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発展編

Let's go to the beach 4

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「さぁ着いたぞ」

 むむ?なんだか想像よりも更にボロい保養所のようだが大丈夫か。瑞樹の方をチラッと伺うと、そんなことは全く気にせず楽しそうに芽生と保養所を見上げていた。

「芽生くん、今日はここに泊まるそうだよ。すぐ目の前が海だなんて、すごいね」

「わーい!おにいちゃんと海であそべるのうれしいな。コータくんがね、でお城をつくるのが面白いって言うから、メイもやってみたい」

「お城か……うん、いいよ。やってみよう!」

 芽生には兄弟がいないので、瑞樹がまるで兄のように接してくれる光景に思わず笑みがこぼれててしまう。最初は失敗ばかりだった芽生と二人だけの生活も、慣れてくるに従い楽しいものになっていたが、瑞樹と知り合い、こうやって三人で出かけるのは更に格別だ。

 チェックインを済まし部屋に入ると、大昔、修学旅行や合宿で宿泊したようなスタンダードな古めかしい十畳一間の和室だった。

「なんだか懐かしい感じですね」

「おお、そうだな。うちには畳がないから芽生にもいい経験だしな」

「そうですね。僕も畳は函館の家以来なので懐かしいです」

 今日はこの空間に瑞樹と布団を並べて眠ると思うと、何をするわけでもないが、心が躍るもんだな。

「パパー!ベランダから海が見えるよ!」

「おお。だろ?」

 十畳の部屋には割と大きいベランダがついていたので外に出ると、真正面に海を捉えていた。まさにオン・ザ・ビーチだな。施設は古いが海の家と同じラインに宿泊できるとは、なんとも贅沢だ。砂浜には既に色鮮やかな紺と白のストライプのパラソルがいくつも開いており、皆、思い思いの海辺のバカンスを楽しんでいるようだった。葉山や逗子の海はやはり洒落ている。

 ちょうど眼下を、こんがり日焼けした自信満々の逞しい筋肉の男性とDカップビキニ姿の女性が腕を組んで横切って行った。その光景を見て……何だか昔の俺みたいだと想い、更に俺の隣にいる瑞樹の方がずっと清楚で綺麗だと思った。

「パパーだっこして」

 芽生は嬉しそうに手を海の方へ伸ばした。

「パパー海がつかめそうだよ!ほらっ」

「宗吾さん、僕もびっくりしています。こんなに海の近くに泊まったことないので」

 瑞樹も芽生と同じくらい興奮しているようだった。本当に可愛いな。君のくるくる変わる表情見てしまうと、もっともっと喜ばせてあげたくなる。

「さぁ支度するぞ!」

 部屋に戻り鞄からデパートの包みを取り出して、瑞樹に渡した。

「これが瑞樹の水着だ」

「わっ!本当にありがとうございます」

 瑞樹がペコっとお辞儀をしてから包みを開き、嬉しそうに頬を緩めた。

「すごい!あの……これって僕でも知っている有名なブランドのものだ。すごく高いのに……申し訳ありません」

「おいおい、なんで謝る。?俺が瑞樹に着て欲しくて勝手に買ったんだぞ」

「あっはい。すいません。あっ……ありがとうございます。すごく綺麗な色ですね。気に入りました!」

「うんそうか。よかったよ」

 いつまで経っても遠慮がちで謙虚な瑞樹。とても慎重に周りの目を気にしながら生きてきたような素振りを、たまに見せることがある。少し気になってしまうな。あんなにおおらかで優しい兄に恵まれていたのに、どうしてだろう?と首を傾げてしまう。

 俺にも兄はいるがとっくの昔に兄弟の縁を切っているから、瑞樹とお兄さんの関係を羨ましくも思った。

 曲がったことが大っ嫌いの裁判官の兄と俺とじゃ馬が合うはずもなく、実家を訪れる時も、兄とは絶対に被らないように細心の注意を払っている。こんな正反対な兄弟の間に入ってくれた母には頭があがらない。芽生がいたからきっと母も折れて俺が同性を愛することを理解してくれたのではと密かに思っている。

「滝沢さん?どうしたんですか。難しい顔を……」

「あぁいやなんでもない。それより宗吾と呼ぶように言ったろう。これから名字で読んだら罰金だぞ」

「あっはい。宗吾さん」

(罰金……いやいや、お仕置きもいいな……)

「あの、何か言いました?」

「あっいや」

 瑞樹は脱衣場で手早く水着に着替えてきた。部屋から海に直接行くので上半身は残念ながら裸ではなく白いTシャツを着ていたが、後で脱がす予定だ。俺が選んだ水着は清楚な瑞樹によく似合っていたので満足だ。

「よく似合っているな、その水着」

「ありがとうございます。着心地もデザインも気に入りました!」

 それから芽生が水着に着替えるのを、優しく手伝ってくれた。

「可愛いなぁ、芽生くんのお腹」

 まだまだ幼児体型の芽生のお腹を瑞樹が擦ると、芽生がクスクス笑った。

「じゃあ……おにいちゃんのお腹はどうなってるの?」

 芽生が瑞樹のTシャツの裾をペロッと捲ったので、思わず俺も身を乗り出してしまった。

「わっ!くすぐったいよ!僕の弟も小さい頃、芽生くんみたいに丸いお腹していたんだよ。だから懐かしいな」

「そうなの?」

 楽しいおしゃべりをいつまでも聴いていたいが、目の前は海だ。そろそろ泳がなきゃ損だろう。

「さぁ海に行こう」

「あっハイ!」

 芽生と話していた瑞樹が立ち上がって俺の上半身を見た途端、頬をパッと赤くした。君は本当に分かりやすい反応をするんだな。

「どうした?」

「あの……宗吾さんって……すごく躰を鍛えていますよね。Tシャツの上からでも筋肉が分かって……その……」

「あぁたまにジムには行っているよ」

 俺の逞しい躰に瑞樹が反応してくれただけでも、テンションが上がるものだ。がんばった甲斐あったな。

「きっと日焼けしたらますます逞しくなるでしょうね」

「そうだな。欲をもう言えばもう少し黒くなりたいな。まだ今年は全然焼いていないから、今日は丁度いい機会だ」

「なるほど!あっそうだ、忘れていた。僕、少しロッカーに寄ってから行きますね」

 保養所の施設からロビーとは反対側の廊下を進み扉を開けると、海に直接出られるようになっていた。その手前にロッカーとシャワールームが完備している。海の家のシャワーでなく、宿泊施設のものを使えるのは便利だ。

 瑞樹はロッカーに寄ると言うので、芽生と先に行って砂浜に持ってきたサンシェードを設置することにした。

****

「ふぅ……塗り忘れるところだったな。今日こそは日焼けしてみせる。菅野にも宣言したんだし」

 宗吾さんに急かされ部屋を出たので、肝心の日焼け用ローションを塗るのを忘れていた。だから僕だけロッカーに寄り道させてもらった。

 このホテルは部屋数が十室しかないそうなので、まだ他の宿泊客とすれ違っていなかった。ところが誰もいないと気軽に入ったロッカールームのベンチに、男性がひとり腰掛けていたので驚いた。しかもその男性が僕とまったく同じデザインの水着を着用していたので、更に驚いてしまった。

「えっ!」

「あっ……」

 男性も僕の水着に気が付いたようで、目を見開き固まっていた。

 僕と同年代なのかな……今度は水着ではなく彼の顔を見て、思わずハッと息を呑んでしまった。

 何故って……だってその男性の美貌がすごかったから。

 もしかして……芸能人?

 それともモデル?

 顔が整いすぎだ……とにかく美人過ぎる人だ。

 

「あの……こんにちは。君の水着……俺のとお揃いですね」

 その男性が言葉を発すると……意外にもとても思慮深い優しい声をしていた。近寄りがたい程の美貌なのに……それも意外だった。 




****

実は最後に出て来たこの男性は、私のメイン作品『重なる月』の主人公の洋です。もちろん単独で読めるように書いていきますが、二つのお話の時間軸を合わせて書いていきます!
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