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発展編
深まる秋・深まる恋 9
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そのまま頭部MRIの検査を受け病室で検査結果を待っていると、白衣を着た丈さんがカルテを片手に入ってきた。
「瑞樹くん良かったよ。何も問題はなかった」
「……丈さん、ありがとうございます。心強いです。それから今日は助けて下さってありがとうございます」
「ふっ、君は律儀だな。私に出来る当たり前のことをしただけだから気にしないでいい」
「でも……」
「ならば一つお願いがあるのだが」
何だろう? 命の恩人の頼みなら何でも聞こう。芽生くんを抱えたまま階段を転げ落ち最後に石畳に激突していたら、今頃どうなっていたか。大怪我して入院にならなくて、本当に良かった。
「えぇ、何でも」
「今日は月影寺に泊まってくれないか。あんな高さから転げ落ちてしまったのだから、医師として翌日まで経過をしっかり見守りたい」
「えっそんなの……ご迷惑じゃ」
「とんでもない。もう翠兄さんにも連絡済みだし、皆君たちを歓迎するよ」
隣で話を聞いていた宗吾さんも、ぜひそうしてくれと目で訴えている。確かにもう夕方になってしまったし……僕も月影寺でゆっくり過ごすのを楽しみにしていたので、それもいいのかもしれない。
「ではお言葉に甘えて……」
トントン──
「どうぞ」
病室をノックする可愛い音がし、ドアが開くと芽生くんがかなり着崩れてしまった羽織袴姿でパタパタと駆け寄ってきた。その後ろには洋くんが立っていた。
「お兄ちゃん! もう元気になったの? ボク……本当にごめんなさい。うっうっ……」
僕のベッドまでやってきて、芽生くんは泣き崩れた。
「あぁ泣かないで。丈先生に診て頂いて大丈夫だったよ」
「それにしても芽生、何故一人で行動した? あんな場所を慣れない着物で走るなんて」
「うっ……」
宗吾さんに聞かれて、芽生くんは言葉に詰まって僕を見つめた。
「宗吾さん、芽生くんは悪くないので……どうか」
宗吾さんは何かを察したのか、もうそれ以上問い詰めることはしなかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
芽生くんは僕のベッドによじ登ってきた。
「おいおい! 駄目だ。瑞樹は腕を怪我しているんだから、さぁパパの抱っこで我慢しろ」
「わっ!」
芽生くんは軽々と抱き上げられた。その光景に、ようやくいつもの日常が戻って来たのを実感出来、安堵した。
****
丈さんの運転する車で月影寺へ向かうことになった。その時になって僕を助けてくれた流さんがいないのに気がついた。
「あの、流さんはどこですか」
「あぁ兄さんなら一足先に月影寺に帰ったよ。客人のもてなしをすると、張り切っていたな」
「そんな……急に押しかけてしまって申し訳ないのですから、どうかお気遣いなく」
「瑞樹、そんなに気を遣わなくても良さそうだ」
どうしてもついあれこれ気になってしまう僕を、宗吾さんが優しく諫めてくれる。
「あっ……そうでしょうか」
「そうそう、気軽に遊びに行こうぜ! 寺に泊まれるなんてラッキーだな」
「宗吾さん?」
そんな僕たちのやりとりを助手席の洋くんが笑って聞いていた。
「何というか……二人を足して2で割ると丁度いいかも?」
「あれ? 洋くんは意外と毒舌なんだな」
すかさず丈さんも加勢してくる。
「洋はこんな顔していますが、冷ややかな目をよくしていますよ。要注意人物です。ハハッ」
「おいっ丈っ、言ったな!」
なんだか二人はいいコンビだ。こんな風に軽口を叩けるように、いつか僕と宗吾さんもなるのかな。未来を夢みたくなる。宗吾さんとの未来を。
正直、躰の節々を打撲しておりズキズキと痛かったが、頭はとても冴えていた。
僕がこの手で芽生くんを守れたことの喜びを、ひしひしと噛みしめながら、擦り傷だらけの自分の手のひらをじっと見つめていると、隣に座っている芽生くんが僕の手を握ってくれた。
キュッと可愛い力で……
「おにいちゃんの手ってすごい! あんなキレイなお花をつくれるだけじゃなくて……メイを助けてまもってくれるんだもん。すごーく、かっこいい手だね」
その言葉は嬉し過ぎて、また泣きそうだ。
「僕もメイくんを守ることが出来て嬉しいよ」
(ほらね、お兄ちゃん。だから大丈夫だって言ったでしょう。今度は失わないよ。ずっとその男の子はお兄ちゃんの傍にいてくれるよ」
……夏樹の声が、遠い空から聞こえた。
「メイくん聞いてくれるかな。あのね……僕にはメイくん位の時に事故で死んじゃった弟がいたんだ。だから……今日メイくんを守ったのは僕だけの力じゃないと思う。弟も手を貸してくれたんだよ」
5歳の芽生くんには難しいと思ったが、どうしても夏樹のことを伝えたかった。
「あーやっぱりそうなんだね。メイもね。階段をゴロゴロしているとき、天使の羽が見えた気がしたよ」
「天使か……ありがとう。きっと天国の弟もすごく喜んでいるよ」
「なんだよぉ~メイ。今日随分と美味しい所をもっていくな。あぁぁ俺の最大のライバルは、まさかメイじゃないよな。えっと年の差的に……ありえないよな? うぉぉーなんだか不安だ」
宗吾さんが、まるで不平不満を言うように変なことばかり呟くので、プッと笑ってしまった。しんみりムードも台無しだが、これでいい!
「ハハハッ……瑞樹くんの彼は……結構キモイな」
「なっなんだとぉ?」
「くくくっ、もう、丈やめろよ。お前の方が毒舌だ。それにその言葉遣い、流さんみたいでヘンだぞ!」
夕日を浴びる車中は、いつの間にか爆笑の渦で包まれていた。
「瑞樹くん良かったよ。何も問題はなかった」
「……丈さん、ありがとうございます。心強いです。それから今日は助けて下さってありがとうございます」
「ふっ、君は律儀だな。私に出来る当たり前のことをしただけだから気にしないでいい」
「でも……」
「ならば一つお願いがあるのだが」
何だろう? 命の恩人の頼みなら何でも聞こう。芽生くんを抱えたまま階段を転げ落ち最後に石畳に激突していたら、今頃どうなっていたか。大怪我して入院にならなくて、本当に良かった。
「えぇ、何でも」
「今日は月影寺に泊まってくれないか。あんな高さから転げ落ちてしまったのだから、医師として翌日まで経過をしっかり見守りたい」
「えっそんなの……ご迷惑じゃ」
「とんでもない。もう翠兄さんにも連絡済みだし、皆君たちを歓迎するよ」
隣で話を聞いていた宗吾さんも、ぜひそうしてくれと目で訴えている。確かにもう夕方になってしまったし……僕も月影寺でゆっくり過ごすのを楽しみにしていたので、それもいいのかもしれない。
「ではお言葉に甘えて……」
トントン──
「どうぞ」
病室をノックする可愛い音がし、ドアが開くと芽生くんがかなり着崩れてしまった羽織袴姿でパタパタと駆け寄ってきた。その後ろには洋くんが立っていた。
「お兄ちゃん! もう元気になったの? ボク……本当にごめんなさい。うっうっ……」
僕のベッドまでやってきて、芽生くんは泣き崩れた。
「あぁ泣かないで。丈先生に診て頂いて大丈夫だったよ」
「それにしても芽生、何故一人で行動した? あんな場所を慣れない着物で走るなんて」
「うっ……」
宗吾さんに聞かれて、芽生くんは言葉に詰まって僕を見つめた。
「宗吾さん、芽生くんは悪くないので……どうか」
宗吾さんは何かを察したのか、もうそれ以上問い詰めることはしなかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
芽生くんは僕のベッドによじ登ってきた。
「おいおい! 駄目だ。瑞樹は腕を怪我しているんだから、さぁパパの抱っこで我慢しろ」
「わっ!」
芽生くんは軽々と抱き上げられた。その光景に、ようやくいつもの日常が戻って来たのを実感出来、安堵した。
****
丈さんの運転する車で月影寺へ向かうことになった。その時になって僕を助けてくれた流さんがいないのに気がついた。
「あの、流さんはどこですか」
「あぁ兄さんなら一足先に月影寺に帰ったよ。客人のもてなしをすると、張り切っていたな」
「そんな……急に押しかけてしまって申し訳ないのですから、どうかお気遣いなく」
「瑞樹、そんなに気を遣わなくても良さそうだ」
どうしてもついあれこれ気になってしまう僕を、宗吾さんが優しく諫めてくれる。
「あっ……そうでしょうか」
「そうそう、気軽に遊びに行こうぜ! 寺に泊まれるなんてラッキーだな」
「宗吾さん?」
そんな僕たちのやりとりを助手席の洋くんが笑って聞いていた。
「何というか……二人を足して2で割ると丁度いいかも?」
「あれ? 洋くんは意外と毒舌なんだな」
すかさず丈さんも加勢してくる。
「洋はこんな顔していますが、冷ややかな目をよくしていますよ。要注意人物です。ハハッ」
「おいっ丈っ、言ったな!」
なんだか二人はいいコンビだ。こんな風に軽口を叩けるように、いつか僕と宗吾さんもなるのかな。未来を夢みたくなる。宗吾さんとの未来を。
正直、躰の節々を打撲しておりズキズキと痛かったが、頭はとても冴えていた。
僕がこの手で芽生くんを守れたことの喜びを、ひしひしと噛みしめながら、擦り傷だらけの自分の手のひらをじっと見つめていると、隣に座っている芽生くんが僕の手を握ってくれた。
キュッと可愛い力で……
「おにいちゃんの手ってすごい! あんなキレイなお花をつくれるだけじゃなくて……メイを助けてまもってくれるんだもん。すごーく、かっこいい手だね」
その言葉は嬉し過ぎて、また泣きそうだ。
「僕もメイくんを守ることが出来て嬉しいよ」
(ほらね、お兄ちゃん。だから大丈夫だって言ったでしょう。今度は失わないよ。ずっとその男の子はお兄ちゃんの傍にいてくれるよ」
……夏樹の声が、遠い空から聞こえた。
「メイくん聞いてくれるかな。あのね……僕にはメイくん位の時に事故で死んじゃった弟がいたんだ。だから……今日メイくんを守ったのは僕だけの力じゃないと思う。弟も手を貸してくれたんだよ」
5歳の芽生くんには難しいと思ったが、どうしても夏樹のことを伝えたかった。
「あーやっぱりそうなんだね。メイもね。階段をゴロゴロしているとき、天使の羽が見えた気がしたよ」
「天使か……ありがとう。きっと天国の弟もすごく喜んでいるよ」
「なんだよぉ~メイ。今日随分と美味しい所をもっていくな。あぁぁ俺の最大のライバルは、まさかメイじゃないよな。えっと年の差的に……ありえないよな? うぉぉーなんだか不安だ」
宗吾さんが、まるで不平不満を言うように変なことばかり呟くので、プッと笑ってしまった。しんみりムードも台無しだが、これでいい!
「ハハハッ……瑞樹くんの彼は……結構キモイな」
「なっなんだとぉ?」
「くくくっ、もう、丈やめろよ。お前の方が毒舌だ。それにその言葉遣い、流さんみたいでヘンだぞ!」
夕日を浴びる車中は、いつの間にか爆笑の渦で包まれていた。
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