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発展編

幸せを呼ぶ 12

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 メイの大好きなお兄ちゃん。

 ねぇおぼえてる? 

 お兄ちゃんのこと、あの原っぱで一番さいしょに見つけたのは、このメイなんだよ。

 ママがいなくなってから……いつもパパとふたりで、にちようびには公園に遊びに行っていたんだ。でもパパはつかれているから、いつもとちゅうでお昼寝しちゃって。だからメイ……つまらなくて、ひとりでシロツメグサのゆびわを作って遊んでいたんだ。

 うまく出来たから、もらってくれる人いないなぁと顔を上げた時、ひとりぼっちのお兄ちゃんが見えたんだよ。

 それでキレイな細いゆびに、ゆびわをしてあげたら泣いちゃったんだよね。

 あの時は本当にびっくりしたよ。

 あわてて、パパを呼びに行ったんだ。だってメイのパパはとっても強いから!

 おにいちゃんを元気にしてあげたのは、パパだった。

 あの日がパパとおにいちゃんの出会いなんだ。

 ずっとずっと大好きなお兄ちゃん。

 だから、これからもっとメイの近くにいると約束してくれて嬉しいよ。

「ねぇお兄ちゃん、いつメイのお家にくるの? お日にちきまった?」
「あれれ? お兄ちゃん……眠っちゃったの?」

 お絵描きに夢中になっていたら、すぐ横にいたお兄ちゃんがいつの間にか眠っていた。すると割烹着姿のおばあちゃんが、お部屋にやってきた。

「芽生、もう暗くなってきたわよ。電気をつけないと目が悪くなるわよ」
「おばあちゃん、しーっ」
「え? あら……瑞樹くんってば、寝ちゃったのね」
「うん、おばーちゃん、どうしよう~」
「きっと疲れていたのね。久しぶりに会社に行ったんだし無理もないわ。そうねぇ横にして毛布をかけてあげましょう」
「うん!」

****

 私の次男、宗吾の恋人の瑞樹くん。

 壁からそっと肩をずらすと、そのまま畳にごろんと横たわってしまった。

 あらあら、随分と無防備な寝顔ね。なんだかあどけなくて可愛いわ。

 息子を二人育てた私にとって、瑞樹くんは三人目の息子のように愛おしく感じているのよ。

 こんな清楚で可愛い男の子が……あのとんでもない事件の当事者として巻き込まれ、心身ともすり減らしてしまった。それまでも苦労の多い育ちだとは察していたわ。

 彼は自分の人生に卑屈にならずに、しっかり根を張って必死に上を向いて生きていた。

 まるでクローバーのような子ね。

 踏まれても踏まれても、懸命に生きて、花を咲かせる。

 本当に……よく立ち直ってくれたわね。きっと人知れず必死に頑張ったのよね。本当にお疲れ様。

 毛布をかけ、そっとその柔らかな栗色の髪を撫でてあげた。

 実のお母さまを十歳で亡くしたと聞いたわ。育ての親御さんもよい方だそうだけれども、あなたの性格では、きっと緊張して遠慮して過ごしてしまったのでしょうね。

 ねぇ……もっともっと甘えなさい。
 あなたに甘えてもらいたい人は沢山いるのよ。
 私もその一人よ。

 結局、夕食の時間になっても瑞樹くんは起きてくる気配はなかった。
 急に都会の雑踏に紛れると疲れるものよね。
 宗吾が迎えに来るまでゆっくりお休みなさい。

「芽生、先におばあちゃんとごはん食べちゃいましょう」
「うん! 今日はなぁに? 」
「カニクリームコロッケよ」
「わぁ! メイそれ大好き! 」

****

「滝沢さん、お疲れさまです。どうっすか。今から銀座に一杯行きませんか」
「おー悪いな。今日は息子を実家に預けているから、今から迎えに行かないといけなくてな」
「やっぱ大変っすよね。離婚して男ひとりで育てるって……俺には絶対無理っす」

 これは随分とあからさまに同情されてしまったな。

「いや、そうでもないさ。実に楽しんでいるよ」

 そう答えると、部下は意外そうな顔をした。

「なんだよ? 変なこと言ったか」
「いえ……正直同じ部署に配属されるまで、滝沢さんのこと誤解していた部分があって、今日も意外だなって」
「誤解? どうせ遊び人とかだろ?」
「ははっバレてました。ハイその通りです」
「おいっ!」

 陰でそう噂されている事は知っているし、確かに離婚前の俺だったら……それもある意味事実だったから仕方がないか。

 思い返せば随分いい加減な生き方をしていたな。玲子にも芽生にも本当に悪いことをした。

 だがそれはもう過去だ。
 過去は消せないが、今は作れる。

 今の生き方。それが大事だよな。
 今が、いずれ過去になった時、誇れる自分でいたいから。

「じゃあな」
「あの……子育て、頑張ってください」

 独身の部下には分からないだろう。語弊があるかもしれないが、俺にとっての芽生を育てる事は頑張るというより、一緒に成長し楽しんでいくと言う方がしっくりくる。

 息子とはいえ自分とは違う相手だから、俺ひとり頑張っても空回りしてしまう。とにかく芽生と二人きりになった時、俺はその状況に卑屈にならずに、ふたりで今を楽しんでみようと思ったのさ。まぁ実家の母の助けは大きかったが。

 それにしても……まさか母がここまで協力的になってくれるとは思わなかったので感謝している。そして瑞樹のこともだ。

 同性愛をあの母があんなにスッと受け入れてくれるなんて信じられないよ。

 瑞樹の人柄なのか。母も瑞樹を三人目の息子のように愛おしんでくれているのが、ひしひしと伝わってくる。
 
 瑞樹がそうやって周りから優しく愛されているのを見ていると、俺も本当に嬉しくなる。

「母さん、ただいま。遅くなってごめん」
「あら宗吾。お帰りなさい。ふふっあなたの大事な人が来ているわよ」
「まだいるのか」
「えぇ」

 そうか……瑞樹、帰らずに俺のことを待っていてくれたのか。
 
 あぁ……とても幸せな帰宅だ。
 一日の疲れが癒されるひと時だ。
 
 
 
 
 
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