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発展編

さくら色の故郷 33

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「ミズキ! お前、ミズキじゃねーか」

 勝手口を開けると、牧場経営をしているキノシタが立っていた。

「おはよう、キノシタ!」
「どうしたんだー? まさか出戻り?」
「クスッ違うよ。今回は旅行だ」
「へぇ~会えて嬉しいよ。ほらお前の大好物の牛乳だ。搾りたてで上手いぞ~」
「ありがとう!」
「あっ重いぞ。運べるか。指っ」
「もう大丈夫だよ」
「いや、やっぱり俺が中まで運んでやる」

 大丈夫だって言っているのに、もう靴を脱いで上がり込んでしまったので断れない。もう僕の手は怪我していないのに、まだ心配かけているのか。

「指はもう治ったのか」
「うん、ほら」

 キノシタの目の前に手を広げて見せると、セイにされたようにギュッと握りしめられ、ドキっとした。変な下心がないのは分かるが、皆……スキンシップが多くないか。こんな姿、また宗吾さんに見られたら大変だ。

「あっおい! 離せって」
「あぁ悪い。ミズキの指って真っすぐで綺麗だから、やっぱり重たい牛乳瓶を持たすわけにはいかねー」
「何言ってんだか。僕だって一人前の男だよ」
「あぁそうだな。でも何かしてやりたくなってさ……きっとあの時はまだ子供で何も出来なかったからかもな」

 頭を優しく撫でられる。

 どうやら大沼での僕のキャラはこんな感じで定着しそうだ。

 それだけ小3で家族を一度に失った僕の存在が、皆に心配をかけ続けていたのだろう。前はそういう態度を取られると憐れに思われているのかと卑下してしまったが、今は違う。

 皆、ただ純粋に僕のことを案じてくれていたのだ。

「そうだ、ミズキ、今日時間あるのか。旅行で来ているなら大沼観光するのか」
「うん、その予定だ」
「ならさ、あとで俺の牧場に来いよ! 特別に牛舎を見学させてやるよ」
「え! いいのか。あのさ……乳しぼりとかも出来る?」
「もちろんだ! ミズキが乳しぼりか~そりゃ萌えるな」
「は?」
「いやこっちの話さ」
「……実は連れがいるんだ。一緒にいいかな」
「あっ、そっか。そうだよな。もちろん!」

 ちょうど芽生くんが牛の話をしていたから、タイムリーだと思った。

 きっと喜ぶだろうな。観光牧場にでも連れて行ってあげようと思ったが、願ってもいない誘いだ。


****

「パパーそろそろ下に行こうよ。朝ごはんできたんじゃない?」
「おぉ、そうだな」

 瑞樹が下に手伝いに行ってから、暫く芽生と子供部屋を眺めていた。

 前に来た時は慌ただしかったので、ゆっくり見ておきたかった。なんとなく、次ここに来る時はもう模様替えしているような気がして、少しだけ名残惜しかった。

 ベッドの下には青いおもちゃの車が隠すように置かれていた。若草色のカーテンは、きっと瑞樹の母親が選んだのだろう。瑞樹が弟と背比べした柱もあった。

「芽生ちょっと来い」
「なぁに?」
「ここに立ってみろ」
「うん、あ、せいくらべだね」
 
 一番最後の印は『なつき 4さい』

 ちょうど100cmの所にマジックで書かれていた。どうやら母親の文字のようだ。あのレシピノートと同じ筆跡だったので分かった。

 芽生の身長は今、110cmちょっとか。

 俺は手持ちのペンで『メイ、5さい』と書き込んでしまった。

「パパ、らくがきしていいの?」
「どうだろ? でもナツキくんからメイへのバトンタッチみたいでいいだろ」
「うん、ボクお兄ちゃんと約束したんだ。ナツキくんの分も大きくカッコよくなるって」
「はははっ、パパはちょっと心配だ。でもスクスク大きくなれよ! 元気一杯に! 」
「うん!」
 
 ここは瑞樹と夏樹……幼い兄弟が、両親の愛情のもとスクスクと成長するはずだった子供部屋。

 瑞樹の叶わなかった世界とは、そろそろ別れを告げないとな。
 
 俺たちは今を生きているのだから。

 もう十分振り返った、充足した気持ちになっていた。 

「よし、じゃあ行くぞ」
「うん!」
 
 芽生と手を繋いで階段を下り、廊下を曲がろうとしたら瑞樹の話し声がした。ヒョイと覗くと、また瑞樹が見知らぬ男に指をギュッと握りしめられていた!

「うぬぬ……」

 相手は素朴そうな男だ。変な性的な意味ではないのは分かる。純粋に瑞樹の指を心配しての行為だとは分かるが、どうにも心配になる。

「パパ……おにいちゃんって……おとこの人にモテすぎない?」

 芽生に心配されるなんて……参ったな。

「もうーパパ、がんばってよ!」
「おっおう!」



















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