上 下
155 / 1,730
発展編

帰郷 13

しおりを挟む
 瑞樹の家にふらふらとした足取りで向かう間、オレの頭の中では天使と悪魔が交互に顔を出し、「戒め」と「甘い言葉」を囁かれているような状態だった。

 最悪だよな。オレ……もう二十歳も過ぎたのに、まだこのザマだ。

 オレが中学生の頃までの瑞樹は、五歳も年下のオレの顔色を窺ってビクビク、おどおどしてばかりで、それがすごく嫌だった。

 まぁそもそもの発端は、瑞樹が家にやってきて間もない頃、オレのことを瑞樹の死んだ弟と間違ったのが気に食わなくて、一気に嫌ってしまった事からだ。ついでにオレのキツく横柄な性格が、繊細な瑞樹をどんどん委縮させていたことに気が付いたのは、最近だ。

 それからもっと酷いことを、瑞樹にしてしまった。

 中学にあがり性に目覚めたばかりのオレの好奇心の餌食にしてしまった。いつまでも一緒に風呂に入ることを強要し、瑞樹の男として大事な部分を揶揄ったり弄んでしまった。

 結果、瑞樹はますますオレを避けるようになり怖がって、高校卒業同時に家を飛び出すように上京してしまった。

 あー当然だよな。

 はぁ全く今となってはどうしてあんなことをしたのか。あ……でもこれだけは言える。瑞樹でなかったら絶対にしなかった。もともと女の子みたいな優しい顔立ちの瑞樹は、成長するにつれて眩しい位に綺麗になって(男に変だよな、こんな表現)……だから触れたくて触れたくて仕方がなかった。本当は大切にしたかったのか……もな。

 でもオレはそれ以上のことはしてないぞ。オレも成長と共に男女の行為、更には同じことを男同士でも出来るのを知り、自分のしていた行為が相当ヤバイことだったと認識した。

 今更……あんな行為を瑞樹にしていたなんて、兄貴にも母にも言えないからもうだんまりだ。必然的にオレは瑞樹のことを家で話題にしなくなった。瑞樹もオレがいる時は帰省しなかったので、もう8年間も会っていない。

 なのにさぁ……あーもう、兄貴が悪いんだぜ。あんな名刺を入れっぱなしにしてくから、オレの中の瑞樹への熱が再熱しちまった。今度は上手くできるか。ちゃんと弟として接することができるか。

 更にその一方で、あの若社長のせいで、オレの凶暴な部分に火をつけられてしまった。

 本当に瑞樹に会わせるだけで手にしたことがないような大金を得られるのか。瑞樹と引き換えに? でもそれって瑞樹をこの手で売るってことだよな。それに瑞樹の身の保全は確約できない。上手い話しには裏があるって言うだろう。100万に見合う扱いを、瑞樹が受けてしまうのか。

 あーもうオレは一体、瑞樹に何をしたいのか。とにかくこのままじゃ自滅だ、駄目だ。

 とにかく瑞樹に会おう! 一度会ってみたら分かるんじゃないか。本当にしたいことが何かがさ。

 瑞樹を貶めるか、救うか……オレはどちらを選べばいいのか。

 そんなことを悶々と堂々巡りのように考えながら、瑞樹の家のドアにもたれて小一時間ほど待ち続けた。すると廊下をこちらに向かって歩いて来る足音が聞こえたので、慌てて顔をあげた。

 すぐに目が合った。

 26歳の瑞樹と。


****

 突然の潤の来訪。

 あまりに驚き過ぎて一瞬固まってしまった。

 だがつい先ほど広樹兄さんから潤が東京に来ていることを聞き、僕もちょうど潤のことを考えていたので、何とか持ち堪えられた。
 
 それに21歳になった潤は、中学生の頃のあの刺々しい印象は影を潜め、どちらかというと広樹兄さんに似た風貌になっていたので、僕の警戒心も少し緩んだ。

「……潤……どうして、ここが」
「やぁ……オレがわかるか」
「当たり前だよ。僕の……弟の潤だから」

 自分でも驚く程、素直に潤のことを弟だと言えた。

 もしかしたら僕はずっと潤と出逢った頃のような普通の兄弟に戻りたかったのかもしれないと、この時になって初めて気づいた。

「え……意外だな。瑞樹の口からそんな台詞」
「そうかな。それより、どうしてここが分かった? 」
「あー兄貴に最近会って名刺を渡しただろう。それ偶然見つけちまってな」
「広樹兄さんに? あぁあれか。まったくきっと上着のポケットに入れっぱなしだったんじゃないか」
「そうそう! 兄貴はいつも作業着で、あんな格好普段しないだろう。だから東京に行ったまま吊るしてあってさ」

 あれ? 不思議な気持ちになってきた。意外な程、普通に会話が出来て驚いてしまった。ずっと警戒して再会するのが怖かった潤なのに、こうやって8年ぶりにまともに顔を合わせてみると、彼は想像よりずっと大人になっていた。社会人に僕より早くなったからなのか。だからなのか。

「悪い。瑞樹が会社から出てくるの待って、一度後をつけたんだ」
「えっ!」

 それはいつだ? 僕の何を見たのか……気になってしまう。

「その、瑞樹、今まで悪かったな。ずっとオレが瑞樹を怖がらせていたことを……その……反省している」
「え……」

 更に潤の口から聞いたことがない謝罪の言葉まで。

 これは、一体どうなっている?

 本当に信じていいのか……僕は潤を信じたい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...