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発展編
さくら色の故郷 2
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到着ロビーで待っていると瑞樹の姿が見えた。
俺を見つけると右手を振り、にこやかに微笑んでくれた。
あぁ何も変わってないな。いつもの瑞樹のままだ。ほんの1か月半、離れていただけなのに、懐かしさがグッと込み上げてくる。
「兄さんっ、ただいま!」
瑞樹が『ただいま』と言ってくれる。もうそれだけで涙脆くなっている俺の涙腺がじわっと緩むぜ。
「おー! 元気だったか」
感極まって瑞樹をガバっと大きく掻き抱き、いつものように頬をスリスリと摺り寄せてしまう。
「わっ……兄さんってば! あっまた髭剃ってないの? もうっくすぐったいっ」
こうすると瑞樹が猫みたいに笑顔で甘く笑うもんだから、可愛くっていつもしちゃうんだよなぁ。
んっ?……妙に冷たい視線を浴びて我に返る。
瑞樹の横に、小さな男の子と手を繋いだ父親の姿……あぁ宗吾じゃないか。そしてその隣が宗吾のお母さんか!
「よぉ~宗吾!そして、はじめまして、俺が瑞樹の兄です」
「広樹、全く……よぉじゃないぞ。俺の瑞樹に気安く触って!」
宗吾とは、瑞樹の家で誤解から殴り合いそうになったいきさつがあり、フランクな付き合いを続けている。
まぁ同い年だし瑞樹を溺愛する様子が、他人とは思えん。
「ふん、俺は瑞樹の兄だぜ~これはいつもの儀式だ。瑞樹が10代の頃からのな」
「むむむっ」
「こらっ、宗吾、大人げないって言っているでしょう! 」
老婦人の厳しい声に、俺の方までシャキンと背筋が伸びた。
「わぁ~パパにあらたなテキがシュツゲンだぁー」
ん? まるでアニメのヒーローのように俺のことを言ってくれるんだな。
「おー君がメイくんか。よろしくなぁ」
俺が抱っこしてやると、メイくんは、輝くような笑顔を浮かべた。
「うわぁーすごいすごい。パパより高いよー」
「はははっ、パパより背が高いからな」
「むむむ」
「そっ宗吾さんってば……」
瑞樹がおろおろと泣きそうな顔をし出したので、これ位にしておくか。
「もう兄さんっ」
瑞樹に怒られそうになったので、思わず首をすくめた。
「ごめんごめん。皆さん、ようこそ函館に」
「兄さん、迎えに来てくれてありがとう」
「おう、じゃあ早速、観光に行くか」
「えっ考えてくれていたの? 」
「あぁまずはソフトクリームだ。瑞樹が好きなあの牧場にいこう」
俺の家は狭いし、花屋の営業中だとゆっくり挨拶も交わせないから日中は観光に連れ出して、夜に母との対面を考えている。
だからまずは空港から市内に向かう途中にある牧場に連れて行こう!
飛行機の離発着が見える場所だが、とても美味しい搾りたての牛乳とソフトクリームを味わえるんだ。
****
兄さんの車は、店のワゴン車だ。
一番乗り降りしやすい助手席に高齢の宗吾さんのお母さんが座ったので、僕と宗吾さんと芽生くんは後部座席に三人で並び、後ろに手荷物を積んだ。
「さてと出発するぞ」
「兄さん、よろしくお願いします」
「まかせておけって! 今日はオチビちゃんが飽きないプランを立てたからな~」
「嬉しい!」
広樹兄さん……ありがとう。
兄さんは、いつだって広い心で僕を迎えてくれる人だ。僕はこんなにも優しい兄に恵まれていたのに……あんな風に逃げるように故郷を飛び出して申し訳なかった。
今なら分かる。あの時分からなかったものが、ちゃんと見えてくる。
僕の右隣に座った芽生くんは。ワクワクした顔で窓の外の景色に夢中になっていた。
「おにいちゃん~見て、みて~あそこに牛さんがいるよ」
「うん、函館は酪農が有名だからね。今から行く牧場のソフトクリームはすごく美味しいよ」
「楽しみだなぁ」
今度は左隣の宗吾さんに話しかけられる。
「へぇソフトクリームか、懐かしいな。あっ函館のと言えば、あの時の遊園地のか! 」
「そうです。あの時食べたメーカーの牧場に行きます。本場で食べる方がもっと美味しいと思いますよ。青い牧草を牛を見ながらですから、格別です」
「そうだな。まぁ景色もいいが瑞樹がソフトクリームを食べるのを見るのが好きだ」
「あっ……」
もう、また変なことを言う。朝だってバナナを丸かじりしていたら、熱い視線でじっと見るから、意識し過ぎてむせてしまった。
そんな風に含みを持たせて言われると……次に抱かれる時、もしかしてアレを? あぁぁ……馬鹿! 瑞樹よせっ、変な妄想するな。
「ごめんごめん。そんな困った顔するな」
そっと宗吾さんが僕の手をさりげなく握ってきたので、今度は耳が赤くなってしまう。こういうの困るっ……兄さんはするどいから、駄目なのに。
「おーい宗吾。瑞樹をいじめるなよ」
ほら、やっぱりお見通しだ!
「宗吾、あなたって子はもうっ恥ずかしい」
うわわ……お母さんにまで言われて、僕は意識を飛ばしたくなる。
「悪い。悪い。なんだかこうしていると新婚旅行気分でな」
「はははっ、流石、宗吾だ。堂々としている!」
「だろ?」
僕らの会話を芽生くんが聞いて、やっぱり笑っていた。
「あの、こんなパパですが、よろしくお願いします」
泣けてくるっ……
「メイくんはえらいな。パパより男らしいぞ」
「えっ……ほんと? お兄ちゃんのお兄ちゃん……それはありがとうございましゅ」
「ははっ可愛いこと言うんだなー! 瑞樹よかったな。こんな可愛い弟分ができてさ」
最後は幼児言葉になるところが、まだあどけなくて愛おしくて、僕はやっぱり泣きそうになってしまう。
だって幸せなんだ。
僕たち……端からみたら受け入れられないメンバーだろう。なのに……本当に自然に迎えてくれて、一緒に笑って冗談まで言ってくれる。
自然に溶け込ませてもらっていることが、嬉し過ぎるよ。
望みすぎてはならないと戒めていたのに……解き放たれた気分だ。
「瑞樹は、なんだかカラフルになったな」
「え?」
「いや、明るくなったってことさ。ちゃんと自分の色を持つようになったな」
兄がどこか懐かしそうに教えてくれた。
見上げれば……空港から真っ白な飛行機が離陸したばかりで、どんどん高度をあげている最中だった。
真っ白な紙飛行機ばかり飛ばしていた幼い自分を思い出す。
そうか……僕はきっと、これからもっともっと染め上げられていく。
宗吾さんの色を、この躰に受け入れて……変わっていくのだろう。
俺を見つけると右手を振り、にこやかに微笑んでくれた。
あぁ何も変わってないな。いつもの瑞樹のままだ。ほんの1か月半、離れていただけなのに、懐かしさがグッと込み上げてくる。
「兄さんっ、ただいま!」
瑞樹が『ただいま』と言ってくれる。もうそれだけで涙脆くなっている俺の涙腺がじわっと緩むぜ。
「おー! 元気だったか」
感極まって瑞樹をガバっと大きく掻き抱き、いつものように頬をスリスリと摺り寄せてしまう。
「わっ……兄さんってば! あっまた髭剃ってないの? もうっくすぐったいっ」
こうすると瑞樹が猫みたいに笑顔で甘く笑うもんだから、可愛くっていつもしちゃうんだよなぁ。
んっ?……妙に冷たい視線を浴びて我に返る。
瑞樹の横に、小さな男の子と手を繋いだ父親の姿……あぁ宗吾じゃないか。そしてその隣が宗吾のお母さんか!
「よぉ~宗吾!そして、はじめまして、俺が瑞樹の兄です」
「広樹、全く……よぉじゃないぞ。俺の瑞樹に気安く触って!」
宗吾とは、瑞樹の家で誤解から殴り合いそうになったいきさつがあり、フランクな付き合いを続けている。
まぁ同い年だし瑞樹を溺愛する様子が、他人とは思えん。
「ふん、俺は瑞樹の兄だぜ~これはいつもの儀式だ。瑞樹が10代の頃からのな」
「むむむっ」
「こらっ、宗吾、大人げないって言っているでしょう! 」
老婦人の厳しい声に、俺の方までシャキンと背筋が伸びた。
「わぁ~パパにあらたなテキがシュツゲンだぁー」
ん? まるでアニメのヒーローのように俺のことを言ってくれるんだな。
「おー君がメイくんか。よろしくなぁ」
俺が抱っこしてやると、メイくんは、輝くような笑顔を浮かべた。
「うわぁーすごいすごい。パパより高いよー」
「はははっ、パパより背が高いからな」
「むむむ」
「そっ宗吾さんってば……」
瑞樹がおろおろと泣きそうな顔をし出したので、これ位にしておくか。
「もう兄さんっ」
瑞樹に怒られそうになったので、思わず首をすくめた。
「ごめんごめん。皆さん、ようこそ函館に」
「兄さん、迎えに来てくれてありがとう」
「おう、じゃあ早速、観光に行くか」
「えっ考えてくれていたの? 」
「あぁまずはソフトクリームだ。瑞樹が好きなあの牧場にいこう」
俺の家は狭いし、花屋の営業中だとゆっくり挨拶も交わせないから日中は観光に連れ出して、夜に母との対面を考えている。
だからまずは空港から市内に向かう途中にある牧場に連れて行こう!
飛行機の離発着が見える場所だが、とても美味しい搾りたての牛乳とソフトクリームを味わえるんだ。
****
兄さんの車は、店のワゴン車だ。
一番乗り降りしやすい助手席に高齢の宗吾さんのお母さんが座ったので、僕と宗吾さんと芽生くんは後部座席に三人で並び、後ろに手荷物を積んだ。
「さてと出発するぞ」
「兄さん、よろしくお願いします」
「まかせておけって! 今日はオチビちゃんが飽きないプランを立てたからな~」
「嬉しい!」
広樹兄さん……ありがとう。
兄さんは、いつだって広い心で僕を迎えてくれる人だ。僕はこんなにも優しい兄に恵まれていたのに……あんな風に逃げるように故郷を飛び出して申し訳なかった。
今なら分かる。あの時分からなかったものが、ちゃんと見えてくる。
僕の右隣に座った芽生くんは。ワクワクした顔で窓の外の景色に夢中になっていた。
「おにいちゃん~見て、みて~あそこに牛さんがいるよ」
「うん、函館は酪農が有名だからね。今から行く牧場のソフトクリームはすごく美味しいよ」
「楽しみだなぁ」
今度は左隣の宗吾さんに話しかけられる。
「へぇソフトクリームか、懐かしいな。あっ函館のと言えば、あの時の遊園地のか! 」
「そうです。あの時食べたメーカーの牧場に行きます。本場で食べる方がもっと美味しいと思いますよ。青い牧草を牛を見ながらですから、格別です」
「そうだな。まぁ景色もいいが瑞樹がソフトクリームを食べるのを見るのが好きだ」
「あっ……」
もう、また変なことを言う。朝だってバナナを丸かじりしていたら、熱い視線でじっと見るから、意識し過ぎてむせてしまった。
そんな風に含みを持たせて言われると……次に抱かれる時、もしかしてアレを? あぁぁ……馬鹿! 瑞樹よせっ、変な妄想するな。
「ごめんごめん。そんな困った顔するな」
そっと宗吾さんが僕の手をさりげなく握ってきたので、今度は耳が赤くなってしまう。こういうの困るっ……兄さんはするどいから、駄目なのに。
「おーい宗吾。瑞樹をいじめるなよ」
ほら、やっぱりお見通しだ!
「宗吾、あなたって子はもうっ恥ずかしい」
うわわ……お母さんにまで言われて、僕は意識を飛ばしたくなる。
「悪い。悪い。なんだかこうしていると新婚旅行気分でな」
「はははっ、流石、宗吾だ。堂々としている!」
「だろ?」
僕らの会話を芽生くんが聞いて、やっぱり笑っていた。
「あの、こんなパパですが、よろしくお願いします」
泣けてくるっ……
「メイくんはえらいな。パパより男らしいぞ」
「えっ……ほんと? お兄ちゃんのお兄ちゃん……それはありがとうございましゅ」
「ははっ可愛いこと言うんだなー! 瑞樹よかったな。こんな可愛い弟分ができてさ」
最後は幼児言葉になるところが、まだあどけなくて愛おしくて、僕はやっぱり泣きそうになってしまう。
だって幸せなんだ。
僕たち……端からみたら受け入れられないメンバーだろう。なのに……本当に自然に迎えてくれて、一緒に笑って冗談まで言ってくれる。
自然に溶け込ませてもらっていることが、嬉し過ぎるよ。
望みすぎてはならないと戒めていたのに……解き放たれた気分だ。
「瑞樹は、なんだかカラフルになったな」
「え?」
「いや、明るくなったってことさ。ちゃんと自分の色を持つようになったな」
兄がどこか懐かしそうに教えてくれた。
見上げれば……空港から真っ白な飛行機が離陸したばかりで、どんどん高度をあげている最中だった。
真っ白な紙飛行機ばかり飛ばしていた幼い自分を思い出す。
そうか……僕はきっと、これからもっともっと染め上げられていく。
宗吾さんの色を、この躰に受け入れて……変わっていくのだろう。
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