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発展編
深まる秋・深まる恋 8
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「うっ……」
「瑞樹! 気がついたか! 」
目が覚めると視界が定まらなくてぼんやりしてしまった。頭上に広がっているは、先ほどまでの秋晴れの青空ではなく、真っ白な天井だった。
一瞬自分がどこに居るのか分からなかったが、すぐに宗吾さんの声が聞こえたので、ほっとした。
「……宗吾さん? 」
「良かった! 俺が分かるか」
宗吾さんは泣きそうな顔をしていた。何でそんな表情を? あぁそうか僕……お詣りの後、階段から落ちて……
「あっ芽生くんは! 無事ですか」
「あぁ大丈夫だ。傷一つなかった。瑞樹が守ってくれたからだよ……本当にありがとう。命の恩人だよ」
それを聞いて心から安堵した。本当に良かった。あんな高い階段からひとりで落ちたら大けがも免れなかっただろう。
「良かったです。芽生くんに怪我なくて……今、どこですか」
「うん、待合室で遊んでもらっているよ」
「すみません。また僕のせいで……僕はどうやら宗吾さんのご家庭に……災いを招いてしまうようです」
本当にそうだ。今日だって僕が芽生くんの傍にいなければ……あんな風な言いがかりをつけられることもなかった。
結局こうなのだな。幸せになるのが怖いのではなく、幸せになってはいけない人間なのかもしれない。
何故なら……あの大事故で……一人生き残ってしまった僕だから。
「僕はどうでもよかったんです。芽生くんさえ助かれば」
ピシッ──
「馬鹿! さっきから何を考えている? しっかりしろ!」
宗吾さんが僕の頬を叩いた。
「えっ……」
慌てて宗吾さんを見ると、彼の目は真っ赤に充血していた。
宗吾さんが泣いているのか……まさか。
「瑞樹、頼むから……自分をもっと大切にしてくれよ! 瑞樹がいなくなったら、俺はどうしたらいい? 芽生を助けてくれて感謝しているが、もっと自分の躰のことも心配してくれよ。さっきから周りのことばかり気にして、もう見ていられないよ」
「そんな……」
でも確かにそうだ。どこかで昔から自分の躰なんてという考えが根付いていた。
「宗吾さん、どうか泣かないで……下さい」
宗吾さんの目元に浮かぶ涙を拭いてあげようと思ったら、腕に激痛が走った。
「痛っ」
「コラっ! 手を動かすな」
「あの……僕、もしかしてどこか怪我していますか」
「ふぅ……やっと聞いてくれたな」
「すみません。詳細を話していただけますか」
****
七五三詣りの御札の送付手続きを終えてベンチに向かうと、二人の姿が見えなかった。
「あれ、どこへ?」
何だか嫌な予感がしたのと同時に、人混みの向こうから女性の悲鳴が聞こえた。
『キャー! 男の子が階段から落ちたわ! 』
『危ない!』
男の子……?
慌てて人をかき分け大石段の上に立つと、階段を転げ落ちていく瑞樹と芽生の姿が見えて驚いた! 何でこんなことに!
芽生は瑞樹の胸に深くしっかり抱かれ頭をぶつけないように守ってもらっていた。だが……そんなことしたら、瑞樹……君が傷ついてしまうのに!
「なっ何てことだ! 瑞樹ー! 芽生ー!」
大声を上げながら俺は階段を一気にかけ降りた。加速した二人の人間を途中で止めるのは至難の業だが、そんなこと言っていられない。階段の終わりが近い、このままではすごい衝撃で石畳にぶつかってしまう! どうしたらいいのか!
そう思った時、階段下によく知った顔を見つけた。
「おいっ宗吾、大丈夫だ! こっちに任せろ!」
体格のよい男二人が安全な姿勢で、着ていたコートを広げて、落ちてくる瑞樹と芽生を受け止めてくれた。
彼らは……あの月影寺の人たちではないか!
三兄弟のうちの二人……流と丈さんだった。二人の機転のお陰で石畳に激突を免れてよかった。本当に良かった。どうなることかと思った。
「君っ大丈夫か。しっかり! 丈は子供を見てくれ」
「了解。兄さんは子供を、いきなり動かさないように」
「分かった」
「おい坊や! 意識はあるか。手や足は動くか」
「うわーん、ごっごめんなさい」
すぐに芽生の泣き声が聞こえてきたので、ほっとした。一方で瑞樹はぐったりと意識を失っていた。やっと俺も階段の下に追いついた。
「流、助けてくれて……ありがとう! 二人は無事なのか」
興奮しすぎて息が上がって……上手く言葉が出ない。
「宗吾、大変だったな。ちょっと待ってろ。丈が彼を診ている」
そうか……丈さんは外科医だったな。
「パパ! ごめんなさい。芽生のせいでお兄ちゃんが」
芽生は瑞樹に守られていたので、どこも怪我をしていないようだった。着ていた羽織袴も綺麗なままで、どれだけ瑞樹が身を挺して守ったのかが、ひしひしと伝わってきた。
「芽生は怪我ないか」
「うん。ずっとお兄ちゃんがぎゅうって抱っこしてくれたから、どこも痛くないよ」
どこからか救急車のサイレンが鳴り響いてきた。
「とにかく私の病院に連れて行きます。ざっと診た感じ幸い頭も打たなかったし、上手な受け身で階段を転がったようだが、念のため病院で一通りの検査をしましょう」
「あぁ頼みます。心強い……」
****
「という訳なんだが……」
「すみません。僕……芽生くんを助けるのに夢中で、正直よく覚えていなくて……」
とにかく芽生くんを守ることしか考えていなかった。しかし意識が戻る間に……僕は夏樹にあったような気がした。
(お兄ちゃん、頑張って! 助かるよ! 今度は大丈夫だから!)
天使のささやきだったのかな。あれは……
僕と芽生くんが大きな怪我なく済んだのは、きっと夏樹のお陰でもあるんだね。
「ショックで気を失っているとの診断だったが、目が覚めた時に俺のことを忘れていたらどうしようと、マジで悩んだぞ」
「クスッ……宗吾さん……それってドラマの見過ぎじゃ」
「おい! 真剣に心配しているのに」
「すみません。じゃあ……もしかして……ここは丈さんの病院ですか」
「そうだ。倒れたその場に医師が居たのと、ふたりの体格のいい男が階段下で上手に受け止めてくれたのが幸いだったな。瑞樹も骨折などなく、腕を少し捻挫した程度だ。あとは念のため頭を打っていないか検査して、OKだったら月影寺に行けるぞ」
良かった。
何だか今の僕は……無性に月影寺に行きたくて仕方がなかった。
「本当に……瑞樹が……生きていてよかった」
宗吾さんの瞳は涙にしっとりと濡れていて、ベッドに横たわる僕の頬に熱い涙が舞い落ちてきた。その涙の熱さに、ハッとした。
僕の事をこんなにも心配してくれているのが、不謹慎だがとても嬉しかった。
「宗吾さん……僕……生きていても……いいのですね」
「馬鹿! 当たり前だ。瑞樹がいない世界なんて、もう考えられない! 」
以下創作者のひとりごとです。
ご興味ない方は飛ばしてください。
****
昨日の更新で随分リアクションが減ってしまったので、やっぱり……あのような展開は読者の皆様を落ち込ませてしまうだけなのかなと反省しました。でも本日更新部分のために必要不可欠な展開だったと、自分の中では思っています。
私は……もちろん甘い話も好きですが、そこにたどり着くまでの課程をじっくり書くのが好きで……結局このような話になってしまうのです(T-T)
でももしもこの先も二人の熱い恋の行方を応援して下さる方がいらしたら、これからもどうぞ宜しくお願いします。いつも読んでくださってありがとうございます。
「瑞樹! 気がついたか! 」
目が覚めると視界が定まらなくてぼんやりしてしまった。頭上に広がっているは、先ほどまでの秋晴れの青空ではなく、真っ白な天井だった。
一瞬自分がどこに居るのか分からなかったが、すぐに宗吾さんの声が聞こえたので、ほっとした。
「……宗吾さん? 」
「良かった! 俺が分かるか」
宗吾さんは泣きそうな顔をしていた。何でそんな表情を? あぁそうか僕……お詣りの後、階段から落ちて……
「あっ芽生くんは! 無事ですか」
「あぁ大丈夫だ。傷一つなかった。瑞樹が守ってくれたからだよ……本当にありがとう。命の恩人だよ」
それを聞いて心から安堵した。本当に良かった。あんな高い階段からひとりで落ちたら大けがも免れなかっただろう。
「良かったです。芽生くんに怪我なくて……今、どこですか」
「うん、待合室で遊んでもらっているよ」
「すみません。また僕のせいで……僕はどうやら宗吾さんのご家庭に……災いを招いてしまうようです」
本当にそうだ。今日だって僕が芽生くんの傍にいなければ……あんな風な言いがかりをつけられることもなかった。
結局こうなのだな。幸せになるのが怖いのではなく、幸せになってはいけない人間なのかもしれない。
何故なら……あの大事故で……一人生き残ってしまった僕だから。
「僕はどうでもよかったんです。芽生くんさえ助かれば」
ピシッ──
「馬鹿! さっきから何を考えている? しっかりしろ!」
宗吾さんが僕の頬を叩いた。
「えっ……」
慌てて宗吾さんを見ると、彼の目は真っ赤に充血していた。
宗吾さんが泣いているのか……まさか。
「瑞樹、頼むから……自分をもっと大切にしてくれよ! 瑞樹がいなくなったら、俺はどうしたらいい? 芽生を助けてくれて感謝しているが、もっと自分の躰のことも心配してくれよ。さっきから周りのことばかり気にして、もう見ていられないよ」
「そんな……」
でも確かにそうだ。どこかで昔から自分の躰なんてという考えが根付いていた。
「宗吾さん、どうか泣かないで……下さい」
宗吾さんの目元に浮かぶ涙を拭いてあげようと思ったら、腕に激痛が走った。
「痛っ」
「コラっ! 手を動かすな」
「あの……僕、もしかしてどこか怪我していますか」
「ふぅ……やっと聞いてくれたな」
「すみません。詳細を話していただけますか」
****
七五三詣りの御札の送付手続きを終えてベンチに向かうと、二人の姿が見えなかった。
「あれ、どこへ?」
何だか嫌な予感がしたのと同時に、人混みの向こうから女性の悲鳴が聞こえた。
『キャー! 男の子が階段から落ちたわ! 』
『危ない!』
男の子……?
慌てて人をかき分け大石段の上に立つと、階段を転げ落ちていく瑞樹と芽生の姿が見えて驚いた! 何でこんなことに!
芽生は瑞樹の胸に深くしっかり抱かれ頭をぶつけないように守ってもらっていた。だが……そんなことしたら、瑞樹……君が傷ついてしまうのに!
「なっ何てことだ! 瑞樹ー! 芽生ー!」
大声を上げながら俺は階段を一気にかけ降りた。加速した二人の人間を途中で止めるのは至難の業だが、そんなこと言っていられない。階段の終わりが近い、このままではすごい衝撃で石畳にぶつかってしまう! どうしたらいいのか!
そう思った時、階段下によく知った顔を見つけた。
「おいっ宗吾、大丈夫だ! こっちに任せろ!」
体格のよい男二人が安全な姿勢で、着ていたコートを広げて、落ちてくる瑞樹と芽生を受け止めてくれた。
彼らは……あの月影寺の人たちではないか!
三兄弟のうちの二人……流と丈さんだった。二人の機転のお陰で石畳に激突を免れてよかった。本当に良かった。どうなることかと思った。
「君っ大丈夫か。しっかり! 丈は子供を見てくれ」
「了解。兄さんは子供を、いきなり動かさないように」
「分かった」
「おい坊や! 意識はあるか。手や足は動くか」
「うわーん、ごっごめんなさい」
すぐに芽生の泣き声が聞こえてきたので、ほっとした。一方で瑞樹はぐったりと意識を失っていた。やっと俺も階段の下に追いついた。
「流、助けてくれて……ありがとう! 二人は無事なのか」
興奮しすぎて息が上がって……上手く言葉が出ない。
「宗吾、大変だったな。ちょっと待ってろ。丈が彼を診ている」
そうか……丈さんは外科医だったな。
「パパ! ごめんなさい。芽生のせいでお兄ちゃんが」
芽生は瑞樹に守られていたので、どこも怪我をしていないようだった。着ていた羽織袴も綺麗なままで、どれだけ瑞樹が身を挺して守ったのかが、ひしひしと伝わってきた。
「芽生は怪我ないか」
「うん。ずっとお兄ちゃんがぎゅうって抱っこしてくれたから、どこも痛くないよ」
どこからか救急車のサイレンが鳴り響いてきた。
「とにかく私の病院に連れて行きます。ざっと診た感じ幸い頭も打たなかったし、上手な受け身で階段を転がったようだが、念のため病院で一通りの検査をしましょう」
「あぁ頼みます。心強い……」
****
「という訳なんだが……」
「すみません。僕……芽生くんを助けるのに夢中で、正直よく覚えていなくて……」
とにかく芽生くんを守ることしか考えていなかった。しかし意識が戻る間に……僕は夏樹にあったような気がした。
(お兄ちゃん、頑張って! 助かるよ! 今度は大丈夫だから!)
天使のささやきだったのかな。あれは……
僕と芽生くんが大きな怪我なく済んだのは、きっと夏樹のお陰でもあるんだね。
「ショックで気を失っているとの診断だったが、目が覚めた時に俺のことを忘れていたらどうしようと、マジで悩んだぞ」
「クスッ……宗吾さん……それってドラマの見過ぎじゃ」
「おい! 真剣に心配しているのに」
「すみません。じゃあ……もしかして……ここは丈さんの病院ですか」
「そうだ。倒れたその場に医師が居たのと、ふたりの体格のいい男が階段下で上手に受け止めてくれたのが幸いだったな。瑞樹も骨折などなく、腕を少し捻挫した程度だ。あとは念のため頭を打っていないか検査して、OKだったら月影寺に行けるぞ」
良かった。
何だか今の僕は……無性に月影寺に行きたくて仕方がなかった。
「本当に……瑞樹が……生きていてよかった」
宗吾さんの瞳は涙にしっとりと濡れていて、ベッドに横たわる僕の頬に熱い涙が舞い落ちてきた。その涙の熱さに、ハッとした。
僕の事をこんなにも心配してくれているのが、不謹慎だがとても嬉しかった。
「宗吾さん……僕……生きていても……いいのですね」
「馬鹿! 当たり前だ。瑞樹がいない世界なんて、もう考えられない! 」
以下創作者のひとりごとです。
ご興味ない方は飛ばしてください。
****
昨日の更新で随分リアクションが減ってしまったので、やっぱり……あのような展開は読者の皆様を落ち込ませてしまうだけなのかなと反省しました。でも本日更新部分のために必要不可欠な展開だったと、自分の中では思っています。
私は……もちろん甘い話も好きですが、そこにたどり着くまでの課程をじっくり書くのが好きで……結局このような話になってしまうのです(T-T)
でももしもこの先も二人の熱い恋の行方を応援して下さる方がいらしたら、これからもどうぞ宜しくお願いします。いつも読んでくださってありがとうございます。
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