上 下
415 / 1,730
成就編

夏便り 14

しおりを挟む
「次は西瓜を食べましょう」
「わーい!おばーちゃん、ボク、スイカだーいすき! うわぁ大きい~まるごとだ!」

 花火を終えて部屋に戻ると、食卓に大きな西瓜が丸ごと置かれていた。

「美智さん、悪いけれども切ってもらえるかしら」
「えぇお義母さん、任せてください」
「あのっ僕も手伝います」
「瑞樹くん、ありがとう! えっと、私ね、最近とっておきの切り方を習ったばかりなの。まずは見ていてね」
「はい!」

 まず西瓜を1/6にしてから、それを斜めにカットし、次は反対側を斜めに……全てが三角形になるように切っていく。

「出来たわ! こうすると全部真ん中になるのよ。端っこがないから、どれを食べても甘くて美味しいの」

「凄いですね。今度家でもやってみます。こうすれば、みんな平等でいいですね。僕の家では、いつも甘い真ん中を兄と弟が取り合って喧嘩になっていたので、今度教えてあげようと思います」

 瑞樹くんがニコッと甘く微笑んでくれる。

「ほう、君の兄弟って、そういう感じなのか」
「はい、賑やかで楽しい兄と弟がいます」
「そうか、そうか」

 まぁ素直で謙虚で、本当に可愛い子なのね。

 こっちが照れちゃうじゃない。

 なんだろう、母性本能がくすぐられるなぁ。

 彼に接した人が皆、メロメロになるのも分かるわ。

 我が夫、堅物の憲吾さんだって、あーあー、あんなに口元を緩ませちゃって。

 そして何より宗吾さん、あなたは本当に幸せ者ね。

 可愛い芽生くんだけでなく、こんなに可愛い瑞樹くんまで傍にいてくれて。

「美智さん、今度は僕が切ってみてもいいですか」
「もちろんよ。ふふふ、私は瑞樹くんのお姉さん気分よ~可愛い弟が欲しかったので嬉しい」
「お姉さんですか! そんな風に言って下さって嬉しいです……僕も姉が欲しかったです」
「本当に? 嬉しいわ」
「おいおい、俺も可愛い弟が欲しかったのだが」
「あ、はい! 」

 まぁいやだわ……憲吾さんまで、ちゃっかりと。

「さぁどうぞ!」
「うわぁぁ、スイカのお山がたくさんあるー! ボク、とんがったのすきー!」

 大皿に並ぶ西瓜を、皆で勢いよく頬張った。

 芽生くんも大喜びね。

 子供の無邪気な笑顔って可愛い。

 私も早く赤ちゃん授かりたいな。

 久しぶりに過ごすお盆らしい時間に、私も憲吾さんとギクシャクしてから、この家にしばらく寄りついていなかったのを反省した。

「お義母さん……私たちが東京にいる間は、もっと頻繁に顔を出しますね」
「美智さんありがとう。なんだか一気に賑やかになって少し戸惑っているわ。お父さんがなくなってから、いつも一人だったので……」

 お義父さんが亡くなった後も、いつもシャンとしていたお義母さんの、寂しい本音に切なくなってしまった。

「母さん、俺たちも顔を出すよ」
「まぁまぁ一気に病人扱いね。まだまだ私は大丈夫よ。でも一つだけ頼みたい事があって」
「何?」
「お庭の手入れだけは流石に厳しいみたい。倒れた日も実は朝から庭にずっといて、疲れたのもあったのよ」
「それなら、ちょうど話していた所だよ。瑞樹の得意分野だし、彼に任せてくれないか」
「まぁ嬉しいわ。瑞樹くんとは花の感性が合うので、頼りにしているわ」

 素敵な提案と申し出だわ!

 新しい家族の瑞樹くんに、こうやって居場所が出来ていくのね。

 瑞樹くんも頬を染めながら頷いて、嬉しそうな様子。

「お母さん、僕は造園の方は分からない事も多いのですが……弟がその職についているのでアドバイスしてもらいます。ぜひ僕にお母さんが端正込めて育てた庭の手入れをさせて下さい」

 うんうん、そう! 

 いい調子よ。頑張って……
 
 本当に彼って、心から応援したくなる人だわ。 


****

 函館、葉山生花店──

「広樹、食後に西瓜でも食べない?」
「おう!いいな」

 しかし今年のお盆は、いつにも増して寂しいな。

 瑞樹がいないのは例年の事だが、潤までいないのには慣れないぞ。

 五月蠅く我儘な弟だが、なんだかんだ言っても、居れば賑やかで楽しかった。

 五月に帰省したからお盆は駄目だと、事前に聞いていた。

 しょうがないが……なんだか物足りない。

 ぼけっと無意識で西瓜を切っていたら、大量に切り過ぎてしまった。

「まぁこんなに切ったの? ふたりで食べ切れるかしら」
「ははっ、つい癖でな」
「そうね……広樹と瑞樹と潤、息子が全員揃っていた時は、皆でよく食べたものね」
「あぁ」

 あ、やばい……!

 悲しい思い出を見つけてしまった。

 そう言えば……瑞樹は、いつも遠慮して端っこばかり食べていたな。

 潤が真ん中の甘い所ばかり狙うから、いけないんだぞ。

 いやいや、そういう俺も同罪だ。

 食い意地張って、瑞樹の事を顧みていなかった。

 あー今頃気づいてしまったな。

 瑞樹、ごめんな。

 いつも俺たちが食べるのを見てから、そっと端っこに手を伸ばしていた、いじらしい弟。

 幼い瑞樹の事を思い出して、しんみりしちまった。

 瑞樹ぃ……元気でやっているか。

 たまには、兄ちゃんのこと思い出せよ。




 すると電話が鳴ったので、母の会話に耳を澄ました。

「あら……瑞樹? 今、宗吾さんのご実家にいるのね。何しているの? まぁそっちも西瓜を? こっちもちょうど広樹と食べる所よ」

 なんだって! 

 瑞樹から電話なのか。

 タイムリーだ!

 早く代わって欲しくてウズウズしちまう。

 可愛い、可愛い弟の瑞樹!!

 幸せに過ごしているか。

 あちらのご家族に、沢山可愛がってもらっているか。

 聞きたい事は山ほどあるが、瑞樹に甘い声で『兄さん!』と言われた途端に、きっと吹っ飛んでしまうだろう。

 母さん……早く早く!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...