28 / 1,730
発展編
想い寄せ合って 5
しおりを挟む
観覧車から降りると、まだ時間が十五分程残っていた。僅か一時間がこんなにも愛おしく充実していると感じるのは、いつぶりだろうか。
「瑞樹。もう大丈夫か」
「あっハイ」
いやいや……まだ少し動揺しているな。
瑞樹と初めて、想いを寄せ合ったキスをした。
朝したのや観覧車に乗ってすぐのものとは別格だった。
俺からの欲情に負けた一方的なものでもなく、瑞樹からの心を誤魔化すようなキスでもなく、瑞樹と俺の心が歩み寄った瞬間だった。
柄にもなく、まるでファーストキスをしたかのように新鮮で胸が高鳴る味わいに酔って……本当にやばかった。なんとか自制した下半身の辛いこと。
「じゃあ、もう一つだけいいか。おすすめの乗り物があるんだ」
「何ですか」
「あれに乗ったことあるか」
指さす方向には、パラシュートのような形のアトラクションがあった。中心のポールを軸に上昇すれば野球ドームを遥かに見下ろす高さになるので、気持ち良さそうだ。
「いえ……」
「ふぅん……なんだ瑞樹は思ったより乗り物に乗ってないな」
「あっその……アイツは高所恐怖症で、観覧車のゴンドラがやっとで……あぁ……こんなこと……すいません」
語尾が小さくなっていく瑞樹が可哀そうなのに、しどろもどろになっていく姿が可愛いとニヤついてしまう。
あーこれは典型的なあれだな。
好きな子にちょっかいを出す気分って奴か。
俺も意地が悪い。
瑞樹を知れば知るほど、瑞樹と俺にとっての『初めて』がもっともっと欲しくなってしまうなんて。恋は人を貪欲にするとは、よく言ったものだ。
「いいんだよ。ならパラシュートは初めてだな。さぁ急ごう!」
「あっ待ってください」
アトラクションは空いていたので、待ち時間なしで乗ることが出来た。
「さぁおいで」
「はい」
アトラクションの対象年齢は五歳以上なので、以前芽生と来た時はまだ小さくて乗れなかったから俺自身も初めてだ。俺と瑞樹は肩を寄せ合って、白いバスケットのような網状のカゴに納まった。
「では出発ですー!」
係員の明るい掛け声と同時に、パラシュート型のゴンドラは真っすぐに一気に上昇していく。
「わぁ!」
「おぉ!これはなかなか」
上昇した先には、広い都会の景色が広がっていた。そしてクラクラするような高さから、見た目以上の速さで一気に急降下していく。
「わわっ……滝沢さんっこれ結構来ますね。僕、膝がガクガクします」
気が付けば瑞樹の指先が、俺の上着の端をちょこんと掴んでいた。
もっとしっかり掴めばいいのに……
でもそんな控えめな所も瑞樹らしく、俺の口元は自然と綻んでしまう。
瑞樹といると優しい気持ちになれる。
幸せな気持ちになれる。
おっと、どうやらもう一度上昇するようだ。
一度地上に降りた後、もう一度上昇を始める。
半分位浮上した所で、俺は大胆にも瑞樹の腰に手を回して抱き寄せた。想像より細い腰に薄い肩だ。こんな身体で悲しみを背負ってきたのかと思うと切なさが募る。
「あの……」
「こうしていれば怖くないだろう?」
「……ええ」
瑞樹の優しい明るい栗色の髪が風に靡いて、キラキラ光っている。
梅雨入り前の爽やかな日差しが、ふわっと俺たちを包んでいる。
「確かに怖くないです。上昇して行くのって爽快な気分になりますね」
俺に腰を抱かれても、瑞樹はもう逃げない。
俺の気持ちを素直に受け止めてくれる。
真摯な態度で、俺に向き合ってくれる瑞樹のことをどんどん好きになる。
芽吹いた植物が太陽に向かってグングン成長するように
俺たちの恋もこのまま真っすぐ伸びていけばいい。
「瑞樹。もう大丈夫か」
「あっハイ」
いやいや……まだ少し動揺しているな。
瑞樹と初めて、想いを寄せ合ったキスをした。
朝したのや観覧車に乗ってすぐのものとは別格だった。
俺からの欲情に負けた一方的なものでもなく、瑞樹からの心を誤魔化すようなキスでもなく、瑞樹と俺の心が歩み寄った瞬間だった。
柄にもなく、まるでファーストキスをしたかのように新鮮で胸が高鳴る味わいに酔って……本当にやばかった。なんとか自制した下半身の辛いこと。
「じゃあ、もう一つだけいいか。おすすめの乗り物があるんだ」
「何ですか」
「あれに乗ったことあるか」
指さす方向には、パラシュートのような形のアトラクションがあった。中心のポールを軸に上昇すれば野球ドームを遥かに見下ろす高さになるので、気持ち良さそうだ。
「いえ……」
「ふぅん……なんだ瑞樹は思ったより乗り物に乗ってないな」
「あっその……アイツは高所恐怖症で、観覧車のゴンドラがやっとで……あぁ……こんなこと……すいません」
語尾が小さくなっていく瑞樹が可哀そうなのに、しどろもどろになっていく姿が可愛いとニヤついてしまう。
あーこれは典型的なあれだな。
好きな子にちょっかいを出す気分って奴か。
俺も意地が悪い。
瑞樹を知れば知るほど、瑞樹と俺にとっての『初めて』がもっともっと欲しくなってしまうなんて。恋は人を貪欲にするとは、よく言ったものだ。
「いいんだよ。ならパラシュートは初めてだな。さぁ急ごう!」
「あっ待ってください」
アトラクションは空いていたので、待ち時間なしで乗ることが出来た。
「さぁおいで」
「はい」
アトラクションの対象年齢は五歳以上なので、以前芽生と来た時はまだ小さくて乗れなかったから俺自身も初めてだ。俺と瑞樹は肩を寄せ合って、白いバスケットのような網状のカゴに納まった。
「では出発ですー!」
係員の明るい掛け声と同時に、パラシュート型のゴンドラは真っすぐに一気に上昇していく。
「わぁ!」
「おぉ!これはなかなか」
上昇した先には、広い都会の景色が広がっていた。そしてクラクラするような高さから、見た目以上の速さで一気に急降下していく。
「わわっ……滝沢さんっこれ結構来ますね。僕、膝がガクガクします」
気が付けば瑞樹の指先が、俺の上着の端をちょこんと掴んでいた。
もっとしっかり掴めばいいのに……
でもそんな控えめな所も瑞樹らしく、俺の口元は自然と綻んでしまう。
瑞樹といると優しい気持ちになれる。
幸せな気持ちになれる。
おっと、どうやらもう一度上昇するようだ。
一度地上に降りた後、もう一度上昇を始める。
半分位浮上した所で、俺は大胆にも瑞樹の腰に手を回して抱き寄せた。想像より細い腰に薄い肩だ。こんな身体で悲しみを背負ってきたのかと思うと切なさが募る。
「あの……」
「こうしていれば怖くないだろう?」
「……ええ」
瑞樹の優しい明るい栗色の髪が風に靡いて、キラキラ光っている。
梅雨入り前の爽やかな日差しが、ふわっと俺たちを包んでいる。
「確かに怖くないです。上昇して行くのって爽快な気分になりますね」
俺に腰を抱かれても、瑞樹はもう逃げない。
俺の気持ちを素直に受け止めてくれる。
真摯な態度で、俺に向き合ってくれる瑞樹のことをどんどん好きになる。
芽吹いた植物が太陽に向かってグングン成長するように
俺たちの恋もこのまま真っすぐ伸びていけばいい。
14
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる