61 / 1,730
発展編
分かり合えること 15
しおりを挟む
不思議な夜だった。
兄と滝沢さんに挟まれ夕食を食べるなんて……
一馬と三年間暮らした部屋で滝沢さんと熱いキスをしてしまい、しかもそれを兄に目撃されてしまった。
言い逃れ出来ない状況が恥ずかしく俯いていると、脱衣所から出て来た兄さんは素知らぬ様子で「さぁ飯、早く食べようぜ!腹減ったー」と話を逸らしてくれた。
兄さん……ごめん、そしていつもありがとう。
僕の……函館にいた時とはまるで違うこんな状況を、兄さんが必死に認めようとしてくれているのが、ひしひしと明るい会話の裏側に伝わって来るよ。いつだって優しい兄だった。そして今も変わらず僕に接してくれることが泣けてくる。
滝沢さんが作ってくれたチリコンカンや南タイのカレーはとても美味しく、ビールもグイグイ進んだ。
「コラッ瑞樹はもう飲むな。明日は朝早くから大事な仕事だろう?」
「そうだ、瑞樹がそんなにビールを飲める口だとは意外だった。嬉しいが今日はもう終わりだ」
「えっ」
もう一缶だけと手を伸ばすが、二人に止められてしまった。
「コイツ、いつの間にそんな飲めるようになったんだよ~兄ちゃんは知らなかったぞ。くそぉ俺の知らないうちにひとりで大人になりやがって!くそぉーしかも男に持っていかれるなんて。お前を育てたのは俺なのにぃ……」
ビールでほろ酔いの兄が、太くて逞しい腕でゴシゴシと目を擦り泣き真似をした。いや本当に泣いているのかもしれない。
それにしても風呂上がりの兄は相変わらず上半身裸にハーフパンツ姿だ。これじゃさっきの真っ裸と大差ないような……でもまぁいつもの兄らしい。兄のこの豪快で明るい性格に、十歳で見知らぬ家に引き取られた僕、どんなに救われたことか。いつだってこの兄がいてくれたから心細いと思うことも少なかった。
「瑞樹……君のお兄さんは……こんなふしだらな姿でいつも君の前に?」
「クスっはい。でもこれが兄さんの定番スタイルなので気にしていません」
「うーむ……函館は夏でも涼しいだろう?まったく瑞樹に良くない環境だ。まぁ逆よりいいのか。しかしなんというか最大のライバル登場で焦るな」
そんな兄の様子を見ていた滝沢さんが、顔をしかめブツブツ言っている様子がおかしかった。
「あの?」
「あぁいい。それより肩は大丈夫か。痛まないか」
「……大丈夫です」
「嘘を言うな。正直に話せ」
真顔で心配されたので、観念した。
「あ……明日になってみないと分からないですが、今は少し熱を持っているような」
その返事を聞いた兄が真っ青な顔になった。
「瑞樹!悪かった!全部俺のせいだ。自分の手の早さを恨……そうだ湿布を貼ってやろうと思っていたんだ」
「え?いいよ。そんなの自分でやるから」
「駄目だ。ほら脱げ!」
「えっ?わっ!」
いきなりに兄さんに着ていた部屋着のTシャツを裾から捲られ焦ってしまった。そのまま強引にTシャツを首元まで脱がされる形になって、慌てて胸元を押さえた。
「ブッ!」
そんな俺の姿を見ていた滝沢さんが焦った様子で目をパチパチさせ、ビールを吹き出してしまった。
「あの……そんなに見ないでください」
「わっ悪い」
馬鹿、瑞樹、意識しすぎるな。おっ男同士なんだと懸命に自分に言い聞かせても、すぐ横にいる滝沢さんの視線が、明らかに僕の胸の小さな尖りに向けられているのを感じ、羞恥に震えてしまう。
酔っぱらった兄はそんな視線に気が付かず、背中の筋を丹念に調べてくれて「良かった。筋は痛めてなさそうだな。湿布を貼って一晩寝ればだいぶ腫れも引くはずだ。悪かったな」と冷たい湿布をペタッと勢いよく貼ってくれた。
「あうっ!」
その冷たい刺激に誘導されるように、うっかり変な声を出してしまい……もう、どうしたらいいのか、しどろもどろになってしまう。耳まで真っ赤だ。多分……今の僕。
「う……うん、僕……もう寝る」
そのまま布団に潜り込んで、頭まで布団を被った。
刺激が多すぎるよ。こんなのは……僕には。
とにかく明日の仕事のためにも、早く冷静にならないと……
早くいつもの僕にならないと。
****
「あれ?瑞樹はどこだ」
酔っぱらった声の瑞樹のお兄さんに聞かれたので、指でリビングの横のベッドで頭まで布団を被って眠っている瑞樹を指差した。
「そっか寝たのか。まぁ明日も早い。これで何も考えずにぐっすり眠れるだろう。あいつはいろいろ考えすぎるからな。いつも、いつだって……」
酔っぱらっていると思ったのに、その顔は真顔だった。もしかして酔ったふりだったのか。
「おい、サービスしてやったんだから。酒をつげよ」
「は?何を?」
ニヤリと笑う瑞樹のお兄さんの顔を改めて見つめて、瑞樹とは欠片も似ていないと思った。
彼も上半身裸だが……その胸の乳首を見ても当たり前だが何も感じない。
それに引き換え、さっきの瑞樹の乳首を思い出すと……ちらっと見えた淡い色は綺麗で綺麗な形だったよな……と、またよからぬ妄想が芽生えそうになったので必死に抑え込んだ。
「あんた……瑞樹のこと本気で好きなんだな」
兄と滝沢さんに挟まれ夕食を食べるなんて……
一馬と三年間暮らした部屋で滝沢さんと熱いキスをしてしまい、しかもそれを兄に目撃されてしまった。
言い逃れ出来ない状況が恥ずかしく俯いていると、脱衣所から出て来た兄さんは素知らぬ様子で「さぁ飯、早く食べようぜ!腹減ったー」と話を逸らしてくれた。
兄さん……ごめん、そしていつもありがとう。
僕の……函館にいた時とはまるで違うこんな状況を、兄さんが必死に認めようとしてくれているのが、ひしひしと明るい会話の裏側に伝わって来るよ。いつだって優しい兄だった。そして今も変わらず僕に接してくれることが泣けてくる。
滝沢さんが作ってくれたチリコンカンや南タイのカレーはとても美味しく、ビールもグイグイ進んだ。
「コラッ瑞樹はもう飲むな。明日は朝早くから大事な仕事だろう?」
「そうだ、瑞樹がそんなにビールを飲める口だとは意外だった。嬉しいが今日はもう終わりだ」
「えっ」
もう一缶だけと手を伸ばすが、二人に止められてしまった。
「コイツ、いつの間にそんな飲めるようになったんだよ~兄ちゃんは知らなかったぞ。くそぉ俺の知らないうちにひとりで大人になりやがって!くそぉーしかも男に持っていかれるなんて。お前を育てたのは俺なのにぃ……」
ビールでほろ酔いの兄が、太くて逞しい腕でゴシゴシと目を擦り泣き真似をした。いや本当に泣いているのかもしれない。
それにしても風呂上がりの兄は相変わらず上半身裸にハーフパンツ姿だ。これじゃさっきの真っ裸と大差ないような……でもまぁいつもの兄らしい。兄のこの豪快で明るい性格に、十歳で見知らぬ家に引き取られた僕、どんなに救われたことか。いつだってこの兄がいてくれたから心細いと思うことも少なかった。
「瑞樹……君のお兄さんは……こんなふしだらな姿でいつも君の前に?」
「クスっはい。でもこれが兄さんの定番スタイルなので気にしていません」
「うーむ……函館は夏でも涼しいだろう?まったく瑞樹に良くない環境だ。まぁ逆よりいいのか。しかしなんというか最大のライバル登場で焦るな」
そんな兄の様子を見ていた滝沢さんが、顔をしかめブツブツ言っている様子がおかしかった。
「あの?」
「あぁいい。それより肩は大丈夫か。痛まないか」
「……大丈夫です」
「嘘を言うな。正直に話せ」
真顔で心配されたので、観念した。
「あ……明日になってみないと分からないですが、今は少し熱を持っているような」
その返事を聞いた兄が真っ青な顔になった。
「瑞樹!悪かった!全部俺のせいだ。自分の手の早さを恨……そうだ湿布を貼ってやろうと思っていたんだ」
「え?いいよ。そんなの自分でやるから」
「駄目だ。ほら脱げ!」
「えっ?わっ!」
いきなりに兄さんに着ていた部屋着のTシャツを裾から捲られ焦ってしまった。そのまま強引にTシャツを首元まで脱がされる形になって、慌てて胸元を押さえた。
「ブッ!」
そんな俺の姿を見ていた滝沢さんが焦った様子で目をパチパチさせ、ビールを吹き出してしまった。
「あの……そんなに見ないでください」
「わっ悪い」
馬鹿、瑞樹、意識しすぎるな。おっ男同士なんだと懸命に自分に言い聞かせても、すぐ横にいる滝沢さんの視線が、明らかに僕の胸の小さな尖りに向けられているのを感じ、羞恥に震えてしまう。
酔っぱらった兄はそんな視線に気が付かず、背中の筋を丹念に調べてくれて「良かった。筋は痛めてなさそうだな。湿布を貼って一晩寝ればだいぶ腫れも引くはずだ。悪かったな」と冷たい湿布をペタッと勢いよく貼ってくれた。
「あうっ!」
その冷たい刺激に誘導されるように、うっかり変な声を出してしまい……もう、どうしたらいいのか、しどろもどろになってしまう。耳まで真っ赤だ。多分……今の僕。
「う……うん、僕……もう寝る」
そのまま布団に潜り込んで、頭まで布団を被った。
刺激が多すぎるよ。こんなのは……僕には。
とにかく明日の仕事のためにも、早く冷静にならないと……
早くいつもの僕にならないと。
****
「あれ?瑞樹はどこだ」
酔っぱらった声の瑞樹のお兄さんに聞かれたので、指でリビングの横のベッドで頭まで布団を被って眠っている瑞樹を指差した。
「そっか寝たのか。まぁ明日も早い。これで何も考えずにぐっすり眠れるだろう。あいつはいろいろ考えすぎるからな。いつも、いつだって……」
酔っぱらっていると思ったのに、その顔は真顔だった。もしかして酔ったふりだったのか。
「おい、サービスしてやったんだから。酒をつげよ」
「は?何を?」
ニヤリと笑う瑞樹のお兄さんの顔を改めて見つめて、瑞樹とは欠片も似ていないと思った。
彼も上半身裸だが……その胸の乳首を見ても当たり前だが何も感じない。
それに引き換え、さっきの瑞樹の乳首を思い出すと……ちらっと見えた淡い色は綺麗で綺麗な形だったよな……と、またよからぬ妄想が芽生えそうになったので必死に抑え込んだ。
「あんた……瑞樹のこと本気で好きなんだな」
13
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる