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発展編
実らせたい想い 1
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あれから季節は巡り、もう十月だ。
夏にビーチで日焼けし過ぎて赤くなった肌は皮が剥け、あっという間に元の白さに戻ってしまった。
ふぅ……痛い思いをした割に成果がなかったな。
披露宴会場で生け込みの作業で腕まくりすると、同期の管野に揶揄われた。
「おぉ!もうスベスベだな。元の綺麗な皮膚に戻ってよかったな~ やっぱり葉山はその方がいいぜ」
「そういう管野は黒いままだな」
「俺は地黒だしな、ほれっ! 逞しいだろ? 触ってみるか」
「……いいよ」
「さてと仕事もそろそろおしまいだ。悪いけど俺、もう1件助っ人に行かないと」
「あっそうか。今日はアシスタントありがとう。助かったよ」
「いつでも頼れよ。お前いつもひとりで頑張りすぎ。倒れんなよ~じゃ片付けよろしく」
菅野も忙しいのに、駆け出しの僕の手伝いをしてくれて感謝しているよ。
「よしっ、少し休んでから片付けるか」
壁にもたれて水を飲むために腕を上げると、腕捲りしたワイシャツの袖から自分の肌が見えた。僕だって生け込みの重労働に耐える腕を持っているはずなのに、色白だからひ弱な印象に見えてしまうのかな。
「はぁでも流石に疲れた」
秋は披露宴担当という仕事柄、忙し過ぎる。毎週末披露宴会場の生け込み作業が入っているから、宗吾さんに全然会えない。だからせめて朝の通勤時間を一緒にと思ったのに、宗吾さんも10月頭から3週間もニューヨーク出張中だなんて……寂しすぎるよ。
夏休みが終わったあたりからお互い仕事がバタバタしているな。もう……このまま年を越しそうな勢いだ。結局まだ宗吾さんのお母さんにも挨拶出来ていないし、僕たちの間には相変わらず何も進展していない。僕が遅らせているくせに、少し焦りを覚えていた。
きっと会えないから不安になっているのかも……
そんな時はあの夏の夜を思い出そう。宗吾さんに寄り添って朝まで眠った時間を……
そういえば翌朝、芽生くんにじっと布団の中をのぞき込まれて焦ったな。
(パパとおにいちゃん~ラブラブだね! だっこしあってるの?)
(えっあっ!めっ芽生くん、おはよう!)
(メイもいーれーて)
(わっくすぐったい)
(パパとメイとおにいちゃん、なかよし3にんぐみー)
(おー芽生いいな! それ)
3人でギュッと抱き合って楽しかったな。君たちの家族の一員になれたような気がしたよ。しばらく芽生くんとも会えていないので、それも寂しい。
人恋しくてスマホを開くと、宗吾さんからメールが入っていた。
なんだろう? こんな時間に珍しいな。
――
瑞樹元気か。悪いが急用で、君に是非頼みたいことがある。
実は明日10月10日は芽生の幼稚園の運動会だ。しかし俺はニューヨークにいるから無理で、実家の母に任せていたのだが……その母がぎっくり腰で動けないそうだ。だから瑞樹何とか仕事を抜け出して、少しだけ芽生の運運動会を見に行けないか。ごめんな。瑞樹も忙しいのは重々承知なのだか……
――
えっ明日だって?
午前と夕刻に生け込みの仕事が入っているが、途中……少しの時間ならなんとかなるかもしれない。スケジュールを慌てて確認した。
幼稚園の場所は分かる。しかし急に僕が代わりに行っても大丈夫なのかを、宗吾さんに聞いてみた。
久しぶりに電話で話せるのが嬉しかった。
そうか……時差のせいでなかなか話せないのも欲求不満のひとつなのかも。
「もしもし宗吾さん、えっと……おはようございます。そちらは朝ですよね」
「瑞樹か……おはよう! あぁ……そうだよ。今は6時半かな。それにしても瑞樹からのモーニングコールなんて、今日はいい日になりそうだよ」
電話越しなのに、まるですぐ傍にいるように気さくに話しかけられてドキドキする。うわ……寝起きの宗吾さんの声って少し掠れてハスキーだ。それが艶めいて男らしい色気を感じてしまった。
「あの……メールを読みました。明日は少し抜けられそうなので、行けます」
「そうか! 助かるよ……瑞樹も疲れているのに悪いな。午後の部の『お母さんと一緒に踊ろう』というダンスの演目があって……そこだけ何とか頼みたい。芽生に寂しい想いをさせたくなくて」
「いえ、僕も芽生くんに会いたかったので嬉しいです。でも急に見ず知らずの僕が参加しても大丈夫でしょうか」
「あぁ瑞樹のことはコータくんママに話してある。彼女は運動会の役員もしているので顔が利くしな」
「成る程、あの遊園地で会った方ですね」
僕とも面識があるのでほっとした。
「分かりました。任せてください」
「おう! ありがとう。君は頼りになるな」
頼りになる――
そんな風に言ってもらえて、すごく嬉しい。
「あぁなんだか声を聞くと駄目だな。すぐにでも瑞樹に会いたいよ」
「あの……僕もです」
周りに人がいるので小声で告げた。でも本当に逢いたくて堪らない。
「ふっ嬉しいことを。来週帰国するよ。瑞樹は変わりないか。あっそっちは夜だろう?夜道はひとりで歩くなよ。君の家は少し駅まで歩くから心配だ」
「何もないし、大丈夫ですよ。……それに僕は男です。そんな変な心配しないでください」
「いや十分心配だよ。戸締まりもしっかりするんだぞ」
「はい、分かりました」
宗吾さんは心配症だなと思いつつ……常に僕のことを考えてくれるのがじんわりと伝わって来たので、素直に忠告を聞くことにした。
「瑞樹、好きだよ」
「あっあの……」
「分かっているよ、今仕事先だろう?帰国したら続きをな」
「はい!」
来週には帰国なのか。
よしっ!あと一週間だと思えば寂しさも我慢できる。
だからまずは自分の出来ることを精一杯、仕事をきちんとこなそう。
誰かのために何かが出来るって……生きている喜びに繋がるんだな。
しかもその誰かとは……僕の好きな人だから嬉しさも一入だ。
久しぶりの恋しい人との通話は、僕の疲れた躰と心を充分に潤してくれた。
夏にビーチで日焼けし過ぎて赤くなった肌は皮が剥け、あっという間に元の白さに戻ってしまった。
ふぅ……痛い思いをした割に成果がなかったな。
披露宴会場で生け込みの作業で腕まくりすると、同期の管野に揶揄われた。
「おぉ!もうスベスベだな。元の綺麗な皮膚に戻ってよかったな~ やっぱり葉山はその方がいいぜ」
「そういう管野は黒いままだな」
「俺は地黒だしな、ほれっ! 逞しいだろ? 触ってみるか」
「……いいよ」
「さてと仕事もそろそろおしまいだ。悪いけど俺、もう1件助っ人に行かないと」
「あっそうか。今日はアシスタントありがとう。助かったよ」
「いつでも頼れよ。お前いつもひとりで頑張りすぎ。倒れんなよ~じゃ片付けよろしく」
菅野も忙しいのに、駆け出しの僕の手伝いをしてくれて感謝しているよ。
「よしっ、少し休んでから片付けるか」
壁にもたれて水を飲むために腕を上げると、腕捲りしたワイシャツの袖から自分の肌が見えた。僕だって生け込みの重労働に耐える腕を持っているはずなのに、色白だからひ弱な印象に見えてしまうのかな。
「はぁでも流石に疲れた」
秋は披露宴担当という仕事柄、忙し過ぎる。毎週末披露宴会場の生け込み作業が入っているから、宗吾さんに全然会えない。だからせめて朝の通勤時間を一緒にと思ったのに、宗吾さんも10月頭から3週間もニューヨーク出張中だなんて……寂しすぎるよ。
夏休みが終わったあたりからお互い仕事がバタバタしているな。もう……このまま年を越しそうな勢いだ。結局まだ宗吾さんのお母さんにも挨拶出来ていないし、僕たちの間には相変わらず何も進展していない。僕が遅らせているくせに、少し焦りを覚えていた。
きっと会えないから不安になっているのかも……
そんな時はあの夏の夜を思い出そう。宗吾さんに寄り添って朝まで眠った時間を……
そういえば翌朝、芽生くんにじっと布団の中をのぞき込まれて焦ったな。
(パパとおにいちゃん~ラブラブだね! だっこしあってるの?)
(えっあっ!めっ芽生くん、おはよう!)
(メイもいーれーて)
(わっくすぐったい)
(パパとメイとおにいちゃん、なかよし3にんぐみー)
(おー芽生いいな! それ)
3人でギュッと抱き合って楽しかったな。君たちの家族の一員になれたような気がしたよ。しばらく芽生くんとも会えていないので、それも寂しい。
人恋しくてスマホを開くと、宗吾さんからメールが入っていた。
なんだろう? こんな時間に珍しいな。
――
瑞樹元気か。悪いが急用で、君に是非頼みたいことがある。
実は明日10月10日は芽生の幼稚園の運動会だ。しかし俺はニューヨークにいるから無理で、実家の母に任せていたのだが……その母がぎっくり腰で動けないそうだ。だから瑞樹何とか仕事を抜け出して、少しだけ芽生の運運動会を見に行けないか。ごめんな。瑞樹も忙しいのは重々承知なのだか……
――
えっ明日だって?
午前と夕刻に生け込みの仕事が入っているが、途中……少しの時間ならなんとかなるかもしれない。スケジュールを慌てて確認した。
幼稚園の場所は分かる。しかし急に僕が代わりに行っても大丈夫なのかを、宗吾さんに聞いてみた。
久しぶりに電話で話せるのが嬉しかった。
そうか……時差のせいでなかなか話せないのも欲求不満のひとつなのかも。
「もしもし宗吾さん、えっと……おはようございます。そちらは朝ですよね」
「瑞樹か……おはよう! あぁ……そうだよ。今は6時半かな。それにしても瑞樹からのモーニングコールなんて、今日はいい日になりそうだよ」
電話越しなのに、まるですぐ傍にいるように気さくに話しかけられてドキドキする。うわ……寝起きの宗吾さんの声って少し掠れてハスキーだ。それが艶めいて男らしい色気を感じてしまった。
「あの……メールを読みました。明日は少し抜けられそうなので、行けます」
「そうか! 助かるよ……瑞樹も疲れているのに悪いな。午後の部の『お母さんと一緒に踊ろう』というダンスの演目があって……そこだけ何とか頼みたい。芽生に寂しい想いをさせたくなくて」
「いえ、僕も芽生くんに会いたかったので嬉しいです。でも急に見ず知らずの僕が参加しても大丈夫でしょうか」
「あぁ瑞樹のことはコータくんママに話してある。彼女は運動会の役員もしているので顔が利くしな」
「成る程、あの遊園地で会った方ですね」
僕とも面識があるのでほっとした。
「分かりました。任せてください」
「おう! ありがとう。君は頼りになるな」
頼りになる――
そんな風に言ってもらえて、すごく嬉しい。
「あぁなんだか声を聞くと駄目だな。すぐにでも瑞樹に会いたいよ」
「あの……僕もです」
周りに人がいるので小声で告げた。でも本当に逢いたくて堪らない。
「ふっ嬉しいことを。来週帰国するよ。瑞樹は変わりないか。あっそっちは夜だろう?夜道はひとりで歩くなよ。君の家は少し駅まで歩くから心配だ」
「何もないし、大丈夫ですよ。……それに僕は男です。そんな変な心配しないでください」
「いや十分心配だよ。戸締まりもしっかりするんだぞ」
「はい、分かりました」
宗吾さんは心配症だなと思いつつ……常に僕のことを考えてくれるのがじんわりと伝わって来たので、素直に忠告を聞くことにした。
「瑞樹、好きだよ」
「あっあの……」
「分かっているよ、今仕事先だろう?帰国したら続きをな」
「はい!」
来週には帰国なのか。
よしっ!あと一週間だと思えば寂しさも我慢できる。
だからまずは自分の出来ることを精一杯、仕事をきちんとこなそう。
誰かのために何かが出来るって……生きている喜びに繋がるんだな。
しかもその誰かとは……僕の好きな人だから嬉しさも一入だ。
久しぶりの恋しい人との通話は、僕の疲れた躰と心を充分に潤してくれた。
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