重なる月

志生帆 海

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17章

月光の岬、光の矢 67

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 寄せては返す波のように、俺は翠の中に向けて硬くなったものをひっきりなしに挿入していた。

「あ、あっ、あ……」

 湿って熱を帯びた場所は、最高に居心地がいい。
 
「うっ……あぁっ……」

 尖った悲鳴は、甘く艶めいていた。

 翠は身体の力を抜いて、俺にゆさゆさと揺さぶられていた。

 全身で受け入れ、全力で感じてくれているのが伝わってくる。

 どんなことがあっても、俺たちはもう二度と離れない。

 どんなことがあっても、愛し抜く。

 その覚悟ならとっくに出来ている。

 翠を抱く度に漲る力。

 俺の活力だ。
 
 翠は生命の源だ。


 夜更け過ぎ、翠が疲れ果て眠りに落ちても、俺の興奮は収まらなかった。

 まだまだ抱ける勢いだが、これ以上、翠に負担をかけるわけにはいかない。

 全く……どうして俺はこんなにも頑丈に生まれついたのか。

 きっと病に倒れ、悔やみながら世を去った流水さんの強い願いだな。

 腕枕で翠を寝かすが、俺自身は明け方になっても寝付けなかった。

 夜が明けた気配に、眠るのは諦めて身体をむくりと起こした。

 そうだ、看板……

 看板にするのに良いものがある。

「ちょっと出掛けてくる。すぐに戻る」
 
 ぐっすり眠っている翠の額に口づけをし、布団を肩までかけ直してやった。

 作務衣を着て、そのまま離れのアトリエに向かう。

 翠が結婚していた頃、拗れ、焦がれた想いを水に流したくて、何度も由比ヶ浜に足を運んだ。

 ある日、あてもなく海岸線を一人で歩いていると、突然大きな流木が流れ着いたのだ。

 まるで俺を目指して届けられたかのようで、不思議な心地がした。

 誰かからのメッセージのような気がして、持ち帰ったんだ。

 あれはどこにしまったか。

 急に思い出して、家捜しすると……

「あった! これだ!」

 よくよく見れば、看板にするのに良い形をしているではないか。

 少し磨いてみるか。

 作業を始め、流木と向き合うと、アイデアが次々と浮かんでくる。

 この流木の曲線や質感をそのままデザインに反映させ、唯一無二の形状を看板にしてやりたいな。長めの流木は横向きに配置し、翠に文字を書いてもらおう。そして薙が作るロゴは、この辺りに入れるのはどうだろうか。
 
 いやそうじゃない。

 俺一人で決めるのではなく、翠と薙と一緒に決めたい。

 俺たちで心を揃えて、力を揃えて作り上げたくなった。

 そう思うと、じっとしていられなくなる。

 動き出したくなる。

 居ても立ってもいられなくなる。

 こんな早朝に薙を起こすのは、まずいか。

 そう思いながらも寺庭に出ると、薙の部屋に明かりがついているのが見えた。

 アイツ……

 きっと俺と同じ気持ちで、徹夜でロゴ作りしたのでは?

 薙と俺は思考回路が一緒だから、手に取るように分かるぞ。

 小石を窓に投げて呼ぶと、すぐに顔を見せてくれた。

 ほら、やっぱりな。

 その意気揚々とした達成感のある表情から、良いロゴが浮かんだのが分かった。どうやら薙は徹夜でロゴ作りに夢中になっていたようだ。

「薙、一緒にやろうぜ」
「いいね! そっちに行くよ」

 飛び出してきた薙にニヤリと笑いかけると、薙もフフンと笑った。

 コイツ、本当に俺に似ていやがる!

「流さん、ロゴは出来たけど、彩色で迷っているんだ」
「よし、アトリエに行くか」
「いいね! あ、父さんは?」

 翠は俺が抱き潰してしまったので、未だ昏々と眠っている……とは言えないなと苦笑すると、涼しい声が降ってきた。

「二人とも、おはよう」
「すっ、翠、もう起きていいのか。身体キツくないか」
「え? 父さん、どっか具合悪いのか。また風邪引いたんじゃ」

 翠は清々しさから一転、また真っ赤になってしまった。

 すっ、すまん!




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