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成就編

心の秋映え 12

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「おにいちゃん、どこかな?」

 早く会いたくて、ピョンピョンはねちゃった。

 あーボク……人にうもれちゃうよ。

 早く大きくなりたいな。パパみたいに背が高かったら、おにいちゃんがどこにいても、すぐに見つけられるのになぁ。

 あのね、はやくきいてほしくて。

 パパと二人ですごすのって久しぶりで、昨日からドキドキだったんだ。それにトイレにいきたかったのに……気付いてもらえなくて、タイヘンだったよ。

 ひこうきのおトイレって、大きな音がしてこわいし、グラグラゆれるからイヤなんだ。

 おにいちゃんと乗ったときは、ダイジョウブだったのにね。

『芽生くん、今のうちにトイレに行っておこうか』
『えっ、なんでわかったの? ボクが行きたいって』

 おにいちゃんに聞いてみると、やさしくお花みたいにわらってくれた。

『よかった! きっと、そうかなって』

 すぐに広いトイレにつれて行ってくれて、おしっこをするときも支えてくれたんだ。

 それにしても、あーさっきは……パパ、おこりだしそうで、こわかったな。くすん──

「芽生くん!」

 パパに手を引かれて歩いていると、突然ふわっとボクのカラダが浮いた。

「わ!」

 おにいちゃんのキレイなお顔を近くにあって、びっくりだ!

 うれしくて、抱きついちゃった!

「芽生くん、ようこそ! よく来たね」
「おにいちゃん! おにいちゃんって『まほうつかい』なの?」
「くすっどうしたの? 急に」
「だってぇ……どうして、おにいちゃんはボクが何をしたいのか、すぐに分かるの?」

 お兄ちゃんはボクを見つめて、キョトンとしていた。

「僕は『「まほうつかい』じゃないよ」
「じゃあ、なあに?」
「そうだね……芽生くんが大好きな家族だよ」
「んーんー、でもパパがきづかないことも、おにいちゃんはちゃんと分かってくれるよ」
「……でも僕ひとりでは出来ないことを、パパはしてくれるよ」
「そうかな~」
「そうだよ。よーく見てごらん」
「うん」

 おにいちゃんはそう言いながら、パパの顔をじっと見つめた。

 あ……このお顔って、さっきボクがしていたお顔とそっくり?

 鏡にうつしたわけじゃないけど、同じだってわかるよ。
 
 おにいちゃんがパパをやさしいお顔でみてくれる。

 ボクのパパを、だいじにしてくれる。

 それがとってもとっても、うれしいな!

 あ、そうか。

 おにいちゃんがひとりじゃ出来ないことって、このお顔だ。

 パパがいるから、おにいちゃん、あんなにうれしそうなお顔をしてくれるんだな。

 ボクのパパって……すごいんだなぁ!

 



****

「宗吾さん、函館にようこそ!」
「瑞樹!君がひとりで迎えに? 大丈夫だったのか」
「えぇ……もう大丈夫ですよ」
「そうか。ごめんな。つい……」
「いえ……宗吾さんの気持ち、分かります」

 宗吾さんに全身を確かめられるように見つめられた。

 あぁ宗吾さんもあの日を思い出し心配している……

 それが痛い程伝わって来る。

「あの、一旦僕の実家に寄っても?」
「もちろんだ。ぜひ挨拶させてもらうよ」
「ありがとうございます。じゃあ家までは僕が運転しますね」
「へぇ珍しいな」

 後部座席に芽生くんと宗吾さんを乗せて、僕が運転手した。

 このシチュエーションは、東京ではまず見られないので新鮮だ。宗吾さんの車は大き過ぎて小回りがきかないので、都心の細い道を運転するのが難しい。だから仕事で社用車は運転するけれども、休日は彼に全部運転を任せている。

 函館の道は長年住んだ僕の方が詳しいから、宗吾さんも快く委ねてくれた。

 運転を全面的に任されるの、初めてかも。なんだか嬉しい!

 やがて例の工事現場前の信号で、再びひっかかってしまった。

 あ、……まずいかな?

 バックミラーをちらりと見ると、宗吾さんは養生ネットの社章マークを睨んでいた。

 冷たく厳しい眼差しだ。

 その後スッと視線を外し、僕を心配そうに見つめて来たので、コクンと頷いてから、一気にアクセルを踏み込んだ。

 大丈夫、もう僕は……大丈夫です。

「行きもこの道でしたが、ひとりで通り抜けたんですよ」

 僕らを乗せたワゴン車は、一気に街を駆け抜けていく。

「そうか……君は運転が上手いな。爽快だ!」
「ありがとうございます!」
「もう……大丈夫なんだな」
「はい」

 伝わっている……この人には、ちゃんと。

 また一つ、大きなボーダーラインを超えた気持ちになっていた。

 あの道は振り返らない。

 家族との未来を描く。


****

「よく来たわね~」
「お久しぶりです。すみません。今回は少しの時間ですが」
「こちらこそ、昨日は瑞樹と久しぶりに親子水入らずで、色んな話が出来たのよ。本当にありがとうございます」

 母さんが丁寧にお礼を言うと、宗吾さんも満足そうだった。

「それは良かったです。これ東京のお土産です」
「まぁ嬉しいわ。上がって下さい」

 部屋に通した後、僕は芽生くんをそっと脱衣場に呼んだ。

「芽生くん……お洋服……汚しちゃって気持ち悪いよね」
「あ……えっと、どうしてわかったの?」
「ん? そうかなって思って」
「うわぁぁ……おにいちゃんはやっぱり『まほうつかい』さんだ! あ、あのね、ひこうきのおトイレで、ちょっとぬらしちゃったの」
  
 やっぱりそうか。実はさっき抱っこした時、少しお尻のあたりが湿っている気がした。

「大丈夫だよ。ここで、そっと着替えちゃおうか」
「うん! ありがとう。おようふくのきがえ、どうしよう」
「大丈夫だよ。実は僕ね……いつもの癖で、芽生くんのお着換えセットを旅行鞄に入れていたんだ」
「すごい!! やっぱりおにいちゃんはボクの『まほうつかいさん』だよ。おにーちゃんだーいすき!」



 芽生くんにギュッと抱きついてもらえて、ポカポカだ。

 僕には、こんなに可愛い子供がいる。
 
 僕を深く慕ってくれている。

 たった1日離れていただけなのに、恋しかった。

 

「芽生くん、会いたかったよ」
「ボクも!」

 
 芽生くんと交わす言葉は……いつも真っすぐシンプルで温かい。


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