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発展編

Let's go to the beach 14

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「あ……違うんだ。えっと……これは……もうっ丈、来てくれよ」

  洋くんは僕を治療してくれたお医者さんに助けを求めていた。するとすぐに彼は駆けつけ、さっと洋くんを抱き上げた。

「えっと……メイくん、大丈夫だ。私は医者だから、この青年の怪我はしっかり治すから安心しなさい」
 
「丈!やめろって!はっ離せよ!」

 うわ……洋くんの気持ち分かるよ。こんな公衆の面前でお姫様抱っこされるなんて恥ずかしいよね。しかも真っ裸だ。僕も宗吾さんにされたことはあるけど、流石に服を着ていたからマシなのか……とにかく気の毒だ。

 僕の方は他人事のように思っていたのに、芽生くんは二人の様子に興奮気味だった。

「わぁぁ~お姫様抱っこだ!僕のおにいちゃんもね、この前パパにしてもらったんだよ」
 
 えっ!それ今言う?
 僕はがっくしと肩を落とした。
 うわっ……余計なことを言っては駄目だ。

「メ……メイくん……それは言わないで」
「えーなんで?」
「は……恥ずかしいから」

 宗吾さんが余計なことを思いつかないといいが、どうも嫌な予感がする

 それにしても芽生くんはロマンチックな絵本の読みすぎじゃ……もっと男の子らしい遊びをさせないと。一方の洋くんは、恥ずかしそうに彼の胸元に顔を埋めたままだ。

 なんだか壮絶に色っぽい光景だな。僕と一馬は関係を隠していたので、こんな風に人前で触れ合うことはなかったから新鮮だ。

 とにかく美男同士で絵になる同性のカップルに目を奪われてしまう。

「さぁ瑞樹も」

 わわっ……油断していた!

 僕が洋くん達に見とれていたら突然躰が斜めにグラっと揺れた。振り返ると宗吾さんだった。でも何で僕まで横抱きにされようとしているのか、状況が呑み込めない。

「そ、宗吾さん!何で?」
「それは瑞樹も尻もちついて痛そうだからさ」
「だっ大丈夫ですから……降ろしてください」

 僕の顔は茹蛸みたいに真っ赤になり、恥ずかしくて死にそうでジタバタと暴れてしまった。だがそんな抵抗なんて本当に無意味だった。

 宗吾さんはガシっと僕を抱えて、そのまま抱き上げようとしていた。

 あぁもうっ……僕のことをそんなに嬉しそうに愛おしそうに見つめないで下さい。抵抗できなくなってしまうから。
 
「本当に可愛いな、瑞樹は」
 
 耳元で囁かれパニックになりそうだ。
 芽生くんの声が、そんな中聞こえてきた。

「おじさん~抱っこしておふろにはいると、本当にケガがなおるの?」
「あぁそうだ」
「じゃあ、おにいちゃもはいらないと。パパーおにいちゃんもはやく抱っこしておふろにつれていってあげて」
「そうしよう!」
「だって、おにいちゃん、今日はここをケガしちゃったから」

 芽生くんは必死に自分の胸を指さしていた。

 その仕草に、僕の方がキュンっとしてしまった。

 そうか芽生くんには見えるのか。

 傷というものは、目に見えるものだけではない。心に負った傷もあることを、その歳で知っているのか。まだこんなに小さいのに……

 もしかしたらお父さんとお母さんの別れを肌で感じ取っていたのかもしれない。

「瑞樹、考え事をするなんて余裕だな」
「宗吾さんっもう降ろしてください。ちゃんと歩けますから!」
「駄目だ。このまま一緒に風呂に入るぞ。それっ」
「えっ!」

 宗吾さんは僕を抱きかかえたまま、ザブンっと飛沫をあげ豪快に湯の中に飛び込んだ。

「うわっ!」
「ははっ!プールみたいだな」
「宗吾さん、何を子供みたいなことを……くすっ、本当に宗吾さんは子供みたいだ」

 恥ずかしさよりも、可笑しくなってしまった。
 宗吾さんの行動に、月影寺の皆さんも肩を揺らしている。

「一番クールそうな奴が、一番変だったな」
「あぁ相当ヤバイな」
「あれは丈レベルだ」
「何を言うんですか。流兄さんレベルですよ!」
「こら、やめなさい」

 なにやら痴話喧嘩が始まったような……

「ほら、メイくんも一緒に浸かろう」

 最後に芽生くんが、僕の話を聞いてくれたご住職に恐れ多くも抱っこされて、やって来た。

 今……海辺でご一緒した月影寺の皆さんと僕たちが、一列に並んで狭い湯舟に浸っている。真っ裸で肩を寄せ合うなんて不思議な光景だ。

 なんとも奇想天外な夏の思い出だ。

 この風呂場での出来事を通して、僕はますます洋くんに興味を持ってしまった。何故だろう……僕達は似ている所があるようだ。洋くんも僕と同じように、寂しい心を抱えて生きてきた?心に深い傷を負った経験があるんじゃないか。
 
 ねぇ……もっと話してみたいね。

 僕たちはきっと……夏が終わり秋になったら紅葉を踏みしめながら昔語りをする。

 洋くん……僕の心許せる友になって欲しい。

「瑞樹、よかったな。よく分からんが仲間が増えたような気がしてワクワクするな」
「確かに、そうですね」
「パパーにぎやかなのっていいね!」

 明るい笑い声が、風呂場にいつまでも響いていた。







****

『重なる月』との重なりも終わりと書いていたのに、だらだら繋げてしまって
すいません。私自身も癒されたくて毎日こんな感じのお話を書いています。

『重なる月』の洋も瑞樹と同じく、悲しい過去を背負った人物です。もし洋や月影寺のメンバーに興味が沸かれたら、ぜひ遊びにいらしてください。
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