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発展編

北の大地で 8

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 どうしよう。窓辺に立っていたら、宗吾さんに背後からすっぽりと抱きしめられてしまった。その途端……胸の奥がジンと熱くなり心臓の鼓動も一気にドクドクと速くなった。

 きっと彼にも聴こえているはずだ。

 宗吾さんの厚い胸板と逞しい腕がいい。とても安心できる。

 好きだ……僕は宗吾さんのことが好きで好きで溜まらない。そんな気持ちが溢れてくる。
 
 宗吾さんの香りに包まれながら天から舞い降りてくる雪花を見上げると、しあわせが目に見るようだった。同時にひとつひとつ形が違う氷の結晶はすぐに溶けて見えなくなってしまうけれども、それはしあわせのカタチはひとそれぞれで目に見えないのと、同じだとも思った。 

「宗吾さんとの……初めてですね」
「ん?」
「ホワイトクリスマスを、こんな風に一緒に過ごせて嬉しいです」
「俺もだ。今、まさに同じことを考えていたよ」

 その後、宗吾さんの手が首元に伸びて来て、首筋を吸われた。

「んっ……」

 深い場所に深いキスをされ、そのままキツく皮膚を吸われた。すぐにチクッと軽い刺激が走る。

「え……何を? 」
「俺の痕をつけておいたぞ。これはクリスマスプレゼントだ、いや置き土産かな」
「宗吾さんっ」

 慌てて自分の首筋に触れると、その部分だけ濡れて熱をもっていた。

「大丈夫だよ。シャツを着たら見えなくなる場所を選んだから」
「ここに宗吾さんを感じます。でも……もうそれ以上触れられると困るのですが」
「どうかしたのか」
 
 意地悪そうに宗吾さんが聞いて来る。

 思えばあの事件の翌日……僕は宗吾さんの手によって……はじめて吐精した。アイツによって無理矢理引き出されてしまった男の熱が躰の奥にくぐもっていたのを、宗吾さんの手によって放出してもらえ、ようやくあのおぞましい感触を忘れられたのだ。

 宗吾さんによって、上書きしてもらえた躰だ。

 あれ以来、二週間、自分では何もしていなかったので、下半身が顕著に反応してしまう。彼に支えられた腰のあたりがムズムズとしてくる。こんなにも過敏に反応してしまうなんて、自分でも驚く程だ。

「あっ……もしかして、勃っちゃいそうか」
「いっ意地悪しないでください。この部屋には僕の家族がいるのに」
「だよなぁ。楽にしてやりたいが、難しいな」

 そういう宗吾さんだって……きっと大変なはずだ。ちらっと彼のズボンを見ると……僕と同じ状態になっているようだった。わっどうしよう。こんな場所で。そうだ……

「あの……よかったら僕の部屋を見に行きませんか」
「いいのか」

 自ら……二階にある僕の部屋に誘ってしまった。


 サンタクロースとなり僕の元にやってきてくれた宗吾さんに、僕だって何か少しでも贈り物をしたいから。

****

 瑞樹の首筋に我慢できずにキスマークをつけてしまった。こんな独占欲の塊みたいな行為をするなんてと、自分の行動に驚いたが、瑞樹は文句も言うどころか、むしろ過敏に反応しててくれたようなので、ホッとした。

 更に瑞樹からの誘いだ。俺と瑞樹はそっと一階の居間を抜け出て、軋む階段を出来る限り静かに慎重に上った。

「ここが僕の部屋です。寒くありませんか、今暖房を入れますね」
「感慨深いな。ここが瑞樹の個室か」
「えぇ以前は弟と二段ベッドで暮らしていたのですが、今は僕だけで使わせてもらっています」

 そこは4畳半程度の小さな洋室だった。ポツンと置かれた木のベッド。

「これ、二段ベッドの名残なんですよ」
「あぁ俺も昔は兄貴とこんなの使っていたな」
「そういえば宗吾さんにもお兄さんがいると言っていましたよね」
「まぁな。でも今は兄貴の話はいいから、瑞樹の学生アルバムがみたいな」

 いつか瑞樹の家に行くことがあったらしてみたいことがあった。そのうちの一つだ。

「あ……中学、高校?」
「どっちもだ」
「恥ずかしいですね、なんだか僕の過去を暴かれるようで」
「どれ?」

 瑞樹と俺はベッドに腰掛けて、アルバムを見た。

「これが瑞樹か」
「あっ、はい。よく分かりましたね」
「まだあどけないな。制服がまだ大きいな」
「広樹兄さんのお下がりだったので……その、大きくて大変でした。悔しかったです」

 中学生になったばかりの瑞樹は緊張した面持ちで写っていた。確かに制服はぶかぶかで手が見えない。これは……きっと家庭事情が影響しているのだろう。

「どれ、こっちは高校か」
「はい」
「おっこっちは今とあまり変わっていないな」
「そうでしょうか」

 高校の入学式だろうか。集合写真で真ん中よりやや後ろの列に瑞樹は立っていた。背筋を伸ばして真っすぐに前を見据えて。

「へぇ……思ったより背が高かったんだな」
「今でも、それなりにありますよ。僕だって174cmはあるのに、兄さんも潤も……宗吾さんは更に高身長だから、僕だけなんだか低く見えて悔しいです」
「だな」

 そうか174cmもあるのか。日本人男性としてはそれなりに背は高い方だ。俺の眼には可愛く愛おしい存在として映っているのだが、アルバムの中の瑞樹はちゃんと男子高校生だった。当たり前だが。今だって話し方は丁寧だが、女々しい所なんてひとつもない爽やかな好青年だ。

「ところでクラブは何をしていたんだ?」
「実は生徒会に所属していました」
「え?」
「意外ですか。書記をしていたんですよ」
「そうか~ 書記か。真面目な瑞樹に似合っているな」

 アルバムの生徒会風景の中に確かに学ラン姿の瑞樹がいた。

 ん? なんだコイツ。瑞樹の肩に手をかけて馴れ馴れしいな。
 あっ! こっちの写真でも違う男性と肩を組んでいる。

「宗吾さん? どうかしましたか」

 瑞樹が不安そうな顔で覗き込んでくる。

 いかんいかん。つい鼻息が荒くなってしまった(オレ、おっさんだよな。こんな反応ばかりで、すまん)

「この頃の瑞樹にも会いたいな。この手を剥がして俺と肩を組ませたい」
「くすっ宗吾さんまたそんなことを」

 写真の中のふたりに妬いてしまった。

「コイツだれだ?」
「あぁ当時の生徒会長ですよ」
「ムムっ、じゃあこっちは」
「副会長ですよ。懐かしいです」
「うーむ」

 もう我慢ならない。

 瑞樹の肩を掴んで見つめると、瑞樹も静かに瞼を閉じてくれた。

 キスは、してもいいんだな。

 彼と唇をぴったりと合わせると、寒い部屋だったが確かな温もりを感じた。

 写真の中の瑞樹ではない、生身の瑞樹が、今、ここにいる。






 










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