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発展編
帰郷 40
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「瑞樹、お粥を完食出来たわね。偉かったわね」
母がスプーンを置いて、にっこり微笑んでくれると、胸の奥がくすぐったい気持ちになった。
「少し食欲が出て来たみたい……でもこの手じゃ何も出来ないから困ったな」
「焦らないでいいのよ。綺麗に治すためには最初が肝心だって先生も言っていたわ。だから私が入院中は瑞樹の指先になるから何でも遠慮しないで頼むのよ。えっと食後はこのお薬ね。痛み止めはちゃんと飲まないとね」
「うん」
「はいお水よ。口を開いて」
恥ずかしかったが言われるがままに口を開いた。これじゃ五歳児どころか赤ちゃんみたいに手取り足取りだ。
「少し横になる?」
「でもまだ眠くないから、起きていようかな」
「あら? ちょうど誰か来たみたいよ」
母の言う通り廊下から賑やかな声が聴こえて来た。耳を澄ますと広樹兄さんと潤の声、他に女性ともう一人……えっ! この声ってもしかして……彼の声は艶があって話し方も上品なので、すぐに分かった。
「……まさか洋くんが」
病室の扉が開くと想像通りだった。この夏に知り合ったばかりの洋くんが立っていた。北鎌倉から軽井沢まで、わざわざ駆けつけてくれたのか。
「……瑞樹くん」
「洋くん何で……」
「突然でごめんね。でも君のことが心配で溜まらなかったんだ」
洋くんは僕のこの酷い怪我の有様をみて辛そうに顔をしかめたが、すぐに真っすぐ見つめてくれた。それから僕のベッドまで近づいて膝立ちになり俯いてしまった。今にも泣き出しそうに思い詰めている。
「瑞樹くん、こんなに……大怪我をしてしまったのか」
「洋くんにまで心配かけてごめん。でも洋くんのおかげで寸での所で助かったんだよ」
「じゃあ……俺は……少しは君の役に立てた?」
自分を責めるように洋くんは苦悩の表情を浮かべていた。そんな洋くんの背中を傍にいた女性が優しく擦ってあげた。
「洋くん……久しぶりね。分かる? 」
「あっ優也さんのお姉さん」
そうか……この女性は新幹線の中で僕に話しかけてくれた人だ。
「あ……挨拶もそぞろでごめんなさいね。えっと、はじめまして。新幹線であなたの異変にちゃんと気づいてあげられなくて、ごめんなさい」
「そんな……僕のほうこそ、きちんと言えなくて」
「いいのよ。あんな境遇に立たされたら誰だってそうなるわ。でも皆があなたのことを大切に想っているから、あっという間に伝達出来たのよ。ソウルから北鎌倉、そしてあなたの大事な人……軽井沢まで、まるで一本の紐で結ばれたような見事な連携プレーだったのよ」
「皆が僕のことを想って?」
改めて見渡すと、狭い病室に僕のために駆けつけてくれた人たちがずらりと並んでいた。
お母さん、広樹兄さん、潤……そして洋くん、松本さんのお姉さん……そして今はここにいないけれども……いち早く駆けつけ僕を助け出し一晩ずっと寄り添ってくれた宗吾さん。
家族と死別した僕はいつも心の奥で「僕も一緒に死んでしまいたかった。僕だけ幸せになるんなんて申し訳ない」という心の葛藤と戦っていた。
なりたい僕と、望んではいけない幸せの狭間で揺らいでいたのに……周りの人たちの心はそんなことは関係ないと言わんばかりに、僕の無事を喜んでくれるのが泣けてくる。
「皆ありがとう。僕は生きていてよかった。心も躰も……殺されなくてよかった」
そんな言葉が自然と漏れていた。
本当にそう思った。もしもあいつに最後まであの場で犯されていたら……今、この状態ではいられなかっただろう。
****
広樹兄さんと潤は、函館に一足先に戻ることになった。
「兄さん……お母さんがいなくてお店大丈夫かな」
「あぁ心配するなよ。潤が当分家にいるから店を手伝ってもらうよ。それに潤はそのうち皆がびっくりすることを発表するよ」
それは何だろう?と興味を持った。
「潤がどうかしたの?」
「まぁ時期がきたら話すが、いい話になると思うよ」
「そうなの? 楽しみにしているよ。潤」
「兄さん……オレは自分がしたことを悔いている。だから一生責任を持って償って生きて行くよ。もう二度と過ちは犯さない」
「潤……もういいんだよ。そんなに自分を責めなくても。お前はちゃんとやり直せる。僕が応援するから」
「はぁやっぱり瑞樹は変わってないな。あんな目にあっても瑞樹らしいままだ」
「こんな僕でもいいのか」
「うん、そのままでいて欲しい」
そうなのか、無理に変わらなくてもいいのか。僕が今まで生きて来た道は間違っていなかったと言われているようで、素直に嬉しかった。
「なぁ瑞樹。退院したら函館に一度戻って来ないか。向こうでゆっくり静養するのも手だぞ」
「そうだね……ありがとう。考えてみるよ」
退院後どうするかはまだ未定だったが、大沼に行きたい気持ちは残っていた。十七回忌の法要のことも中断してしまって気になっていた。
「じゃあ、私は息子が待っているので、これで失礼しますね」
「あ……松本さん本当にありがとうございます。あなたの勇気がなかったら僕はこうしてここにはいられませんでした」
「ううん……厳密には息子が気づいてくれたのよ。新幹線の中であなたの笑顔が全然笑っていないと教えてくれて」
「じゃあ息子くんのお陰えもあるのですね」
「私もあなたと宗吾さんには色々学ばさせてもらったし、私自身が抱えていた苦い思いを昇華できたわ」
松本さんはこの街の有力者らしく、僕の入院のことや広樹兄さんたちの宿泊先、何もかも手配してくれて、事件も必要以上に大事にならないようにしてくれたそうだ。本当にこのタイミングで巡り合えてよかった。
皆が帰ってしまうと、洋くんと僕とお母さんの三人になった。
お母さんが気遣って買い物に行くというので、洋くんとふたりきりで向き合うことが出来た。
「洋くん、今日は泊っていけるのかな」
「いや日帰りの予定だよ」
「そう? でもなんだか夜道は心配だな。一泊して明るいうちに帰ったらどうかな」
「くすっさっき宗吾さんにも同じようなことを言われたよ」
「え? 彼に会った?」
「駅前でね。寂しい道だからタクシーに乗って行けって言われたよ。優しいね」
「宗吾さんらしいな」
洋くんは少しだけ改まってこう話を続けた。
「実は……俺も瑞樹くんと似たような経験があって……だからさっきは取り乱してごめん」
それは何となく漠然と気が付いていた。僕なんかよりずっと女顔で美し過ぎる洋くんが、よからぬ性欲の対象として狙われた過去があるのを察していた。
「瑞樹くんは……抵抗して逃げ切ることが出来てよかった。でも未遂だったとしても、されたことは心底嫌なことだったよね。吐き気がする程に……男でも女でも意に染まない相手に無理矢理に躰の大切な部分を暴かれ触れられるのは、寒気がする程……嫌なことだ」
そこまではっきり洋くんは言い放った。
封じ込めていた記憶が蘇ってきてしまう。反応するように躰が震え出し、冷たくなっていく。
「洋くん、やめて……それ以上は言わないで欲しい」
「いや、ちゃんと今のうちに向き合っておいた方がいい。さっきから君は聞き分けのいい、いい子になり過ぎているから」
「……そんな」
だが図星かもしれない。
皆が僕を心配して駆けつけてくれたことが嬉しくて、早く元気な姿を見せようと焦ってしまった部分がある。無理した部分もある。
宗吾さんにはちらっと見せた弱い感情も……お母さんや兄さんたちの前では出せなくて取り繕ってしまっていたのかも。それは無意識に染み付いた僕の性質と習慣だ。
「ごめん。俺はね、今、わざと酷いことを言っている。お兄さんや弟さんの前ではそれでいいんだよ。でも俺の前では全部吐き出して欲しい。俺はそういう体験、経験を何度もしているから分かるんだ。理不尽な目に遭った心の悲鳴を溜め込むのは、躰に良くない」
「あっ……洋くんにもそんなことが……じゃあ分かるんだね。僕のこの歯がゆい想い。抗えない力に抑え込まれる恐怖。無理矢理に着ているものを剥ぎ取られる恥ずかしさ……男なのに……そういう対象になり強姦されかけたこと自体が、もう恥ずかしいんだ。あんな大きな事件になりニュースにもなっているなんて」
「瑞樹くん、君は何も悪くない。勝手に想いをこじらせた相手が全部悪い。だから全部吐き出していいんだよ。一度だけ真正面からその嫌な気持ちの塊と向かいあってくれないか。俺が受け留めるから、俺に吐き出してくれ。ほら……」
トンっと洋くんに背中を叩かれた拍子に嗚咽が漏れ、そのまま慟哭してしまった。
「あんな奴に……やめてくれって何度も頼んだのに聞いてもらえなかった。すごい力で……嫌だ、嫌だと叫んだのに……ベルトを外されて下半身を剥き出しに……あぁ……あんな所を触られ舐められ……気持ち悪い。うっ……」
「大丈夫。もう……大丈夫だ。今吐き出そう。溜まった気持ちは見えない傷となり……やがて君の躰を内側から蝕む病原体になりかねない。だから早く外に出してしまうといい。よく聞いてくれ。 君は助かった! 最後までやられてない! 大丈夫だ、もう大丈夫……」
洋くんも泣きながら、僕を必死に励ましてくれた。
※あとがき(不必要な人はスルーしてくださいね)
****
志生帆 海です。
今日は3500文字と二日分位の分量になってしまいました。
今日のラスト、洋との会話で、彼らが巡り合った意味が見えてきました。
瑞樹の心は未遂とはいえども……深く傷ついています。つい周りに心配をかけまいと取り繕ってしまう清らかな瑞樹だから、全部溜め込んでも元気になっていったかもしれませんが……
ここは洋にあそこまで言わせ、敢えて瑞樹に全部吐き出させました。
荒治療かもしれませんが、これは洋にしか出来ないことでした。
瑞樹は宗吾さんと心身ともに健康な状態になって結ばれて欲しいなって願っているので
最近辛い展開が続いてしまいました。リアクションで応援くださりありがとうございます。
そろそろ帰郷の段も終わりです。なんと40話(1カ月以上)も書いていたのですね~びっくり。
次は明るい段になります!
母がスプーンを置いて、にっこり微笑んでくれると、胸の奥がくすぐったい気持ちになった。
「少し食欲が出て来たみたい……でもこの手じゃ何も出来ないから困ったな」
「焦らないでいいのよ。綺麗に治すためには最初が肝心だって先生も言っていたわ。だから私が入院中は瑞樹の指先になるから何でも遠慮しないで頼むのよ。えっと食後はこのお薬ね。痛み止めはちゃんと飲まないとね」
「うん」
「はいお水よ。口を開いて」
恥ずかしかったが言われるがままに口を開いた。これじゃ五歳児どころか赤ちゃんみたいに手取り足取りだ。
「少し横になる?」
「でもまだ眠くないから、起きていようかな」
「あら? ちょうど誰か来たみたいよ」
母の言う通り廊下から賑やかな声が聴こえて来た。耳を澄ますと広樹兄さんと潤の声、他に女性ともう一人……えっ! この声ってもしかして……彼の声は艶があって話し方も上品なので、すぐに分かった。
「……まさか洋くんが」
病室の扉が開くと想像通りだった。この夏に知り合ったばかりの洋くんが立っていた。北鎌倉から軽井沢まで、わざわざ駆けつけてくれたのか。
「……瑞樹くん」
「洋くん何で……」
「突然でごめんね。でも君のことが心配で溜まらなかったんだ」
洋くんは僕のこの酷い怪我の有様をみて辛そうに顔をしかめたが、すぐに真っすぐ見つめてくれた。それから僕のベッドまで近づいて膝立ちになり俯いてしまった。今にも泣き出しそうに思い詰めている。
「瑞樹くん、こんなに……大怪我をしてしまったのか」
「洋くんにまで心配かけてごめん。でも洋くんのおかげで寸での所で助かったんだよ」
「じゃあ……俺は……少しは君の役に立てた?」
自分を責めるように洋くんは苦悩の表情を浮かべていた。そんな洋くんの背中を傍にいた女性が優しく擦ってあげた。
「洋くん……久しぶりね。分かる? 」
「あっ優也さんのお姉さん」
そうか……この女性は新幹線の中で僕に話しかけてくれた人だ。
「あ……挨拶もそぞろでごめんなさいね。えっと、はじめまして。新幹線であなたの異変にちゃんと気づいてあげられなくて、ごめんなさい」
「そんな……僕のほうこそ、きちんと言えなくて」
「いいのよ。あんな境遇に立たされたら誰だってそうなるわ。でも皆があなたのことを大切に想っているから、あっという間に伝達出来たのよ。ソウルから北鎌倉、そしてあなたの大事な人……軽井沢まで、まるで一本の紐で結ばれたような見事な連携プレーだったのよ」
「皆が僕のことを想って?」
改めて見渡すと、狭い病室に僕のために駆けつけてくれた人たちがずらりと並んでいた。
お母さん、広樹兄さん、潤……そして洋くん、松本さんのお姉さん……そして今はここにいないけれども……いち早く駆けつけ僕を助け出し一晩ずっと寄り添ってくれた宗吾さん。
家族と死別した僕はいつも心の奥で「僕も一緒に死んでしまいたかった。僕だけ幸せになるんなんて申し訳ない」という心の葛藤と戦っていた。
なりたい僕と、望んではいけない幸せの狭間で揺らいでいたのに……周りの人たちの心はそんなことは関係ないと言わんばかりに、僕の無事を喜んでくれるのが泣けてくる。
「皆ありがとう。僕は生きていてよかった。心も躰も……殺されなくてよかった」
そんな言葉が自然と漏れていた。
本当にそう思った。もしもあいつに最後まであの場で犯されていたら……今、この状態ではいられなかっただろう。
****
広樹兄さんと潤は、函館に一足先に戻ることになった。
「兄さん……お母さんがいなくてお店大丈夫かな」
「あぁ心配するなよ。潤が当分家にいるから店を手伝ってもらうよ。それに潤はそのうち皆がびっくりすることを発表するよ」
それは何だろう?と興味を持った。
「潤がどうかしたの?」
「まぁ時期がきたら話すが、いい話になると思うよ」
「そうなの? 楽しみにしているよ。潤」
「兄さん……オレは自分がしたことを悔いている。だから一生責任を持って償って生きて行くよ。もう二度と過ちは犯さない」
「潤……もういいんだよ。そんなに自分を責めなくても。お前はちゃんとやり直せる。僕が応援するから」
「はぁやっぱり瑞樹は変わってないな。あんな目にあっても瑞樹らしいままだ」
「こんな僕でもいいのか」
「うん、そのままでいて欲しい」
そうなのか、無理に変わらなくてもいいのか。僕が今まで生きて来た道は間違っていなかったと言われているようで、素直に嬉しかった。
「なぁ瑞樹。退院したら函館に一度戻って来ないか。向こうでゆっくり静養するのも手だぞ」
「そうだね……ありがとう。考えてみるよ」
退院後どうするかはまだ未定だったが、大沼に行きたい気持ちは残っていた。十七回忌の法要のことも中断してしまって気になっていた。
「じゃあ、私は息子が待っているので、これで失礼しますね」
「あ……松本さん本当にありがとうございます。あなたの勇気がなかったら僕はこうしてここにはいられませんでした」
「ううん……厳密には息子が気づいてくれたのよ。新幹線の中であなたの笑顔が全然笑っていないと教えてくれて」
「じゃあ息子くんのお陰えもあるのですね」
「私もあなたと宗吾さんには色々学ばさせてもらったし、私自身が抱えていた苦い思いを昇華できたわ」
松本さんはこの街の有力者らしく、僕の入院のことや広樹兄さんたちの宿泊先、何もかも手配してくれて、事件も必要以上に大事にならないようにしてくれたそうだ。本当にこのタイミングで巡り合えてよかった。
皆が帰ってしまうと、洋くんと僕とお母さんの三人になった。
お母さんが気遣って買い物に行くというので、洋くんとふたりきりで向き合うことが出来た。
「洋くん、今日は泊っていけるのかな」
「いや日帰りの予定だよ」
「そう? でもなんだか夜道は心配だな。一泊して明るいうちに帰ったらどうかな」
「くすっさっき宗吾さんにも同じようなことを言われたよ」
「え? 彼に会った?」
「駅前でね。寂しい道だからタクシーに乗って行けって言われたよ。優しいね」
「宗吾さんらしいな」
洋くんは少しだけ改まってこう話を続けた。
「実は……俺も瑞樹くんと似たような経験があって……だからさっきは取り乱してごめん」
それは何となく漠然と気が付いていた。僕なんかよりずっと女顔で美し過ぎる洋くんが、よからぬ性欲の対象として狙われた過去があるのを察していた。
「瑞樹くんは……抵抗して逃げ切ることが出来てよかった。でも未遂だったとしても、されたことは心底嫌なことだったよね。吐き気がする程に……男でも女でも意に染まない相手に無理矢理に躰の大切な部分を暴かれ触れられるのは、寒気がする程……嫌なことだ」
そこまではっきり洋くんは言い放った。
封じ込めていた記憶が蘇ってきてしまう。反応するように躰が震え出し、冷たくなっていく。
「洋くん、やめて……それ以上は言わないで欲しい」
「いや、ちゃんと今のうちに向き合っておいた方がいい。さっきから君は聞き分けのいい、いい子になり過ぎているから」
「……そんな」
だが図星かもしれない。
皆が僕を心配して駆けつけてくれたことが嬉しくて、早く元気な姿を見せようと焦ってしまった部分がある。無理した部分もある。
宗吾さんにはちらっと見せた弱い感情も……お母さんや兄さんたちの前では出せなくて取り繕ってしまっていたのかも。それは無意識に染み付いた僕の性質と習慣だ。
「ごめん。俺はね、今、わざと酷いことを言っている。お兄さんや弟さんの前ではそれでいいんだよ。でも俺の前では全部吐き出して欲しい。俺はそういう体験、経験を何度もしているから分かるんだ。理不尽な目に遭った心の悲鳴を溜め込むのは、躰に良くない」
「あっ……洋くんにもそんなことが……じゃあ分かるんだね。僕のこの歯がゆい想い。抗えない力に抑え込まれる恐怖。無理矢理に着ているものを剥ぎ取られる恥ずかしさ……男なのに……そういう対象になり強姦されかけたこと自体が、もう恥ずかしいんだ。あんな大きな事件になりニュースにもなっているなんて」
「瑞樹くん、君は何も悪くない。勝手に想いをこじらせた相手が全部悪い。だから全部吐き出していいんだよ。一度だけ真正面からその嫌な気持ちの塊と向かいあってくれないか。俺が受け留めるから、俺に吐き出してくれ。ほら……」
トンっと洋くんに背中を叩かれた拍子に嗚咽が漏れ、そのまま慟哭してしまった。
「あんな奴に……やめてくれって何度も頼んだのに聞いてもらえなかった。すごい力で……嫌だ、嫌だと叫んだのに……ベルトを外されて下半身を剥き出しに……あぁ……あんな所を触られ舐められ……気持ち悪い。うっ……」
「大丈夫。もう……大丈夫だ。今吐き出そう。溜まった気持ちは見えない傷となり……やがて君の躰を内側から蝕む病原体になりかねない。だから早く外に出してしまうといい。よく聞いてくれ。 君は助かった! 最後までやられてない! 大丈夫だ、もう大丈夫……」
洋くんも泣きながら、僕を必死に励ましてくれた。
※あとがき(不必要な人はスルーしてくださいね)
****
志生帆 海です。
今日は3500文字と二日分位の分量になってしまいました。
今日のラスト、洋との会話で、彼らが巡り合った意味が見えてきました。
瑞樹の心は未遂とはいえども……深く傷ついています。つい周りに心配をかけまいと取り繕ってしまう清らかな瑞樹だから、全部溜め込んでも元気になっていったかもしれませんが……
ここは洋にあそこまで言わせ、敢えて瑞樹に全部吐き出させました。
荒治療かもしれませんが、これは洋にしか出来ないことでした。
瑞樹は宗吾さんと心身ともに健康な状態になって結ばれて欲しいなって願っているので
最近辛い展開が続いてしまいました。リアクションで応援くださりありがとうございます。
そろそろ帰郷の段も終わりです。なんと40話(1カ月以上)も書いていたのですね~びっくり。
次は明るい段になります!
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