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発展編
幸せを呼ぶ 19
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「お待たせしました。加々美花壇です」
「あー待っていました!」
アレンジメントの届け先、下町に出来た新しい洋菓子店は、昔からの街並みに溶け込むような、優しいベージュ色の煉瓦の外装だった。
へぇ可愛らしいお店だな。芽生くんが喜びそうだ。
「こちらでよろしいでしょうか」
「おぉ、これは想像以上だ!」
白いコックコート姿のパティシエの男性が出て来て、快く対応してくれた。
「新装開店、おめでとうございます」
「ありがとうございます!えっと、もしかして君が作ってくれたんですか」
「はい。僕が担当させていただきました。よく分かりましたね」
「やっぱり! なんというか……優しい人柄が出ていますよ」
「そうですか! ありがとうございます」
嬉しかったので、丁寧にお辞儀をした。
コックコートの男性は、僕の手元のアレンジメントをじっと見つめていた。
「あの、何か」
「この生クリームにカスタードクリームが混ざったような色の花は何という名前ですか」
あっそれに気づいてもらえたのか! 嬉しいな。
「これはチューリップですよ」
「えっこれがですか」
「えぇ『ハッピーピープル』という名前で花弁にクリーム色の筋が入っていて、葉にも白の縁取りが入っているのが素敵ですよね」
「へぇ、まるでうちの店のシュークリームのような色だな」
「気づいていただけて嬉しいです。実は扱われるお菓子の写真を資料として拝見して、そう思い選びました!」
店先で話していると、中からお腹が大きな奥さんが出てきた。小柄で可愛い人だった。
「あなた、もしかしてお花が届いたの? 」
「あぁお前の希望の加々美花壇のだぞ。それ、ここに飾ってもらえますか」
「承知致しました」
僕は奥さんにも見えるように、店内の丸テーブルにそっと置いた。
「わぁ……憧れだったんです。加々美花壇のアレンジメントを新しくオープンするお店に飾るの」
「ありがとうございます。当社を選んでいただいて嬉しいです。素敵なお店に飾っていただけて嬉しいです」
「あの……ここはもともと私の実家で元は古くからの和菓子屋さんなんですよ。父が亡くなって店を閉じようとしたら、この人がホテルを辞めて、ここに洋菓子屋さんをオープンさせようと言ってくれて」
「そうなんですね」
老舗の和菓子屋さんだったのか。なるほど、だからか。
新しいお店ではあるが古い商店街に馴染んでいる気がしたのは、そのせいだ。
「ショーケースの中のシュークリームとても美味しそうですね」
「下町だし、気取らないで誰でも手軽に買えるシュークリームを看板商品にしようと思って。でも安かろう悪かろうじゃなくて、安心安全な材料で作った美味しいものを提供したいと思たんです。だから内装にも拘って、お花も思い切って加々美花壇さんに。それにしても、うちみたいな小さなお店にも、きちんと社員の人が届けてくださって、すごいですね」
「こちらこそ、選んでいただけて、お客様のお役に立てて嬉しいです」
クリーム色のチューリップを選んだのには、まだ理由がある。
チューリップの華やかなのに、どこか控えめでホッとする花姿は、多くの人々に古来から愛されている。風水では人気運、つまり人に良く見られる能力が高められるという効果があるそうだ。更にクリーム色は「優秀な人材」を表現している。
それから『ハッピーピープル』という名前が気に入って……シュークリームを食べた人が、幸せな気持ちになれますように。
僕のアレンジメントが、このお店の新規オープンに少しでも花を添えることになりますようにという気持ちを込めた。
「それではこれで納品になります。サインをいただけますか」
「あっはい。失礼ですが、あなたのお名前をいいですか」
「はい。葉山瑞樹と申します。よろしくお願いします」
「わぁフラワーアーティストなんですね。素敵! 」
「はい!ありがとうございます」
自信を持って、前を向いて答えられた。
僕は今の僕を恥じていないから。
「また何かの折にはぜひ作らせてください。僕もこちらのお店のコンセプトが好きです」
「ありがとうございます。あっそうだ。これよかったら食べてください。試作品なんですが、チョコレートクリームのシュークリームです」
「わぁ、ありがとうございます」
「ご家族の皆さんで食べてくださいね」
「あっはい」
あれ? 僕、家族がいるって言ったかな?
「くすっお幸せに」
「えっと、何で分かったんですか」
「なんとなくそんな雰囲気だったので。大好きな人と沢山食べてくださいね」
奥さんに笑われてしまった。
そんなに顔に出てるのかな。なんだか恥ずかしい。でも嬉しい。
帰り道、最寄り駅に着いた所で、宗吾さんに電話をした。
「もしもし宗吾さん、瑞樹です」
「おー瑞樹、もう仕事終わったのか」
「はい!」
「今どこ? 俺は今駅に着いた所だ」
「あっ僕もです」
「おっなんだか紙袋を持っているな」
「えっ」
クルっと振り向けば、僕の宗吾さんが立っていた。
お互い嬉しそうに微笑み合った。
朝も夕も、笑いあう。
そんな関係が素敵だ!
「お疲れ。初日大変だったろう?」
「あの……」
「うん、偉かったな。自信を持って頑張ったな!」
わっ、僕が欲しい言葉をいとも簡単に……!
「それ何?」
「美味しい物ですよ」
「へぇ、じゃあ瑞樹が一杯入っているのかな」
「……宗吾さんは、もう……」
「ははっ芽生を迎えに実家に寄ってから、家に帰ろう。瑞樹もおいで」
「はいっ」
二人肩を並べて歩くと、淡いオレンジ色のベールのような夕日に、僕たちは包まれた。
優しい色に誘われるように、優しい気持ちが溶け出していく。
あとがき(不要な方はスルーでご対応ください)
****
ハッピーピープルという品種は実際に存在します。
『ハッピーピープル チューリップ』で検索して見てください♡
とても美味しそうな色合いですよ。
「あー待っていました!」
アレンジメントの届け先、下町に出来た新しい洋菓子店は、昔からの街並みに溶け込むような、優しいベージュ色の煉瓦の外装だった。
へぇ可愛らしいお店だな。芽生くんが喜びそうだ。
「こちらでよろしいでしょうか」
「おぉ、これは想像以上だ!」
白いコックコート姿のパティシエの男性が出て来て、快く対応してくれた。
「新装開店、おめでとうございます」
「ありがとうございます!えっと、もしかして君が作ってくれたんですか」
「はい。僕が担当させていただきました。よく分かりましたね」
「やっぱり! なんというか……優しい人柄が出ていますよ」
「そうですか! ありがとうございます」
嬉しかったので、丁寧にお辞儀をした。
コックコートの男性は、僕の手元のアレンジメントをじっと見つめていた。
「あの、何か」
「この生クリームにカスタードクリームが混ざったような色の花は何という名前ですか」
あっそれに気づいてもらえたのか! 嬉しいな。
「これはチューリップですよ」
「えっこれがですか」
「えぇ『ハッピーピープル』という名前で花弁にクリーム色の筋が入っていて、葉にも白の縁取りが入っているのが素敵ですよね」
「へぇ、まるでうちの店のシュークリームのような色だな」
「気づいていただけて嬉しいです。実は扱われるお菓子の写真を資料として拝見して、そう思い選びました!」
店先で話していると、中からお腹が大きな奥さんが出てきた。小柄で可愛い人だった。
「あなた、もしかしてお花が届いたの? 」
「あぁお前の希望の加々美花壇のだぞ。それ、ここに飾ってもらえますか」
「承知致しました」
僕は奥さんにも見えるように、店内の丸テーブルにそっと置いた。
「わぁ……憧れだったんです。加々美花壇のアレンジメントを新しくオープンするお店に飾るの」
「ありがとうございます。当社を選んでいただいて嬉しいです。素敵なお店に飾っていただけて嬉しいです」
「あの……ここはもともと私の実家で元は古くからの和菓子屋さんなんですよ。父が亡くなって店を閉じようとしたら、この人がホテルを辞めて、ここに洋菓子屋さんをオープンさせようと言ってくれて」
「そうなんですね」
老舗の和菓子屋さんだったのか。なるほど、だからか。
新しいお店ではあるが古い商店街に馴染んでいる気がしたのは、そのせいだ。
「ショーケースの中のシュークリームとても美味しそうですね」
「下町だし、気取らないで誰でも手軽に買えるシュークリームを看板商品にしようと思って。でも安かろう悪かろうじゃなくて、安心安全な材料で作った美味しいものを提供したいと思たんです。だから内装にも拘って、お花も思い切って加々美花壇さんに。それにしても、うちみたいな小さなお店にも、きちんと社員の人が届けてくださって、すごいですね」
「こちらこそ、選んでいただけて、お客様のお役に立てて嬉しいです」
クリーム色のチューリップを選んだのには、まだ理由がある。
チューリップの華やかなのに、どこか控えめでホッとする花姿は、多くの人々に古来から愛されている。風水では人気運、つまり人に良く見られる能力が高められるという効果があるそうだ。更にクリーム色は「優秀な人材」を表現している。
それから『ハッピーピープル』という名前が気に入って……シュークリームを食べた人が、幸せな気持ちになれますように。
僕のアレンジメントが、このお店の新規オープンに少しでも花を添えることになりますようにという気持ちを込めた。
「それではこれで納品になります。サインをいただけますか」
「あっはい。失礼ですが、あなたのお名前をいいですか」
「はい。葉山瑞樹と申します。よろしくお願いします」
「わぁフラワーアーティストなんですね。素敵! 」
「はい!ありがとうございます」
自信を持って、前を向いて答えられた。
僕は今の僕を恥じていないから。
「また何かの折にはぜひ作らせてください。僕もこちらのお店のコンセプトが好きです」
「ありがとうございます。あっそうだ。これよかったら食べてください。試作品なんですが、チョコレートクリームのシュークリームです」
「わぁ、ありがとうございます」
「ご家族の皆さんで食べてくださいね」
「あっはい」
あれ? 僕、家族がいるって言ったかな?
「くすっお幸せに」
「えっと、何で分かったんですか」
「なんとなくそんな雰囲気だったので。大好きな人と沢山食べてくださいね」
奥さんに笑われてしまった。
そんなに顔に出てるのかな。なんだか恥ずかしい。でも嬉しい。
帰り道、最寄り駅に着いた所で、宗吾さんに電話をした。
「もしもし宗吾さん、瑞樹です」
「おー瑞樹、もう仕事終わったのか」
「はい!」
「今どこ? 俺は今駅に着いた所だ」
「あっ僕もです」
「おっなんだか紙袋を持っているな」
「えっ」
クルっと振り向けば、僕の宗吾さんが立っていた。
お互い嬉しそうに微笑み合った。
朝も夕も、笑いあう。
そんな関係が素敵だ!
「お疲れ。初日大変だったろう?」
「あの……」
「うん、偉かったな。自信を持って頑張ったな!」
わっ、僕が欲しい言葉をいとも簡単に……!
「それ何?」
「美味しい物ですよ」
「へぇ、じゃあ瑞樹が一杯入っているのかな」
「……宗吾さんは、もう……」
「ははっ芽生を迎えに実家に寄ってから、家に帰ろう。瑞樹もおいで」
「はいっ」
二人肩を並べて歩くと、淡いオレンジ色のベールのような夕日に、僕たちは包まれた。
優しい色に誘われるように、優しい気持ちが溶け出していく。
あとがき(不要な方はスルーでご対応ください)
****
ハッピーピープルという品種は実際に存在します。
『ハッピーピープル チューリップ』で検索して見てください♡
とても美味しそうな色合いですよ。
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