上 下
465 / 1,743
成就編

深まる絆 1

しおりを挟む
 季節は10月になっていた。

 朝晩の冷え込みが増してきて、布団から出るのが、少しずつ億劫になってくる時期だ。

 宗吾さんとふたりで一晩かけて生み出した布団の中のぬくもりが良すぎて、困ってしまう。

「ん……おはよう、瑞樹」
「おはようございます。宗吾さん」

『お・は・よ・う』のキスから始まる平日の朝。
 
 まずは窓を開けて深呼吸をし、それから洗面所に行って洗濯機を回し寝室を整え、芽生くんを起こしにいく。

「芽生くん、おはよう! 」

 まだ眠たそうに眼を擦る芽生くんと一緒に洗顔や歯磨きをして、その後は朝食の仕度を手伝う。

 朝の定時ニュースを観ながら、卵焼きとトーストを食べて、牛乳をたっぷり注いだコーヒーを飲む。あ、宗吾さんはブラックで!

 その後、芽生くんは幼稚園の制服に。最近はひとりで着替えてくれるようになったから助かっているんだ。

 幼稚園は給食と弁当の半々だ。今日は弁当の日だから、朝食と一緒に作った具材を丁寧に詰めて行く。

 芽生くんが背伸びして、にっこり微笑む。

「おにいちゃん、今日は車のがいい~」
「いいよ!」
 
 デコ弁は無理だから、既製品の子供用にカットされた海苔をのせたら完成だ。

「宗吾さん、僕、今のうちに洗濯を干してきますね」
「おう! 悪いが仕事のメールをしたいんだが」
「いいですよ! まだ時間ありますし」

 ベランダで洗濯物を干しながら、僕はもう一度深呼吸をして空を仰ぎ見た。

「空が高い……また一段と秋が深まったようだ」

 9月の連休に広樹兄さんの結婚式のために帰省し、その後宗吾さんと芽生くんと合流して、帯広から旭川までゆっくりと旅をした。

 そう言えば、僕たちは付き合いだしてから、いろんな場所へ旅行した。昨年の夏には葉山、今年は5月に函館へ帰省、6月に北鎌倉の月影寺に1泊……その中でも……今回は本当に旅行らしい旅行だった。

 日常生活から解き放たれ、3人の家族という小さな単位で移動し観光したので、何気ない行動の全てが愛おしかった。

「みーずき、いつまで干している? 遅刻するぞ」
「あっすみません」
「ン? 俺のパンツまた握ってるぞ」
「え! あ、つい癖で……じゃなくて! もうっ」

 いつの間にか握りしめていた宗吾さんのパンツは、一番目立つ所に干してやった。

 そのままバタバタと自室でスーツに着替えていると、宗吾さんが身支度を整えて入って来た。

「あと何分ですか」
「ん、あと10分だ」
「急がないと」
「おい、ネクタイがよれているぞ」
「あ、本当だ」
「鏡を見てやればいいのに」
「すみません」
「いや、ここで着替えてくれるのがいいよ」

 宗吾さんは後ろ手でドアをいつものように閉めて、僕の腰を抱いてくる。

「あ、あの?」
「ん? 栄養をくれないか」
「えっ」

 そのまま、躊躇いもなく口づけされる。これから出社するのに、こんなことしていいのかと思いつつ……朝の挨拶のキスでは物足りなくて、僕も彼を受け入れてしまう。

「ん……ふっ」

 リビングからテレビの音と溌溂とした歌声が聞こえてくる中、次第に僕からも宗吾さんを求めてしまう。

「ん……もう、そろそろ」

 彼の手が腰からヒップに滑り降りたタイミングで、身を捩ってしまった。

 だって、これ以上は危険行為だ。

「え、ここまで? 」
「す、すみません。僕……最近……更に過敏になったようで、その……困るんです」

 これ以上の触れ合いは下半身に直結してしまうので、駄目だ!

「うう……過敏になってくれるのは嬉しいが、……また寸止めだ。何かを思い出すぞ、この疼きは過去の何かを……」
「くすっ、あの、続きは週末まで待って下さいね」
「分かっているよ。その代わり覚悟しておけよ」

 気を取り直した宗吾さんが快活に笑ったので、迂闊にも見惚れてしまう。

 今日も男気溢れるよな。

 宗吾さんってスーツが本当によく似合う。

「おう! よーし、今日も頑張ろう!」
「はい!」

 お互いスーツをパリッと着こなして、芽生くんと一緒に家を出る。


 
 これがドタバタな僕の日常、朝のルーティン。

 忙しくも充実した時間を、相変わらず過ごしている。

 実りの秋には、家族のイベントも多い。

 運動会に参観日、それからハロウィンと、そうそう仕事も結婚式とハロウィンで、秋は大忙しだ。

 公私に渡って、充実した月間の到来だ。

 僕も頑張ろう。今出来ることを、目の前のことを、まずはしっかり一つ一つ丁寧にこなしていきたい。

「瑞樹、どうした? 遅刻するぞ」
「あっ、はい!」












あとがき(不要な方はスルーしてください)






*****

こんにちは。志生帆 海です。今日から新しい段に入ります。

秋は家族のイベントが多いですね。

物語は宗吾さんファミリーの日常メインに暫くなります。緩急のない展開かもしれませんが、1日の終わりに読むとほっこりできるような、お話を目指してみます。

クスッと笑ったり萌えていただけたら嬉しいです。更新の励みなので感謝の気持ちでいっぱいです!!

皆さんも実りの秋を満喫してください。

大変な世の中ですが、出来ることを出来る範囲で……

でもお話の世界では通常通り、触れ合いまくります!

 

しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...