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発展編

分かり合えること 15

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 不思議な夜だった。

 兄と滝沢さんに挟まれ夕食を食べるなんて……

 一馬と三年間暮らした部屋で滝沢さんと熱いキスをしてしまい、しかもそれを兄に目撃されてしまった。

 言い逃れ出来ない状況が恥ずかしく俯いていると、脱衣所から出て来た兄さんは素知らぬ様子で「さぁ飯、早く食べようぜ!腹減ったー」と話を逸らしてくれた。

 兄さん……ごめん、そしていつもありがとう。

 僕の……函館にいた時とはまるで違うこんな状況を、兄さんが必死に認めようとしてくれているのが、ひしひしと明るい会話の裏側に伝わって来るよ。いつだって優しい兄だった。そして今も変わらず僕に接してくれることが泣けてくる。

 滝沢さんが作ってくれたチリコンカンや南タイのカレーはとても美味しく、ビールもグイグイ進んだ。

「コラッ瑞樹はもう飲むな。明日は朝早くから大事な仕事だろう?」

「そうだ、瑞樹がそんなにビールを飲める口だとは意外だった。嬉しいが今日はもう終わりだ」

「えっ」

 もう一缶だけと手を伸ばすが、二人に止められてしまった。

「コイツ、いつの間にそんな飲めるようになったんだよ~兄ちゃんは知らなかったぞ。くそぉ俺の知らないうちにひとりで大人になりやがって!くそぉーしかも男に持っていかれるなんて。お前を育てたのは俺なのにぃ……」

 ビールでほろ酔いの兄が、太くて逞しい腕でゴシゴシと目を擦り泣き真似をした。いや本当に泣いているのかもしれない。

 それにしても風呂上がりの兄は相変わらず上半身裸にハーフパンツ姿だ。これじゃさっきの真っ裸と大差ないような……でもまぁいつもの兄らしい。兄のこの豪快で明るい性格に、十歳で見知らぬ家に引き取られた僕、どんなに救われたことか。いつだってこの兄がいてくれたから心細いと思うことも少なかった。

「瑞樹……君のお兄さんは……こんなふしだらな姿でいつも君の前に?」

「クスっはい。でもこれが兄さんの定番スタイルなので気にしていません」

「うーむ……函館は夏でも涼しいだろう?まったく瑞樹に良くない環境だ。まぁ逆よりいいのか。しかしなんというか最大のライバル登場で焦るな」

 そんな兄の様子を見ていた滝沢さんが、顔をしかめブツブツ言っている様子がおかしかった。

「あの?」

「あぁいい。それより肩は大丈夫か。痛まないか」

「……大丈夫です」

「嘘を言うな。正直に話せ」

 真顔で心配されたので、観念した。

「あ……明日になってみないと分からないですが、今は少し熱を持っているような」

 その返事を聞いた兄が真っ青な顔になった。

「瑞樹!悪かった!全部俺のせいだ。自分の手の早さを恨……そうだ湿布を貼ってやろうと思っていたんだ」

「え?いいよ。そんなの自分でやるから」

「駄目だ。ほら脱げ!」

「えっ?わっ!」

 いきなりに兄さんに着ていた部屋着のTシャツを裾から捲られ焦ってしまった。そのまま強引にTシャツを首元まで脱がされる形になって、慌てて胸元を押さえた。

「ブッ!」

 そんな俺の姿を見ていた滝沢さんが焦った様子で目をパチパチさせ、ビールを吹き出してしまった。

「あの……そんなに見ないでください」

「わっ悪い」

 馬鹿、瑞樹、意識しすぎるな。おっ男同士なんだと懸命に自分に言い聞かせても、すぐ横にいる滝沢さんの視線が、明らかに僕の胸の小さな尖りに向けられているのを感じ、羞恥に震えてしまう。

 

 酔っぱらった兄はそんな視線に気が付かず、背中の筋を丹念に調べてくれて「良かった。筋は痛めてなさそうだな。湿布を貼って一晩寝ればだいぶ腫れも引くはずだ。悪かったな」と冷たい湿布をペタッと勢いよく貼ってくれた。

「あうっ!」

 その冷たい刺激に誘導されるように、うっかり変な声を出してしまい……もう、どうしたらいいのか、しどろもどろになってしまう。耳まで真っ赤だ。多分……今の僕。

「う……うん、僕……もう寝る」

 そのまま布団に潜り込んで、頭まで布団を被った。

 刺激が多すぎるよ。こんなのは……僕には。

 とにかく明日の仕事のためにも、早く冷静にならないと……

 早くいつもの僕にならないと。

****

「あれ?瑞樹はどこだ」

 酔っぱらった声の瑞樹のお兄さんに聞かれたので、指でリビングの横のベッドで頭まで布団を被って眠っている瑞樹を指差した。

「そっか寝たのか。まぁ明日も早い。これで何も考えずにぐっすり眠れるだろう。あいつはいろいろ考えすぎるからな。いつも、いつだって……」

 酔っぱらっていると思ったのに、その顔は真顔だった。もしかして酔ったふりだったのか。

「おい、サービスしてやったんだから。酒をつげよ」

「は?何を?」

 ニヤリと笑う瑞樹のお兄さんの顔を改めて見つめて、瑞樹とは欠片も似ていないと思った。

 彼も上半身裸だが……その胸の乳首を見ても当たり前だが何も感じない。

 それに引き換え、さっきの瑞樹の乳首を思い出すと……ちらっと見えた淡い色は綺麗で綺麗な形だったよな……と、またよからぬ妄想が芽生えそうになったので必死に抑え込んだ。

「あんた……瑞樹のこと本気で好きなんだな」

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