11 / 1,743
発展編
心寄せる人 5
しおりを挟む
「もう……本当にやめてくださいっ!人を呼びます」
こんな風に、いいようにされたくない。
最後の力を振り絞り、気丈に訴えたつもりだった。
「おいおい強気だね。静かに言うことを聞かないと、君の仕事がなくなることになるよ。私の方が君みたいな一介の社員なんかよりずっと力があるからね」
「……そんなのは卑怯だ!この手を離してください」
僕より背も躰もずっと大柄な先生の力は異常だった。力づくとはこのことを言うのか……
「うーん、やっぱりここじゃ落ち着かないね。場所を変えようか。実はホテルの部屋を取ったんだ」
いつの間に。
「嫌ですっ、僕はそんなつもりありません」
「つべこべ言うなよ。君だって誘っただろう?」
「僕がいつ?」
「さっきからずっと寂しそうで、物欲しそうな顔でさ」
「酷い……言いがかりです!」
侮辱された。でもその隙を与えたのは僕だ。抵抗すると、更に先生に股間をぎゅっと力任せに掴まれてしまった。
嫌でも苦悶の声が出てしまう。
「ううっ」
「ここさぁ~潰したくないよね。行くね?俺と部屋に」
「うっ……」
激痛で目がチカチカする。
頭の中では嫌で嫌でたまらないのに、男として一番大事な急所を……弱みを握られているのでは、もうどうしたらいいのか分からない。
( 滝沢さんっ滝沢さん!)
心の中で何度も何度も彼の名を呼んだ。
****
「瑞樹、今日の夜は空いている?」
「えっ……何でですか」
「今日は夕方からTホテルでミーティングが入っていてね、その後軽くディナーでもどう?」
「あ……実は今日は仕事が夕方から入っていて」
「そうなの?夕方からなんて珍しいね」
「明日のウェディングの活け込みをデザイナーの先生がするので、アシスタントで入ることに……だからいつ終わるか時間がはっきりしなくて……すいません」
「そんな仕事もあるんだね?どこのホテル?」
「あの……それが滝沢さんと同じTホテルなんです」
「へぇ奇遇だね。じゃあ瑞樹の仕事している所でも見に行こうかな」
「だっダメですって。恥ずかしい」
「なんで?」
「だって……僕はただ花を持つ係みたいなものだから……アシスタントと言っても何をする訳でも」
「ふぅん……でも瑞樹ならいつかフラワーデザイナーになれるんじゃないかな」
「え?そんなこと言われたの、初めてです」
「そう?瑞樹は花を優しく扱うよね。シロツメグサの指輪だって、ポイっと捨てたりせずに大事にハンカチに包んで持って帰ってくれた」
「あれは……芽生くんが作ってくれた物だから」
「いや、なんというか。君といると草花も喜んでいるように感じるよ」
ふぅ……瑞樹をデートに誘うのは至難の業だな。だが俺と話すのが心の底から楽しいようで、優しい笑顔を向けてくれるようになった。
今は瑞樹が微笑む姿を見ているだけでいい。
俺は……もう焦らない。
力づくでなんて絶対に奪わない。
瑞樹に対する恋する気持ちは、大切にゆっくり優しく、歩むものだと決めているから。
****
ふぅ……ミーティングが長引きクライアントをホテル正面玄関で見送ってからようやく時計を見ると、もう20時を過ぎていた。
やれやれ瑞樹を夕食に誘わなくて正解か。俺の方が時間オーバーだ。でも、もしかしたら瑞樹はまだ仕事をしているかもしれない。
チラッと遠目からなら働く様子を見ても怒られないか。
ワクワクした気持ちでエスカレーターを降りて地下の宴会場へと歩き出すと、花のいい匂いが漂って来た。
この香りは瑞樹を彷彿するな。
全く俺はいつから……こんなにも匂いに敏感になったのか。
明日は大きな披露宴があるらしく、宴会場の前にも大掛かりなフラワーアートが飾られていた。でもなんか派手で仰々し過ぎで、好みじゃなかった。
だが瑞樹の姿は何処にもなかった。もう作業は終わったらしいな。行き違いか、残念だ。それでも諦め切れずに従業員に尋ねてみた。
「すいません。ここで花の活け込みをしていた先生とアシスタントは何処にいますか」
「あぁお二人で片付けをされた後、エレベーターに乗られて上がられましたよ。もう作業は終わったようですね」
「そうですか、ありがとうございます」
クソっ行き違いか。
上の階はロビーがあり出入り口だ。じゃあもう帰ってしまったのか。せっかく同じ場所で仕事をしていたのだから、せめて一目でも会いたかった。
ポケットに手を突っ込み外に出ようとした時、スマートフォンがブルっと震えた。
表示は見知らぬ番号だった。
でも瑞樹からだと思った!
こんな風に、いいようにされたくない。
最後の力を振り絞り、気丈に訴えたつもりだった。
「おいおい強気だね。静かに言うことを聞かないと、君の仕事がなくなることになるよ。私の方が君みたいな一介の社員なんかよりずっと力があるからね」
「……そんなのは卑怯だ!この手を離してください」
僕より背も躰もずっと大柄な先生の力は異常だった。力づくとはこのことを言うのか……
「うーん、やっぱりここじゃ落ち着かないね。場所を変えようか。実はホテルの部屋を取ったんだ」
いつの間に。
「嫌ですっ、僕はそんなつもりありません」
「つべこべ言うなよ。君だって誘っただろう?」
「僕がいつ?」
「さっきからずっと寂しそうで、物欲しそうな顔でさ」
「酷い……言いがかりです!」
侮辱された。でもその隙を与えたのは僕だ。抵抗すると、更に先生に股間をぎゅっと力任せに掴まれてしまった。
嫌でも苦悶の声が出てしまう。
「ううっ」
「ここさぁ~潰したくないよね。行くね?俺と部屋に」
「うっ……」
激痛で目がチカチカする。
頭の中では嫌で嫌でたまらないのに、男として一番大事な急所を……弱みを握られているのでは、もうどうしたらいいのか分からない。
( 滝沢さんっ滝沢さん!)
心の中で何度も何度も彼の名を呼んだ。
****
「瑞樹、今日の夜は空いている?」
「えっ……何でですか」
「今日は夕方からTホテルでミーティングが入っていてね、その後軽くディナーでもどう?」
「あ……実は今日は仕事が夕方から入っていて」
「そうなの?夕方からなんて珍しいね」
「明日のウェディングの活け込みをデザイナーの先生がするので、アシスタントで入ることに……だからいつ終わるか時間がはっきりしなくて……すいません」
「そんな仕事もあるんだね?どこのホテル?」
「あの……それが滝沢さんと同じTホテルなんです」
「へぇ奇遇だね。じゃあ瑞樹の仕事している所でも見に行こうかな」
「だっダメですって。恥ずかしい」
「なんで?」
「だって……僕はただ花を持つ係みたいなものだから……アシスタントと言っても何をする訳でも」
「ふぅん……でも瑞樹ならいつかフラワーデザイナーになれるんじゃないかな」
「え?そんなこと言われたの、初めてです」
「そう?瑞樹は花を優しく扱うよね。シロツメグサの指輪だって、ポイっと捨てたりせずに大事にハンカチに包んで持って帰ってくれた」
「あれは……芽生くんが作ってくれた物だから」
「いや、なんというか。君といると草花も喜んでいるように感じるよ」
ふぅ……瑞樹をデートに誘うのは至難の業だな。だが俺と話すのが心の底から楽しいようで、優しい笑顔を向けてくれるようになった。
今は瑞樹が微笑む姿を見ているだけでいい。
俺は……もう焦らない。
力づくでなんて絶対に奪わない。
瑞樹に対する恋する気持ちは、大切にゆっくり優しく、歩むものだと決めているから。
****
ふぅ……ミーティングが長引きクライアントをホテル正面玄関で見送ってからようやく時計を見ると、もう20時を過ぎていた。
やれやれ瑞樹を夕食に誘わなくて正解か。俺の方が時間オーバーだ。でも、もしかしたら瑞樹はまだ仕事をしているかもしれない。
チラッと遠目からなら働く様子を見ても怒られないか。
ワクワクした気持ちでエスカレーターを降りて地下の宴会場へと歩き出すと、花のいい匂いが漂って来た。
この香りは瑞樹を彷彿するな。
全く俺はいつから……こんなにも匂いに敏感になったのか。
明日は大きな披露宴があるらしく、宴会場の前にも大掛かりなフラワーアートが飾られていた。でもなんか派手で仰々し過ぎで、好みじゃなかった。
だが瑞樹の姿は何処にもなかった。もう作業は終わったらしいな。行き違いか、残念だ。それでも諦め切れずに従業員に尋ねてみた。
「すいません。ここで花の活け込みをしていた先生とアシスタントは何処にいますか」
「あぁお二人で片付けをされた後、エレベーターに乗られて上がられましたよ。もう作業は終わったようですね」
「そうですか、ありがとうございます」
クソっ行き違いか。
上の階はロビーがあり出入り口だ。じゃあもう帰ってしまったのか。せっかく同じ場所で仕事をしていたのだから、せめて一目でも会いたかった。
ポケットに手を突っ込み外に出ようとした時、スマートフォンがブルっと震えた。
表示は見知らぬ番号だった。
でも瑞樹からだと思った!
35
お気に入りに追加
834
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる