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発展編
深まる秋・深まる恋 7
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『七五三は子供の無事の成長を祝う行事で、お子様の健やかな成長を願うのは、いつの世も変わらない親の愛情です』
祈祷前の宮司の言葉が、僕の心を明るく灯していた。
いつの世も変わらない親の愛情か……もう忘れていた僕自身の七五三の記憶色鮮やかにが蘇ってきた。上等な羽織袴を着せてもらい両親と手を繋いだ道は、どこまでも真っ直ぐだった。そして手の温もりはポカポカと温かかった。
僕もちゃんと愛されていた。愛情を注いでもらっていた。そのことを思い出すことが出来て嬉しい。それから僕の腕の中で冷たくなって逝ってしまった夏樹の幸せも願った。
(夏樹……天国に七五三祝いがあるか分からないけれども、父さんや母さんと一緒にお詣りしたかな。あのままお前が生きていれば秋には七五三詣りをする予定だったよ。僕が着たのと同じ羽織袴がいいって、早くから母さんが予約していたしね)
「あーもう足が痛いよ~」
「そうだね。芽生くん正座がんばったね」
「だからお兄ちゃん、約束の千歳飴っていうの買ってね」
七五三祝いの祈祷が本宮で終わると、すぐに芽生くんに強請られた。やはりこういう所はお子様だな。まだ五歳だもんな。
「そうだったね。えっと、どこで売っているかな」
「あぁそれなら瑞樹、この袋に入っているみたいだぞ」
祈祷所の出口で頂戴した白い紙袋を、宗吾さんが渡してくれた。
「本当だ。芽生くん!中に千歳飴が入っていたよ」
「わーい!それ……ちょっと食べてみたいなぁ。メイお腹空いたし」
「え……それはどうかな」
こういう許可は宗吾さんに仰がないと。宗吾さんはそれを聞いて父親らしい顔で頷いてくれた。
「いいよ、芽生の言う通りにして。今日は特別だぞ」
「あっハイ」
「俺は向こうでお札の郵送手続きをしてくるから、あそこのベンチで食べながら待っていてくれるか」
「分かりました」
早速芽生くんを木陰のベンチに座らせて、千歳飴を1本剥いて食べさせてあげた。
「うわぁ~あまい! ミルク味だよ~」
「そう? よかった!」
芽生くんが小さな舌をペロペロだして舐める様子が子猫みたいに可愛くて、思わず目を細めて眺めてしまった。
「おにいちゃんもたべる? どーぞ」
芽生くんがしゃぶって既に唾液まみれのものだったが躊躇なく味見させてもらった。なんだか宗吾さんと知り合い芽生くんと接するうちに、もう僕も血を分けた弟みたいに感じている証拠だね。
「んっ本当だ。とても美味しいよ。ありがとう」
「お兄ちゃん、やっぱりニコニコしてる方がいいよ。その方がカワイイもん!今日はちょっと元気なかったよね」
「え?」
芽生くんは将来すごいプレイボーイになったりして。少し僕の元気がなかったのを見破っているのも、すごいな。
ところが……突然そんな和やかな雰囲気を壊す陰湿な声が届いた。
「きっもーい!」
それはベンチの向かいに座っていた男の子の悪意に満ちた声だった。妹さんの付き添いで来たのだろうか。小学校高学年位か……この年代は厄介だということを僕は嫌という程知っている。
「え? なんで」
芽生くんがキョトンとした表情を浮かべ反応してしまった。
「さっきから見てたんだけどさぁ、お前の親って二人とも男じゃん! そういうの何て言うのかオレ知ってるぜ!」
「うっ……うるさい! 別にいいんだもん」
「へぇ~いーんだ。気持ち悪い人と一緒でも。そんな風に飴舐めさせたら変な病気が移るぜ!」
「おにいちゃんを、気持ち悪いっていうなー!」
こんな風にあからさまに敵意を剥き出しにされ呆気にとられてしまった。それにしても、芽生くんに向かってそれを言うなんて……酷い!
「キモイ! キモイ! ビョウキになるぜ!」
その男の子は芽生くんのことを小突き出した。ますますエスカレートしていく中傷に、芽生くんは赤くなって震えていた。
駄目だ! ぼんやりしている場合ではない。僕がなんとかしないと!
「君……いい加減にやめてくれないか」
男の子の手を止めるために手首を掴もうとすると、ギョッとした顔をされた。
「わっ! キタナイ! オレにさわんな! オカマがうつるだろっ!」
「ひどい……おにいちゃんに、あやまれよ!」
今度は芽生くんが手を出し、相手をひっかこうとし出した。
あっ! 反撃しては駄目だ。無になってやり過ごさないと、まともに相手するのは無謀だ。けれども……まだ五歳の芽生くんには、そんなことは通じない。
「芽生くん駄目だ! 僕なら大丈夫だから、もうやめて! お願いだ」
周りの人も何事かとジロジロと見だしたので、芽生くんはぷいっと顔を背け、いきなり走り出してしまった。
僕は慌てて追いかけた。人混みにぶつかりそうになりながら必死に。
「芽生くん! 待って! 走ったら危ない!」
君は今……着慣れない袴姿だ。不吉な予感は的中してしまう!ようやく視界に捉えた芽生くんの躰が、ぐらりと大きく横に傾いたのが見えた。その下は石段では!
「危ない! 」
「キャー! 男の子が落ちたわ! 」
「わぁー! 」
ゴロゴロと芽生くんが石段を転げ落ち出したのが、スローモーションのように見えた。
早く助けないと!
僕は人混みをかき分け石段を駆け下り、転がり落ちていく芽生くんを、途中でこの胸にしっかりと抱きしめた。
小さな命……僕が守る!
もう二度とあんな悲しい思いはしたくない!
そのまま一緒に落下してしまい、視界がグルグルと目まぐるしく変わっていく。
必死に芽生くんの小さな頭を庇うように守ってやる。
(僕は……いいから……芽生くんをどうか助けてあげて下さい!)
「芽生!瑞樹ー!!」
彼方から宗吾さんの大きな声が……聞こえた。
祈祷前の宮司の言葉が、僕の心を明るく灯していた。
いつの世も変わらない親の愛情か……もう忘れていた僕自身の七五三の記憶色鮮やかにが蘇ってきた。上等な羽織袴を着せてもらい両親と手を繋いだ道は、どこまでも真っ直ぐだった。そして手の温もりはポカポカと温かかった。
僕もちゃんと愛されていた。愛情を注いでもらっていた。そのことを思い出すことが出来て嬉しい。それから僕の腕の中で冷たくなって逝ってしまった夏樹の幸せも願った。
(夏樹……天国に七五三祝いがあるか分からないけれども、父さんや母さんと一緒にお詣りしたかな。あのままお前が生きていれば秋には七五三詣りをする予定だったよ。僕が着たのと同じ羽織袴がいいって、早くから母さんが予約していたしね)
「あーもう足が痛いよ~」
「そうだね。芽生くん正座がんばったね」
「だからお兄ちゃん、約束の千歳飴っていうの買ってね」
七五三祝いの祈祷が本宮で終わると、すぐに芽生くんに強請られた。やはりこういう所はお子様だな。まだ五歳だもんな。
「そうだったね。えっと、どこで売っているかな」
「あぁそれなら瑞樹、この袋に入っているみたいだぞ」
祈祷所の出口で頂戴した白い紙袋を、宗吾さんが渡してくれた。
「本当だ。芽生くん!中に千歳飴が入っていたよ」
「わーい!それ……ちょっと食べてみたいなぁ。メイお腹空いたし」
「え……それはどうかな」
こういう許可は宗吾さんに仰がないと。宗吾さんはそれを聞いて父親らしい顔で頷いてくれた。
「いいよ、芽生の言う通りにして。今日は特別だぞ」
「あっハイ」
「俺は向こうでお札の郵送手続きをしてくるから、あそこのベンチで食べながら待っていてくれるか」
「分かりました」
早速芽生くんを木陰のベンチに座らせて、千歳飴を1本剥いて食べさせてあげた。
「うわぁ~あまい! ミルク味だよ~」
「そう? よかった!」
芽生くんが小さな舌をペロペロだして舐める様子が子猫みたいに可愛くて、思わず目を細めて眺めてしまった。
「おにいちゃんもたべる? どーぞ」
芽生くんがしゃぶって既に唾液まみれのものだったが躊躇なく味見させてもらった。なんだか宗吾さんと知り合い芽生くんと接するうちに、もう僕も血を分けた弟みたいに感じている証拠だね。
「んっ本当だ。とても美味しいよ。ありがとう」
「お兄ちゃん、やっぱりニコニコしてる方がいいよ。その方がカワイイもん!今日はちょっと元気なかったよね」
「え?」
芽生くんは将来すごいプレイボーイになったりして。少し僕の元気がなかったのを見破っているのも、すごいな。
ところが……突然そんな和やかな雰囲気を壊す陰湿な声が届いた。
「きっもーい!」
それはベンチの向かいに座っていた男の子の悪意に満ちた声だった。妹さんの付き添いで来たのだろうか。小学校高学年位か……この年代は厄介だということを僕は嫌という程知っている。
「え? なんで」
芽生くんがキョトンとした表情を浮かべ反応してしまった。
「さっきから見てたんだけどさぁ、お前の親って二人とも男じゃん! そういうの何て言うのかオレ知ってるぜ!」
「うっ……うるさい! 別にいいんだもん」
「へぇ~いーんだ。気持ち悪い人と一緒でも。そんな風に飴舐めさせたら変な病気が移るぜ!」
「おにいちゃんを、気持ち悪いっていうなー!」
こんな風にあからさまに敵意を剥き出しにされ呆気にとられてしまった。それにしても、芽生くんに向かってそれを言うなんて……酷い!
「キモイ! キモイ! ビョウキになるぜ!」
その男の子は芽生くんのことを小突き出した。ますますエスカレートしていく中傷に、芽生くんは赤くなって震えていた。
駄目だ! ぼんやりしている場合ではない。僕がなんとかしないと!
「君……いい加減にやめてくれないか」
男の子の手を止めるために手首を掴もうとすると、ギョッとした顔をされた。
「わっ! キタナイ! オレにさわんな! オカマがうつるだろっ!」
「ひどい……おにいちゃんに、あやまれよ!」
今度は芽生くんが手を出し、相手をひっかこうとし出した。
あっ! 反撃しては駄目だ。無になってやり過ごさないと、まともに相手するのは無謀だ。けれども……まだ五歳の芽生くんには、そんなことは通じない。
「芽生くん駄目だ! 僕なら大丈夫だから、もうやめて! お願いだ」
周りの人も何事かとジロジロと見だしたので、芽生くんはぷいっと顔を背け、いきなり走り出してしまった。
僕は慌てて追いかけた。人混みにぶつかりそうになりながら必死に。
「芽生くん! 待って! 走ったら危ない!」
君は今……着慣れない袴姿だ。不吉な予感は的中してしまう!ようやく視界に捉えた芽生くんの躰が、ぐらりと大きく横に傾いたのが見えた。その下は石段では!
「危ない! 」
「キャー! 男の子が落ちたわ! 」
「わぁー! 」
ゴロゴロと芽生くんが石段を転げ落ち出したのが、スローモーションのように見えた。
早く助けないと!
僕は人混みをかき分け石段を駆け下り、転がり落ちていく芽生くんを、途中でこの胸にしっかりと抱きしめた。
小さな命……僕が守る!
もう二度とあんな悲しい思いはしたくない!
そのまま一緒に落下してしまい、視界がグルグルと目まぐるしく変わっていく。
必死に芽生くんの小さな頭を庇うように守ってやる。
(僕は……いいから……芽生くんをどうか助けてあげて下さい!)
「芽生!瑞樹ー!!」
彼方から宗吾さんの大きな声が……聞こえた。
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