60 / 1,730
発展編
分かり合えること 14
しおりを挟む
「瑞樹は俺にとって大切な存在で……俺が幸せになるために必要な存在だ」
欲しかった言葉が降って来たのと同時に、僕の唇に彼の温かい唇がぴたりと触れた。
「んっ」
彼の逞しい指先で顎を掴まれ何度も唇を重ねられ、唇の薄い皮膜が僕を優しく労わるように温めてくれた。
今……僕は確かに求められている。
僕の存在を認めてくれる彼のことが……とても好きだ。
そんな気持ちで、心がじわじわと満ち足りていくのを感じた。
「瑞樹は誰にもやらない。だから……どこにも行くな」
更に両手を台所の白い壁にぎゅっと押さえつけられ、口づけが深められた。
「あっ……もう」
これ以上は駄目だ。だって口づけだけで気持ち良くなってしまう。
それに兄さんが……
必死に耳を澄ましシャワーの音を追った。水音はまだ聞こえたが、でも……でも!不安だ。こんな姿、こんなシーンを兄さんが見たら、どう反応されるか分からないから。
「止まらないな。瑞樹とのキスは甘くて美味しくて、甘くて幸せな味がするから」
「うっ……んっ……」
滝沢さんの甘過ぎる言葉に、脳内が痺れるような感覚に陥っていた。
ここには今、僕の兄がいて……僕はかつてこの場所で一馬と深いキスをしたという過去の思い出も一気に飛び越え……何もかも超越した、ただひたすらに滝沢さんのことが恋しい想いで満ちていた。
****
瑞樹はずっと可愛い弟だった。
十歳で両親を亡くした不憫さと同情心から労わったのは最初のうちだけで、後はもう本当の兄弟と同等、いやそれ以上の大切な存在になっていた。
知れば知る程、素直で控え目な性格でとにかく可愛い奴だった。だから俺は瑞樹が高校を卒業するまで、かなり溺愛していたことを認めよう。
そんなお前が突然高校卒業後は東京に行くと一人で決めて来た時は大ショックだった。ずっと手元に置きたいと思っていたのに、俺の目の届く所にずっといて欲しかったのにと……がっくし来た。
だが瑞樹の決心は固かった。
瑞樹の強張った表情にその理由を聞くのは酷だと思い、素知らぬふりをするしかなかった。それに全国大会で銀賞を取った瑞樹のデザインセンスはズバ抜けていた。だから函館で俺とふたりで花屋を営むよりも、もっと華やかで大きな広い世界に行けと背中を押してやったんだ。
しかしなぁ……
「参ったな……まだ俺の躰も火照ったままだぜ、信じられない」
冷蔵庫の冷気を浴びても、未だに火照ったままの躰を持て余し、シャワーの冷水を浴びることにした。股間が変なことにならなくて本当によかった。弟の裸にアイツみたいに欲情し勃起したりしていたら……目も当てられないだろう。その代わり躰が異常に熱かった。煮えたぎるように!
「とにかく頭を冷やせ!落ち着け!」
そう自らを叱咤する。
あぁ……あいつ……本当に瑞樹の恋人なんだな。確かに悪くない大人の男だとは思うが、すんなり受け入れられない。でも一方で変な女にひっかかる位なら、瑞樹を溺愛してくれそうなアイツならいいかも……とにかく俺の頭の中は様々な感情で乱れ暴れていた。
他人には警戒心の強い所もあった瑞樹なのに、彼の前ではとても素直に自然に笑っていた。更に悔しいことに、あいつの料理は美味くてハイカラだった。
うん……あいつになら可愛い弟を任せてもいいと思う反面、瑞樹に対して欲情したアイツの立派な股間を目の当たりにして、どう兄としてリアクションしていいのか分からなかった。
瑞樹と久しぶりに会おうと気軽にやってきた東京で……なんて複雑な事態に陥ってんだよぉぉ!思わず浴室にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。
いや待てよ。俺がシャワーを浴びている隙に……もしかしてあの二人、イチャイチャしてるんじゃないか。この期に及んでも弟の恋愛対象が同性の男なことが信じられず、つい出来心からシャワーを出したまま脱衣所のドアをそっと開けて盗み見してしまった。
許せ瑞樹。兄さんはこの目で見てみないと信じられない、受け入れられない性質なんだ。
すると……案の定……瑞樹とアイツが台所の壁にもたれてキスをしていた。男同士のキスを見るのは初めてだった。もっと気持ち悪いと思っていたのに違った。瑞樹もアイツも求めあって、愛情を分かち合っている優しい行為だった。
その光景はどこまでも自然で、キスってこんなに崇高なものだったっけ?と、思わず目を擦ってしまう程だった。
清らかな瑞樹……その輝きを失うどころか増していた。
瑞樹……お前、相当愛されてんな。
アイツが瑞樹の両手を壁に押し付け深く唇を求めれば、瑞樹もそれにうっとりと応じていた。だが……ふとした瞬間に瑞樹とバッチリ目が合ってしまった。
「えっ……」
瑞樹は驚愕の表情を浮かべ、慌てて唇を離した。
「にっ兄さん!」
更に俺を見て、ひどく慌てた様子で目元を押さえた。
「お……お兄さん。あぁぁ……そのカッコはないです」
瑞樹とキスしていた男も、目のやり場がないように俺からすっと目を逸らした。
二人から同じ反応を受け、やっと我に返った。
俺……そっか……今、真っ裸だ!
「わっ悪ぃ!」
いつの間にか……こっ股間もやばくて、慌てて脱衣場の扉をバタンと閉めた。
ドアの隙間から真っ裸の兄が、弟たちのキスシーンを覗く?
洒落にならない変態っぷりに、浴室で大笑いしてしまった。
「ハハハっ!参ったよ。お前達には敵わない!」
欲しかった言葉が降って来たのと同時に、僕の唇に彼の温かい唇がぴたりと触れた。
「んっ」
彼の逞しい指先で顎を掴まれ何度も唇を重ねられ、唇の薄い皮膜が僕を優しく労わるように温めてくれた。
今……僕は確かに求められている。
僕の存在を認めてくれる彼のことが……とても好きだ。
そんな気持ちで、心がじわじわと満ち足りていくのを感じた。
「瑞樹は誰にもやらない。だから……どこにも行くな」
更に両手を台所の白い壁にぎゅっと押さえつけられ、口づけが深められた。
「あっ……もう」
これ以上は駄目だ。だって口づけだけで気持ち良くなってしまう。
それに兄さんが……
必死に耳を澄ましシャワーの音を追った。水音はまだ聞こえたが、でも……でも!不安だ。こんな姿、こんなシーンを兄さんが見たら、どう反応されるか分からないから。
「止まらないな。瑞樹とのキスは甘くて美味しくて、甘くて幸せな味がするから」
「うっ……んっ……」
滝沢さんの甘過ぎる言葉に、脳内が痺れるような感覚に陥っていた。
ここには今、僕の兄がいて……僕はかつてこの場所で一馬と深いキスをしたという過去の思い出も一気に飛び越え……何もかも超越した、ただひたすらに滝沢さんのことが恋しい想いで満ちていた。
****
瑞樹はずっと可愛い弟だった。
十歳で両親を亡くした不憫さと同情心から労わったのは最初のうちだけで、後はもう本当の兄弟と同等、いやそれ以上の大切な存在になっていた。
知れば知る程、素直で控え目な性格でとにかく可愛い奴だった。だから俺は瑞樹が高校を卒業するまで、かなり溺愛していたことを認めよう。
そんなお前が突然高校卒業後は東京に行くと一人で決めて来た時は大ショックだった。ずっと手元に置きたいと思っていたのに、俺の目の届く所にずっといて欲しかったのにと……がっくし来た。
だが瑞樹の決心は固かった。
瑞樹の強張った表情にその理由を聞くのは酷だと思い、素知らぬふりをするしかなかった。それに全国大会で銀賞を取った瑞樹のデザインセンスはズバ抜けていた。だから函館で俺とふたりで花屋を営むよりも、もっと華やかで大きな広い世界に行けと背中を押してやったんだ。
しかしなぁ……
「参ったな……まだ俺の躰も火照ったままだぜ、信じられない」
冷蔵庫の冷気を浴びても、未だに火照ったままの躰を持て余し、シャワーの冷水を浴びることにした。股間が変なことにならなくて本当によかった。弟の裸にアイツみたいに欲情し勃起したりしていたら……目も当てられないだろう。その代わり躰が異常に熱かった。煮えたぎるように!
「とにかく頭を冷やせ!落ち着け!」
そう自らを叱咤する。
あぁ……あいつ……本当に瑞樹の恋人なんだな。確かに悪くない大人の男だとは思うが、すんなり受け入れられない。でも一方で変な女にひっかかる位なら、瑞樹を溺愛してくれそうなアイツならいいかも……とにかく俺の頭の中は様々な感情で乱れ暴れていた。
他人には警戒心の強い所もあった瑞樹なのに、彼の前ではとても素直に自然に笑っていた。更に悔しいことに、あいつの料理は美味くてハイカラだった。
うん……あいつになら可愛い弟を任せてもいいと思う反面、瑞樹に対して欲情したアイツの立派な股間を目の当たりにして、どう兄としてリアクションしていいのか分からなかった。
瑞樹と久しぶりに会おうと気軽にやってきた東京で……なんて複雑な事態に陥ってんだよぉぉ!思わず浴室にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。
いや待てよ。俺がシャワーを浴びている隙に……もしかしてあの二人、イチャイチャしてるんじゃないか。この期に及んでも弟の恋愛対象が同性の男なことが信じられず、つい出来心からシャワーを出したまま脱衣所のドアをそっと開けて盗み見してしまった。
許せ瑞樹。兄さんはこの目で見てみないと信じられない、受け入れられない性質なんだ。
すると……案の定……瑞樹とアイツが台所の壁にもたれてキスをしていた。男同士のキスを見るのは初めてだった。もっと気持ち悪いと思っていたのに違った。瑞樹もアイツも求めあって、愛情を分かち合っている優しい行為だった。
その光景はどこまでも自然で、キスってこんなに崇高なものだったっけ?と、思わず目を擦ってしまう程だった。
清らかな瑞樹……その輝きを失うどころか増していた。
瑞樹……お前、相当愛されてんな。
アイツが瑞樹の両手を壁に押し付け深く唇を求めれば、瑞樹もそれにうっとりと応じていた。だが……ふとした瞬間に瑞樹とバッチリ目が合ってしまった。
「えっ……」
瑞樹は驚愕の表情を浮かべ、慌てて唇を離した。
「にっ兄さん!」
更に俺を見て、ひどく慌てた様子で目元を押さえた。
「お……お兄さん。あぁぁ……そのカッコはないです」
瑞樹とキスしていた男も、目のやり場がないように俺からすっと目を逸らした。
二人から同じ反応を受け、やっと我に返った。
俺……そっか……今、真っ裸だ!
「わっ悪ぃ!」
いつの間にか……こっ股間もやばくて、慌てて脱衣場の扉をバタンと閉めた。
ドアの隙間から真っ裸の兄が、弟たちのキスシーンを覗く?
洒落にならない変態っぷりに、浴室で大笑いしてしまった。
「ハハハっ!参ったよ。お前達には敵わない!」
13
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる