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発展編

深まる秋・深まる恋 16

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 見たいような、見たくないような大幅に揺れ動く感情だった。

「瑞樹くん……俺は怖いよ。あの丈が本当に魔女の仮装をするなんて、本気か」
「僕も怖いな。あの図体の大きなガサツな流にドレスなんて無理だろう」
「おにいちゃん、パパどうなっちゃうの? おばけになるの? こわいよぉ~」

 三人に縋るように見つめられ、僕だって困ってしまう。宗吾さんのイメージがガラガラと崩れて『百年の恋も一時に冷める』状態になったらどうしよう!

 勇気を振り絞り、襖の向こうに声を掛けてみる。

「あの……そろそろいいですか」
「よーし、いいぞ!」

 ガラッと扉が開くと、そこには大柄な三人が仁王立ちしていた。
 
「えっ……あ……?」

 驚きのあまり目をパチパチさせてしまった。





 あっありえないんですけど! 

 なっ……なんでパンツ一丁に?
 三人とも、さっきの衣装はどこへ?

「なっ……丈!お前、約束破ったのか。魔女の仮装をどこにやった?」
「流、どういうことだ? 何で君たち揃って下着姿なのだ?」
「酷いなぁ。大人って嘘つきだな」と、薙くんもかなりのブーイングだ。
「宗吾さん、僕達は真面目に着たのに……酷いですよ」

「パパ~おへそ出してると、おカゼひいちゃうよ~」

 最後の芽生くんの可愛い反応には癒された。でもなぁ……

 仁王立ちした三人は、ついでに誰が一番筋肉があるか比べっこする始末だ。

「ふふ、丈よりは俺の方がやっぱり逞しいな」
「はぁ……流兄さんは、また大人げないことを」
「ふーん宗吾もたいしたことないな。お前、最近ジム、サボっているだろう? 」
「なっなんで分かる? 」
「筋肉たるんでいるぞ。俺の腹筋はどうだ? いい具合に割れているだろう」
「ムッ」

 ちょっとちょっと待って……ハロウィンの仮装は本当にどこに?
 
「宗吾さん!」
「あっ瑞樹、へぇ白衣姿いいな。似合っているぞ。知的に見えるよ」
「あっありがとうございます、っていうか、それよりナース衣装はどうしたのですか? 着ていたのでは? 」
「あぁちゃんと着たよ」
「どこがですか! 」

 ビシッと厳しい口調で問いかけるが宗吾さんは少しも悪びれることなく、畳の上を指差した。そこに何が?

「あっ!」

 ビリビリに破れた残骸が、見えた。

「俺たちさ、着たことは着たよ。だが一歩歩けばスカートは破れるし、ボタンは吹っ飛ぶしで……自然とズルズル脱げてしまったのさ」

「あ──マジ? オレの制服は無事?」
「あぁあれは誰も着なかった」
「良かった!」
「宗吾が後でどうしても貸してくれって騒いでいたからな」

 それってまた僕に着せたいって言う話か……はぁ宗吾さんは、全くどこまでもシツコイ・ヘンタイだ。

「流……だが物を粗末にしてはいけないよ」
「兄さん、これは不可抗力だ。俺たちは悪くない。そうだ……でも兄さんたちなら、まだ着られそうだな」
「え……そうかな。でもどういうこと? 」

 翠さんが意外な様子で、流さんの意見を促した。

「衣装が泣いているって話だよ。せっかく買ったのに日の目も見ずに破れ果てていくなんて悲しいって」
「そんな……」

 翠さんが破れてしまった衣装を見て、悲し気な表情で振り向いた。

「洋くん、瑞樹くん……君たちと一緒にこれを供養したい」
「くっ供養って?」
「せめて一度ちゃんと着てあげてから廃棄しよう」
「ええぇ……」

 なんでそうなるのか……せっかく僕たちはドラキュラにタキシード。医師と決まっているのに。

「瑞樹くん……申し訳ないけれども、この寺の流儀に従ってもらえるかな」
「はっハイ」

 そんな風にご住職から頼まれたら断れない。なんだかパンツの男たちが期待に満ちた目をしているような気もするが、見ないことにしよう。

「じゃあ一度向こうで着替えよう。さぁ洋くんもおいで」
「あっ……はい」
「薙と芽生くんは、そのまま待っていていいよ」
「はーい!」
「はぁ……父さんってやっぱりどこか達観してるなぁ」

 どうやらこの寺の住職である翠さんのいう事には、皆、逆らえないようだ。

 僕も頭の中でこれは供養だ。供養……供養と必死に唱えながら、宗吾さんが脱いだ(破いた)衣装を着た。

 わっ……ナース服の胸のボタンが吹っ飛んでいるから、胸元がスースーヒラヒラする。それに何でこんなにミニスカートなんだよ! 困る……

 洋くんを見ると今度は魔女姿になっていた。心を無にしているようだが、かなり色っぽい。ドラキュラ姿も色気があったが魔女もいいな。胸元が派手に破れてしまった衣装を懸命に手で押さえて……スカート丈の短かさにも戸惑っている。「丈の奴、こんなに破いて……」

 翠さんはどうだろう? 水色のシンデレラのようなレースのドレスは清楚なのに、所々ビリビリに破れて退廃的な色気が滲み出ている。

 これって……結局、僕達が女装する羽目になったってことかと苦笑してしまう。

「翠さん、さっさと終わらせましょう」

 洋くんがスッと立って申し出る。彼は意外と潔く男らしい所があるようだ。

「そうだね。これ以上じらしてもしょうがない」

 なるほど翠さんは大人の嗜みを知っている人だ。

「おーい! もういいか~い」

 宗吾さん……あのぉ隠れん坊ではないのですが……と突っ込みたくなる。

「よし、じゃあ三人並んで一気に登場しよう」

 襖を明けた途端、丈さん、流さん、宗吾さんが大きく息を呑んだ。続いてゴックンっと……唾を呑み込む音が響く。

「あっ……流!また鼻血!」
「あ……兄さん、すまん」

「洋……それセクシー過ぎるぞ」
「うっうるさい。あんまり見るなよ」

「瑞樹……駄目だ! そんなエロい姿を皆に見せては駄目だ! 」
「宗吾さん……ちょっとお静かに……」

 三者三様の反応に、結局、場が盛り上がる。

 こんなバカげたことが出来るのも、心から信頼している人たちだからだと思う。

 今まで僕の周りに、こんな人たちはいなかった。

 開き直って、僕から宗吾さんに声を掛けてみた。

「宗吾さん……あの、僕の女装どうですか。さっき見たいって言っていたから……満足しましたか」
「あぁ最高だ! 想像以上にいいぞ! あっじゃあ……次は猫耳と尻尾、ついでに学ランもよろしく」
「ちょっ、もう調子に乗らないで下さいよーそれより、早く何か着てください!」
 
 



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