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発展編

恋の行方 5

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 馬鹿っ──もうっ……そんなに意識しすぎるな!

『今日は疲れすぎて先に寝ないでくれよ。ちゃんと夜に備えて、体力を残しておいて欲しい』

 宗吾さんに耳元で囁かれた言葉だけで、ゾクゾクするなんて。

 さっきから……僕は変な興奮をしている。もう駄目だ。

 今晩とうとうこの人に抱かれる──

 そう思うと、じっとしていられない。だから芽生くんと一緒に走り回ったりして発散させたのに、もうっ何でだよ。ここは公園で真昼間なのに。

 また股間が硬くなりそうで、半分涙目で体育座りをして俯いてしまった。

 明らかに動揺している僕に気づいているのか、宗吾さんの手がポンっと頭を優しく撫でていく。

「どうした? 疲れたのか。よしよし、今度は俺が遊んでくるから、ちょっと休憩してろよ」
「……はい、そうします」
「おにーちゃん、待っていてね」

 二人が原っぱに駆けだして行く姿を、そっと見送った。

 以前はこういうシーンが苦手だった。たぶん両親を交通事故で亡くしたのが尾を引いていたのだろう……『僕だけ置いて行かれる』という哀しみが強かったのに、今は違う気持ちが芽生えていた。

 また戻ってきてくれるという『信頼感』だ。

 相手を信頼していると、同時に自分自身も信じられる。

 僕はもう大丈夫だと……

 爽快な薫風に心を洗ってもらい、最後の準備は整った。

「おにーちゃん、ほらっ」

 突然目の前にパラパラと降ってきたのは、シロツメグサだった。

「わっ!」
「向こうにあったの。今からおにーちゃんに、ゆびわをつくってあげるね」
「本当? うれしいよ」
「花指輪の作り方はこうだよ~芽生、おにいちゃんにキレイなの作ってあげたくて、いっぱい練習したんだよ」
 「じゃあ教えてくれる? 僕にも作り方を」
「いいよ。まず用意するのは1本のシロツメクサだよ。えっとね、これはおにいちゃんだけの特別なものだよ」
「何で?」

 芽生くんが満面の笑みで摘んできたシロツメグサの中から慎重に1本選んで見せてくれた。

「ほら見て! これだけ四つ葉のクローバーだもん!」
「わぁ! よく見つけたね!」
「えへっ。じゃあつくり方を教えてあげるね。えっとね茎を長くつむのがポイントなんだって」
「そうなんだね」
「それを指に合わせて茎で輪っかをつくるんだ。お兄ちゃんの指をみせて」
「こう?」

 指を出すと、そこに芽生くんがたどたどしい仕草でシロツメグサを乗せてくれた。

「えっと余った茎を輪っかにぐるぐると巻き付けてっと……よいしょっと、あっほら出来た!」
「わっサイズもぴったりだよ」
「ふふっ、よかった!」

 芽生くんが砂糖菓子のように笑う。
 あっという間に、可愛いシロツメグサの白い花の指輪の完成だ。

「次は、パパー出番ですよぉ~」
「おっおう! 瑞樹、指を貸して」
「……はい」

 宗吾さんに指をそっと持ち上げられる。

 うわっなんか照れくさいよ。これは、まるで……

「なんだか結婚式みたいだな」
「パパ、その調子! ねぇねぇプロポーズは?」
「ははっ、芽生そうせかすな。大人は慎重になるものさ」
「パパはもうっ~オジサンくさいよぉ。勢いもたいせつだよー!」
「お前はまったく」

 左手の薬指に、シロツメグサの指輪を通された。

 繊細で可憐な白い花が、風に優しく揺れていた。

 しかも四つ葉のクローバーだ。
 しあわせが軽やかに揺れている。

 僕も……花の蕾がほころぶように宗吾さんを見つめると、宗吾さんも愛おしそうに見つめてくれた。

「瑞樹、ちょっといい? あっちで少し横になろうか」
「え……どこに? 」
「ほら、芽生もおいで」

 宗吾さんには目的があるようだ。なので何も言わずに付いて行った。

「よし、ここがいいな」

 宗吾さんが指さす場所を見て、僕も嬉しくなった。
 そこには沢山のシロツメグサが生えて、芝生がベッドのように盛り上がっていた。

「いいですね、ここ」

 三人でそのままクローバーの花咲く原っぱに寝そべった。

 緑の匂いで溢れている。

 青空が視界一杯に開けた。

 見上げた空は、どこまでも澄んでいた。

「今日は青空だな。でも明日の天気は分からない。雨かもしれないし曇りかもしれない」
「はい……そうですね」
「どんな天気でも俺たちは寄り添って生きて行こう。いい時も悪い時も、互いが互いの傘となって……過ごしていこう」
「はい」
「瑞樹……俺とずっと一緒に暮らしてくれないか」
「……あっ喜んで」





画像・おもちさま @0moti_moti0 



 風が吹くように、花が咲くように、僕の返事は決まっていた。

 視界がじわじわと濡れていく。

 幸せに滲んだ世界は、まるで水彩画のように透明感があって美しかった。

 僕と宗吾さんの間に収まった芽生くんは、いつの間にか……沢山のシロツメグサを握りしめたまま寝息を立てていた。

 あ……幸せな音がする。

 宗吾さんが僕の髪に優しく触れ、それから額をコツンと合わせてくる。

「じゃあ、よろしくな!」
「僕の方こそ」










 
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