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発展編

北の大地で 24

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「瑞樹、そろそろ時間だ」
「あっはい。あっそうだ。東京に持って行きたいものがあって……僕の部屋に取りに行ってもいいですか」
「あぁ、もちろんだ。持っておいで」

 瑞樹は慌てて階段を駆け上って行った。

 和やかな空気に包まれていたので立ち去るのが名残惜しいが、飛行機の時間がある。

 今日、ここに泊まれないのが本当に残念だ。

 何しろ仕事を強引に終わらせ、飛行機に飛び乗ったからな。


****

「パパ、あといくつ寝ればお兄ちゃんに会えるの? 」

 幼稚園のバス停に送る途中に芽生に聞かれて、ハッとした。

「そうだなぁ……おっ! ちょっと見てみろ」
「なあに?」

 芽生を俺の目線まで抱っこしてやり、通りすがりの公園の桜の枝を一緒に見つめた。

「この桜、そろそろ咲くぞ」
「え、まだ何も咲いていないよ」
「いや、咲く時は一気だ。ほら蕾がかなり膨らんでいるだろう? だから、きっともうすぐだぞ」
「そうなの? わー楽しみだなぁ」
「あぁそうだな。芽生もまた風邪ひかないようにしろよ」
「うん。あれはコータくんからもらったんだぁ~」
「おいおい」

 その翌日の夜のことだった。

『本日、3月17日に東京の靖国神社の桜が開花したと気象庁より発表がありました。
平年よりは7日早い開花でした……』
 
 待ちに待ったニュースが流れた。

 今年の開花は早かった!

「パパぁ! 」
「おうっ」
「やったね!」

 思わず芽生と手をパチンと合わせてしまった。

 息子と意気投合だ!

「パパ、じゃあすぐにお兄ちゃんをお迎えに行くでしょう? 」
「もちろんだ! 」
「明日?」
「そうか……うん、そうだな! 」

 頭の中で、明日の仕事の予定を急いで確認した。

 3月の年度末だからクリスマスの時のように翌日休みは取れないが……朝一番のミーティングに顔を出せば、午後は何とかなるだろう。

「よしっ迎えに行ってくるよ」

 急いでスマホで飛行機の便を確認すると、ギリギリ日帰り出来そうだった。

「芽生、待っていろよ。すぐに瑞樹に会えるぞ」
「本当? メイのインフルエンザのせいで二月に遊びにいけなくなってがっかりだったんだ。うれしいな」
「あれはメイのせいじゃないよ。芽生もつらかったな」
「パパ……メイも……早くおにいちゃんにあいたい」

 ポロっと漏れる芽生の本心。瑞樹に懐いているもんな。

 会いたいよな。俺も会いたい!
 
 芽生の頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を閉じた。

 可愛い息子だ。まるで子猫のようだな。まだまだ小さくてかわいい芽生。

 芽生の成長と瑞樹との恋、両方共……俺の大切な宝物だ。そして芽生にとっても、瑞樹は大切な存在だ。

 俺たち家族にとってなくてはならない、大切な存在だ。

 函館行きの飛行機に飛び乗り、君の元へ行けることを実感した時、俺も大空を羽ばたく鳥になった気分だったよ。

 『飛翔』 そんな言葉が脳裏を過った。

 そして大沼での瑞樹との再会。

 氷が解けゆく湖の畔で、夢中になって写真を撮っていた君の姿にハッとした。

 彼自身の心が見えた気がした。

 氷の上から大空に自由に羽ばたいていく、白鳥のようだった。

 綺麗で凛としていて……

 あぁじれったいな。早く君の視界に入りたい。

 俺を見てくれ! 思わずそう叫びそうになった。

  ファインダー越しに俺をしっかり掴まえてくれて、ありがとうな。

 

****

 ここまでやってきた道のりに想いを馳せていると、瑞樹に肩をポンポンっと叩かれた。

「宗吾さんお待たせしました」
「何を取ってきた?」
「あの……これです。全員で写っているものって、これしかなくて……これを東京に戻ったら部屋に飾りたくて」
「どれ?」
 
 瑞樹が大事そうに持ってきたのは、少し色褪せた写真だった。

 まだ小学生の瑞樹と、ここの家族が写っていた。

 とても緊張した面持ちの瑞樹と新しい家族。これは、ここに引き取られた当初のものなのかな。家の前で撮った写真のようだが、瑞樹だけポツンと少し離れた場所に居た。

 切ない写真だ……だが、それは口に出さなかった。

「おいおい瑞樹、何のためにカメラを持っているんだ? 今、撮ればいいじゃいか。その一眼レフで」
「あっそうですね。僕が撮ればいいのか」

 カシャカシャ──

 カメラのシャッター音の度に、あふれる笑顔。

 瑞樹のお母さん。お兄さん、弟……家族が皆、はち切れそうな笑顔だった。

「瑞樹、そのカメラを借りていいか」
「あっはい」
「俺が家族写真を撮ってやるよ」
「えっ」

 瑞樹を真ん中に花屋の前で、写真を撮った。
 
「俺の家に来たら、この写真を飾ろうな」
「宗吾さん、ありがとうございます。僕……やっぱりまた泣きそうです」
「おいおい、泣かせるつもりじゃなかったのだが」

 瑞樹の目尻に浮かぶ涙を、指でそっと拭ってやった。

 とてもあたたかい涙だった。

「おーい、せっかくだから宗吾も入れよ」
「広樹兄さん……ありがとう。そうだね。宗吾さんもこっちに」
「よし、最後に全員で撮ろうか」
「はい! じゃあ……セルフにしますね」

 瑞樹の隣に俺、俺たちを囲むように瑞樹の家族が並んだ。

「おっと、これは……ブーケが必要だな」
「え……兄さんってば」
「いいから、これを持てよ」
「……はい」

 広樹が花屋のショーケースからユリを一輪持ってきて、瑞樹に持たせた。
 
 カシャ──

 これが瑞樹の新しい家族写真だ。

「宗吾さん、瑞樹のことよろしくお願いします」
「宗吾、くれぐれも頼んだぞ」
「宗吾さん、兄さんのこと、よろしくお願いします」

 三人からのメッセージ。愛のこもった言葉をしっかり受け止めた。

「心して……俺は瑞樹と幸せになりたいと思っています」

 なんだか結婚式の一コマみたいで照れるが、俺も猛烈に嬉しかった。

 瑞樹の新しい家族の一員にしてくれて、ありがとう!

 

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