばーちゃん、メイもイイコ、イイコして~ メイもおばーちゃんダイスキ」
最近は自分のことを『ボク』と言うようになっていた芽生くんも、おばあちゃんの前では『メイ』と甘えん坊モードで、可愛いな。
そうか……時にはこんな風に、無条件に甘やかしてくれる人の存在も大事なのか。
「そういえば運動会は日曜日だったわよね」
「はい、お母さんの席を用意しておくので、お身体に負担がなければいらして下さい」
「もちろんよ。芽生の幼稚園最後ですものね、おばあちゃん、絶対に見に行きたいわ」
「メイね、リレーのせんしゅなんだよ。あとね、くみたいそうでは、ピラミッドのうえにたつんだよ」
「わぁすごいわ。おばあちゃんの自慢の孫だわ。メイは」
「えへへ」
温かいお紅茶を飲むと、最初から少しお砂糖が入っていたので甘くて美味しかった。
普段はストレートしか飲まないが、この甘さはいいな。
あ……そうか、お母さんの心の甘さが加味されているんだ。
「瑞樹くん、甘いの大丈夫だった?」
「はい。ちょうどいいです」
「よかったわ。お仕事、お疲れだったでしょう。少しの甘いものはいいのよ、疲れを取ってくれて」
「……はい!」
「そうだわ、これが宗吾の小学校の時の写真よ」
アルバムには『宗吾、運動会』と記されていた。
「うふふ。1年生から6年生までの運動会をまとめてみたの。主人がこういう整理が好きでね。宗吾ね、とっても可愛いのよ」
僕の知らない宗吾さんに会える!
ワクワクした気分で芽生くんとアルバムの頁を捲った。
わ……うそ、かわいい……!!
『1-1 たきざわ そうご』とゼッケンをつけて緊張した面持ちでプラカードを持っていた。少年らしい凛々しい表情だ。しかも、いがぐり頭だったんだ。
「えーこれパパなの? お顔がメイにそっくりだ」
「でしょう。おばあちゃんも久しぶりに見てびっくりしちゃった」
「本当によく似ていますね」
「うふふ。この日の宗吾……目元が赤いでしょう?」
「えぇ」
お母さんからとっておきの秘密を教えてもらえた。
「この日の朝、実はオネショをしちゃったのよ」
「そうだったのですね」
「身体は大きいけど、そういう面は遅くて可愛くってね。朝くやしくて泣いちゃって」
「宗吾さんらしいですね。想像できます」
「……宗吾が泣くのは、いつも悔し泣きだったのよ」
「……なるほど」
「そうなのよ。あぁそういえば5年生の時もね、リレーの選手だったのに、バトンを転がしちゃって、終わったあとも、悔し泣きしてたわ」
そうだったのか。
宗吾さんの悔し涙か……ちょっと切ない気分になるな。
「お母さん。最近……僕が流す涙は『うれし涙』が多いです」
「そうなのね。そう言えば『うれし涙』は、我慢や苦労や辛さなど心理的な負担や不安から解放されたサインとも言われているのよ。良かったわね」
去年の秋から今年の春にかけて、僕は本当によく泣いた。
悔しくて悲しくて……虚しくて。
でも、今年は違う。
宗吾さんとふたりで『うれし涙』を流せたら……
そんな風に過ごせたらいい。
「いいのよ。そんなに改まって言わなくても。飲み物はお紅茶でいいかしら?」
「はい!」
手を洗って和室に行くと、芽生くんが楽しそうにお絵描きをしていた。
「今日は何を描いているのかな?」
「えっとね。うんどうかいの絵だよ」
「これが芽生くん?」
「そう! 僕のボウシはきみどり色だよ」
画用紙の中では、幼稚園の体操服姿の芽生くんが、ニコニコと笑っていた。
そうか……幼稚園は4クラスもあるので、帽子もカラフルなんだな。小学校に行ったらシンプルな紅白帽になるだろうから、こんな可愛い色の帽子を被っている芽生くんも見納めだ。
「よし。お兄ちゃん、ちゃんと色を覚えておくね」
「うん、また写真たくさんとってね」
「任せて! 」
おしゃべりしていると、お母さんが紅茶とマドレーヌをお盆にのせて出してくれた。
「夕食前だけど、いいわよね? 」
「美味しそうです。もしかして、これってお母さんの手作りですか」
「そうなの。病気をしてからずっと家にいるので退屈で、お菓子作りを久しぶりにしてみたの」
「おばーちゃん、いただきます!」
表面がこんがりキツネ色で、とても美味しいマドレーヌだった。
「あ、ほのかに檸檬の香りがしますね」
「すり下ろした檸檬の皮を生地に混ぜているのが、ポイントなのよ」
「なるほど! バターの風味と混ざって爽やかで美味しいです! 」
お母さんは、とても嬉しそうな顔をしてくれた。
「やっぱり瑞樹くんって、可愛いわよね」
「え? そ、そうでしょうか」
「宗吾も憲吾も……亡くなった主人も、手作りのおやつを出したって無言でモグモグ食べるだけで、張り合いがなかったから」
「そうなんですか。でもきっと……美味しくて言葉を失っていたんですよ」
「……ふふ、もう、ほんといい子」
お母さんが、僕の頭を子供みたいに撫でてくれた。
照れくさい……でもくすぐったい。
「おばーちゃん、メイもイイコ、イイコして~ メイもおばーちゃんダイスキ」
最近は自分のことを『ボク』と言うようになっていた芽生くんも、おばあちゃんの前では『メイ』と甘えん坊モードで、可愛いな。
そうか……時にはこんな風に、無条件に甘やかしてくれる人の存在も大事なのか。
「そういえば運動会は日曜日だったわよね」
「はい、お母さんの席を用意しておくので、お身体に負担がなければいらして下さい」
「もちろんよ。芽生の幼稚園最後ですものね、おばあちゃん、絶対に見に行きたいわ」
「メイね、リレーのせんしゅなんだよ。あとね、くみたいそうでは、ピラミッドのうえにたつんだよ」
「わぁすごいわ。おばあちゃんの自慢の孫だわ。メイは」
「えへへ」
温かいお紅茶を飲むと、最初から少しお砂糖が入っていたので甘くて美味しかった。
普段はストレートしか飲まないが、この甘さはいいな。
あ……そうか、お母さんの心の甘さが加味されているんだ。
「瑞樹くん、甘いの大丈夫だった?」
「はい。ちょうどいいです」
「よかったわ。お仕事、お疲れだったでしょう。少しの甘いものはいいのよ、疲れを取ってくれて」
「……はい!」
「そうだわ、これが宗吾の小学校の時の写真よ」
アルバムには『宗吾、運動会』と記されていた。
「うふふ。1年生から6年生までの運動会をまとめてみたの。主人がこういう整理が好きでね。宗吾ね、とっても可愛いのよ」
僕の知らない宗吾さんに会える!
ワクワクした気分で芽生くんとアルバムの頁を捲った。
わ……うそ、かわいい……!!
『1-1 たきざわ そうご』とゼッケンをつけて緊張した面持ちでプラカードを持っていた。少年らしい凛々しい表情だ。しかも、いがぐり頭だったんだ。
「えーこれパパなの? お顔がメイにそっくりだ」
「でしょう。おばあちゃんも久しぶりに見てびっくりしちゃった」
「本当によく似ていますね」
「うふふ。この日の宗吾……目元が赤いでしょう?」
「えぇ」
お母さんからとっておきの秘密を教えてもらえた。
「この日の朝、実はオネショをしちゃったのよ」
「そうだったのですね」
「身体は大きいけど、そういう面は遅くて可愛くってね。朝くやしくて泣いちゃって」
「宗吾さんらしいですね。想像できます」
「……宗吾が泣くのは、いつも悔し泣きだったのよ」
「……なるほど」
「そうなのよ。あぁそういえば5年生の時もね、リレーの選手だったのに、バトンを転がしちゃって、終わったあとも、悔し泣きしてたわ」
そうだったのか。
宗吾さんの悔し涙か……ちょっと切ない気分になるな。
「お母さん。最近……僕が流す涙は『うれし涙』が多いです」
「そうなのね。そう言えば『うれし涙』は、我慢や苦労や辛さなど心理的な負担や不安から解放されたサインとも言われているのよ。良かったわね」
去年の秋から今年の春にかけて、僕は本当によく泣いた。
悔しくて悲しくて……虚しくて。
でも、今年は違う。
宗吾さんとふたりで『うれし涙』を流せたら……
そんな風に過ごせたらいい。
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