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発展編
尊重しあえる関係 4
しおりを挟むその日は四宮先生の抱えていた仕事を皆で分担し、ずっとその引継ぎでバタバタだった。
でも信じられない。僕の夢だったフラワーデザイナーの仕事がこんな形で叶い始めるなんて。人生に於いて新しいチャンスはどこから降って来るかわからない。それにいつ始まるかもわからない。それをしっかりキャッチしスタートするのは全部自分自身だということを体感していた。
「葉山、ほら名刺。特急で作ったぞ」
午後になって同期の菅野から名刺の箱をポンっと手渡された。
「え?」
「いいから開けてみろよ。良かったな」
名刺の肩書に驚いた。
── flower designer 葉山 瑞樹 ──
「え?でも僕はまだ……こんな肩書を名乗れる程じゃ」
「お前の腕ならみんな知ってるよ。デザイナーの先生達からもアシスタントにと引っ張りだこだったろう。そんなに照れんなよ!相変わらず可愛い反応だよな~」
「でも……」
躊躇していると課長がやってきて、肩を叩いてくれた。
「葉山、自信を持て。君の経歴を見ると、高校で既に全国フラワーデザインコンテストで銀賞も取っているそうじゃないか。今日から我が部署のホープだな、頑張れ!期待しているぞ!」
高校時代の全国規模のコンテストで銀賞を取ったのがきっかけで、東京の大学に奨学金をもらって出てこられたのだ。片親の僕の家では、大学なんて到底望めなかったのに。でもそんな風に期待されては、ますます恐縮してしまう。
「まぁそう気負わずに、いつもの君らしくひとつひとつ丁寧に真摯にやっていけばいい。ただ今週と来週の週末はほぼないと思え。残念ながら結婚式担当というのはそういうものだ」
「あっはい」
浮かれるわけにはいかない。いつもの自分らしく丁寧にやっていくだけだ。僕にできることはただ一つ。それを肝に銘じた。
ただ一つ残念なのは、週末に滝沢さんと芽生くんに会えなくなりそうだということだ。
仕事だからしょうがないとはいえ、滝沢さんお手製の弁当を持ってピクニックというのは魅力的だった。この仕事が終わった頃には梅雨入りしてしまうだろう。天気は僕を待っていてくれるだろうか。
****
「おーい滝沢」
「なんすか」
「ほい。次の仕事はこれな」
「了解っす」
部長に呼ばれて資料の束を受け取り、それをデスクにドサッと置いた。やれやれ、また新しい案件か。俺は広告代理店に勤めていて雑誌広告がメインの職場に今はいる。今度の俺の担当はなんだ?パラパラっと資料を捲ってニヤリとした。
結婚指輪じゃないか。これ!
あの日原っぱで泣き崩れた礼服姿の瑞樹。彼の指には息子が作ったシロツメクサの指輪が付いていた。いつか俺が瑞樹に送りたい。銀色に輝く永遠の誓いのリングを!
おいおい、何を想像してるんだ。
先走るなと自分に言い聞かせるが、呼吸が荒くなる。
「滝沢、何興奮してる?あぁ結婚指輪か、お前はもう経験済みだろ。それとも新たな出逢いでもあったのか。俺にも紹介しろよー」
隣の席の同僚が、ニヤっと軽薄な笑みを浮かべ笑っている。
いかん、やっぱり顔に出すぎだろう。瑞樹のことは今までのような遊びじゃない。軽はずみな付き合いじゃないんだ。大切に守ってやりたい優しい恋を柄にもなくしているんだと自覚している。
「あのなぁ、余計なこと言うな。もうそういう付き合いはやめたんだから」
「へぇ、離婚後荒んでいたお前がなぁ」
「煩いぞ!仕事しろ」
もう一度資料を確認すると、結婚指輪で人気の大手の会社『7℃ムーン』という会社からの依頼で、雑誌広告の案件だった。なんでもホテルの披露宴打ち合わせに来ているカップルにインタビューをして、リアリティある声を拾う。指定ホテルはホテルオーヤマ。おお!近場だな。しかも瑞樹の会社の近くじゃないか。
それだけで仕事への意欲もテンションもあがるってものだ。
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