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17章
月光の岬、光の矢 68
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「あっ……うっ……流……流……」
息も絶え絶えに流の名を呼びながら、眠りについた。
もう二度と離れないという決意で、流は僕を慈しむ。
もちろん、僕も同じ気持ちだ。
流が起きている気配は感じたのに、身体がまだ鉛のように重く、目を開けられなかった。
流はそんな僕の額に優しく口づけをし、掛け布団を肩までかけ直してくれた。
ぼんやりとそれを受け止め、甘酸っぱい気持ちになった。
僕が幼い流にしてあげたことを、今はしてもらっているのだね。
そう思うと気恥ずかしいが、こんな風に甘えられる人がいることが嬉しい。
それに……
流がどうして夜も明けきらぬうちに床を抜け出すのか、僕にはちゃんと分かっていた。
手に取るように分かるよ。
工房に看板を作りに行くのだろう。
昨日丈と洋から頼まれた看板作り、流はやる気に満ちていた。
流のことだから、きっと何か閃いたのだろう。
流が作った看板に、僕が文字を入れ、薙がロゴマークを描く。
その過程を想像するだけで、頬が緩む。
あぁ、いいね。
とても素敵だ。
それは僕と流と薙の合作になる。
そのことに気付くと、僕の方も、もう寝てはいられなかった。
じっとしていられなくなった。
流、どんな看板を作ったのか見せておくれよ。
薙、ロゴマークは思いついた?
薙は流に似て行動力があるから、早速、考えたのでは?
思い返せば、君は幼い頃から絵心があったね。
僕の横で、夢中で絵を描いていたね。
……
「パパのすきなみどりいろ、なぎもしゅきだよ」
「パパのげんきがでますように」
……
都会の高層マンションで息が詰まりそうになっていた頃、僕は小さな薙に元気をもらっていた。
薙がいてくれなかったら、あの頃……僕は自滅していたかもしれない。
薙に出逢えてよかった。
そして今、すぐ傍にいてくれて嬉しい。
僕も二人の元に行きたくなった。
僕も参加したい、その輪に入りたい。
気怠かった身体は、もうすっきりしていた。
窓を開けると、朝の清々しい空気が入ってきた。
さぁ、夜が明ける。
夜明けと共に、儚く消えてしまった流水さんが見られなかった世界が、やってくる。
庭に出ると、予想通り流と薙が談笑していた。
ん? 流が手に持っているのは流木か。
なるほど、流木を看板にしたのか。
いいね、流らしい選択だ。
海辺の診療所によく似合う看板だ。
丈は、地域に根ざした優しい雰囲気の診療所を作りたいと言っていた。子どもや家族連れ、老人……誰でも気軽に訪れることが出来る場所を目指したいとも言っていた。
ならば僕の字体も、寄せていこう。
木材の質感に合わせた、自然で温かみのある仕上がりにしたい。
優しさが滲み出るような文字を目指すよ。
僕は二人に声をかけた。
基本的なありきたりな朝の挨拶だが、僕にとっては大切な言葉だ。
一日のスタートを共有する言葉……
夜が明けて新たな時間が始まったことを、一緒に喜ぶ気持ちを込めて。
「おはよう」
今日も一緒だ。
今日も共に生きていける――
それが喜び――
息も絶え絶えに流の名を呼びながら、眠りについた。
もう二度と離れないという決意で、流は僕を慈しむ。
もちろん、僕も同じ気持ちだ。
流が起きている気配は感じたのに、身体がまだ鉛のように重く、目を開けられなかった。
流はそんな僕の額に優しく口づけをし、掛け布団を肩までかけ直してくれた。
ぼんやりとそれを受け止め、甘酸っぱい気持ちになった。
僕が幼い流にしてあげたことを、今はしてもらっているのだね。
そう思うと気恥ずかしいが、こんな風に甘えられる人がいることが嬉しい。
それに……
流がどうして夜も明けきらぬうちに床を抜け出すのか、僕にはちゃんと分かっていた。
手に取るように分かるよ。
工房に看板を作りに行くのだろう。
昨日丈と洋から頼まれた看板作り、流はやる気に満ちていた。
流のことだから、きっと何か閃いたのだろう。
流が作った看板に、僕が文字を入れ、薙がロゴマークを描く。
その過程を想像するだけで、頬が緩む。
あぁ、いいね。
とても素敵だ。
それは僕と流と薙の合作になる。
そのことに気付くと、僕の方も、もう寝てはいられなかった。
じっとしていられなくなった。
流、どんな看板を作ったのか見せておくれよ。
薙、ロゴマークは思いついた?
薙は流に似て行動力があるから、早速、考えたのでは?
思い返せば、君は幼い頃から絵心があったね。
僕の横で、夢中で絵を描いていたね。
……
「パパのすきなみどりいろ、なぎもしゅきだよ」
「パパのげんきがでますように」
……
都会の高層マンションで息が詰まりそうになっていた頃、僕は小さな薙に元気をもらっていた。
薙がいてくれなかったら、あの頃……僕は自滅していたかもしれない。
薙に出逢えてよかった。
そして今、すぐ傍にいてくれて嬉しい。
僕も二人の元に行きたくなった。
僕も参加したい、その輪に入りたい。
気怠かった身体は、もうすっきりしていた。
窓を開けると、朝の清々しい空気が入ってきた。
さぁ、夜が明ける。
夜明けと共に、儚く消えてしまった流水さんが見られなかった世界が、やってくる。
庭に出ると、予想通り流と薙が談笑していた。
ん? 流が手に持っているのは流木か。
なるほど、流木を看板にしたのか。
いいね、流らしい選択だ。
海辺の診療所によく似合う看板だ。
丈は、地域に根ざした優しい雰囲気の診療所を作りたいと言っていた。子どもや家族連れ、老人……誰でも気軽に訪れることが出来る場所を目指したいとも言っていた。
ならば僕の字体も、寄せていこう。
木材の質感に合わせた、自然で温かみのある仕上がりにしたい。
優しさが滲み出るような文字を目指すよ。
僕は二人に声をかけた。
基本的なありきたりな朝の挨拶だが、僕にとっては大切な言葉だ。
一日のスタートを共有する言葉……
夜が明けて新たな時間が始まったことを、一緒に喜ぶ気持ちを込めて。
「おはよう」
今日も一緒だ。
今日も共に生きていける――
それが喜び――
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海さん、こんにちは!
村山さんは本当に良い人で良かったです。この方なら洋君の心を守ってくれそうで安心しました。おまけにこんな素敵なプチサプライズ・・・丈先生の職場である診察室での貴重なお時間を作ってくれましたね。
洋君が丈さんによって変わったように丈さんもまた洋君によって良い方向に変わりました。もちろん兄達や安志、カイのサポートがあってこその今の2人があるのでしょうが・・・・
これからもみんなのサポートを受けつつ2人で頑張っていくのでしょうね。何たってこの2人には前世の皆様や海里先生が見守ってくれているんですもの。
娘ちゃん、辛かったでしょうね・・・・こころが疲れてしまったのですね。
たくさん悩んで心がいっぱいいっぱいだったんでしょう・・・母である海さんが気づいてあげられて本当によかったです。
あせる気持ちもあるでしょうが、今はゆっくり休んで気力を充電するのが一番です。
あせってもいいことないしね。海さんと同じで神様からの強制休養なんでしょう。
娘ちゃんの今回の経験はいつか役に立つ時がくるかも知れません。いずれ母になる時も来るでしょうし・・・この辛かった経験を生かす時がくるかもなので今はゆっくり過ごしてほしいです。人生何事も勉強なので娘ちゃんは今、学んでいるのです。まぁ母である海さんが理解してあげられているのは一番の癒しでしょうね。
すぅちゃんとちゃたくん・・・可愛い可愛い💕😍😍😍😍仲良くお昼寝タイム・・・可愛い💕💕
癒し効果絶大です!うちもモモもそうですがフモフモですね。トリミングに行かせたいのですがもうちょっと我慢します。
まだ痛み止めが必要なんですね・・・可哀想に・・・無理しちゃダメですよ!海さんもゆっくりゆっくりです!
お大事にしてください。
マロミルさんおはようございます。
村山さん気が利きますよね。さり気なく二人だけの時間を作ってくれました。
そうなんです。丈も洋によって良い方向へ変われましたよね。
お互いなくてはならない存在です。
周りのサポートも心強いですよね。
この先もきっとサポートを素直に受けて進んでいくような気がします。
開業まであと一ヶ月
目が離せませんね。
娘のことありがとうございます。繊細な長女、傷つきやすくもろくて……
頑張り過ぎちゃって。
お薬の力にも頼りつつ、一度立ち止まって休憩して欲しいです。
私の骨折のタイミングで重なるのも休憩しなさいっていうことなんですよね
神様からの強制休養って表現素敵。娘にも教えてあげますね。
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モフモフ×2で最高です。
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トリミングもタイミングが難しいですよね。
痛み止め、あと少しって感じです。
足の平で歩けるようになったので踵の痛みから脱出できましたよー
いつも温かいお言葉をありがとうございます。
おしゃべりで気分転換&癒やされます💞💞
海さん、こんにちは!
丈さんのこの病院勤務も残すところ一か月になりましたね。色んな事を思い出しちょっとセンチな気分になったのかしら・・
洋君や兄達と暮らしていく中で丈さんもだいぶ変わりましたよね。やっぱりあのタイミングで日本に帰ってきて月影寺で暮らすことにしたのは大正解だったのでしょう・・・
勤務医から今度は開業医、昔は丈さんは人付き合いがあまり得意とは言えなかった丈さんですが今の丈さんは違います!
優しくて頼りになる丈先生ですもんね。それに海里先生も見守ってくれていると思います。 楽しみですね!
その後足指の経過はいかがですか? しばらくは痛みがあったようで大変でしたね。
頼りになる娘ちゃん達や優しい旦那様のサポートがあって本当に良かったです。
お仕事をもっている海さんにとっては気が気ではないでしょうが無理せずにお過ごし下さいね。
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マロミルさんこんばんは~感想とおしゃべりうれしいですよ💞
お家にずっといるので気が滅入るので😌
丈……少しセンチな気分でしたね、あと一ヶ月になりました。
あのタイミングで戻ってきて洋のために選んだ職場は
今は自分の居場所になりましたね。良い医師になりました。
これからは開業医として海里先生にも見守られやっていくのですね。
その様子を書くのも楽しみです。
足の怪我
地味に小指痛いです。😭
まさかあんなことで骨折するなんて――びっくりですよ。
すうちゃんのあれ動画で見て頂きたいです😁
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海さん、こんばんは!
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まぁ付き添い大丈夫みたいなので一人で行ってきてもらいます(笑)
はぁ~次から次へとお互い忙しいですね。
無理をせずゆっくり治して下さいね! お大事に!
マロミルさん
今年の月影寺も賑やかでしたね。
今回は憲吾さんと大河さんファミリーが初参加でした。
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