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発展編

帰郷 29

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※暴力シーン、地雷あり。苦手な方は飛ばしてください。








****

「痛っ!!」

 彼が僕の一撃をまともに喰らい、股間を押さえたまま蹲った。その隙に必死にもがいて高橋に組み敷かれた状況から脱した。

「待てぇー!」

 早くっ、早く逃げないと。玄関へとまっしぐらにまっしぐらに走った。




 なのに……ドアノブが回らないなんて! 現実は残酷だ。

 恐る恐る彼を方を振り向くと、まだ蹲ったままの彼の口元がニヤリと歪んだ。

「はははっ、瑞樹くんは見た目よりお転婆だね。でも逃げられない……その扉は開かないよ。ちょっと細工をしたからね」
「!!」

 変な汗が滴り落ちる。それでも必死にガチャガチャと回すが、やはり扉は開かない。

 どうして僕はこんな目に遭っているのか。まだ自分の置かれた状況が信じられないでいた。

 今日の朝……空港で仲直りした潤と前だけを見つめ未来だけを見て立っていたのに、どうしてこんなことになった? 僕の判断が間違えていたのか、潤とのすれ違いの時間が生んだ歪なのか……これは! 

「君は逃げられないよぉ。もう大人しく僕のモノになってよ。優しくするよ~」
「嫌だっ……誰が! 」

 宗吾さんと出逢い、宗吾さんが本当の僕を見つけてくれた。僕のホームになってくれると囁いてくれた。

 彼の熱い抱擁。熱いキス。熱い視線を思い出せ。僕は宗吾さんの所に戻らないと! 絶対に彼の元に戻りたい。無傷で!

「さぁもう気が済んだかなぁ。早くこっちにおいで。全く油断したよ。言う事を聞かない子は縛らないとね」

 ギクリとして彼の手元を見つめると、赤い紐らしきものを握っていた。まさかそれで僕を拘束する気なのか。絶対に捕まるわけにはいかない。

 そうだ、玄関が駄目なら二階はどうだ? バルコニーや木があれば伝い降りることが出来るのでは。一か八かだ。高橋を避け、玄関脇の階段を一気に上へと駆けのぼった。

「あっ待て!」

 ここはおそらく貸別荘だろう。二階には左右に部屋があり、右側の部屋の扉を開けると寝室になっていた。シングルのベッドが二つ並び、ドレッサーや箪笥なども整然と並んでいた。 

 ドアの内側に鍵がついていたので、素早く入り込んで扉を閉め鍵をかけた。

 やがて彼が階段を上る足音が近づいたかと思うと、ドアノブをガチャガチャと回しだした。

「あーあ、やっぱり鍵をかけちゃったねぇ。もう、しょうがないなぁ」
 
 どうしよう! このままでは、きっとまたさっきと同じ状況になってしまう。彼が一旦階段を降りる音がしたので、慌てて部屋の家具をドアの前に移動させた。ベッドや箪笥……重たい家具を次々と積み上げた。

 僕のどこにこんな力がと思う程、力が湧いてきた。

 交通事故で亡くなった両親……弟の元へ……後を追いたいと思う日もあった僕なのに、こんなにも生きたいと、生きて宗吾さんの元へ戻りたいと願うなんて!

 「あった! あったよぉ~」

 家具を移動し終わったタイミングで、場違いにおどけた彼の不気味な声が下から響いて来てギクリとした。

 やっぱり鍵があったのか……もう……時間の問題だ。

 部屋の片隅に座り込んでブルブルと震えていると、積み重ねられた家具のドレッサーの鏡に映る僕と目が合った。

 ……悲惨だった。

 殴られて口の端が切れて血が滲み、叩かれた頬も腫れている。着ていたシャツはビリビリに破かれ肌が丸見えだ。胸元の……舐められた箇所が変な熱を持ったようで気持ち悪い。まさに男なのに男にやられる寸前の際どい状況に追い込まれていた。

 嫌だ……絶対に僕の躰をあんな奴に明け渡すわけにはいかない。

 人に嫌われるのが怖くて、ずっと我慢して控えめに生きて来た。でも……これは違う。こんな風に一方的に性の捌け口にされるのは望んでいない。

 僕は宗吾さんと幸せになりたい。

 僕だってそうなっていいと……あの人は言ってくれた。
 もうそこまで来ていた僕の幸せ。手を伸ばせば掴める距離だったのに──

 ガチャガチャ──

「あれぇ? ちょっと開けてよ」
「開けろよ!」
「開けろって言ってんだろ!」

 どんどん高橋の言葉が乱暴になってくる。同時にドスンドスンと体当たりしているのか、ドアに衝撃が加わった。その度に家具が少しずれていくので必死に攻防した。

 嫌だ。ここを突破されたら、その先は……さっき自分の躰が受けた扱い……その嫌悪感を思い出すと背筋が凍る。





 どの位時間が経ったのか。1時間以上経ったかもしれない。まだなんとか持ち堪えているのか。だが相手も凄い力で、もう僕の体力も限界になっていた。

「くそぉ、僕の力じゃ埒が明かないなぁ。アイツを呼ぶかぁ」
「……」

 このままじゃ駄目だ。僕がここから逃げるためには、どうしたらいいのか。

 やっと少し冷静になり部屋を見渡すと、窓があるのに今更ながら気がついた。びっちり遮光カーテンが閉まっていたので気が付かなかったが、腰高窓が部屋の真ん中にあった。

 慌ててカーテンを開くと、パアッっと光が差し込んできた。外はまだこんなに明るかったのか。まるで光の洪水だ。
 
 ここから逃げたい! そう思い錆付いた両開き窓を大きく開くと、唖然とした。

 思ったより高さがある。下が芝生ならと願ったがコンクリートだった。掴まる場所も木もない。ここから飛び降りたら、大怪我をしてしまうかも。打ちどころが悪かったら……大変なことになる。だが……

 その時一段と大きな衝撃があり、積み重ねていた家具がガラガラと崩れ、ドアがギイィィと不快音を立てながら、ゆっくりと開いた。
 
 怒り狂った目で現れたのは、あの男だった。僕は恐怖に震え後ずさりする。

「手加減したらいい気になって……油断していたよ」

 凄い力でバッと襲い掛かられ、床に倒され羽交い絞めにされた。

「嫌だぁー!」

 喉の奥から悲鳴が漏れた。あっという間に両手を一つに縛りあげられ、ズボンのベルトを乱暴に外され、ずり下げられてしまった。

 本当に呆気ない程、簡単に……手籠めにされていく。あまりの悲惨な状況に唖然としてしまう。

「やめっ」
「煩い!手こずらせやがって!」
「嫌だ、嫌だー!」

 強引に下着を剥ぎ取られ、腰を抱え込まれる。レイプされるとはこういうことなのだ。潤に風呂場でされたことなんかの比じゃない。恐怖、嫌悪、羞恥心にまみれ、悔し涙で視界がグショグショになる。強引に指で蕾を探られたので、必死に身を捩った。

「やめろ! 触るな!」
「おっと、暴れないで。あぁここだね。うーん狭いねぇ。あぁやっとつながれるねぇ。この日を待ち望んでいたよぉ。僕の方はもうこんなになってるよぉ」

 高橋が舌なめずりをして、自分の股間をズボンの上から揉みほぐして見せた。

 もう駄目なのか……








「瑞樹ー!!」

 その時、空耳? 幻聴か……

 いや、確かに窓の外から声がした。

「瑞樹ーそこにいるか! 窓だ! その窓から逃げろ!」

 うそ……なんで彼がここに……このタイミングで……

 でも、これは確かに僕の愛する宗吾さんの声だ! 

 僕を必死に呼んでくれている。

「俺を信じろ!」

 その声に励まされ、僕は死に物狂いで抵抗した。

 宗吾さんの元に戻るために!

 頭突きで彼を引き離し、縛られていた紐が緩んでいたので急いで解き、必死に窓から身をのり出すと、眼下に宗吾さんの顔が見えた。









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