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発展編
選び選ばれて 7
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さぁ帰ろうと足を一歩踏み出した所で、背後から声を掛けられた。
「君……」
「あっ」
振り返ると、さっき僕に白薔薇を渡してくれたロマンスグレーの紳士が立っていた。
「先ほどはありがとうございました」
深々と感謝の気持ちを込めてお辞儀した。
「薔薇は役に立ったかな?」
「はい、お陰様で。立派な薔薇をお譲りいただきまして、ありがとうございました。あの……間違えていなければ、あの薔薇の品種は『柊雪《しゅうせつ》』ですか」
思い切って聞いてみると、「ほうっ」と感心したように目を細められた。
それから、どこか懐かしそうに僕を見つめてくれた。
「君はフラワーアーティストさん? 流石だね。あの薔薇の名を知っているとは嬉しいよ」
「はい、まだ駆け出しですが。でも薔薇の名前は僕は存じ上げていなくて……実は上司が教えてくれました」
「ほぉ、正直な所もいいね。チャペルの花も見たが、清楚な雰囲気で清らかな気持ちになったよ」
「あの……あなたは、もしかして白薔薇を育てている方ですか」
「そうだよ」
「やっぱり……素晴らしい薔薇に見惚れてしまいました。その、つけられた名前も美しいです」
「嬉しいことを。もっと見たいかい?」
「ええ、ぜひ」
「じゃあここに今度おいで」
品の良い物腰の柔らかな男性は、優雅な手つきで胸ポケットから名刺を取り出し渡してくれた。
名刺には……
~創作フレンチレストラン&カフェ 月湖tukiko~
支配人 冬郷 雪也
と書かれていた。
住所は東京の白金になっている。さっきリーダーが教えてくれた話と一致した。このレストランの庭園に、とあの薔薇が咲いているのだろう。
「こちらに伺っても?」
「うちのスコーンは特に美味しいよ。いつでも遊びに来るといい。今の季節は白薔薇の『柊雪』が本当に美しく咲いているからね」
「ありがとうございます」
「君の大切な人と一緒にどうぞ」
「え」
「あぁごめん。さっきとても幸せそうに電話していたので、そういう人がいるのではと……余計なお世話だったら失礼」
「とんでもないです。是非、僕の大切な家族と一緒に伺わせていただきます」
「待っているよ。あっうちのレストランは子連れもOKだから安心して」
「えっ? あ、はい」
僕に芽生くんがいること……何で分かったのかな。
「では、また会おう。その時にまた薔薇をあげるよ」
「本当ですか! 楽しみにしています」
これも出会いだ。
また一つ素敵な縁が繋がったと思う瞬間だった。
****
最寄り駅に着くと、ほっとした。
駅ビルで何か二人にお土産でも買おうとしたが、それよりも早く帰りたくなってしまって、結局手ぶらだ。
だって……一刻も早く会いたい人がいるから。
一馬と暮した家は坂の上にあったが、宗吾さんの家は反対方面で、駅から平坦な一本道。
もう……『僕の家』と言ってもいいのかな。いや図々しいかな。
頭の中でいろいろ考えると気恥ずかしいやら嬉しいやらで、結局ひとりでニマニマしてしまう。
でも途中から少し心配になってきた。僕は辺りが暗くなると、不安になってしまうのだ。
ちゃんとあるよな。消えていないよな……僕の家……大切な人たち。
しあわせ過ぎて不安になるとは、このことを言うのか。
少し足早に歩く。早くこの目で二人の姿を確かめたくて。
すると向こう側から「おにいちゃーん」と可愛い声が響いてきた。顔をあげると、二つの凸凹の黒い影が僕に向かって伸びていた。
「どうして……」
「まちきれなくて、おむかえきちゃった!」
どうしよう。少しの不安はもうどこかに飛んでしまう。
「お帰り。瑞樹」
「……ただいま、宗吾さん」
「おにーちゃん、おかえりなさい」
「うん、ただいま!」
迎えに来てくれたんだ。僕のこと……
それが嬉しくて、1日の疲れも吹っ飛んでしまった。
「疲れたか」
「いえ、迎えに来てもらったので、疲れなんてどこかに飛んでいきましたよ」
「良かったよ。じゃあ夜遊べるか」
「芽生くんと? もちろん遊びますよ」
明るく答えると宗吾さんはちょっと困ったような顔になって……
「んー俺とは」
「? もちろん遊びますよ」
「やったな!」
また宗吾さんがよからぬことを考えているのではないかと少し思いながらも、舞い上がる気持ちの方が上だった。
「おにいちゃん、手、つなごう」
「うん」
「おにいちゃんはこっちの手」
「うん!」
「パパー、パパはこっちだよ」
車道に向かって、宗吾さん、芽生くん、僕の順番で仲良く手を繋いで歩いた。この歩道はいいな。広いから3人で手を繋いでも十分な広さがある。
「そうだ。今日はね、卵ボーロを作ったんだよ」
「へぇ、あぁ北海道でおばあちゃんに買ってもらっていたからだね」
卵ボーロか。小さい時、僕も好きで夏樹がおやつに食べているのを、よくもらって食べたな。赤ちゃんのお菓子だけど、赤ちゃんだけのお菓子じゃないんだよな。どこか懐かしく優しい味わいで好きだ。
実際に食べるのは久しぶりだ。しかも手作りだなんて楽しみ過ぎる。
「すごい! 卵ボーロって、手作り出来るんだね」
「うん! パパねぇ、丸めるのにムチュウで、あのねぇー」
「おいっ芽生! 男の約束を守れ!」
「あっあわわ……」
芽生くんがふっくらした小さな手で、慌てて口を塞ぐ様子が可愛いかった。
「くすっパパは上手だったんだね」
相槌を打つと、芽生くんと宗吾さんが声を揃えた。
「そう! すごくいいカタチー!」
「最高の出来映えだ!」
なんだろう?
ゾクっと悪寒がし、胸の先端が何故か疼いた。
「君……」
「あっ」
振り返ると、さっき僕に白薔薇を渡してくれたロマンスグレーの紳士が立っていた。
「先ほどはありがとうございました」
深々と感謝の気持ちを込めてお辞儀した。
「薔薇は役に立ったかな?」
「はい、お陰様で。立派な薔薇をお譲りいただきまして、ありがとうございました。あの……間違えていなければ、あの薔薇の品種は『柊雪《しゅうせつ》』ですか」
思い切って聞いてみると、「ほうっ」と感心したように目を細められた。
それから、どこか懐かしそうに僕を見つめてくれた。
「君はフラワーアーティストさん? 流石だね。あの薔薇の名を知っているとは嬉しいよ」
「はい、まだ駆け出しですが。でも薔薇の名前は僕は存じ上げていなくて……実は上司が教えてくれました」
「ほぉ、正直な所もいいね。チャペルの花も見たが、清楚な雰囲気で清らかな気持ちになったよ」
「あの……あなたは、もしかして白薔薇を育てている方ですか」
「そうだよ」
「やっぱり……素晴らしい薔薇に見惚れてしまいました。その、つけられた名前も美しいです」
「嬉しいことを。もっと見たいかい?」
「ええ、ぜひ」
「じゃあここに今度おいで」
品の良い物腰の柔らかな男性は、優雅な手つきで胸ポケットから名刺を取り出し渡してくれた。
名刺には……
~創作フレンチレストラン&カフェ 月湖tukiko~
支配人 冬郷 雪也
と書かれていた。
住所は東京の白金になっている。さっきリーダーが教えてくれた話と一致した。このレストランの庭園に、とあの薔薇が咲いているのだろう。
「こちらに伺っても?」
「うちのスコーンは特に美味しいよ。いつでも遊びに来るといい。今の季節は白薔薇の『柊雪』が本当に美しく咲いているからね」
「ありがとうございます」
「君の大切な人と一緒にどうぞ」
「え」
「あぁごめん。さっきとても幸せそうに電話していたので、そういう人がいるのではと……余計なお世話だったら失礼」
「とんでもないです。是非、僕の大切な家族と一緒に伺わせていただきます」
「待っているよ。あっうちのレストランは子連れもOKだから安心して」
「えっ? あ、はい」
僕に芽生くんがいること……何で分かったのかな。
「では、また会おう。その時にまた薔薇をあげるよ」
「本当ですか! 楽しみにしています」
これも出会いだ。
また一つ素敵な縁が繋がったと思う瞬間だった。
****
最寄り駅に着くと、ほっとした。
駅ビルで何か二人にお土産でも買おうとしたが、それよりも早く帰りたくなってしまって、結局手ぶらだ。
だって……一刻も早く会いたい人がいるから。
一馬と暮した家は坂の上にあったが、宗吾さんの家は反対方面で、駅から平坦な一本道。
もう……『僕の家』と言ってもいいのかな。いや図々しいかな。
頭の中でいろいろ考えると気恥ずかしいやら嬉しいやらで、結局ひとりでニマニマしてしまう。
でも途中から少し心配になってきた。僕は辺りが暗くなると、不安になってしまうのだ。
ちゃんとあるよな。消えていないよな……僕の家……大切な人たち。
しあわせ過ぎて不安になるとは、このことを言うのか。
少し足早に歩く。早くこの目で二人の姿を確かめたくて。
すると向こう側から「おにいちゃーん」と可愛い声が響いてきた。顔をあげると、二つの凸凹の黒い影が僕に向かって伸びていた。
「どうして……」
「まちきれなくて、おむかえきちゃった!」
どうしよう。少しの不安はもうどこかに飛んでしまう。
「お帰り。瑞樹」
「……ただいま、宗吾さん」
「おにーちゃん、おかえりなさい」
「うん、ただいま!」
迎えに来てくれたんだ。僕のこと……
それが嬉しくて、1日の疲れも吹っ飛んでしまった。
「疲れたか」
「いえ、迎えに来てもらったので、疲れなんてどこかに飛んでいきましたよ」
「良かったよ。じゃあ夜遊べるか」
「芽生くんと? もちろん遊びますよ」
明るく答えると宗吾さんはちょっと困ったような顔になって……
「んー俺とは」
「? もちろん遊びますよ」
「やったな!」
また宗吾さんがよからぬことを考えているのではないかと少し思いながらも、舞い上がる気持ちの方が上だった。
「おにいちゃん、手、つなごう」
「うん」
「おにいちゃんはこっちの手」
「うん!」
「パパー、パパはこっちだよ」
車道に向かって、宗吾さん、芽生くん、僕の順番で仲良く手を繋いで歩いた。この歩道はいいな。広いから3人で手を繋いでも十分な広さがある。
「そうだ。今日はね、卵ボーロを作ったんだよ」
「へぇ、あぁ北海道でおばあちゃんに買ってもらっていたからだね」
卵ボーロか。小さい時、僕も好きで夏樹がおやつに食べているのを、よくもらって食べたな。赤ちゃんのお菓子だけど、赤ちゃんだけのお菓子じゃないんだよな。どこか懐かしく優しい味わいで好きだ。
実際に食べるのは久しぶりだ。しかも手作りだなんて楽しみ過ぎる。
「すごい! 卵ボーロって、手作り出来るんだね」
「うん! パパねぇ、丸めるのにムチュウで、あのねぇー」
「おいっ芽生! 男の約束を守れ!」
「あっあわわ……」
芽生くんがふっくらした小さな手で、慌てて口を塞ぐ様子が可愛いかった。
「くすっパパは上手だったんだね」
相槌を打つと、芽生くんと宗吾さんが声を揃えた。
「そう! すごくいいカタチー!」
「最高の出来映えだ!」
なんだろう?
ゾクっと悪寒がし、胸の先端が何故か疼いた。
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