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発展編
帰郷 23
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簡単な朝食を取った後、宗吾さんと一緒に芽生くんをタクシーで迎えに行った。
「朝からタクシーなんて贅沢ですよ」
「だが瑞樹と二人きりの時間も大切だろう。お陰でギリギリまで君と過ごせた」
宗吾さんが明るい笑顔でウインクするものだから、猛烈に恥ずかしくなってしまった。しかし添い寝してくれた宗吾さんのスーツは皺くちゃだ。大丈夫かな。
「宗吾さん、スーツ皺になってしまいましたね」
「まぁしょうがない。脱ぐと節操なしになりそうだったから必死に自制したのだから、偉いと褒めてほしいよ。実家に予備があるから大丈夫だよ」
「……なっなるほど」
紳士的な宗吾さん。
僕も男だからあの状況でセーブするのがどんなに大変だか痛い程分かる。本当に早く函館に行ってまたここに戻って来たいと、そればかり思ってしまう。焦るのは良くないと思うのに、待ち遠しい。
僕の気持ちは、もう宗吾さんへの想いで一杯だ。朝から彼と一緒にいられるだけで、こんなにも幸せだなんて。
後部座席で僕達はそっと手を繋いだ。鞄で隠れて見えない場所でギュっと握ってもらうだけで元気が出た。
これで一日頑張れる、函館にも旅立てる。
「いい朝だな」
「本当にそう思います」
****
「おはようございます」
「まぁまぁ……瑞樹くんも一緒だったのね」
「あっお兄ちゃんだ! やったーおはよう~」
宗吾さんのお母さんの家に着くと、玄関先で温かく迎えてもらえてほっとした。お母さんが変わらぬ笑顔で優しい眼差して見つめてくれるのが心地良かった。
「瑞樹、俺は着替えて来るから、居間で待っていてくれ」
「はい」
「瑞樹くんはお紅茶でもいかが」
「あ……いただきます」
「お・に・い・ちゃーん!」
ソファで待っていると、幼稚園の制服を着た芽生くんが膝に乗ってきた。ひょいと持ち上げて抱っこしてあげると、嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふふ、おにいちゃん、12月になったらね、幼稚園にもサンタさんが来るんだって」
「へぇそうなの? 」
「みんなにプレゼント配ってくれるんだよ。楽しみだな」
「それはいいね」
クリスマス。もうそんな時期なのか。僕が函館から戻って来る頃には、きっとこの街もクリスマスムードで溢れているだろうな。
「さぁどうぞ。ミルクと砂糖はここよ。そうだ今度、函館に帰られるのですって? 」
「あ、そうです。久しぶりに帰省することにしました」
「そうなのね。それはいい事ね。親御さんも喜ばれるでしょう」
「……その時に僕の本当の両親の法要もしてきます」
「まぁ……本当のご両親って? もうお亡くなりになっていたの?」
「えぇ実はそうなんです。もう十七回忌になります」
宗吾さんのお母さんにも、なかなか話せなかった僕の家の事情を自然に伝えることが出来た。きっと潤との関係が改善したことが影響しているのだろう。
「そうなのね。そうだわ。あなた数珠は持っている?」
「いえ恥ずかしながら、そういう事にずっと縁遠かったもので……これから買おうかと」
「じゃあ私が贈ってもいいかしら」
「え……」
「実はね、知り合いの仏具屋さんで、あなたに似合いそうなものを見つけて買っておいたのよ。これも偶然なのかしら」
宗吾さんのお母さんから手渡されたのは、男物の数珠だった。
「数珠はね、一人一人の身代わりにもなる仏具なの。これを持つことで功徳があるとされているのよ。これは星月菩提樹という材料で出来ているの。珠の表面に黒く見える細かい点模様があるでしょう。その模様を『月と星』に例え、1粒で空(宇宙)を表していると言われているのよ。私はこれが好き。人との巡り逢いと似ているから。これは瑞樹くん、あなたのものよ。函館に持って行ってね」
「僕なんかに、わざわざ……」
「あなただからよ。宗吾と一緒にいることを選んでくれたあなたに贈りたかったの」
「ありがとうございます。大事にします。函館に持って行きます」
人の心が温かくて、また泣きそうになってしまう。僕の涙腺は壊れてしまったのか。
「あれ? お兄ちゃん泣いているの」
「うん、でも……これは嬉し涙と言うんだよ」
「うれしい時にも泣くんだね。じゃあ芽生もえーんえーんしないと」
「え?」
「だっておにいちゃんがいてくれるから。おにいちゃんダイスキ! 」
小さな手が僕を抱きしめてくれる。胸の奥がキュンっと音を立てる。愛おしい存在がここにもいる。
「うん、うん僕も芽生くんが好きだよ、大好きだよ」
「あーまた抜け駆けを! ずるいぞ~芽生ばっかり」
そんな光景を見て、宗吾さんが大人げなく騒いでいる。
「こら宗吾! なんです。そのはしたない声は!」
「ははっ、瑞樹は我が家でもモテモテだな」
「でも宗吾は函館に行かなくていいの? 一緒に行ってあちらのご両親にご挨拶した方がいいんじゃないの? 」
「あーそれはだな。まずは瑞樹が先に行って説明してからってことになった」
「そうなの? 瑞樹くん、でも必要な時はこの子を連れていきなさい。何かの役に立つかも。芽生のことは我が家で預かれるから、ちゃんと自分を大切にするのよ」
そんなにまで心配してもらえて、僕は本当に幸せだ。
「はい。宗吾さんは次の帰省の時にはぜひ。今回はこの数珠を連れて行きます」
「まぁ可愛い事を。贈った甲斐があったわ」
「朝からタクシーなんて贅沢ですよ」
「だが瑞樹と二人きりの時間も大切だろう。お陰でギリギリまで君と過ごせた」
宗吾さんが明るい笑顔でウインクするものだから、猛烈に恥ずかしくなってしまった。しかし添い寝してくれた宗吾さんのスーツは皺くちゃだ。大丈夫かな。
「宗吾さん、スーツ皺になってしまいましたね」
「まぁしょうがない。脱ぐと節操なしになりそうだったから必死に自制したのだから、偉いと褒めてほしいよ。実家に予備があるから大丈夫だよ」
「……なっなるほど」
紳士的な宗吾さん。
僕も男だからあの状況でセーブするのがどんなに大変だか痛い程分かる。本当に早く函館に行ってまたここに戻って来たいと、そればかり思ってしまう。焦るのは良くないと思うのに、待ち遠しい。
僕の気持ちは、もう宗吾さんへの想いで一杯だ。朝から彼と一緒にいられるだけで、こんなにも幸せだなんて。
後部座席で僕達はそっと手を繋いだ。鞄で隠れて見えない場所でギュっと握ってもらうだけで元気が出た。
これで一日頑張れる、函館にも旅立てる。
「いい朝だな」
「本当にそう思います」
****
「おはようございます」
「まぁまぁ……瑞樹くんも一緒だったのね」
「あっお兄ちゃんだ! やったーおはよう~」
宗吾さんのお母さんの家に着くと、玄関先で温かく迎えてもらえてほっとした。お母さんが変わらぬ笑顔で優しい眼差して見つめてくれるのが心地良かった。
「瑞樹、俺は着替えて来るから、居間で待っていてくれ」
「はい」
「瑞樹くんはお紅茶でもいかが」
「あ……いただきます」
「お・に・い・ちゃーん!」
ソファで待っていると、幼稚園の制服を着た芽生くんが膝に乗ってきた。ひょいと持ち上げて抱っこしてあげると、嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふふ、おにいちゃん、12月になったらね、幼稚園にもサンタさんが来るんだって」
「へぇそうなの? 」
「みんなにプレゼント配ってくれるんだよ。楽しみだな」
「それはいいね」
クリスマス。もうそんな時期なのか。僕が函館から戻って来る頃には、きっとこの街もクリスマスムードで溢れているだろうな。
「さぁどうぞ。ミルクと砂糖はここよ。そうだ今度、函館に帰られるのですって? 」
「あ、そうです。久しぶりに帰省することにしました」
「そうなのね。それはいい事ね。親御さんも喜ばれるでしょう」
「……その時に僕の本当の両親の法要もしてきます」
「まぁ……本当のご両親って? もうお亡くなりになっていたの?」
「えぇ実はそうなんです。もう十七回忌になります」
宗吾さんのお母さんにも、なかなか話せなかった僕の家の事情を自然に伝えることが出来た。きっと潤との関係が改善したことが影響しているのだろう。
「そうなのね。そうだわ。あなた数珠は持っている?」
「いえ恥ずかしながら、そういう事にずっと縁遠かったもので……これから買おうかと」
「じゃあ私が贈ってもいいかしら」
「え……」
「実はね、知り合いの仏具屋さんで、あなたに似合いそうなものを見つけて買っておいたのよ。これも偶然なのかしら」
宗吾さんのお母さんから手渡されたのは、男物の数珠だった。
「数珠はね、一人一人の身代わりにもなる仏具なの。これを持つことで功徳があるとされているのよ。これは星月菩提樹という材料で出来ているの。珠の表面に黒く見える細かい点模様があるでしょう。その模様を『月と星』に例え、1粒で空(宇宙)を表していると言われているのよ。私はこれが好き。人との巡り逢いと似ているから。これは瑞樹くん、あなたのものよ。函館に持って行ってね」
「僕なんかに、わざわざ……」
「あなただからよ。宗吾と一緒にいることを選んでくれたあなたに贈りたかったの」
「ありがとうございます。大事にします。函館に持って行きます」
人の心が温かくて、また泣きそうになってしまう。僕の涙腺は壊れてしまったのか。
「あれ? お兄ちゃん泣いているの」
「うん、でも……これは嬉し涙と言うんだよ」
「うれしい時にも泣くんだね。じゃあ芽生もえーんえーんしないと」
「え?」
「だっておにいちゃんがいてくれるから。おにいちゃんダイスキ! 」
小さな手が僕を抱きしめてくれる。胸の奥がキュンっと音を立てる。愛おしい存在がここにもいる。
「うん、うん僕も芽生くんが好きだよ、大好きだよ」
「あーまた抜け駆けを! ずるいぞ~芽生ばっかり」
そんな光景を見て、宗吾さんが大人げなく騒いでいる。
「こら宗吾! なんです。そのはしたない声は!」
「ははっ、瑞樹は我が家でもモテモテだな」
「でも宗吾は函館に行かなくていいの? 一緒に行ってあちらのご両親にご挨拶した方がいいんじゃないの? 」
「あーそれはだな。まずは瑞樹が先に行って説明してからってことになった」
「そうなの? 瑞樹くん、でも必要な時はこの子を連れていきなさい。何かの役に立つかも。芽生のことは我が家で預かれるから、ちゃんと自分を大切にするのよ」
そんなにまで心配してもらえて、僕は本当に幸せだ。
「はい。宗吾さんは次の帰省の時にはぜひ。今回はこの数珠を連れて行きます」
「まぁ可愛い事を。贈った甲斐があったわ」
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