上 下
43 / 1,730
発展編

尊重しあえる関係 11

しおりを挟む
 

 滝沢さんが広告代理店に勤めているのは知っていたが、働く姿をこの目で見るのは初めてなので、新鮮な光景だった。

 滝沢さんって働いている時はすごく大人っぽいんだな。芽生くんに見せる父親の顔とも僕に向ける顔とも違って、ぐっとクールな印象だ。テキパキとカメラマンに指示を出し、どんどん仕事をこなしていく様子を垣間見て感心してしまった。

 同時に凛々しく仕事をこなす姿に、同じ男として憧れにも似た気持ちが湧いてしまうよ。彼は決断力に優れた『出来る男』なのだろう。僕にはない強さが魅力的だ。

 それにしてもカメラチェックする真剣な眼差し、ドキッとするな。あんな風に熱く見つめられたら女性ならすぐに靡いてしまうに違いない。

 滝沢さんカッコイイから……なんか心配だ。

 あ……僕、今……嫉妬しているのか。

 今、彼は真面目に仕事をしているのに不謹慎だと反省した。

 結局一時間以上待っただろうか。でも仕事をこなす滝沢さんの姿を見るのに夢中だったので、時間なんて少しも気にならなかった。

「あっ終わったみたいだ」

 滝沢さんがカメラマンの人と別れたのを確認してから背中をポンっと叩くと、彼は僕を見て驚いた後、嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。

 よかった……怒っていない。

 そのまま家まで送ってくれるというので素直に彼の車に乗った。この誘いは僕も滝沢さんと二人きりになりたかったので嬉しいものだった。

「瑞樹、ここは俺の気に入ってる場所なんだ」

 途中で夕日が綺麗な公園に立ち寄った。そこは高台にあり車に乗ったまま正面にオレンジ色に染まる大地と日没を拝める雄大なスポットだった。

「わぁ……これは絶景ですね。雄大な景色は故郷を思い出します」

 見渡せば辺りにずらっと同じような車が並んでいた。そうか……ここはデートコースなのか。あっ今僕……もしかしてさりげなくデートをしているのかと思うと恥ずかしくなった。

 一馬と僕は東京では車を所有していなかったので、会社帰りにスーツのまま車で移動するのは新鮮だった。だからなのか僕は妙にハイテンションになってしまい、滝沢さんから渡された紅茶のラベルのバラについてのうんちくをベラベラと語ってしまった。

 僕はいつの間にか自然と滝沢さんと付き合い出している。

 でも……あまりに自然に進んでいく新しい恋というのものに、まだ時々抱かなくてもいい罪悪感を抱いてしまうのは何故だろうな。そんな僕の心なんて滝沢さんにはお見通しなのか、会話が途切れた瞬間に顎を掴まれてしまった。

 もしかしてキスを……?

「夕日が眩しいな」

 そんな一言もニクイほど男らしい声で言うんだから困ってしまう。だから僕もそっと瞼を閉じて彼を受け入れる姿勢を取ると、唇に温かいものが触れた。軽い口づけの後、滝沢さんに問われた。

「瑞樹に少し深いキスをしても?」

「あっはい……」

 その言葉に応じるように口を半開きにすると、舌先がグイっと強引に入って来たのでびっくりした。今まで滝沢さんとは紳士的なキスしか知らないから、こんな力強い口づけは初めてで動揺してしまう。慌てて首を振ったが、顎をしっかり固定されている上にもう片方の手で後頭部をホールドされてしまい、動けなくなった。

「はうっ……んっ……あっ」

 嵐のように情熱的なキスを受け続けた。唾液が唇の端から漏れてしまう程に……

「あっ……もう……離して」

 逃れ逃れお願いしても、今日は聞いてもらえない。

 さっきまで紳士的だったのに……

 少し不安になってしまう。でも滝沢さんとのキスが嫌なわけじゃない。むしろ気持ち良さにもっていかれてしまう。でも……急に降って来た激しいキスに頭がついていかない。

「なんで……こんな……」

「さっき驚かせた罰だ」

「えっ……」

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...